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くらうん《リライト前》  作者: 永ノ月
2章 高校封鎖編
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TARGET9 保護能力者

入学二日目、朝 8:00

今朝はいつも通り元気に朝食を摂る未来だけでなく、隼人も珍しく早く起きて朝食を摂っていた。

「珍しいですね、早起きする隼人先輩…はっ!ハヤオ先輩…って痛いでふ!引っ張らないでくだはい〜!!」

無表情のまま私の頬を引っ張る、これはこれで怖いし痛い…


「しょーもねえこと言ってねえで支度しろ。いくら近いとはいえ遅れるぞ」

「はーい…」

ごちそうさま、と手を合わせてそのまま二階へと走り去る。

今日はもしもの戦いに備え、スパッツを着用した。

「昨日の梓弓先輩を思い出したら、つい…」

ふと昨日のことを思い出す。

思い返せば返すほど、とんでもない1日だった。


最初の友達、同級生からの襲撃。生徒会長と副会長との邂逅、担任が無愛想で横暴な先輩…

今日は何が起こるかな、とつい非日常を求めてしまう。

また一階へ降り、洗面所の鏡の前へ立つ。

歯を磨きながらしっかりとクシで解かして寝癖を直し、よし!っと大きく鼻息を吐く。


「いってきまーす!」

「行ってくる」

「はーい、今日も頑張ってくださーい!」

二人で歩いて学校へ向かう途中、未来は教材を片手に歩いていた。

「おい、危ねえから閉まっとけ」

「あ、すいません…今日は入学早々の実力テストなので!」

「そういうのは勉強しなくてもいいんじゃねえの?それより、今朝のニュース見てたか?」


突然真面目そうな話を振られ、見事に見ていなかった未来はわたわたと手を動かすが、やはり諦めた。

「朝食に夢中で…」

「…昨日、隣町の高校で自殺があった。原因は《保護能力者ウェイスト》だからと周りから迫害されたんだと。20年前でもあるまいし、まだこんな事があるとはな」

「そ、そん…」


私は、ただ単純にショックを受けた。

同じ能力者がこの世界から1人、いなくなった。その事実を今、突きつけられた。

「なぜ、非戦闘員じゃいけないのでしょう…」

「世論では、たまたま手に入れた能力のおかげで働かずに金をもらえるってのが気に食わねえ、ってのが主だな」

「そうなんですか…」

未来は俯き、考える。


誰も欲しいと思って能力を得たわけじゃないのに…何故迫害を受けなければならないのか…

「私達は、一体どうすれば…」

『宇田川先生〜!!』

背後から数人の女子高生が走り寄ってきて、すぐさま隼人を囲んでしまった。


「おはようございます、出勤中ですか?」

「どうして1年生の女子と歩いてるんですか?もしかして…」

隼人は面倒くさそうな表情を浮かべ、助けを求めるように私を見るが完全に上の空。ぼーっと歩き去っていく。

「おい未…チッ、あのバカ…」

それでも空気を読めないのか無視しているのか、女子高生達は質問を続けてきた。

「ねえ先生聞いてます〜?」

質問をほとんど無視して、学校へと突き進む。


先を行った私は、校門で見覚えのあるお淑やかな女性を見つけた。

「おはようございます、会長」

嘉瀬 愛、この学校の生徒会長を務める女性だ。

「あら二条さん、おはようございます。それと私のことは愛と呼んでくれても構いませんよ?」

「いや、それは流石に…」

ニコニコと笑う愛はやはり美しく、華やかだ。

周りを歩く生徒達のそわそわとした視線を、隣にいてとても感じた。

そこで私は、一つの疑問をぶつけてみた。


内容はもちろん、昨日の伝言について。

「あの…愛先輩。昨日レオから伝言を聞きました、どういう意味ですか?」

「ああ、あれね…実はうちの学校にも、少なからず《能力者差別》があるの。私はこれを直したくて、会長になったの。差別されないようなルールをつくる、私の目標よ!」


何とも立派な宣言に目を丸くするとともに、ささやかな拍手を送った。

「本当に凄いです、私ではとてもそんなこと…」

「いえいえ、それに私達 戦闘員ガーディアンはまだマシなんです。問題は…」


保護能力者ウェイスト

この言葉が頭に浮かんだのは、今日で2度目。

「今まで養成学校で育って…戦闘員であることが当たり前だった私にとって、この差別は…とても心苦しいです」

辛そうに俯く私を励ましたいのか、愛は困って手を宙に泳がせたあげく、肩に手を置いてそっと寄り添った。

「ちょっ愛先輩…?」

「ごめんなさい。慣れないこともあったでしょうに、重い話をしてしまって…不謹慎でしたね?」

顔は見えなかったが、かすかに声が震えているように思えた。

私は会長を手で離し、笑顔をつくって答える。

「私は大丈夫です!」

「…強いのね、二条さんは」

「はい!」


教室まで歩いていると、3組で誰かと話すレオを見かけた。

もう友達できたんだ…ちょっと熱すぎるけど、いい奴そうだし。友達くらい簡単にできるか…

漠然と自分の中で決めつけ、颯爽と教室へ歩を進める。

