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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET17.5 はやとせんぱいのゆーうつ

CROWNをお読みの皆さん、こんにちは。GSO所属 東東京担当の宇田川 隼人です。

現在、俺はショッピングモール前で待ち合わせをしている。理由は他でもない、親友にプレゼント選びを手伝わせるためである。

噂をすれば、そいつがやって来た。

「わりーわりー、待った?」

直毛の長い金髪は無造作に伸び、黒のジャージがだらしなさを増強している。このへらへらしたチャラい男が、紅麗 和彦

GSO外で、唯一の友達にして中学からの付き合い。親友というより腐れ縁が正しい。


「5分遅れたから5000円奢れ」

「1分重っ!いつか俺の財布ごと取られそう!」

「そう思うなら間に合わせる努力をしろ」

「え〜、いきなり電話してきて『明日ショッピングモール行くから来い。11時な。』だけで来てくれる奴なんて俺しかいないぞ?」


こうして多少無茶なことを言っても、いつも通りへらへら笑いながら来てくれるので助かっている、とは口に出さず、舌打ちをする。

「えぇなんで?!なんで舌打ち?!」

「どうでもいいから行くぞ」

「もー隼人ってば本当に横暴だな〜」

「ここまで振り回すのはお前だけだよ」

「え、なにそれ俺は特別的な?」

「…」

「ねえなんで無視するの?その無視はなに?」

なんて、くだらない会話を交えつつ本題へと話を置こうとしていた。


「その、本題なんだが…」

「おう?」

俺の目線が泳ぐ。紅麗にはまったく検討がつかず首を傾げた。

「その…今の女子高生って、何あげたら喜ぶかな…なんて…」

チラリと紅麗を見ると、これでもかというくらい目を見開いて立ち止まっていた。

驚愕、これ以外に彼の状態を表せる言葉はなかった。

「ま、は、隼人…?お前熱でもあるのか?まさかこの前の一件で頭打って…?!」

「ああもう、何でみんなそういう反応すんだよ!!」

苛立ちを隠せず、思わず紅麗の腹へ蹴りを叩き込んだ。

「ぐっはぁ!!ごめん、冗談だよ…」


紅麗はなんとか手で制し、立ち上がった。

「しっかし、まさかお前から未来ちゃんに詰め寄ろうとしてるとはな…予想外もいいところだぜ?」

「…気まぐれだ」

「嘘だね。まだ見てないけど、隼人の中のお嬢ちゃんは確実に大切になっている。お前だって自覚してるだろ?」


先週の夜を思い出す。

静かな病室で、ボールペンの走る音と、未来の静かな寝息だけが支配していた、心地の良い空間。

いつもうるさい彼女が、少しだけ愛おしく思えた。


「黙ってれば…それなりだ」

「隼人辞書その1『それなり』意味は『好きだ、愛してる!アイラブユー!!』だろ?」

「…何で、俺の周りにはこうもうるさい奴が集まるかな…?」

その言葉を聞き、紅麗が前へ立って言う。

「そりゃ、お前が好きだからだよ」


俺のことが、好き。学生時代では、まずそんなことは言われることが無かったはずだ。

『あの人』以外に…そんな台詞を言われたことは、一度としてなかった。

「…男に好きとか言われると、吐き気がする」

「ハハ、お前はそれでいいんだよ」

紅麗が俺の背中をドンと叩き、再び歩き始めた。





紅麗のついてこい、という台詞のままについていくと、たどり着いた場所は…

「これとかよくない?いや〜これもいいなぁ〜」

「おい紅麗」

「なんだよ隼人、おお!これとか…」

「ここ、何の店だと思ってる?」

「え、女性下着の店」


そう、それ。

なのに堂々と漁るこいつの根性って…

「出るぞ、こんなもん渡せやしねえよ」

「いいじゃん!これとかどうよ?!」

「やめろ押し付けるな!あと絵面が絶対やばいだろ!」


