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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET16 決着

長かった死闘は、ついに終結へ────

一方屋上、道師達もまた、次々と現れるアーサーと戦闘していた。

しかし、彼らの戦闘能力は道師・斬崎ペアに遠く及ばなかった。

「どうした、複数でかかってそんなものか?」

何人ものアーサーが飛びかかって囲んでも、道師の鎌は全員の胴体を切り離し、空気中へ溶けるように消えてゆく。


「アハハ、ハデス様強すぎ。僕の1/2の力が出る分身をそんな簡単に倒されちゃうと、僕もちょっと焦るんだけど」

「本体はどこだ?」

「一応、学校にいるよ?」

「無駄な作業はしたくない、さっさと本体を出せ」

「やだよ、出てきたら負けちゃうもん」

「ほざくのもいい加減にしろ」


答えを焦る道師をあしらうように、アーサーは困ったように笑う。

「そう焦らないでよ、君は今僕と戯れるより、お仲間のフォローにいくべきだと思うんだけど?」

一人のアーサーがそう言うと、道師はぴたりと立ち止まった。


「え、なに?地雷だったかい?」

「いや…そんなもの愚問に過ぎない、と思ってな」

「どういう意味だよ〜」

「うちの隼人はとにかくデリケートなやつでな、奴のお楽しみを邪魔すると…後々面倒なんだ」

道師は目を細めるが、アーサーはよく分からずに小首を傾げると、すぐに理解したようだった。


「あ〜あの無愛想な元ヤンくんね!」

「だから忠告しておこう、奴は…俺よりも強い」

「へぇ、そこまで期待してるんだ?」

「少なくとも、《俺個人》ならな。俺と弥生なら、最強だ」

道師がそう、自信に満ちた微笑を浮かべると、握っていた鎌が熱くなるのを感じた。

「どうした弥生?」

『な、なんでもないです…それより!はやく目の前のチャラ男全部倒しちゃいましょう!』

話題をなんとか逸らし、視線をアーサーへ向ける。


「もう少し本気を出させたかったよ、だってハデス様ほとんど能力使ってないでしょ?」

アーサーの表情が少し真剣になったのを感じ、ぐっと鎌を握る。





「アハハ、どうしたの?動き鈍ってない?」

「ちっ…口ばっか動かして、随分余裕なんだな?」

次々と迫りくる剣を弾き、一撃でアーサーを倒し、空気に溶けるように消える。そして新しいアーサーが生まれる。

もうその生命体はアーサーとも、人間とも呼べないのだが…

「お前、実はスライムとかでできてるだろ?」

「ハハ、正解」

隼人が荒く息を切らしながらも、精一杯に口を動かすが、いよいよ余裕が無くなってきた。


敵は6人にまで増殖し、さらに背後の未来を守らなくてはいけない。もし彼女が人質にでもとられたりしたら…

ここで頭に浮かんだのは、彼女ではなく、ある美しい女性。

「はぁ、こんな状況でも思い出せんのかよ。俺って意外と引きずるタイプだったんだな」

「なに独り言いってるのさ!」

少し荒い声と同時に、6体の人間が襲いかかる。

その剣を一つ弾き、拳を首へと叩き込み、消える。弾いては叩き、消える。


何度これを繰り返したかはわからない、ゲシュタルト崩壊を起こしそうなほどだ。

あまりに殺したときの手応えがなく、徐々に感覚は麻痺していく。

そしてさらに、厄介な生き物がもう一人、目を覚ました。


「うおああああああああああああああっっ!!」

教室から机を、壁を突き破って現れたのは、レオナルド=ウェスカー。

しかし彼の風貌もまた、人間とは呼べなかった。

制服は所々破れ、その上からでも隆起した筋肉が見てとれる。

元々多かったが、薬の影響なのか、別次元の量を誇っているように見えた。

