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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET14 HERO

GSO 東京総合本部

「なあ聞いたか?渋二で大規模なテロが起こったらしいぜ」

「マジかよ!俺ら出動しなくていいのか?」

「敵はほとんど片付いてて、道師支部長が出動したってよ」

「なーんだ、ならもう安心だな」

「ああ、なんてったって東京最強と呼び声高い《特級能力者》様だからな〜!」





「さっきまでの威勢はどうした?!」

アプトは声を荒らげて、次々と結界をつくっては飛ばしてくる。

あの壁に押しつぶされたら、怪我どころでは済まない。

「大丈夫か、八束?!」

「余裕だよ。お前こそやばいんじゃないか?」

梓弓の心配に背き、八束は平然とした口調で返すが、その息は荒れている。


「全然余裕そうじゃないぞ…私は余裕だけどな…」

「へっ、お互い強がってどうすんだよ…俺の能力で逃げることもできるぞ?」

八束の提案に、梓弓は首を横に振った。

「私達の役目は、なるべく彼の注意を引くこと、あと少しすれば…援軍が!」

最後の気力を振り絞り、身体へムチを打って攻撃を躱す。

あと少し、あと少し…


「しまっ…!」

「八束!!」

ついに足がついてこなくなった、八束がよろめいて地面に崩れ落ちる。

そこへ慈悲の欠片もなく、薄赤色の壁が押し寄せる。それを梓弓が、素早く間に入り込み、受け止めた。

押しつぶされそうな八束を背に、結界の壁を必死に抑えた。

いくら身体強化フォースとはいえ、身体はとっくに限界を超えていた。

徐々に結界は、梓弓を地面へと近づけた。

「バカ!お前も潰されちまうだろ!!」

「八束が潰されるのを見ているのなら、ここで一緒に潰された方がマシよ!!」

「はは、ハハハ…アーッハッハッハ!潰れろぉぉぉ!!」

「くっ…!!」


瞬間、重くのしかかっていた結界は、どこかへ消えて失くなった。

アプトを見ると、彼の腹部には赤い刃渡りの鎌が突き刺さり、手を震わせていた。

彼の後ろには、黒い髪に真っ白な肌を兼ね備えた不気味な男が佇んでいた。その立ち姿はまるで、死神。

「きっさま…もう援軍が…?」

「なんだ、お前はそこまで強くないな。もっと強いのを出せ」

鎌を引き抜くと、アプトは声も出さず、その場へ倒れた。


「道師様!」

梓弓は明るい声色で叫んだ。

道師は声の方向を見ると、僅かに笑ってみせた。

「ありがとう、八崎。そして…八束」

「お、覚えているんですか?もうだいぶ前に戦闘員を辞めたのに…」

「例え非戦闘員でも、この地に住まう能力者の顔と名前はすべて覚えている。支部長として当然の義務だ」

『その割には、だいぶ苦労してたけどね〜』

道師の握っていた鎌が、呑気な声をあげた。


「か、鎌が喋った?!」

すると、鎌は道師の手を離れ、ふわりと宙を回ると、一瞬で女性へ変わった。真っ白な髪を巻き上げて華麗に着地し、八束を見つめる。

「やあやあ、《武器化ウェポン》の能力者にしてアキラくんの最強最高のパートナー、斬崎 弥生でーっす!」

「余計なことをするな。八崎、手練はどこだ?」

道師の目はなぜか好奇心が混じっており、うずうずとしているのが僅かに感じ取れた。


「えっと…あ、いない?!恐らく理事長のもとへ行ったかと!」

「よし分かった、いくぞ弥生」

「はいはーい!」

再び鎌へと変身し、道師の腕へ吸い込まれていった。それを八束は、呆然と見つめていた。

「驚いた…ペアにはあんな戦い方もあるのか…」

梓弓は座り込んで、答えた。

「あれをできるのは、道師様の技量と、斬崎さんの絶対的信頼があってこそだよ」

道師の決して大きくない背中は、今は最も頼れる影に見えた。





「ショーン!…まさかアンタまで能力者だったとはな、しかも二条のパートナーときたか」

レオの言葉には目もくれず、青ざめる未来へ駆け寄る。

「とりあえず刺さってるのは抜いて、止血をする。痛てえけど少しだけ、我慢しろ」

「だい、じょうぶです…隼人センパイに、いつも…殴られてますから…」

未来は無理やり笑ってみせるが、俺は笑わなかった。

未来の手を握り、真剣な表情で見つめる。

「いくぞ…」


素早く剣を抜き、ワイシャツの袖を切って縛り、応急処置を済ませる。

未来は苦悶の表情こそ浮かべたが、悲鳴をあげることはなかった。本当に強い女だ。


「よく頑張った。あとは俺に任せて、ゆっくり寝てろ」

「そうさせて…もらいます…」

教室側の壁へ運び、寄りかかるように座らせる。ゆっくりと目を閉じるのを確認すると、立ち上がってレオを睨んだ。

「真弓 レオナルド、いや…レオナルド=ウェスカー。お前は重大なミスを犯した」

