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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
3章 影の戦線編
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TARGET18 5人目?

お待たせしました。いよいよ三章突入です!

あの事件から3ヶ月が経ち、7月。

段々と暑さが増してゆく今日この頃。制服は夏服へ移行され、学校は何事も無かったかのように運営が始まっている。

誰もがあの時を忘れてしまったかのようだった。否、忘れようとしているのだ。


倒壊した校舎は建て替えられ、数メートルの物々しい外壁が、校内をぐるりと囲んでいる。

その心は、生徒達を強く表しているようで…

誰も口を開こうとしない、早く忘れてしまいたいという一心で───


「寝てんじゃねえ!」

低く唸るような声が耳に刺さり、ふと目を開けると、前から紅色のチョークが飛んできたのがわかる。が、避けることはできなかった。

直撃、狙いすましたように額の中央へ命中した。


「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

真っ赤な髪の少女、二条 未来はあまりの痛みに耐えかね、叫びながら立ち上がった。

睨みつける先には、紫がかった髪に、切れ長の威圧感のある目つきをした青年、宇田川 隼人がいた。

「はやっ…宇田川先生!体罰で訴えますよ!!」

「俺は投げるぞ、と言って投げた。それを黙認したんだから体罰には当たらん」

「聞こえませんでしたよ!!」

「だろうな、だが授業中に寝てるのが悪い。さっさと座れ」

これ以上の反論は思いつかず、力強く歯軋りをして椅子へ戻る。


周りからはクスクスと必死に堪えるも僅かに漏れる笑い声が聞こえる。

隣に座る茶髪のショートヘアに、メガネをかけた少女、橘 結衣も顔を逸らし、肩を震わせていた。

「結衣まで!ひどい!」

「だ、だって…おでこ赤いよ…」

言われるまま、額を触るとぶつけられた紅色のチョークの粉がまだついていた。

ぶつけた張本人である隼人センパイもまた、教卓の前で顔を逸らして肩を震わせている。


「ぶつけたのあんたでしょぉがぁぁぁぁぁぁ!」

「騒ぐなうるせえ!!」

「フハハハ!もう当たらないぜっ!」

ついムキになって次々とチョークを投げるが、私の《能力》がある以上、当たることは無い。

「ちいっ、生意気な!なら4本同時に…」

「宇田川先生、ちょっと相談が…」


教室の扉が開き、教頭先生が入ってくる。

瞬間、クラスは一気に凍りついた。


教頭先生の目に止まったのは、チョークを4本持って振りかぶる隼人センパイと、席から立ち上がっている赤髪の生徒、その後ろで散らばる無数のチョークと粉。

「…宇田川先生、ちょっと職員室まで来てください」

「…」


時が止まったのかと錯覚するほど、誰も口を開かなかった。

当の私でさえも、状況を把握できずに、立ったまま止まっている。

ゆっくりと座ると、終業のチャイムが鳴り響いた。






「ヒャーハッハッハッハッ!!怒られてやんのーー!!ざまあみやがれですよ暴力教師め!!」

タコの形をしたウィンナーを箸で刺し、高らかに振り上げ、口へ運んだ。

その愚行は最早人間かどうかも怪しく、悪を目論む魔女のような形相を浮かべていた。

「何があったか知らんが、もう少し大人しくしろよ…」


ジト目でその光景を見る黒髪の少年、八束 智樹が腕を組んで溜息をつく。

そしてここは生徒会室、とても騒ぐところではない。

「相変わらず、二条さんも宇田川先生も元気そうでなによりです」


黒髪の、お淑やかという言葉が似合う女性、嘉瀬 愛は嬉しそうに笑う。

そして何やら雑誌を黙々と読んでいる赤紫の髪をもった女性、八崎 梓弓と、結衣も含めた5人で食事を摂っていた。


あの一件からすっかり仲良くなったこのメンバーに、足りない人間の顔が浮かぶ。あの襲撃を忘れてはいけないと、空いた席を見つめ、皆どこかで考えているはずだ。


「ところでアーちゃん、何読んでるんですか?」

愛先輩に呼び止められ、はっとなって雑誌を置く。

「す、すいません!《新人戦》に向けて情報収集をと思いまして…」

「シンジンセン?」

聞き慣れない単語に反応し、首を傾げた。

それに愛先輩は微笑み、立ち上がってホワイトボードを取り出す。


「8月の上旬、夏休みに入った直後にとある大会が行われるんです。発現から3年以内、もしくは18歳以下の能力者が対象となり、地域別に順位を競う模擬戦の大会。それが《新人戦》です」