目は既に自我を失い、文字通り真っ赤に血走っている。

「レオ、お前ボディビルに興味ねえか?ぜってー優勝できるぜ」

「ミナゴロシダッ!!」

地面を蹴ったのと同時、レオの頭はもう目の前に現れた。

「ああもう、どいつもこいつも人間辞めやがって…能力者って時点でもう普通じゃないけど、よ!!」

鋭く放たれた回し蹴りがレオの胸板へ命中した。場所も威力も完璧、そう、完璧なはずだった。


「ちょっ…マジかよお前…」

レオは倒れる素振りを見せるどころか、ぴくりとも動いていない。

まるで鋼鉄でも蹴ったかのような衝撃が、遅れて襲ってきた。

それをレオが見ると、自分へ突き刺さる足を掴んだ。

「くそっ」

左手をかざし、レオを鈍らせて何とか回避する。

「なるほどね…君の方は手の内を晒してくれて助かるよ」


アーサーはゆっくりとこちらへ歩きながら、不気味に笑う。

「君の能力の一部、遅延スローの方は使い方が非常に複雑だ。見たところ脳の思考まで鈍らせているようだ、だから相当な神経すり減らしてんじゃない?」

隼人は答えず、ただ睨み返した。それにアーサーは、肩をすくめた。


「今の君には負荷がある。大事なパートナーという負荷がね?」

はっと気付き、名を叫んだ。

「しまった、未来!!」

すぐさま振り返ると、既にアーサーの複製コピーの一体が、剣を振りかざしていた。彼の能力でも間に合わない…

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」


そう叫んだ刹那。

アーサーの複製は、音をたてて内側から破裂した。まるで時限爆弾でも仕掛けられていたかのように、完璧に。

一瞬で複製は消え失せ、同時に階段から一人の男が姿を現した。


「大丈夫か、宇田川!」

雄々しい声、2mはあろうかという巨体にこれでもかと筋肉が盛り付けられた強靭な肉体、黒く短く切られた髪。

「…雄略ゆうりゃくサンかよ…」

言葉の反面、胸を撫でおろした。

なぜなら、彼は…


「西東京能力者代表、嘉瀬かせ 雄略!この場を鎮圧しに参上した!」

再び雄導は大声を張り上げ、敵を威圧した。

しかし、登場の複製爆破で充分なインパクトは与えている。いつの間にか、アーサーから笑顔が消えていた。

「特級能力者がまた一人…ホント、この学校どうなってんの?」

彼に余裕の表情は無く、笑っていた目は完全に据わろうとしている。


「宇田川はパートナーを連れて戻れ、ここは俺に任せろ」

「やだね、それに…」

言いかけたところで、天井から白く透明な壁が、姿を現し、レオを押し潰した。切り裂かれた天井から、制服を着た生徒がゆったりとその身を着地させた。

「め、愛!!」

「あら、お父様。ごきげんよう」


治療を終えた愛が、にっこりと微笑んで応えた。

嘉瀬の名を聞けば、東京で震え上がらない人間はいないと呼ばれる名家が一つ。

他にも有力な家系はあるのだが、嘉瀬家は代々西東京を治め、その功績を残してきた。


その当主である雄略が、慌てた面持ちで娘を見ておろおろしている。どこが雄だかさっぱりわからん。

「だ、だ、大丈夫か?!制服に血がついてるじゃないか!!」

「もう治りましたわ、治癒ヒールの能力者様に助けたいただきましたの」


切られた天井へ視線を向けると、結衣が恥ずかしそうに手を振っている。

「お嬢さんが愛を救ってくれたのか!!」

「は、はい…一応…」

「本当にありがとう!!後ほど、家をあげて礼をする!!」

「え、えぇ〜〜?!」

「お父様、橘さんが困ってますわよ?」

「そ、そうか…すまん」


ギギギッ

不気味な音に全員が目を向けると、潰されたはずのレオが、壁を持ち上げて現れたのだ。

「ウオオオオオオ…」