レオは答えず、ただ無言で構えた。


「この俺を…怒らせたことだ」

「相当自信があるんですね、先生」

「当然だ、俺は道師のヤロウより腕はたつぜ?」

「それは興味があるな、ぜひお手合わせを…」

しかしそれを手で制し、人差し指をたてて左右に振った。


「甘いな、今からやるのは…殺し合いだよ」

レオは不気味な笑顔を浮かべ、右手をゆっくりと開く。

「悪いが長期戦をするつもりはない!今すぐ死んでもらおう!」

無数の岩山は、同時に俺めがけて飛んできた。


「ふっ…甘えよ」

そう呟いた刹那、現れた岩山は、一瞬で砕け散っていた。

「な、何が起こった…?」

「お前とは見えている世界が違う、オトナの力ってやつを見せてやるよ」

そう言うと、彼の踏み込みと同時に一気にレオの前へ現れた。これも、ほんの一瞬きの世界であった。


「っ…なるほど、高速移動クイックか。だがその手の攻撃など手馴れている!!」

向けられた拳を弾き、今度は岩となったレオの拳が襲いかかる。それを表情一つ変えず、素手で受け止める。

「そんなもんか?もう少し楽しませろよ」


神経がだんだん据わってゆく感覚を覚える、増してゆく集中力に、高揚感すら覚えた。

しかし少年は引くかない、彼には使命がある。

「国へ、世界へ能力者差別の撤廃を要求するため…俺は戦い、事を起こさなければいけない!」

「くだらねえな」

「なんだと…?」

夢見事のような、あまりにも幼稚な願望を耳にし、笑うにも値しない。そして大人げない俺は、その願望を一蹴する。


「小学生の七夕かよ。んなもん言ったって『はいそうですか』で終わるに決まっている。それに世界中に目をつけられるのはお前だ。それともなんだ?神のような僕様の言葉に、何十億といる人々が、全員従ってくれる、とでも思ってるのか?」

「なめるのもいい加減にしろ!」


レオが強く地面を蹴り、力のまま無数の岩山が、俺へ襲いかかる。

目の前、床、天井すべてから降り注ぐ岩山に、普通なら避けきれない。

きっとレオは、勝利を確信した。妙に余裕と迫力のある、強大な敵を。

例え高速移動とはいえ、これは避けることができないのだから…と。

しかし、それは検討違いでしかない。


しかし岩山は、無情にも空を切って互いを削り合った。

「なっ…?!」

レオの視界からあの男は消えていた。まるで泡のように影すら残さずに。


「どこだ?!」

「こっちだよ、後ろの注意薄すぎだろ」

振り返ると、ポケットへ両手を突っ込む青年が立っていた。まるで長い時間ここへいたかのように、ゆったりとした佇まい。

「バカな…隣を通った感覚はまるで無かったぞ…?」

「瞬間移動したんだよ」

「ハッ、そんなの虚言だ」


嘘だと分かっているけれど、彼の余裕の笑みに、押し切られてしまいそうな勢いがあった。

自身の額から汗が吹き出したことを感じ、ようやく自分が、目の前の男に恐怖していることが分かった。

「負けを認めれば、拘束で勘弁してやるぜ?」

「戯け…これは使いたくなかったが、お前を倒すために使ってやろう」


胸ポケットから取り出されたのは、紅白のカプセル。

ただの薬にはとても見えなかった、だがそのカプセルにはどんな効果があるのか、俺には検討がつかなかった。

「見ていろ…これで、これでお前のそのスカした面を恐怖で染めてやろう、そのあとに顔の皮を剥がしてその目を…」


ふと視線に、青ざめた顔で瞳を閉じた未来が映った。

関係はどうあれ、友人として認識してしまった未来を見つめると、自分の不甲斐なさに襲われた。それを振り払うように舌打ちし、手に握ったカプセルへ視線を移す。

それを俺は、目に焼き付けた。もう忘れないように、フォルム、大きさ。

そしてそのカプセルは、宙を舞ってレオの口へと吸い込まれた。


「…っぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

レオが叫んだかと思えば、今度は膝をつき、口を抑えている。口を押さえた掌からは、ドス黒い血がまとわりついている。その血は、ただの血には見えなかった。まるで呪われた魔女の危険な薬のような、禍々しい雰囲気が漂っている。


「…何だそれは」

ふらつきながらも、なんとか立ち上がったレオへ問うた。

「……能力者の、新しい扉だよ」


瞬間、俺の目の前へ、無数の針山の如く鋭い岩が、さっきとはまるで別次元のスピードで迫ってきた。それを冷静に、見つめる。

「…ったく、まーた報告書作んなきゃいけねえじゃねえか。めんどくせえ…」

言葉とともに、目の前の岩はひとつ残らず砕かれた。

そして血走ったレオの目は、笑っていた。俺はそれを見て目を細め、笑い返してみせた。

「これでイーブンだな、さあ、殺し合いを始めようぜ」

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