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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
1章 未来と隼人
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TARGET1 二条未来

「只今から、静岡 GSO能力者養成学校第1期生 卒業式を行います。まず学校長挨拶…」


長かった9年間、ようやく私はGSOのメンバーとして働くことができる。

私はただ、その喜びで満ち溢れていた。

「いよいよ卒業か…寂しくなるなぁ」

隣で9年間切磋琢磨してきた親友、芳野ほうの 裕香ゆうかもまた嬉しそうに笑っていた。

「最初は漠然としてたけど…今は目標がある、絶対優秀な能力者になってやる…!!」

未来みきは充分優秀だよ、だって…あっそろそろ出番だよ?」


会話が途切れると、司会の言葉が鮮明に頭に入ってくる。

「それでは卒業生代表、二条にじょう 未来みきさん、教壇へどうぞ」

「はい」

すくっと立ち上がり、教壇までのカーペットの上を颯爽と歩いてゆく。

真っ赤な髪がなびき、その表情は自信と期待に満ちていた。


「私達第1期生は日本のため、世界のために、この世に跋扈ばっこする能力者達を統率し、能力者同士及びその他の…」

覚えてきた内容を1字たりとも間違えることなく、すらすらと言い終えると、 目の前は拍手の海に包まれた。

だが、欲しいのはこれではない。

もっと先に、もっと平和な…


卒業式が終わり、話題はそれぞれの勤務先。

地元に残る者や、地方に出る人達ばかりだ。

「未来は東東京だっけ?一番大変なんでしょ?」

先生や後輩に囲まれた私を連れ出して、優香はまずそれを問うた。

「そうだね…でもやりがいありそうだし、不足なし!」

「ほんと、未来は真面目だよね〜」

気合い充分な未来を見て安心したのか、優香は優しく微笑んだ。

何人もの男を落としてきた笑顔、頂きました。

「そんなことないよ!裕香は名古屋だっけ、遠いね〜」

「会えなくなっちゃうけど…またいつか、会おうね!」

「うん!」


どれほど惜しんでも別れが遠くなることはなく、時は迫っていた。

最後の帰り道、優香が立ち止まり、ケータイを取り出した。

「ねえ、写真撮ろっ!」

そういえば、と思い返す。長らく親友をしていたが、ツーショットは今まで無かった。

「いいよ、撮ろう!」

2人の思い出を写真に納め、優香は満足そうに写真を眺めた。

「後で送っとくね!その…今までありがとう、お互い頑張ろうね!!」

優香の瞳から涙が零れる、つられて私の目からも自然と涙が零れた。

「うん…頑張ろうね…」

涙を拭い、抱き合ってから別れを告げた。


「ただいまー!」

「おかえり、どうだった卒業式は?」

「もちろんバッチリですよ、きっちり決めてきました!」

「それは頼もしいわね〜」

「はい!」

急いで和室へ走ると、仏壇の前へ正座し手を合わせる。


「ただいま、お父さん、お母さん…今日卒業式に行ってきてね…」


私には、父と母がいない

と言っても、両親に関する記憶はほとんど無いのだが、こうして1日あったことを話すのが日課となっている。

こうすることで1日を総括し、他人に話すことで気持ちが楽になる。

しかし、それもあと2週間。

遠く離れた東京の東部で、GSOのメンバーとして生活することになっている。


6歳の頃に養成学校に入り、能力を磨き、こうしてようやく世間の役に立てるときがきたのだ。

「どうか、見守っててください…」

「未来ちゃーん、今日は外食にするって。誠さんが言ってたわよ」

「分かりました、着替えてきます!」

こうして安定した生活が送れているのも、父の妹である叔母さん夫妻に預けられ、育ててくれたおかげだ。

いつかこの2人に、恩返しがしたい…





「いよいよ未来ちゃんもひとり立ちか…寂しくなるねぇ…」

叔父さんはお酒を1口飲んで、もの懐かしそうに呟いた。

「はい、本当に感謝しています。叔父さん達が預かってくれなかったらどうなっていたか…」

「いいんだよ、今はそんなこと気にしなくて!」

「ほんと、未来ちゃんはしっかりしてるね〜東京に行っても安心だよ」


叔父さん叔母さんは満面の笑みを浮かべ、私の頭を優しく撫でる。

「向こうではペアを組んで、その人と共同生活をするらしいです。どんな人かは直前まで知らされないんですって…」

「へぇ〜…男の子だったらどうする?」

一瞬想像してしまい、ドキッとしてしまう。

イケメンと共同生活、そのまま恋に落ちてラビリンスしちゃったり?!

「ちょっと、やめてくださいよー!」

「アハハ、未来ちゃんなら大丈夫だよ!」

「はい!どんな人でも上手くやってみせます!」


このときの私は知らなかった。

私のペアが、あんな奴になるなんて…





「それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい…」

叔母さんの目には涙が浮かんでいた。

それを見て私も泣きそうになったが、ぐっと堪えて住み慣れた家をあとにする。

これからが、私の新しい人生…!


