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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET10 策士

ここから少々残酷な描写が混じります。

苦手な方はお気をつけください

騒然とする体育館二階。

狼狽える生徒達の後ろから、黒ずくめの武装兵達が続々と入ってくる。

数にしてステージ上に10名、入口には…目に入るだけで5名、後方にはさらに隠れているはずだ。

そして最も厄介なのは、愛先輩を狙った狙撃手。

この学校はかなり広く、北に校舎棟が堂々と構え、東に特別棟、西に体育館棟、中央にグラウンドという、広々とした構造。今回はそれが仇となったわけだ。


再び能力を使い、周りを確認する。

校舎には何十人という兵士がうろついている。そしてグラウンドにも何人か、武装した兵がいる。非常に厄介だ。前後の兵の不意を突いて、非常口から突破しようにも、ここは二階。階段を降りているところをグラウンドの兵に狙い撃ちを喰らうだけだ。

できればこの場の兵士を一掃したいのだが、前後を挟まれていてはただの自滅行為となろう。

しかし、敵に殺意が無ければ…

ズドンッ!


一人、窓際にいた生徒が外を確認しようと窓へ近づいた瞬間、頭を打ち抜かれ、動かなくなってしまった。

『キャァァァァァァァァ!』

「騒ぐな!今のは脅迫だ、そいつは動くなという命令に背いた。それだけだ」

それだけで生命を奪った。

生徒達は理解した。これは単なる脅迫ではない、本物の兵士に囲まれ、生命の保証などどこにもない。背けば…


「はぁ…どうやら、突破口はかなり薄いですね…」

未来は顔を引きつらせ、小声で呟く。

背後にいるレオと会話をするためだ。

「刺激するわけにはいかなそうだ、一旦待って…」

『やあ諸君、僕の声が聞こえるかい?』


突然、頭の中に少年の声が響く。

「レオ、聞こえた…?」

「ああ、男の声だった…」

周りを見渡しても聞こえた素振りを見せる人はいない、一体どうやって話しているんだ?

試しに頭の中で言葉を思い浮かべてみる。

『私は1年生、戦闘員の二条 未来です。あなたは誰ですか?』

『お、早速使いこなしてるね?僕は3年の雪原ゆきはら 想真そうま、《共鳴シンパシー》の能力者だ』

雪原、と名乗る声の主は妙に落ち着いており、どうやら壇上の愛先輩と梓弓先輩とも話しているようだ。


『君の能力は聞いているよ、状況を把握させてほしい』

『分かりました、まず後方に…』

未来もかなりの冷静さを誇示するように、校舎全体の情報を事細やかに伝える。

『で…数名?特別棟の方へ…あっ雪原先輩!』

『なんでしょう?』

『恐らく彼らの狙いは理事長です、この場を抑えて確実にヘッドを捕まえる気なのではないかと!理事長は特別棟の理事長室にいます!』

『ふむ…』

と、雪原が考えるような声を出し、答える。


『彼らが欲しいのは優秀な人質、だね。できれば1人防衛に送りたいんだけど…誰かいける人は?』

いるわけがない、今校舎という校舎に人など…あっ!誰かいる?職員室に…あれは…


『は、隼人先輩?!私のパートナーが職員室にいます!』

職員室は校舎棟の右端、急げばすぐに理事長室へ向かえる!それにしても、何故そんな場所に…?

『宇田川さんか…じゃあその人に連絡してみるよ。…うん、そうだよ。…え〜駄々こねないでよ、あなたのパートナーの頼みですよ?…はい、ではお願いします』

会話が終わったのか、咳払いをして再び話す…ん、でもテレパシーに咳払いっていらなくね?