「おお!なんか部活っぽいです!」

「ま、いきなり全国大会だけどな」

黙っていた八束先輩が立ち上がり、ホワイトボードに向かう。

「五人一組で戦うチーム戦。戦闘において、いかに連携をとれるかがカギになる。メンバーを選ぶなら、そこを最も考慮すべきかと」

「そうね。だけど問題は、その対象者となる戦闘員が私とアーちゃん、そして二条さんしかいないの…」

「あれ?結衣は?」

「私は治癒系能力者なので、出られないんです」


申し訳なさそうに、身を小さくして答える。

愛先輩もシュンと顔を暗くし、そして八束先輩へ視線を移す。

言いたいことを察したのか、八束先輩は後ずさる。

「いや、俺は非戦闘員であって…」

「今回からの特例により、人数の足りない地域は、助っ人として対象内の非戦闘員を加えてもよいのです。というわけで八束くん」

「む、無理でs」「無理…なんですか?」


いつの間にか、愛先輩の顔は八束先輩の目の前に位置し、ウルウルと大きな瞳を潤わせている。

八束先輩の視線は泳ぎに泳ぎまくっており、どこに焦点があるかすら、とても読めない。

「くそ八束め、羨ましい…」

「梓弓先輩、なにか言いました?」

「い、いやなんでも!」

なぜか梓弓が頬を紅潮させる中、愛先輩の猛攻は止まらない。


「八束くん…私は信じています。八束くんは私のお願いを聞いてくれる人だと…」

「〜〜…分かりましたよ!分かりましたから、離れてください!」

「わーい!ありがとう♡」

これがモノホンの小悪魔か…さっきの目の水分どこから持ってきたんでしょう?

「あと一人は…心当たりはありますか?皆さん」

振り返るが、皆が皆顎を触り、考える仕草を見せている。


「私は何人かいますが、友達でもないので頼みづらいです…」

梓弓先輩が手を挙げて答える。

「私は…そこまで人脈は広くないので」

結衣もまた、項垂れて言う。

「友達ほとんどいません!!」

「潔がよろしい!!」

ド直球な現実に、思わず八束先輩が突っ込む。

そんな感じで、5人目の検討はつかずにいる。

登録まであと一週間、なんとしても見つけなければ…!





放課後、私は忍び足で生徒会室へ向かい、そっと扉を開けた。

昼休みの部屋とは別の空間のように、中には生徒会役員がいる。しかしこちらに気づいていないようだ。

ゆっくりと地面沿いに体勢を低くして、中へ入ってゆく…


よし、誰にもバレてない!私ってばスパイの才能もあったなんて!!

「何してるんですか、二条さん?」

「ぴゃっ?!」

突然後ろから呼び止められ、思わず声が出てしまう。その声に振り向く役員様一同。

「…し、失礼しました!」

「待って!用があるんじゃなかったの?!」

真後ろで呼び止めた梓弓先輩が、涙目になっている私を捕まえる。すると役員達は、こぞって私のもとへ歩み寄った。


「あなたが二条さんね、会長から聞いています。学校を…私達を救ってくれて、ありがとうございました」

ありがとうございました、と他の方々が復唱し、頭を下げる。

「い、いえそんな…それが、私達GSOの役目ですから」

顔を上げた人達に、精一杯の笑顔で答えた。それに役員達は顔を見合わせ、笑顔で返した。


「ところで二条さん、何か用があったのでは?」

持っていた肩を叩き、梓弓先輩が尋ねる。

「あっそうでした」

ポンと手を叩き、話を続ける。

「生徒全員のデータってありますかね?能力者を探したくて…」

その言葉に、役員達は顔を曇らせる。この反応なら、恐らく無いのだろうとたかをくくる。

「すいません、その情報は生徒会に無くて…」


「それなら、東東京支部へ行きませんか?」

扉から聞こえた声へ振り返ると、鞄を持って佇む愛先輩がいた。その微笑みは逆光に反射し、まるで女神。

「こ、こんにちは会長!」

『こんにちは!!』

「ごきげんよう。ところで二条さん、私は今から向かいますが…ついてきますか?」

一瞬ポカンとし、ようやくその意図を掴んだ。

「あっはっはい!ご一緒させていただきます!」

「会長、私も…」

「アーちゃんはお仕事お願い♡」

梓弓先輩の伸ばした手はだらりお落ち、体中から悲しげなオーラが出ている。

うう、見えるのがつらい!


