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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET13 救世主

外を見つめる。

結界を張る男へ果敢に攻撃する生徒が2人、俺の知ってる奴ではなさそうだな…

ケータイも繋がらなくなったし、どーすっかな…

「くっそがぁぁぁぁぁあ!!」

また乱射かよ、数は…30くらいか?まあ、関係ないけどな。

手を振りかざすと、弾丸は途端に勢いを失い、床へごろごろと落ちて転がる。

気づくと目の前は、真っ白な煙に包まれていた。また小癪なネタを用意したものだと、鼻で笑う。


「終わりだ!!」

左から大きな銃口を突きつけられるが、瞬きする間もなく大きく右脚をあげて蹴り飛ばした。

「で?」

一歩踏み込むと、そこからは敵には見えなかっただろう。裏拳が顔面にきまり、大きく宙を舞ってガラスを突き破り、外へ落ちていった。


「けっ、つまんねーの」

「あ、ありがとうございます…宇田川先生!」

後ろへ隠れていた生徒の一人がそう呼んだ。

俺ははそれに微笑して、答えた。

「なに、生徒を守るのは俺達の仕事の一環だ」

突然下から地響きのような衝撃を感じ、生徒達は悲鳴をあげる。

「下でもやってるのか…無事だろうな、未来」

ふと外を見ると、一人の男と目が合った。

退屈そうに剣で肩を叩く、金髪の青年…

「あれがボスか…勝てるかな?」

不安げな言葉を漏らすが、その表情は好奇心に満ちていた。





「「いくぞ!!」」

八束、梓弓は同時に姿を現して《結界バリア》の能力者、アプトへ襲いかかる。


作戦の内容はこうだ。

「彼はとてつもない範囲の結界を、一人で操作しています。神経をすり減らしていることは間違いありません、なのでお二人は彼の集中を少しでも逸らして、一瞬だけでも隙をつくっていただきます。そして愛先輩か結衣に、援軍を呼んでもらいます」