『うん、いらないよ』

『お、送られてましたか?!すいません!』

『いいよ〜じゃあ僕から指令を出す。まずそこのハーフくんと二条さんに仕事、狙撃手の位置を確認、そして落としてくれ。その音が合図、同時に会長ちゃんは生徒とステージの間に壁をつくって、そして同時に副会長ちゃんはそこにいる兵士みんな倒して。後ろは僕がやるから』


雪原先輩の的確すぎる指示が飛び、私とレオは呆気にとられ、言葉を発しない。

「凄いね、雪原先輩…」

「とんでもねえ能力だ。日本人能力者の質が上がってるとは聞いてたが、ここまでとは…」

『そしてハーフくん、グラウンドの地面は操れるかい?』

雪原先輩の問いかけに、レオが答える。

『半径20m以内なら』

『二条ちゃん、ハーフくんから半径20m以内にグラウンドは入ってる?』

『えっ…とっギリギリです。でも、グラウンドにいる兵士へ攻撃するのは難しいかと』

『そう、じゃあ逆は?体育館の西側』


ハッとなり、逆を見る。

『届きますけど…まさか?』

『そう、『風穴と階段』を作ったげて。できる?』

レオは少し考えてから、答える。

『できます』

『よし、じゃあ行くよ…お二人さん、よろしく〜』


ミッションスタート。

ここから一つでもミスすれば、大混乱は免れない。気を引き締めていこう。

分析眼アナライズアイ…!」

狙撃手がいたのは、確か校舎棟の屋上…

右上へ視線を向け、屋上まで透視すると、銃を構えた狙撃手が一人、悠長に構えていた。

「レオ、座標で伝えるわよ。前方に…」

細かく位置情報を伝えると、レオはああと低く呻く。

「いくぞ…石化ストーン!」


ドガァンッ!と大きな音が校舎棟から聞こえる…よし、狙撃手は落ちた。

大きな音に兵士達が慌てる素振りを見せると、壇上の二人は、目を見合わせて同時に叫ぶ。


境界ボーダー!」

身体強化フォース!」

瞬間、兵士達の目の前へ白い壁が現れる。

「なんだこれ…グハッ?!」

そして、梓弓が勢いよく一人蹴り飛ばした。

兵士は宙を舞い、壁にぶつかって落ちる。


「ハァァァッ!!」

梓弓は銃弾を次々と躱し、兵士達を薙ぎ倒してゆく。

つい昨日、あんな人と戦ったのかと、私は震えた。


「ぐっ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」

叫び声が聞こえ、振り返ると、後ろに構えていた兵士は皆横たわっていた。

その前へ佇む少年が一人…

ズガンッ!と大きな音と共に体育館の西の側面が崩れ、土の滑らかな滑り台のようなものができていた。


「あんた、石だけじゃくて土も操れるのね」

「俺を侮るなよ?さて、俺はグラウンドの敵を片付けてくるよ」

そしてこの後、私達は、この言葉の真意を知ることになる…





私は一人、謎の気絶をした兵士達の前へ立つ少年へ駆け寄る。

少年は振り返ると、聞き覚えのある声で話し始めた。

「よい仕事をしてくれました、ありがとうございます。二条さん」

「あなたが…雪原先輩ですね?」

先程まで頭に響いていた声と重なり、確信めいた口調で問う。

「そうです」


身長は165cmほど、梓弓先輩と同じくらいだ。

黒に少し茶色の混じった髪をかきあげて、メガネをクイッと中指で上げる。

「これは…一体どうやって?」

「彼ら同士、皆さんで共鳴していただきました。人間は、頭の中に何人もの声が聞こえると頭が痛くなるでしょう?さらに私が加わり、思い切り叫んでやったのです。なかなか面白かったですよ?」

