TARGET17 事は明け
二章完結デス!
2日も空けてすいませんでした(白目
事件から3日が経過した。
学校は1ヶ月の臨時休校、これから校舎の修理が施される。
とある病院の一室、二条と書かれた部屋の扉を開け、仕切りを跨いだ。
中には、真っ赤な髪の少女が、穏やかな顔でベッドへ横たわっていた。
大量出血、各所の骨折が見られ、非常に危ない状態だったという。助かったのが奇跡だとさえ、医者は言っていた。
「…やっぱ、まだ起きてねえか」
片手に持っていたバスケットを隣に置き、背もたれのない椅子に座る。
手元にあったリモコンを持ち、テレビをつける。
昼のワイドショーでは、頻りにこの単語が飛び交っていた。
渋谷第二高校襲撃事件
今聞いても忌々しいこの事件に、政治家やジャーナリスト、芸能人達が意見を出し合っている。
非常に、無意味なものだった。やれGSOの仕事が悪かった、これからテロにどう向き合うのか。
能力者の待遇を変えるべきか否か。
まったく関係のない彼らが話したところで、徒労に終わるのが目に見えている。だから、テレビを消した。
ベッドとテレビの間を通り、窓へ手をかける。開けると、爽やかな風が入り込み、部屋を駆け巡った。
窓からは、倒壊した校舎が見える。
「ちっ…何しても思い出させてくんのかよ、ここは」
脳裏を過ぎったのは、廊下に転がった義兵の死体、謎の男アーサー、バケモノと化したレオの姿と、最期の言葉
『ア…りがとう…』
さらに彼が残したのは、Sという首謀の存在。
「なあ未来。今回の襲撃について、どう思った?」
眠っている未来は、当然答えない。
「俺は…くだらねえと思った。俺にとって戦闘員も保護能力者も、さほど差のないものだと思ってた。だが現実は違った、保護能力者達は苦しんでいた。戦闘員からは見下され、一般人からは忌み嫌われる。道師から聞いたが、国からもらえる補助金額も違うらしい。戦えないだけで、能力者として生まれただけで、そいつらはもう普通の生活はできないのか?一般人と仲良くすることはできないのか?もっと平等な世界をつくっていいんじゃないか…そう思ったよ」
踵を返して椅子へ座り、穏やかな顔で寝ている未来を見る。
「…ハハ、アホみたいな顔しやがって。だらしねえ」
前髪を流し、優しく額へ触れる。
熱でもあるのかというくらい暖かく、触り心地のよい健康な肌。そっと手を流し、左頬へ添える。
「また来たら、お前の好きなもの買ってきてやるよ…って、知らなかったか」
見ているととても穏やかになる、愛らしい表情。妹がいたら、こんな感じだったのかと想像し、笑う。
「…もう少し、お前のことも知らなきゃいけなくなったな」
頬を少し引っ張って、変な顔をつくってみる。
平和が訪れたのだと、どこかで実感したかったのかもしれない。
ずっと、こうして平和な…
ガララッ
「入りまー……す」
先頭を切って扉を開けた弥生の目に映ったのは、未来の頬に優しく触れる青年の姿。
「…お邪魔しました〜」
「待て待て待て!違うこれは!!」
「や、弥生さんどうしたんですか?!」
驚きの声をあげた梓弓が見える。
「あら、宇田川先生。こんにちは」
こちらを見た愛がにっこりと笑い、小さく手を振った。
「なるほど、隼人はそういう女が好みだったんだな」
真剣なのかただの無表情なのか分からない顔で、道師が呟いた。
「お前らうるせえ!!」
☆
「ひどいよはーくん、こんなに美人な私より、若々しい未来たその方を選ぶなんてっ!」
弥生が、真っ白な髪を俺の顔にぶつけながら、隣へ寄り添うように座る。
「違うっつってんだろ、めんどくせえな…」
「アーちゃん。いくら寝てるとはいえ、キスとかしちゃダメよ?」
「キっ…するわけないじゃないですか!!」
目を細め、口を片手で覆って上品に笑う愛に、梓弓は慌てて立ち上がった。
「本当に良かったです、順調に回復しているようで」
未来の手をとり、目に涙を浮かべる結衣が呟く。
「本当です、もしものことがあったら…私と八束にも責任があるので…」
「そんなこと無いわ。今回追い払えたのは、二条さんと、雪原くんのおかげです…」
その場の空気が、少し重くなった。
昨日の葬式に、多くのGSO及び学校関係者が参列した。もしあの体育館から抜け出せなければ、理事長はとっくに捕まり、彼らの思うツボとなっていた。
そのピンチを救ったのは他でもない、雪原の的確な指示だった。
そのことを、生き残った彼らはよく覚えている。
「そういえば、あのとき宇田川先生は何故、職員室にいたんですか?」
梓弓の単純な問いに、思わずビクッと肩を震わせ、どもる。
「あー…それは…」
「サボったな」
窓際に立つ道師が冷酷に、言葉を飛ばした。
「ぐっ…」
「そうだったんですか?!」
結衣がまさか!という顔で見る。
「あらあら宇田川先生、教師としてどうなんですか?」
このときばかりは、愛の笑顔が怖い。
部屋の視線が一気に集まり、天井へと視線を逸らす。
「てゆーか、はーくんの中での未来たそはどう変わったの?」
フォローなのかキラーパスなのか、弥生から鋭い質問が飛ぶ。
「…そりゃ、まともなパートナーとして…」
「じゃあ、さっきのはパートナーになったらするんですかぁ〜?」