結衣の治療を受けている愛は、ぎゅっとケータイを握りしめた。

「アーちゃん、八束くん、お願い……」


「うおおおおおおおおおおお!!」

梓弓の雄叫びとともに飛びかかると、目の前にさらに結界が張られた。

蹴ってみても弾かれるばかり、砕ける気配は一切ない。

「ダメだ、俺の動きも読まれて直接攻撃できない」

「もう少し頑張ってよ…後輩にメンツが立たないわよ?」

梓弓は口元に笑みを浮かべ、八束も微笑する。

「その後輩さんの命令で動いてるのもシャクだが…ここは、意地を見せなければな」

「いいか八束、お前は…」

梓弓が耳元へ口を近づけ、提案する。


八束は聞き取ると、梓弓の瞳を見つめ、頷いた。

「それではいきましょうか。八八コンビの強さ、見せつけてやりましょう!」

「それ気に入ってるのか?」

「なんだか思った以上にしっくりきて…」

「奇遇だな、俺もだ」

「コソコソと何を話している?それにアーサー、手伝えよ」


アプトが低い声を響かせると、棒立ちしていたアーサーが振り返る。

「え〜、アプト君は強いから大丈夫。今から校舎内のフォローに行こうかと思ってたんだ」

「…勝手にしろ」

アーサーは爽やかな笑顔を向け、踵を返して校舎へと歩を進めた。


「さあ、かかってこい。日本のGSO共よ」

アプトの鋭い視線は2人を射抜いた。

間違いなく強者だと確信させる眼光に、殺気で背筋が凍るような感触を覚えた。だが、怯えている暇はなかった。

「いくぞ!」

掛け声とともに梓弓は右側へ走り出し、八束は姿を消した。

「小賢しい攻撃を…私の結界は破れん!」

「お前達の…テロリストの目的はなんだ?!」

梓弓が吠えるように問うと、アプトは微笑して答えた。


「なに、私達は雇われただけの話だ…日本の反GSO組織にな?」

「くっ…なぜ逆らうんだ!GSOに任せれば世界の治安は安定するんだぞ?!」

「では問う。保護能力者ウェイストと言ったか、彼らはなぜ虐げられると思う?」

「それは何も知らない一般人の偏見だ!」

「違う、お前ら戦闘員の一部も保護能力者ウェイストを見下している。それは何故か」

梓弓は結界から離れ、真っ直ぐにアプトを睨む。


「…まさか、貴様らの目的は、日本の能力者社会を滅ぼすことなのか?」

「ハッ、そんな大層なところまで飛躍していない。ただ依頼は…『国へ、能力者差別撤廃を訴えかけたい』だ。これがどういう意味か、お前らにはよくわかるだろ?」

ふと脳裏に今朝のニュースが過ぎった。


今の日本では、能力者はまだ恐怖の対象であり、《バケモノ》の類に入れられている。

例え戦闘員達が素晴らしい戦果をあげたとしても、それを能力者の暴動で塗り替えられ、その終わらない輪廻の中にある。


「醜いものだ…能力は、神からの授かり物。貰えなかった者が喚いているに過ぎないのに、数の有利とは恐ろしいものだ」

アプトはゆっくりと立ち上がり、手を高らかに上げて宣言した。


「今日この場で、我々はこの学園の理事長にしてGSO日本支部長の弟、道師の一族を捕らえることだ。我々 義軍ソルジャーはそれの支援をしにきた!」

「…るな。ふざけるな、ふざけるな…!たった一人を捕らえるためだけに、うちの生徒を何人も殺したというのか!!彼らは何もしていないのに!!」

「その場にいた、というのが人生最大の不運でしたね。彼らは」

足下へ倒れる生徒を踏みつけて言った。


梓弓は手を震わせ、怒りに満ちた目をアプトへ向ける。

「貴様らだけは…絶対に許さん!!!」

勢いよく地面を蹴り、真っ直ぐにアプトへ飛び込む。

「無駄だ、その程度で結界を…」

「八束!」

呼ばれたまま梓弓の逆位置、左から飛び出し、ビーム状の長い剣を取り出して横に振るう。

「くたばれ!!」

「だから無駄だと言っている!」

目の前へ結界が張られ、バチバチと火花が散る。


時はきた。

この状況、校舎へ向けて中央の結界が張られていないこの瞬間が、ラストチャンス!