「…バケモノめ」

恐怖なのか関心なのか、思わず笑みがこぼれた。

一体何に執着したら、そこまで戦うことだけを考えられるのだろう、と。


「援軍きたところ悪いんすけど、こいつは俺にやらせてください」

「なっ…正気か宇田川!君だって相当な体力を消耗してるはずだ!」

雄略が肩を掴むが、俺はそれに手を置いて、答えた。

「あいつは俺の生徒だ。ケジメくらい、つけさせてくれよ?」


雄略はゆっくりと手を離し、頷いた。

「じゃあ、うちのパートナーを頼む。それと避難誘導もだ」

「了解した。宇田川!」

突然名を呼ばれ、振り向く。

「勝算はあるのか?」

「…もちろん。無かったらとっくに尻尾巻いてあんたに任せてるよ」

「それもそうだな。頼んだぞ!」

後ろ手に振り、そして視線をレオへ移す。

「さあ、やろうぜ筋肉オバケ。体力まだあるだろうな?」

「ハァ…ハァ…アタリマエダ!」


既に言葉すらも危うくなっている、こりゃ本格的にまずいな…自我の吹っ飛んだ能力者は、自然にリミッターが外れて、認定ランク以上の強力な力が出ちまう。

早めに仕留めないと、自ら身体を滅ぼしかねない、だからこそ殺る覚悟が必要なんだよ。どこぞのバカにはそれがないがな…


「いくぜ」

「ウガァァァッ!」

同時に地面を蹴る。

波動を纏った腕が、次々と襲いかかる岩山を砕き伏せ、距離を詰めてゆく。

さっきまで無駄のあった岩山の密度は、格段に増している。

近接戦すらも、勝つかどうかは分からない。だったら…


「森羅流拳法…《貫龍》!!」

雄叫びとともに、レオの胸板へ拳が入った。

「ムダダ…オマエノチカラデハ…」

「これは俺の力じゃねえ。何者をも抹殺する破壊の拳法だ!」


そして、めり込んだ腕は、レオの胸を貫通した。拳の先に、窓から吹いた風を感じる。

血がべっとりとまとわりつき、滴り落ちてゆく。レオの両腕が、俺の肩を掴んだ。もうその手に、力など残っていなかった。

みるみる身体が元に戻っていく最中、俺にしか聞こえない言葉で、呻くように言った。


「ア…りが、とう…」


手を引き抜くと、受身をとることなく、顔から落ちていった。

「えぇ〜ワンパンじゃ困るよレオくーん。しっかりしてよね〜」

さらに遠くにいるアーサーが、つまらなそうに言った。

それを、睨む。


「てめえの部下が死んでも、へらへらしてんのか?」

「部下じゃない、雇い主だよ」

「関係ないな、それにお前も終わりだ」

その言葉と同時、アーサーは背後から、とてつもない殺気を覚える。振り返らずに剣を振ると、ガギインッと金属が擦れ合う音が聞こえる。

そして現れたのは、ハデスと呼ばれた男。

「ほう…お前は反応が別格だ、本体だな?」

「アハ、バレちゃった?」


そういった瞬間、アーサーの足下から黒い円が姿を現す。

その光景に、アーサーは小さく舌打ちをした。

中からは、黒いローブを被った人間が一人、頭を出した。

「撤退だ。引き返すぞ」

「ちぇっまあいいや。また遊ぼうね、ハヤトくんとハデス様」

「待て!」


道師の素早い動きで首を掻っ攫おうと横に振るが、アーサーは地面に埋まるように消えていった。同時に黒い円も姿を消した。


「ひとまず、決着でいいのか?」

「…ああ、とても勝った気分にはなれないがな」

足下に転がっていたレオと、ショーンの遺体は一緒に吸い込まれたようで、忽然と姿を消している。

どの階にも、敵か生徒か、血が飛び散っていた。


渋谷第二高校襲撃事件

翌日、この名前が日本中を恐怖に陥れた。

死傷者81名(内生徒36名)

前代未聞の大規模テロとして、歴史に残る事件となってしまった。

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