なるほど、と納得したと言わんばかりに首を上下に振った。

雪原は笑い、非常口へと体の向きを変えて歩き出す。

「僕達もグラウンドで戦いましょう、二条さん!」

「はいっ!」


「なんだ、何事だ?!」

「体育館が破壊されてるぞ?!」

「おい、誰か近づいて…グハァッ!!」

私と雪原先輩が追いついた頃には、既にレオ、愛先輩、梓弓先輩の力で倒されていた。

一方、回り込んで校門へ向かってきた生徒達が一斉に現れ、なんとか逃げてきたようだ。

「もう、大丈夫そうですね…」

「まったく…うちの学校に乗り込んでくるとは、どんな肝した奴らなんだ?」

「そういえば、理事長は…?」


私の心配に反応するように、ケータイが鳴る。

名前に『隼人先輩』と出ている。ほっと胸をなで下ろし、電話に出る。


「隼人先輩!無事ですか?こっちは…」

『あーわりぃ、こっちはまだ交戦中だ。敵が多すぎる。理事長は特別棟の屋上へ隠れてるよう言っといた。なるべく校舎の兵士は倒しとくが、お前らも気をつけろよ?』

交戦中?でも今、隼人先輩は電話してるのに…

「随分と余裕そうですが?」

『俺を誰だと思ってる?』


少し考えて、悪態混じりに答える。

「意地悪で横暴な先輩」

『ハッ、ちょっと面白かったぜ。帰ったら何か奢ってやらなきゃな…それじゃあ頑張れよ』

一方的に切られ、ケータイをポケットへしまう。

「それでは、校舎に残っている兵士の拘束を…」


『キャァァァァァッ!』

『うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

大勢の悲鳴が聞こえ、一同が振り返る。

次々と生徒達は私達の背後、校舎へ向かって走り、波となって詰め寄ってくる。

「何があったのです、皆さん?!」

愛先輩の問いかけに、誰かが答えた。

「の、能力者が攻めてきた!!」

「生徒の中に敵が混じってたぞ!!」

人が走り去る隙間、3人程、こちらを向いて立っている人影が見える。

そして、足下には何人…少なくとも十数人は地面に横たわっていた。


「そっそんな…!!」

愛先輩はショックのあまり、ふらついたところを梓弓先輩がしっかりと肩を持つ。その表情は、怒りに歪められていた。

「逃がさないよ〜可愛い高校生達…!」

長身に金髪の男が歩み寄ってくる、いかにも強そうな雰囲気を携えている。


「彼も能力者です、気をつけてください!」

未来が声を張り、注意を呼びかける。

その場に緊張が走る、これから始まるのは、能力者同士の戦闘。

気を抜けば、死ぬ。


「邪魔すんなよ…なっ!」

長身の男の後ろ、うちの高校の制服を着た少年が、人間とは思えないスピードで詰め寄ってくる。

「くっ…境界ボーダー!」

愛が手を振りかざし、壁をつくる。そこへ少年が突っ込むが、あえなく弾かれた。

「固っ!ナニコレ?」

少年は何故か楽しそうに、壁をつついてみる。

「物理攻撃はもちろん、能力まで通らないときたか…私と同じですね」


一番後ろへ控えていた、同じく金色の長い髪をもった男が門の前へ立つと、そこへ赤透明の壁が発生した。

「か、彼も私と同じ能力を?!」

ふと上を見ると、空までが赤透明の壁に覆われていた。

「こ、これって…?」

「そうだよ、これで文字通り『学校は占拠した』よ?ボーイズ&ガールズ」

長髪の男は、勝ち誇ったように、こちらへ問いかける。

「ダメだ、電波も通らないらしい…」

雪原がケータイを握りしめて言う、これでは援軍も見込めない。


「君達は、戦闘員ガーディアンかな?」

悠々とした表情で問いかける。隙は見せまいと全員が緊張で顔をこわばらせる中、皆の代わりに愛先輩が答えた。

「そうです、あなた達のような方々から生徒を守るために、私達は戦います!」

「ふむ…彼女が一番厄介かな。ですよね?ウェスカーくん?」

ウェスカー?誰かの名前か?

とりあえず、今は愛先輩の壁の中にいるから問題ない…

「はい、だから排除させていただきます」

「うっ…!まさか、君は…?」

「愛さん!!」

「会長!!」


愛先輩の横腹へナイフを突き立てたのは…

真弓 レオナルドに他ならなかった。

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