「二条ォォォォッ!!」

「ぶち抜け、二条さん!!」

アプトは校舎を見ると、遥か遠く、三階の窓から身体を捻って、ハンドガンを片手に構える赤髪の少女が映った。

「その程度…っ?バカな、結界が…出ないだと?!」

「やっぱりだ、校舎を覆い尽くすほどの広大な結界、限りがあることは推測済みだ!!」

「くっそがぁぁぁ!」

結界を中央へ張ろうとするが、もう遅かった。

銃口が光ったかと思うと、右肩に燃えるような痛みが走った。

「がっ…」

一瞬、結界が歪んだ。

それを確信した梓弓は振り返って校舎を見た。


プルルルルルル、プルルルルルル

ガチャッ

『道師だ、状況を報告しろ』

「よ、よかった…こちら嘉瀬。学校がテロリストにより封鎖、能力者数名が侵入し現在二条、八束、八崎が交戦中」

『勝てそうか?』

「難しいと思います、一人とても強力な手練がいます、どうか援軍を…」

ここで再び、電波が途切れた。


道師は受話器を置き、ゆっくりと立ち上がった。

後ろへ控えていた道師のパートナー、弥生が隣へ立つ。

「ご命令を、道師様」

「…行くぞ弥生、敵を殲滅する」





再び真っ赤な結界が姿を現し、肩を抑えてアプトが立ち上がる。

「はぁ…はぁ…やってくれたな、青ガキ風情が…!」

「いいか八崎、作戦変更だ。時間を稼ぐぞ!絶対にやられるな!」

「そっちこそ、死ぬんじゃないわよ!」

苦悶と激怒に歪められたアプトの前へ、即興で組まれた八崎、八束コンビが立ち塞がる。


「上手くいった、みたいですね…」

ハンドガンを仕舞い、呟いた。

なんとか三階へ身を隠していたが、今の銃声で居場所がバレた。

そう思った矢先、下からレオナルドが、床を突き破って目の前へ現れた。

「やってくれたな、二条…」

レオナルドの顔もまた、怒りが滲み出ていた。

それに私は悲しみと、憐れみを混ぜた表情で、真っ直ぐにレオを見つめた。


「教えてレオ、あなたは…何者で、何をしにここへ来たの?」

冷静な問いに平静を取り戻したのか、大きく肩で息を吐き、目を瞑った。

「俺は、元々日本にいたGSOの保護能力者ウェイストだ。そして今回、義軍ソルジャーを動かし、計画したのも…俺だ」


この告白に驚くことなく、再び冷静に問うた。

「では、あれも信じ込ませるための演技だったんですね?」

「いや、少し違う。俺はあのときだけ願ってしまったんだ。このまま、楽しい日常が続けばいいのにと…」

「なら、そのままでよかったじゃない!!」

「よくないんだよ!!!」


レオは野太い声で吠えた。その肩は離れていても分かるほどに震えていた。

「俺の本名はレオナルド=ウェスカー。父はアンドリュー=ウェスカー…一年前の、能力者弾圧事件の被害者だ!!」


能力者弾圧事件

一年前に東東京で発生した大規模な事件、その死者は50名。半数は能力者であり、そのほとんどが保護能力者ウェイストである。


「そしてその犯人達は…能々と牢屋の中にいる。もし殺されたのが有力な能力者なら死刑だっただろう…だが国は、しなかった…それが許せない!人をたくさん殺しておいて、牢屋に入っていれば許されるだと?!そして懲役が過ぎれば、そいつらは俺達と同じ場所へ帰ってくる…そんなのおかしいだろ!被害者は、親父は…帰って、こないのに……」


子供が泣きわめくように、レオは吠えながら涙を流した。これは彼の揺るぎない精神、彼の生きる糧。


そうか、レオにはもう、復讐しか生きる道はないのね…

それでも、それは間違っている。

「それは間違ってるわ!もう一度考え直しましょう、日本はもっと能力者を理解できる機会を…!」


「…すまないな、二条。それだけはできないんだ」


瞬間、左足太ももの裏から熱い何かを感じる。

遅れて激しい痛みに襲われ、振り返ると…穴の空いた細い剣が、突き刺さっていた。

「くっ…あっ…!!」

「ざ、ざまあみろ…クソアマが!!」

甲高いショーンの声が響く、彼も上の階へ足を引きずって登ってきたのだ。ガクンと意識が降下するのを感じる。

目の前にはレオが、冷酷な、この世の終わりを見据えるような目で、私を見下した。

「考え直して…」

「黙れ」


レオが指をクイッと挙げると、鋭利な岩山が私の腹を貫いた。

「ぐっあぁ…!!」

岩から真っ赤な血が滴り落ち、徐々に床を赤に染めてゆく。岩を引き抜かれると、そのまま血の上に倒れた。

「さようなら、二条。お前のことは忘れないだろう」

顔を上げると、彼は岩でできた剣を、すらりとこちらへ向けている。

ああ、終わったのか……


「ぐあっ?!」

レオが視線をあげると、目の前には宙を舞うショーンが迫っていた。

「くっ…!」

ぶつかったまま吹っ飛び、ショーンが覆い被さる。

ショーンの後頭部は陥没し、即死していた。


「誰だ!!」

遠くに見えたのは、薄い紫色の前髪をかきあげるスーツを着た青年。

低い声色で、怒鳴った。


「うちの相棒に、何してんだてめぇ!!」


私は倒れながらも、何とか声のする方へ視線を向けた。

「隼人…先輩…!」

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