新幹線で揺られて約1時間。

最寄り駅から10分歩いた先、GSO 東京総合本部へたどり着いた。

広々とした豪華なロビーを歩き、受付を済ませて指定された部屋へ向かった。

部屋は開いておらず、しょうがなく休憩スペースへ身を置いた。

おかわり自由なコーヒーをすすりながら、要項へ再び目を通す。


『日常生活に溶け込み、常時対応できるよう細心の注意をはらうこと。

ペアと連携を取り、2人に合った戦闘スタイルを見つけること…』

「いったいどんな人になるかな…」

もし、イケメンだったら…と、歩きながら妄想を膨らませていると、目の前に現れた人の影に気付かず、ぶつかってしまった。


「あっすいません!」

「…気をつけろよ」

ぶつかったのは長身の青年で、特徴的な薄紫の髪と、その前髪から垣間見える、無愛想で鋭い目つきは妙にはっきりと映った。

一見ただのクール系男子だが、私には《見える》

「今の人…性格悪いな」


これが私の能力の一つである。

分析眼アナライズアイ

遥か遠くのビルの中すら透けて見えるだけでなく、人から出ている《オーラ》のようなものが見える。いわば千里眼+αだ。

色とりどりなオーラはその人のすべてを表している。

その結果、彼はそんな感じだということだ。

「あの人だったら、ちょっとやだな…顔はカッコよかったけど…」


時間5分前になっても部屋の扉は開かず、困っていると背後から突然、人の気配を感じる。

背後に立たれるまでまったく気づかなった…!

振り返ると、真っ黒な髪と色白な肌を兼ね備えた、雰囲気のある男性だった。


「お、おはようございます!」

「おはよう。早めに開けておかなくて悪かったな」

「いえ!とんでもないです、私の早とちりで…」

「時間に遅れないのはいいことだ、その心構えを忘れるなよ」

「はい!」

男が部屋へ入り、正面にある大きな机に腰掛けた。

机には名前の入ったプレートが置かれていた。

道師みちのし あきら


その名を見て、思わず後ずさりした。

「み…」

「なんだ?」

「道師さんってあの道師さんですか?GSO日本支部長の…」

「ああ、私の父だ」

「会えて光栄です!日本に7人しかいない《特級能力者》さんにいきなり会えるなんて…」

「勉強してきたようだな。やはり、お前はあいつに組ませるには少々勿体ない人材だったのかもしれない…」

「あいつ?」


そう言った矢先、後ろの扉から誰かがが入ってきた。

さっき見た紫髪の男…!

ま、まさか…?

「ノックぐらいしろ」

「別にいいだろ、中に誰がいるかくらい分かってんだよ」

「まあいい…紹介しよう、これからペアとして行動してもらう宇田川うたがわ 隼人はやとだ。で、この娘が新人の…」


うわぁ…なんてこったぁ…

よりによって第一印象最悪なあの人だ。

いやいや、雰囲気とオーラだけで根はいい人かもしれない!

「二条未来です!よろしくお願いします!」

「…」

「…あの?」

「おい道師」

「なんだ?」

「こんなちんちくりんと組まされるなんて聞いてねえよ、ぜってぇ嫌なんだけど」


ちんちく…はぁぁ?!

初対面…でもないけどその人に向かってそれ?!

私だって嫌だよ、何でこんな性格腐ってそうな男と組まされなきゃいけないんだよ!!

「私はもう15です!それに、もうすぐで16なんですよ!!」

「あ?そうなの?まな板だからてっきり中坊かと思ったわ」


まな…板…

「フシャーーー!!!」

「うおっ!何だよお前?!」

「結構気にしてるんですよ〜〜!!よくもそんな悪びれも無さそうな顔してられますね!!」

「知らねえよ、何でちんちくりんに気遣わなきゃいけねんだよ!」

「まーた言う!思ったこと全部口に出しちゃうなんて貴方こそお子様ですか?!」

「ああ?!俺はもう24だ!」

「精神年齢の話をしてるんですぅー!!」

「…賑やかなところ悪いんだが、これがお前らの家の鍵だ。無くすなよ」

痺れを切らした道師が鍵を放り投げて、再び椅子へどかっと腰掛ける。

「あ、そうか…じゃあこの人と共同…えぇぇぇ?!絶対嫌です!!」

「俺だって嫌だよ!おい道師!どうにかしr」

「うるさい、お前らのわがままを聞いてるほどこちらは暇じゃないのだ。分かったらさっさと帰ってくれ。」

「そんなぁ…」


こうして私は、このデリカシー無し男とペアを組み…もとい組まされ、悪夢のような共同生活が始まるのかと、憂鬱に浸りたくなった。

「もう家に帰りたい……」

分析眼 いわゆる千里眼に近い能力。加えて透視に感情を表したオーラも見えるという便利な力。

戦闘には不向きといわれているが…?

「見える…!スーパーの裏側にある大量の在庫が…!」

「煩悩まみれの男が持ったら大変なことになってたな」

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