机を見ると、隣にはやはり橘 結衣が座っていた。私を見つけると笑顔で手を振ってくれた。

「おはよう、未来ちゃん勉強した?」

「えっと、昨日の夜思い出してちょっとやったくらいかな…」

「そうなんだ、私はまったくで」

結衣ちゃんには悪いが、私は今それどころでは無かった。


テロ、差別…世界的にも問題となっているそれらは、16歳になる少女にさえ重くのしかかった。

「私は、どうすれば世の中の役に立てるのかな…?」

養成学校にいた頃は、世の中に出て戦えばそれでいいと思っていた。

だが今は、現実に直面した現在は、解らなくなっていた。


「…う」

そもそも、何が平和なんだろう…

「お…条。…おい二条。生きてるか?」

気がつくと、隼人が目の前で手を上下に振っていた。

「は、はい!」

時計を見ると既にチャイムが鳴った時間、今はSHRショートホームルームの時間だと察した。

「何考えてんだか知らねえが、ぼーっとしてんな」

「すいません…」

周りからはクスクスと笑う声が聞こえ、より一層恥ずかしくなってきた。


「大丈夫、未来ちゃん?」

結衣が心配そうに、私の顔を覗き込む。

「体調でも悪いのか?」

レオまで私を気遣ってくれた、そこまで追い込まれているのか…?

「だ、大丈夫だよ!うん!」

「二条、ちょっと来い」

隼人が声をかけ、私は行ってくると、2人へ伝え隼人の元へ駆け寄る。


「何ですか?」

「まさか、朝の話をバカ正直に考えてんじゃねえだろうな?」

図星をつかれ、私は言葉が出ずに口をパクパクさせる。

「えっと…その…」

「今は考えなくていい、大人になって仕事するようになってからだ。今は大人の俺に任せときゃいいんだよ」


気さくに、裏表のない彼の言葉に私は少なからず、心を打たれた。

初めて、彼の優しさに触れた気がした…

「まさか、隼…宇田川先生がそんな優しいことを言ってくれるとは…熱でもあるんでっにゃふん?!」

生意気な口調を察した隼人は、すかさず教科書で頭を叩く、相変わらず強めのツッコミだ…

「うぅ…教科書は痛いですよぉ〜」

「ハッ、それでいいんだよ。お前は…」

ポンポンと頭へ手を置くと、背を向けて教室を後にした。

触られた頭を自分で撫でて、呟く。

「何か、変なの…」





午前のテストを終え、午後からの新入生歓迎会を待つ昼休み。

両隣2人と机を並べ、3人で食べようと提案した。

「二条…本当に大丈夫なのか?早退した方が…」

昨日のことが尾を曳いているのか、やけに心配しているようだった。

「まだ心配してんの?私は大丈夫だって!」

「そうか…あと、誘ってもらって悪いけど他に約束があってな」

丁寧に断り、財布を片手に教室を後にする。


「じゃあ、2人で食べようか…?」

結衣は持ってきた弁当を広げ、嬉しそうに微笑む。

「そうだね、私のはせみゆーさん特製のスーパー弁当だ!」

「す、すごーい!せみゆうさん?って凄く料理が上手なんだね!」

「そうだよ!せみゆーさんは…」


一方職員室にいる隼人は、一人外を眺めていた。

大きな雨雲がこちらへ迫っているのが一目で分かる、これから雨が降りそうだ。

「なーんか嫌な雰囲気だな…」

コーヒーを啜りながら生徒名簿を眺める。

そして一人の男を目に止める。

「真弓レオナルド…」

徐ろにケータイを取り出し、電話をかける。

「俺だ。ちょっと調べて欲しいことがある…」





午後、新入生歓迎会が行われた。

それぞれの部活が工夫を凝らしたPRを繰り広げ、終始体育館は笑いに包まれた。

この体育館には現在3000人以上の生徒が集結している、とんでもない人数だ。

すべての部活が終わり、最後に生徒会長が挨拶をする。


「新入生の皆さん、いかがでしたか?我が校は今見ていただいたように、とても部活が盛んで…」

生徒達は壇上に立つ一人の美しい女性に、すっかり目を奪われていた。

「髪の毛キレー…」

「あの優しそうな目がいい…」

「壇上にいるから分かりにくいけど、結構胸あるらしいぜ…」

男衆の世俗にまみれた言葉に、女子生徒達は溜息をついた。

「どーせ男はでかいのが好きなんですね…」

「そ、そうかなぁ…?」

そこそこある結衣が言っても、何のフォローにもなってないのだが…

すると、視界の端に光る何かを感じた。

能力を展開し、先を見ると…


「避けてください、会長!」

「えっ…?」

「愛さんっ!」

ステージの袖裏にいた梓弓が走り、勢いそのまま愛へ飛びつく、その瞬間。


ズドンッ!

1発の銃声が鳴り響き、場は騒然とする。

侵入者?黒ずくめの男が一人で終わり、そんなわけが無い。

分析眼アナライズアイ…」

小声で呟き、体育館を見渡すと、そこには大量の…

「皆さん伏せてください!爆薬が…」

ドンッ!ドドンッ!!

今度は大量の爆発音が鳴り響き、体育館は悲鳴に包まれた。

そんな中、体育館へアナウンスが鳴り響いた。


『我々は革命軍プロテスタントの一派、義軍ソルジャーのメンバーだ。これより、この場は我々がジャックする!』

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