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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
3章 影の戦線編
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TARGET22 ソトの洗礼

玄関を開けると、そこにはもう17時ながらも煌々と輝き、沈みつつある太陽が僕へ襲いかかった。思わず手で遮り、隙間から彼女達を見る。

一人はにっこりと、こちらを眺めていた。もう一人はいやらしい笑みを浮かべて言った。


「ふっふっふ…この程度の明かりに負けているようでは、私には勝てませんよ!!」

「大丈夫だよ、すぐ慣れるから」

何食わぬ顔で彼女へ返すと、家の前へ黒のリムジンが止まった。まるでお金持ちにでもなった気分だ。

運転席から降りたメイドらしき女性が深々と一礼する。

「お待たせしました。愛お嬢様、二条様、城島様」

突然名を呼ばれて目を見開くが、すぐに表情を整え、案内されるまま後部座席へと向かう。

勝手に扉は開き、導かれるまま乗り込んだ。

一番奥へ腰掛ける。そして正面には赤髪の少女、その隣に黒髪の女性が席に着いた。

チラリと後ろを見たメイドと目が合い、すぐに逸らす。それと同時に車は発進し、家が遠くなってゆくのを横目で見た。


久しぶりに出た外は、まさか女性二人と一緒な上にリムジンで、なんて想像もつかなかった。

しかもこれから目の前の少女と戦う、余計に何を話したらいいか分からなくなった。


「そういえば、そのヘッドホンは特殊なものですか?」

ヘッドホンをした僕へ、愛さんが問うた。

一度驚いた表情を浮かべ、そして首を一度縦に振った。

「そうです、研究部から頂いたもので、これを付けていると能力の発動が抑制される構造になっています」

「えっ…でもそれじゃあ普通の声も聞こえなくないですか?」

正面へ座る未来が首を傾げながら言った。

「そこは大丈夫、読唇術を学んだから」

「なるほど!」と手を叩き、頷いた。しかし彼女の猛攻は止まらない。

「最近は運動とかしてますか?!」

「…」

「聞こえてますよね?いや分かってますよね?敢えて無視ですか?ねー!ねぇってばー!!」

「うるさいなぁ、少し黙ってなよ」

「聞こえてないならうるさくないですよねぇ〜?」

「…会長、この女降ろしてください」

「まあまあ」

言っている内容こそわかるが、口の動きと無駄な体の動きだけで充分やかましい。

本当に、こいつと真剣勝負するのか?


早速ウザがられる二条らを乗せた車は、東京総合本部へ到着した。

ロビーにいた人々は、車から降りてくる人物を見るなり、まず動揺を見せた。

「おい、あれって二条だよな。配属されて一度大活躍したっていう…」

「嘉瀬さんだ。雄略さんやお兄さんは男前だけど、愛さんはカワイイ!」

「誰だあのヘッドホン、見たことない顔だな」

僕は群衆から目を逸らし、中へ入ってゆく彼女らの背中を追った。


久しぶりに感じた外の空気、大勢の視線。

いまもしもヘッドホンが外れたら、どうなってしまうのだろうか…?


