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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET11 奇襲返し

愛先輩が刺された。


その突然の出来事に、誰一人足を動かせずにいた。静寂の中、ポタポタと、赤い血が地面へと垂れ落ちる。

瞬間、梓弓先輩の能力が発動し、一気にレオまでの距離を詰める。

その表情は怒りに満ちていた。


「きっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「殺気が無いですよ、八崎副会長」

愛先輩を突き放し、目にも止まらぬ梓弓先輩の足技を涼しい顔で掴むと、一回転して愛先輩の方向へ投げ返され、覆い被さるように倒れる。

「アーちゃん、大丈夫…?」

「私は問題ないです、それより愛さんは…!」

「私は…ちょっと無理ですかね…?」

刺された部分を抑えるが、出血により制服は血に滲む。


「レオ!」

呼ぶと同時、彼の目の前まで拳を振りかざす。が、レオは避けようともしなかった。

そしてやはり、私の拳は、目の前でピタリと止まった。


「なぜ、止めた?」

レオが冷たい声色で呟く。

「私は…私は信じられない。最初から敵だったの?じゃあ何で脱出に協力したの?」

「ギリギリまで、お前達の信用を得るためだ」

「今日3組で話してたのは…」

「テロの打ち合わせだ」

「ふざけないで!!あなたのオーラは…純粋で、真っ直ぐなオーラを纏っていたのに!!」

泣きわめくように甲高い声で叫ぶと、レオは鼻で笑った。

「とんだ節穴だったな、その能力は」

歯を食いしばり、もう拳一つ進めれば殴ることができる。


しかし私には、それができない。


「推測通りだ、どこまでも甘い…覚悟のない人間が戦場へ立つな」

レオの右手から、血のついたナイフが迫ってくるのが見える。

だが、反応が遅れて間に合わない…

「ぐっ…!!」


目を瞑り、痛みが襲ってくるのを待った。しかし、痛みは一向に襲ってこない。

ゆっくりと目を開け、状況を確認した。そして把握した。

刺されたのは私はではなく、割り込んで彼女の盾となった…

「雪原先輩…!」

「生意気な1年が!くたばりなさい!シンパ…」


瞬間、ふわりと何かが宙を舞い、地面に落ちた。

私は目の当たりにした、落ちたのは…雪原先輩の右腕。


「あっあああああああああ!」

「そっちだけで面白そうなことしてるのが悪いんだよ、俺達も混ぜてよ?」

はっと気がつくと、愛先輩のつくった白の壁は消え、先頭に立つ金髪長身の男が剣を抜き、雪原先輩がレオへ向けていた右手を切断した。

ということは、さっきの少年も!