成人済み男性二人が女性用下着店できゃっきゃと選んでいるこの状況に、目を止めない人間はいない。後ろ指が…痛い。

「ふざっけんな!行くぞ!!」

「えぇ〜〜」

なんとか紅麗を引きずり、店を出た。


「いいか、真剣に考えてくれ!」

「真剣に考えたらああなった」

「俺には下心しか見えなかったが?」

「とにかく、だ…俺に女心がわかると思うか?」

その時、俺は気がついた。

高校時代は万年2人でいたし、お互い彼女ができたと報告した覚えはない。つまり、こいつも…

「悪かった、人選ミスした。帰れ」

「ホント横暴だよな!!」


仕切り直しにハンバーガーチェーン店へ入り、ハンバーガーを頬張りながら、作戦を建て直す。

「未来ちゃんからリクエストとかは?」

「『じゃあ、隼人センパイのセンスに任せます!!』だってさ、丸投げされた」

「うわーらしいというか度胸がすごい」

紅麗は苦笑して、摘んだポテトを口へ放り込んだ。


「とにかく、女心がわかる奴がいなきゃ話にならん」

「じゃあさ、あの娘とかいいんじゃない?」

「あの娘…」

一瞬考えて、ふと一人の女性が脳裏を過ぎった。

正真正銘の女性で、俺や紅麗にも関わりのある…


「いや、あいつは頼りたくない」

「隼人って昔からあの娘避けるよな〜」

「苦手なんだよ、ああやってグイグイくるタイプは」

「へ〜…なかなか美人なのにねぇ…」

紅麗が煙草を蒸かしながら、ぽつりと呟いた。

「…しょうがねえ、呼ぶか」

意を決するように呟いてから、スマホを開いて電話帳をスクロールする。

送信先は『バカ』





電話から10分ほど、俺の目の前へ颯爽と現れた彼女は、満面の笑みで駆け寄ってきた。

「はーくぅぅぅぅん♡」

「ひっつくな!!」


斬崎 弥生、高校時代は2つ下の後輩で、紅麗とも交流のある唯一の女性だ。

スレンダーという言葉がふさわしい体つきに、真っ白な髪は腰を覆うほどの長さを誇る。

普段はスーツを着こなしているのだが、今日は休みだったのか。紺色のロングスカートが大人っぽさを強調する、華やかな服装をしていた。


「よお弥生ちゃん、おひさ!」

「あら、紅麗パイセン!おひさです!」

俺の首へ抱きつきながら、右手で挨拶をする。

「いいか、さっき電話でも話した通りだ。頼むぞ?」

「は〜い、アキラくんも隣で聞いてましたよ?」

「ぐっ…敢えてリアクションは聞かない」

「鼻で笑ってました」

「聞いてねえよ!」


くそ、道師め…いくら上司とはいえアイツだけには弱みを見せたくないのに…!!

まあ、この女のせいでプライドもくそも無いわけだが。

「とにかく私についてきてください、童貞の先輩方!」

「童貞ではないな」

「えっ隼人いつの間に?!」

「…」

「ねえ何!その無視はなに?!」

隣の奴がとにかくうるさいが、渋々と弥生の背中を追う。


「これいいですねぇ!私用に買おっかな〜」

「弥生ちゃんにはこれも似合うよ〜」

「あ、それもなかなかいいですね!」

「あのなぁ…」

隼人はため息をついて、怒鳴った。


「何っっっでまた下着なんだよ!!!」

こいつらの思考以心伝心かよ気持ちわりい!!


「え、2人で入ったんですか…?」

弥生の目が細くなり、目の前の青年二人へと冷たい視線をあてる。

「そうなんだよ、隼人がどうしても…ぐへっ!!」

咄嗟に後頭部へ肘をいれる、紅麗は頭を抑えて座り込む。

「相変わらずハードな突っ込みだな…」

「ハードにさせてるのはお前だよ」

「えっいいな紅麗パイセン…私にも激しいのください…?」

「お前は黙ってろ卑猥発言マシン」


いよいよ突っ込み疲れた俺は、無理やり引きずって店を出た。

またも視線が痛々しい…もう帰りたい。

「もうお前らはいい、俺が選ぶ…」

「最初からそうしろよ!」

「そうですよ、私だって忙しいんです!」

「じゃあ断れよ」

「「暇だから。」」

どっちだよ!!もう突っ込まないぞ俺は!!