「二条さん…会長を頼みます…」

「か、必ず!」





車で十数分、総合本部に比べると小規模なビル型の施設。ここが東東京支部だ。

学校のない間に何度か出入りしたが、ここはどうも人が多い。

なんでも東東京で起こった能力者事件の資料がすべて保存されているらしく、GSO所属の人間だけでなく、警察の出入りも許されているらしい。

その割に狭いせいか、この支部はいつも人だらけなのだ。


中へ入ると、偶然見慣れた男性が一人、前を通りかかった。

「あっ道師さん!」

少し伸びた黒髪から覗いた、灰色の瞳がこちらを捉えると、真っ直ぐに歩み寄ってきた。

「久しぶりだな、二条、そして嘉瀬。生活は落ち着いてきたか?」

「はい、お蔭様で」

会釈をする愛先輩が、また愛想のよい笑顔で答える。この人の顔の強さったらないですね。


「ならよい。それで、今日は何をしに来たのだ?」

「はい!ちょっと資料を探しにきまして…そうだ、道師さんは東東京の能力者全員を把握していたんですよね?もしよかったら…」

言いかけたところで、愛先輩に制服の裾を軽く引かれる。

「二条さん、道師様は忙しいんです。私達で探しましょう、ね?」

「そ、そうでした。すいません」

「構わない。そうか、そういえばそろそろ新人戦か。ちっ…また忙しくなるな」


無表情の彼から一瞬、何か見てはいけないものが?!

「そのメンバーを、今から検討しようと思いまして」

「そうだな、チーム選びは嘉瀬に任せる。頼んだぞ」

「はい、お任せ下さい。行きましょう二条さん」

道師さんに会釈をし、受付を済ませて資料室へと足を運ぶ。


「うっ…凄い数ですね?ですが安心してください!私の能力で!分析眼アナライズアイ!」

「あっ…」

愛先輩が止めようとしたときには遅かった、私の瞳は金色に弱く光り、広い部屋を見据える。

しかし、流れ込んでくるのは大量の文字、文字、文字…

「あっ…頭が痛い…」

「ええ、すべての事件及びそれぞれの能力の分析データその他諸々ですから、ざっと億単位の文字があるでしょうね」

「おっ…オク…おえっ」

「に、二条さん?!大丈夫ですか?!」

「文字酔いが…」

一体何冊の小説を読めばできるんでしょう、文字酔い。


数分後、何とか起き上がって資料を探す。その中で、とある資料が目に止まった。

「二年前。宿舎全焼事件…」

以前隼人センパイの話していた、触れられたくない過去。

ここで一体何が、隼人センパイを傷つけたのだろう?

やはり、同僚の方々が亡くなったのかな?

パラパラと捲る中に、一人の名が不意に目に止まる。


日江島かえじま ゆかり

被害者一覧のその名に、何故か強く惹かれていた。

「この人、一体…」

「あったわよ、これ見て」

はっと我に返ると、青の分厚いファイルを両手で持つ愛先輩がいた。

「はい!見ましょう!」

持っていた事件ファイルを元あった場所に仕舞い、彼女のもとへ駆け寄った。


現在、東東京に居住する能力者は47人。私や隼人先輩の名前もあった。そして…

「この人、うちの生徒ですね?」

「どれどれ?」

名を指差すと、愛先輩の頭が目の前に現れる。

ああ、シャンプーのいい匂いが…


城島じょうしま しのぶさんね…どんな方かしら?」

「お、男ですか!女の子にも見えますね!」

「そうね。それに、この能力…とってもユニークね?」

愛先輩の指さす場所へ目を向ける。

彼の能力…

「ど、どんな能力でしょう…?」

「とりあえず、明日生徒会で探してみましょう!」

「はいっ!」


翌日、生徒会室で彼の名を見つけた。

2年1組 城島 忍

ここで初めて知った。彼は

「ふ、不登校…?」

入学当初から不登校に陥った、問題児であった。

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