表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
3章 影の戦線編
24/38

TARGET21 この狭いセカイで

昔…というほどでもないけど、中学の頃までは友達が好きだった。

友達とわいわい楽しく遊ぶのが好きだった。

友達と気兼ねなく話せるのが好きだった。

でも、ある能力が僕に宿ってから『セカイ』が変わった。

他人を見ると、耳元で囁くように、心の声が聞こえる。

『アイツホントキメエワ』

『ナニアイツ、インキャラダナ…』

やめろ

『ニクミノジョウシマクン、ウザスギ!シネバイイノニ…』

やめろ…

『城島って何か雰囲気変わってて…正直付き合いたくねーんだよな』


「うわあああああああああ!!」

叫びながらベッドを飛び起きると、いつもの暗い部屋があった。

いつもの僕が24時間を過ごす、僕だけの空間。

ここなら誰の声も聞こえないし、他人と関わることもない。

息を切らして周りを見渡しても、誰もいない。カーテンの隙間から溢れた日差しと、パソコンの明かりだけが部屋を照らしていた。


ベッドから出てパソコンの前に座り、チャットを覗く。今日も今日とて、くだらないことばかり言っている奴らがいる。それでも、文字だけなら心の声が聞こえない、俺にとっての最高の居場所。

誰も僕を気味悪がらない、僕のセカイ。

そして、セカイの終焉を告げるインターホンが鳴った。





「おじゃましまーす!」

制服姿の私と愛先輩が城島家に入ると、私はこっそりと能力を発動させた。

部屋には男の子が一人、パソコンの前に座っている。

彼の纏うオーラは…とても悲しげな色をしていた。閉鎖された、明かりのない黒。他の色をも飲み込んでしまう黒。


「待ってて…絶対、救ってみせますから…!!」

「あら、今日は女の子が二人ですか?」

母親は嬉しそうに笑う、それに愛先輩は丁寧に会釈をして答えた。

「初めまして、渋谷第二高校で生徒会長をやらせていただいております。嘉瀬 愛です。こちらは1年生の二条さんです」

「二条 未来です!今日は忍先輩と話にきました、もう大丈夫です!私達が必ず…」

「ちょっと二条さん、近いですよ?」

いつもの調子でズイズイと近づくと、一歩下がって顔をひきつらせる。

愛先輩はジト目を浮かべて私の首根っこを掴み、階段へ向かう。


「お茶などはお構いなく、お話をしにきただけなので」

「そうですか、あっあの…」

母親が何か言いかけたところで、二人が足を止める。少し躊躇って、意を決するように口を開いた。

「忍を…どうかよろしくお願いします」

「…任せてください!」

満面の笑みを浮かべ、階段へと足を向ける。


「どうですか、二条さん?」

愛先輩は真剣な面持ちで問うた。

「信頼とか、友情とか…暖色を放つオーラが何一つ見当たりません。それでも、このオーラは間違えていることがある。それがついこの前、分かったので…」

それは四月の事件、誰かに操られ、殺された不憫な少年のこと。愛先輩にもそれが、痛いほど伝わってきたはずだ。


私の肩に手を置いて、柔らかい声色で言った。

「そんなことないわ、彼は…本当は素直でいい子でしたから。あなたの目は間違っていません」

振り返って、弾けるような笑顔を、愛先輩へ向けた。

「はい!私にしかできないことを、してみせます!」

「もう、二条さんったら…本当に可愛らしいわ」

背中に抱きついて、顔を押し付ける。

どうしようもできない私は、ただ微笑むだけだった。


「これでおっぱいもあればもう結婚しましたのに…」

「なんで最後にケンカ売ったんですか?」


扉の前に立ち、2回叩く。

「こんにちは、1年の二条と3年の嘉瀬です。入っていいですか?」

扉の向こうからは何も聞こえない。仕方なく、黙って扉を開ける。

八束先輩が話していたように、彼はパソコンの前にいた。違っていた点は、既にヘッドホンを外しているところだった。

つまり、もう能力は発動している。


「忍先輩、初めまして。1年の二条です、突然ですが、お話があって来ました」

忍は少し間を置いて、眉を下げて答える。

「昨日の二人は追い払ったのに、また手練が来るとは思ってなかったよ」

「私は会長の嘉瀬です。忍くん…お願いがあります」

座っている忍へ目線を合わせて膝を折り、左手を掴み、真っ直ぐに彼の瞳を見つめて言った。

「私達は、あなたが必要なんです。能力者の新人戦で勝つために、そして会長として、あなたには学校に来てほしい。お願いできますか…?」

出た、愛先輩必殺の悩殺フレーズ&上目遣い。私も一度はやられてみたい!