「大丈夫ですよ!早く行きましょう、忍先輩!」

目を向けると、大きく口を開いて手を振る彼女が映った。

このときばかりは、少しだけ頼もしかった。あとはもう少し、動きを減らしてくれればいいのだが…もし彼女の素性を知らなければ、きっと油断していた。

「君は、すごく強いんでしょ?」

「まあですね、私こう見えて、養成学校を主席で突破したエルィ〜トなんですよ?」

「二条さんがいうと嘘っぽいですけど、本当よ。戦闘に関しては同年代で飛び抜けてるわ」

横槍を差す愛さんに、二条は切ない表情を浮かべる。さすがの彼女でも傷ついたらしい。

「とっとにかく!早くやりましょう!」

「許可はとってあるの?」

「ご心配なく、彼に頼んでおきました」

手の導く方へ振り返ると、見知らぬ青年が現れた。一方の二条は、より一層顔色を明るくし、彼へ駆け寄っていった。


「あー!隼人センパぎゃふっ!!」

「静かにしろ、鼓膜破れる」

叫ぼうとする二条に素早く拳が入る。力そのまま縮まり、頭を押さえて丸くなってしまった。

隼人、と呼ばれた青年は、僕、愛さんと確認するように視線を移し、起き上がった二条に止まる。

薄紫色の髪をわしゃわしゃと掻いて、言った。


「嘉瀬に頼まれたからな、急いで手配した。斬崎が」

そう言って後ろを指さすと、背中からひょっこりと顔を出す女性がいた。

隼人さんよりもだいぶ小さな彼女は、後ろにすっぽりと隠れていたようだ。

「やっほー未来たそ、メグちゃん。それと…シノブくんだね?」

「は、はぁ…」

突然話しかけられたことに驚き、思わず顔が引きつった。それに彼女は笑い、顔を近づけた。真っ白な髪がふわりと舞い、品のいい香りが鼻を誘惑した。

「名前からして女の子かと思ってたよ、それに女の子っぽい顔してる」

「やめてください、いきなり」

不自然に目を逸らし、一歩引いて答えた。

「アハハ。ごめんね〜」

「弥生さんは、誰とでも仲良くできるんですね〜!」

その光景を見て、二条が納得したように言った。

「それでも未来たそは別格だよ〜♡」

「そのへんにしとけ。これより一対一の模擬戦を行う。両者準備を」

隼人さんの仕切りが入り、それぞれの位置へ着く。それぞれがすぐに真剣な表情を整え、会場へと歩を進めた。





私は背中を曲げ、手を地面にぴったりとつけて柔軟を始めた。

一方の忍は、貸出されている武器を選ぶ。

「全部は言っちゃいけないけど、彼女は近距離戦も射撃もできるわ。気をつけてね」

愛先輩が銀色のハンドガンを手に取り、微笑んで忍先輩へ渡す。

それを懐に仕舞い、軽く頭を下げる。

「関係ないです。俺は負けないので」

「あら、自信あるのね?」

「ただし、勝つ自信もありませんよ」

「…それってどういう?」

言いかけたところで、忍先輩は青のプラズマ型ソードを持ち、フィールドへと歩を進めてしまった。

「負けずに、勝つ。でも自信はない…なんか哲学みたいね〜」

一人になった愛先輩はそう呟き、ギャラリーの集まる場所へと向かった。


「あっ会長!やはり来てたんですね!」

愛先輩を見かけるなり、結衣は助けでも求めるように手を振って呼んだ。

「橘さん、来てたん…って、なるほどね」

苦笑して眺める先には、八束先輩と梓弓先輩に挟まれた結衣、という構図。

お互いはそっぽを向き、ピリピリとしたオーラを一面に放っている。


「もうっ二人とも、そろそろいいんじゃないですか?」

「会長…ですがこいつに謝られなきゃ気が済みません!」

梓弓先輩が立ち上がって、隣へ座った愛先輩へ抗議した。

「ハァ?!お前にも非はあるだろうが!!」

それに八束先輩が食い下がる。この繰り返しである。

お互いに譲る気配はまったくないようだ。


「しょうがないですね、それでは賭けをしましょう。これから二条さんと城島くん、どっちが勝つかでどうでしょう?負けた方は謝りなさい」

愛先輩が優しく微笑み、二人を見る。二人は同じような反応をして、静かに座った。

「そう…ですね、そうしましょう。それでいいですか?変態野郎」

「上等だ表でろ」

「二人とももうやめてください〜」

挟まれた結衣は二人の手を掴み、必死に宥めようとしている。一方の愛先輩は、勝手にしろといわんばかりにそっぽを向いていた。

バカップルも大概にしなさい、と。


『両者、所定の位置へ』

弥生さんの澄んだ声がスピーカーから会場に響き、二人の少年少女が相対した位置についた。

「じゃあ俺は忍に賭ける。きっと能力で攻撃なんか当たらずに終わりだろ」

黒髪を手で解かしながら、そう言った。

「じゃあ二条さんで。彼女の柔軟な対応力なら突破できるわ」

ようやくまとまったところで、模擬戦は始まろうとしていた。

「さあ、見どころね」





「ふぅーっ…はぁーっ…」

深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。

前を向くと、視線の先には忍先輩もまた、落ち着いた面持ちでこちらを見ていた。

「お互い能力は割れてるから、フェアな勝負ができるね」

「はい、ですが実力が同じとは限りませんよ?」

目を細め、耳にかかる赤い髪をくるくる回していじる。

「大丈夫だよ、君がどんなに強くても、僕には当たらないから」

揺さぶりにも動じず、薄く笑みすら浮かべて言い切った。

「面白いです、絶対勝ちます!」


『始めっ!!』

次回から久しぶりのアクションシーン。頑張ります。

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