「分かった、悪かったよ…どうせなら最後まで付き合ってくれ」

「そう来なくちゃ!」

「任せてください、極力真面目に選びますから!」


そして、数時間の格闘の末、ついにプレゼントは決まった。

「いや〜、最後にだいぶベタになりましたけど、いいんですか?」

前を歩いていた弥生が、首だけ振り返って問う。

「ああ、最初からこっちにジャンルを絞っとけば、苦労しなかったのに」

「やっぱ下着にしとけば…」

そう言いかけた紅麗を睨みつけると、彼は目を逸らして、口笛を吹いた。


「それじゃあ、あとは渡すの頑張ってくださいね〜!」

弥生が手を振り、駅へ向かって歩いていった。

「俺も誕生日会行こうかな〜じゃあまた今度!」

紅麗が手を振って、現れた黒の中型車に乗り込んで去った。

そして俺は思い出した、このあとが最難関の試練…

「どんな顔で渡せばいいんだ…?」





未来と顔馴染みのメンバーが家へ次々と押し寄せ、盛大なパーティーが開かれた。

大人達はワインを開け、高校生達は炭酸やらフルーツ飲料やらを開けて飲み始めた。

「あら、美味しいですね。この料理はどちら様が?」

嘉瀬 愛が、目の前の食事を摘むなり、口を覆いながら呟く。

「一応自分が!お嬢様の舌に合ってよかったです!」

瀬見が得意げに、胸をどんと叩いて現れた。

「まあ、うちの厨房に雇われる気はございませんか?」

「ダメです!せみゆーさんは私達のホームヘルパーさんですぅ!」

瀬見の前へ立ち塞がり、未来がしかめっ面をして叫ぶ。

「そうでしたの、ですが気が変わったらすぐにお電話を…」

「もうーー!!」


今日の主役であるはずが、我が家のホームヘルパーを守るというよくわからない構図に、大人達は少し遠くから眺めていた。

「そういや、弥生ちゃんは?」

煙草を蒸す紅麗が、ワイングラスへ口をつける道師へ尋ねる。

「あいつは残業中だ。いつかの日にすべて放置して逃げたからな、その報いだ」

「仕事人ですねぇ、道師のダンナ!」

ヤク○の次期当主と警察部隊の支部長が酒を交えて話すという、こちらも謎の構図が完成し、俺は少しだけ、孤独を感じた。


夜は更け、続々と人々は帰っていき、元の3人だけになった。

そろそろ、渡さなければ…


「隼人センパイ!」

突然呼ばれ、思わず肩が揺れる。

「なんだ?」

「今日は楽しかったですか?」

未来の問いに、少し考えてから答えた。

「まあ、まあだな…」

「そうですか、ならよかったです!」

未来は満足そうに笑い、踵を返して階段へ足を向けたところで、なんとか呼び止めた。


「み、未来…」

「はい?」

なんですか?と疑問のマークが浮かんでいそうな顔で振り返った。

「さっきは、渡しづらかったから…ほらよ」

懐から小さな箱を取り出し、未来へ手渡した。

「かっ…買ってたんですか?!」

「まあな」

「わーい!中身見ても?!」

「か、構わない…」

言葉よりも先に、包まれた紙を丁寧に開け、箱を開ける…


「スノー…ドーム?」

青い土台のついた透明な球の中では、真っ白な雪が小さな民家へ降りかかり、見ているだけで涼しくなるスノードームを、未来は真剣な瞳で覗き込んだ。


「き、気に入らなかったら捨てても…」

「そんなわけ無いじゃないですか!!」

突然発せられた大声に、思わず眉間にシワを寄せる。


「これは…あの隼人センパイが初めてくれたプレゼントです!捨てるわけがありません!!」

黒く大きな瞳が、隼人を真っ直ぐに射抜いた。

それに圧倒され、思わず一歩下がった。


「それに…とってもキレイです…」

目を細め、うっとりとスノードームを眺めた。

裏表のない満足そうな表情に、大きく息を吐き、そそくさと部屋へ戻る。

「ああもう…何であんな緊張したんだ?」

顔が熱くなっているのを感じ、右手で顔を覆った。


こうしてまた一つ、ペアの絆は深められた。

そのスノードームは、今日もキラキラと、机の上で輝いている。

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