忍は一度、目を見開いたがすぐに細めた。


「こうすればだいたいイケる、か…確かに普通の男ならいうこと聞いちゃうかもね。でも僕は、あなたが何を考えているか知っている。だから…?!」

突然、忍先輩が驚きの表情を見せたかと思うと、掴まれていた手を慌てて振りほどく。

「な、なんですか?」


「この人…普通じゃない…」

「えっ?」

忍先輩の発言に、私は言葉を失った。

「ど、どういうことですか?」

すると愛先輩は立ち上がって私へ体を向け、真剣な表情を浮かべた。


「バレてはしょうがないわね…私は、可愛い女の子が大好きなの、カノジョにしたいの。凄く!」


…いや、そんな真面目に言われても。本当に底が知れないなこの人は。

「何なのあんたら、二人揃って変だよ」

忍先輩は完全に動揺していた。目を向けると、座っていた椅子を転がして立ち上がっていた。

「わ、私は意外と普通ですよ!」

「いや、君の方がおかしい」

「なっ…?!」

「だって君からは…心の声が、ほとんど聞こえない」


え?何それ、私の頭の中からっぽってこと?

「正確には、考えていることをほとんど口に出しているんだよ…何なのあんたら、怖いんだけど…」

よかった、非常人二人できた作戦は、思わぬ方向に倒れましたよ八束先輩!!

よく考えたら、ガチレズとガチポンコツがきたらそりゃ戸惑うわな。


「なら話は早いです!忍先輩、私達と新人戦に出てください!」

いつものように近づいて、至近距離で大声を張る。

うるさそうに耳を塞ぐ忍先輩は、眉間にシワを寄せ反論した。

「やだよ、僕は戦闘なんてできない」

「司令塔をしてくれるだけでいいんです、相手の作戦を盗み聞きして、私達に伝えてくれるだけでいいんです。それに、まだ時間はあります。私なら銃の使い方だって…」

忍先輩が目の前に掌を置き、静止させた。一度溜息をついてから、窓へ視線を移す。

「それに…外はイヤなものしか聞こえない、荒んだ世界だよ」

「あっ…」


二人は理解した。

彼が外へ出ない理由、人付き合いをしない理由、家族すらも避ける理由…それは

怖いから

他人にどう思われているか、自分がどのように映っているのか、オブラートのない世界へ放り出された彼には、耐えきれないものがあった。


他人に触れられたくない秘密や想いを、見透かせてしまう世界は、とても居心地が悪いに違いない。

それでも、彼にはやってほしいことがある。そしてここから出なければならない!


「後輩に言われるのも嫌かと思いますが…ここから一歩踏み出さなければ、忍先輩はそのままです!それでいいんですか?」

忍先輩は目の前の少女を睨み、すぐに目を逸らして答える。

「いいんだよ、能力者は保護されるし…このまま何事もなく、人生を終えたいよ」

「そんなのダメです!!」

「ダメ?僕は自由でしょ」

「そうじゃなくて!どうしてこんな広い世界があるのに、ここだけって決めてしまうんですか?!勿体無いです!!」

「二条さん、だっけ?僕は君が苦手みたいだ…」

それに私は苦笑し、答える。


「私は…元々こんな感じなので、嫌われたり除けられたりすることもありました…でも、受け入れてくれる人だってたくさんいます!他人と関わることで、世界は変わります!」

真っ直ぐな瞳は、目の前の少年を貫いた。

押し負けたのか、忍先輩は表情を緩めると、机に置かれたヘッドホンを首にかけて、私を見つめる。


「君の思惑に乗ってあげるよ、どうせ力づくで引っ張り出そうとしたんでしょ?」

愛先輩が驚いてこちらを見ると、薄く笑みを浮かべて、両手の指をパキポキと鳴らした。

「はい、実力行使が当初の目的なので」

「ちょっと、二条さん?」

「私と決闘してください、城島 忍先輩!!」


隣の家にまで聞こえるのではというほど、大きな声で宣言すると、忍先輩は笑った。何か悪巧みをしているような、裏のある笑顔。

「いいけど、君じゃ僕には勝てないよ?」

「へん!バッキバキのニートに負けるもんですか!!」

「ハハッ、やっぱり二条さんの言葉には裏表無くていいね。でも君の傲慢さは気に入らない、だから倒す」

忍の目は、完全に戦人の色を帯び、今からでも戦えるといった表情を浮かべている。

「では行きましょう、総合本部の模擬戦場へ」

忍先輩は一度、躊躇うような仕草を見せた後すぐ、首を縦に振った。


「し、忍…」

部屋から踏み出した忍先輩を見た母親は、今にも泣きそうな表情をしていた。

それに忍先輩は、優しく微笑んで口を開いた。

「母さん…僕はまだみんなが怖いよ。でも、少しだけ、踏み出してみることにした」

「そう…頑張ってね」

母親が涙でくしゃくしゃになった顔で笑顔をつくると、忍は頷いて、家から、狭いセカイから飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