振り返ると、少年は倒れ込む二人へ、ゆっくりと歩み寄っていた。


「さあ、お姉さん達。僕がじっくり痛ぶってあげるよ?」

じりじりと近づき、腰に携えた剣を抜く。

「死んじゃえ…つっ?!」

振りかざした剣は、何かに吹き飛ばされ、手に痺れを覚える。


「…あの女、この細い剣を正確に撃ち抜いただと?」

吹き飛ばされた剣には、ど真ん中に小さな穴が開けられている。

少年の鋭い視線が、銃を構える私へ当てられた。

「お前らはあとでいいよ、僕はあの赤髪…がっ?!」

突然、少年は腹を抑えて蹲ってしまった。

「ん〜、どうしたの?ショーンくん?」

ショーンと呼ばれた少年は、何とか顔を上げて答える。

「何者かに…殴られた感触が…」

「本当?誰かここに…おや?」


見渡すと、その場には敵と見られる人間達は忽然と姿を消していた。

雪原の右腕だけが、グラウンドへ佇んでいた。


「消えた?瞬間移動か?」

「そんなチート能力者なんてそうそういないよ。隠密ステルスってとこかな…?」

長身の男は冷静に、その場を整理してみせると、長い髪の男へ向けて話す。


「じゃあ、アプト君はここにいてね?誰も逃がしちゃダメだよ?」

アプト、と呼ばれた男は黙って頷く。

「行くよ、ショーン、ウェスカーくん。まだ遠くには逃げてないはずだよ」

ショーンはレオへ近づき、鋭く睨みつける。

「さっきの女、生意気…レオは何故殺されなかったんだ?」

レオの目は完全に据わっており、口だけが微笑む。

「そりゃあ、彼女がトモダチだからさ」





何とか逃げ切った一同は、校舎の中へ身を隠す。

「はぁ…はぁ…助かりました。ありがとうございます、えっと…」

「八束だ、八束やつか 智樹ともき

短く切られた黒い髪に、激しい息切れと恐怖で歪んだ表情の八束先輩によって、ここにいる人達は何とか逃げ切ることに成功した。

「八束先輩…さっきのはどうやって?」

「《隠密ステルス》俺と俺の触れているものすべてが他の視界から消える。カメレオンのようなものだ」

「なるほど…あっ雪原先輩!!」


壁に寄りかかって座り、激しく息を切らしている雪原先輩へ駆け寄る。

切断された右腕からは、いまも血が流れ続けている。尋常ではない量の血が、彼を囲んだ。


「私を庇って…私のせいで、雪原先輩が…」

「勘違いするな、あれは…私のミスだ。壁が消えているのに気づけなかった…私の…ぐっ!!」

「雪原先輩!!」

「おい想真さん、しっかりしてください!」

私と八束先輩が必死に声をかけるが、意識は遠のく一方で、顔色はどんどん赤みを失ってゆく。


「ハッ…ハハ…無様な保護能力者ウェイストにしては、格好いい最期じゃないか…そう思わないか?」

「ふざけないでください!こんなところで冗談など…」

「トモ…お前は唯一、俺を保護能力者ウェイストではなく、一人の能力者だと言ってくれた。俺は嬉しかったんだ…」


八束先輩は顔を逸らし、静かに唇を噛み締めている。

「二条さん、君は頭がいい。きっと将来、能力者の…明るい将来をつくってくれる…」

「その将来に、あなたは…!」

彼の腕から力が無くなり、だらりと流れ落ちる。

閉じた目の下では、口元は緩んで笑みが浮かべられていた。

涙を流す八束先輩は未だ、その顔を見れずにいた。


雪原 想真、享年17歳

最後まで生徒達を最優先し、体育館突破の立役者となった彼は、無情にも生命を奪われた。


「きゃああああああああ!」

聞き覚えのある叫び声にはっとなり、私は走り出す。

廊下へ立つと、視線の先には2人に拘束されかけている橘 結衣が映った。


「結衣ちゃん!」

銃を抜き、正確に一撃、二撃と兵士達の肩を撃ち抜く。

「ぐぁぁっ…おのれ、小娘が…」

今度は走って懐へ飛び込み、トンファーを腰から引き抜き、伸ばすとまた正確に首筋を殴り、気絶させる。

結衣の顔は、不安と恐怖と涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「み、未来ちゃん…」

大粒の涙を零し、私の胸へ飛び込んだ。

「なんで来たの?他の人達は?」

「みんな上へ逃げた…でも、未来ちゃんとか、レオくんが頑張って戦ってるのに、逃げるなんて、できなくて…」

レオ…


「いい結衣、落ち着いて聞いて?レオは味方じゃなかった。私達を裏切ったの、それで愛さんが今重症を負ってるの、結衣の能力で治せるよね?お願い、結衣にしかできない!」

私の中へ蹲っていた結衣が顔を上げ、真っ直ぐに私の瞳を覗き込む。

「レオくんが…?私にしか、できない?」

うん、と首を一度だけ下に振り、結衣の手を取って隠れていた場所へ戻る。


「二条、そいつは?」

見知らぬ女性に、八束先輩は警戒する。

「大丈夫ですよ、彼女は治癒ヒールの能力者なんです!」

「なんだと?!じゃあ想真さんも…!」

「ひっ…?!」

必死の形相で迫る八束先輩に、結衣は恐怖を覚え、私の後ろへ隠れる。

「落ち着いてください八束先輩。蘇生なんて…できません」

ハッと我に帰り、後ずさる。

「す、すまない…取り乱した」


本来、彼は冷静なはずだった。

彼のオーラは、常に迷いのない動きをしていた。しかし現在、雪原 想真という友人であり、先輩を失ったショックは大きく、彼を大きく取り乱した。

「確かに、戦場で落ち着けという方が難しいですよね」

「二条は…言葉の逆だな」

「そうですか?私だって慌てています、ですが今はやるべきことを、やらなければならないんです」

「それが言えるだけで、お前は充分優秀だよ」

そして、結衣が愛先輩へ駆け寄り、傷を診る。


「奇跡的に致命傷ではないようです!えっと…10分程で完治できます!」

「お願い、橘さん」

愛先輩が弱々しい声で呟き、結衣は力強く頷いた。


「ガーディアン様ぁ〜!出ておいでぇ〜!」

外から呑気な、歌でも歌うような声が聞こえる。

さっきの長身の男の声だ。

「敵は…」

能力で壁越しに外を確認する、長身の男に…化物じみた動きの少年。そして…

「やっぱり、レオもいるか…」


私は考えた。どうすれば、この状況を打開できるだろうか…

考えろ、考えろ…

今動けるのは私、八束先輩、梓弓先輩の3人。正直、彼らが1対1の勝負に乗るとは限らない。


待てよ?3人…相手は4人だった。そして1人は…!!

「八束先輩、梓弓先輩、提案があります。この状況を打開する、奇策です」

無謀なのは百も承知。それでも、このアイディアが頭から離れない、成功のビジョンを映し出している。

二人は歩み寄り、耳元で作戦内容を伝える。当然、驚愕の表情を私へ向けた。


「し、正気ですか?!いくらあなたでも、それは無茶です!」

「そうだ!いくら何でも…ここは隠れられる俺が君の役を…」

「ダメです。ヒーローの役は、譲りませんから」

この状況でも尚、私は笑った。

それに思わず二人も笑みがこぼれた。本当にできてしまいそうな余裕の笑顔に、彼らは救われようとしている。


「まったく…これで生き残ったら、英雄譚として使わせてもらうからな?だから、死ぬなよ?」

八束先輩が笑い、そして真剣な表情へ変わる。

梓弓先輩が割り込んで、私の肩を持つ。

「私から言うことはないです、私を倒したあなたに、簡単に負けられては私のメンツも立ちませんし」

「え、八崎。お前負けたの?」


何も知らない八束は、梓弓の方を見る。

なっと声をもらし、八束を睨んだ。

「あ、あれは…ああもういい!やるぞ二人とも!」

「そういえば八崎と八束…八八コンビですね!」

「うるせえ!!」「違います!!」


梓弓先輩は治療中の愛先輩を担ぎ、安全な場所へ運び、三人で校舎の入口へ立つ。

「おや、3人だけかな?」

長身の男はこちらを見つけて、上機嫌なのか嬉しそうに剣を抜いてシャンと奮った。


「さあ、やろうか?僕の名はアーサー、義軍ソルジャーの刺客が一人」

「…いきます!」

未来、梓弓、八束は走り、敵との距離を縮めてゆく。

そして…

敵3人は、思わぬ奇策に驚きの声を漏らした。

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