自分の頬を引っ張り、いやらしい笑みで詰め寄る。
「くっ…だから…」
「今度、人事統制でペアの変更が可能になる」
道師が口を開き、俺へ視線をあてた。
「今回活躍したお前には、パートナーを選ぶ権利を与えよう。好きな人間を選べ」
道師の意図は、すぐに分かった。
ここで、未来がいいと宣言させようとしているのだ。しかし弥生は、「私を選んで」と言わんばかりの目でこちらを見てくるが、無視して…未来へ視線を向けた。
つい数日前まで、パートナーを変えたくてたまらなかったのに…今の、正直な気持ちは…
「俺は、二条 未来を指名する。こいつは優秀な頭脳と身体能力を持っている、逸材だ。性格はクソ生意気だが…そこには、目を瞑る」
恥ずかしそうに目を逸らす姿に、全員がにやにやと笑って視線を送る。
「はーくぅぅん…」
弥生が少し涙目になって腕に抱きつく。
「よかったですね、二条さん」
愛は未来の頭を撫でて言う。
「よし…決まりだな」
道師も、満足そうに頷いた。
☆
「ではまた来ますね、二条さん」
「お邪魔しました!」
俺以外の人間が去り、部屋には再び静寂が支配した。
散々照れくさいことを言ったが、何も聞こえていないと願おう。
突き放そうとしていた彼女を、傍に置きたいなんて…数日前の俺に笑われるな、と鼻で笑った。
「お前が起きるまでは、ここにいてやろう」
夜になり、瀬見さんから貰ったご飯を食べ、報告書を書きながら隣に居続けた。
少しでも、早く距離が縮められるように…
「不器用なりに、頑張るよ」
未来の頭に掌を置いた。
そして、時間とともに眠りに落ちた。
☆
『俺はあのときだけ願ってしまったんだ…このまま、楽しい日常が続けばいいのにと…』
『うちの相棒に、何してんだてめえ!!』
「よく頑張った。あとは俺に任せて、ゆっくり寝てろ」
ゆっくりと、目が開いた。
真っ白な天井、柔い光…ああ、そうか。ここは病院…私、助かったんだっけ…?
微睡みの中、ゆっくりと思考が動きだした。起き上がろうとしたが、身体が重くて動けない。
何日経ったのだろう、時計の針しか見えない…
2時か、随分夜中に目覚めたな。
すると右手付近から、寝息が聞こえる。誰だろう、とぼんやりと目を向ける。
そこには目を瞑り、私へ覆い被さるように寝息をたてている隼人センパイが映った。
「…ずっと、いたんですか?」
当然、彼は答えない。机を見ると、山積みにされた書類が佇んでいた。
「お疲れ様です、隼人センパイ…」
恐る恐る頭を触り、優しく微笑んだ。そして、また夢の世界へと引き込まれた。
☆
「うおおおおおおあおおおおおおんミキちゃーーーーーーーーーーーーーーん!!」
意識のないまま3日、入院に3日の6日ぶりの家に帰るなり、瀬見さんは大泣きして走ってきた。
「ただいまです、せみゆーさん!」
「寂しかったっすよぉぉぉぉぉぁ!!隼人くんと二人きりなんてつまんなかったっすよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「失礼だな、それとさりげなく抱きつこうとするな」
「痛っ!!なんですか隼人くん、本人が何も言わないからいいじゃないっすか!!」
「嫌です、やめてください」
「ガーンッ!!」
帰ってきて早々、いつもやかましい瀬見さんから元気をわけてもらい、未来は優しく笑ってみせた。
「もう元気ですよ!せみゆーさんのご飯もたらふく食べられます!!」
落ち込んでいた背中をシャンと伸ばし、ガッツポーズで応える。
「任せてください!今日は退院祝いとしてご馳走たっぷり作ってあげますから!!」
「ヤターッ!!」
両手をあげて中へ走ってゆく未来を、俺は半目で見つめていた。
本当に、またこいつらと暮らすのかと、少々うんざりしていた。だが今では、それを望んでいたわけで…
「何しているんですか、隼人センパイも食べましょーよー!」
「昼間からそんな食えねえよ…」
後頭部を掻き、面倒そうな顔を浮かべて、玄関から出た。
「あー、未来」
「はい?」
突然呼ばれ、未来は体を反転させる。
未来の瞳が、真っ直ぐに俺を捉える。
恥ずかしくなって、つい目を逸らしてから、口を開いた。
「その…誕生日とか、教えろよ。あと…欲しいものとか」
バタンッと手に持っていた鞄を落とし、両手で口を覆った。
そして俺を見つめて、叫んだ。
「せみゆーさん!!これ隼人センパイじゃないです、そっくりな偽物です!!」
「おい」
「まじっすか?!なんて言ったんすか?!」
「おいこら」
「『その…誕生日とか、教えろよ。あと…欲しいものとか』ですって!!」
「…」
「うわぁやっぱ偽物っすね!隼人くんがそんなこと言うわけn」
「もうてめえら黙ってろぉぉぉ!!!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」
☆
今日から、日記をつけようと思います。
隼人センパイやせみゆーさんと、楽しく暮らす毎日を、いつかこれを読み返して楽しめたらなと思い、ここに綴ります。
今日は隼人センパイが暴走し、私達はボコボコにされてしまいましたが…ツンデレな隼人センパイが、私達は大好きです!
次回は番外編とキャラまとめ。どうでもいい方はレッツスキップ!




