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運命の日~教室~

 学校に着くと、オレは早速注目の的であった。


 そんな事を自分で言うなんて自意識過剰だと思う所だが、今日に限っては紛れもない事実で、校門を過ぎた所から殆どの生徒の視線を集めている。


 それもそのはず、昨日全校生徒の前で壇上に呼び出されるという普通の学校生活を送っているだけでは、この学校に於いては卒業式の時くらいでしか体験しないような、実に目立つことをしてしまったのだ。それが自発的ではなかったにしても。


 そして集まる視線は憧れの存在を見つめる様な羨望や期待を含んだものではなく、疑いを持っているようなものであるから気分が良いはずがない。


 名声をたった一日で得ることはかなりの強運と実力の持ち主ではないと叶わないが、悪名というのは本人の資質など関係なしに広まるものだ……なんてどこかで聞いた話は本当なのだなと実感する。


 だがこの視線、気にしていても仕方がないし、どうせこの状態も今日が終われば次第に収まるだろうと、努めて周囲に無関心な自分を作る。


 恐らく、皆の関心はオレが生徒会に入るか否か。そして、それを決める信任投票はこの後すぐ開かれる全校集会で決まるのだから。


 陽との登校中、初めの内は昨日の会話の続き「オレが本当に生徒会に入るのかどうか」を頻りに質問してきたが「それは昨日も話しただろ」と言い続けていたらいつの間にか諦めたようで、「もう知らない!」と勝手に怒りだしてからはただ黙って後ろを付いて来るだけになっていた。今では背後にその存在を感じることが出来ないくらいに距離が離れている。


この視線の中、女連れで登校している所を見られたりしたら更にややこしい事になっていただろうことを思うと、偶然ではあるが幸いだった。


 そのまま昇降口でローファーを履き替えて、引き続き纏わりつく視線をスルーして教室へ向かい、後ろの扉から教室に入る。


 すると、ここでも多くの視線がオレに集中する。それはさっきまで浴びていた視線と同質のものだったが、自分の教室ではここだけの特典付きだ。


「おっ、本日の主役のご登場であるぅ」

「新生徒会役員様であるぅ」

「……アリカ様に選ばれしものであるぅ……」


 声を掛けてきたのは赤坂、岩崎、中島。昨日も一日中絡み倒してくれたが本日も過剰接待キャンペーンは継続中だったようだ。


「まだ決まったワケじゃねーんだから勝手に決めんな」

「そんなこと言ってもあの桐咲有華が全校生徒の前で発表したんだぞ?その時点でもう決定事項の様なもんだろ」

「まぁお前がどんなヤツか知ってたら誰も賛成しないんだろうがな。自分の影の薄さを呪いな」

「どうしてお前ごときがアリカ様に……呪う……」


 自分で認めるワケにはいかないので否定はしておいたが、コイツらの言う通り、確かにほぼ決まった様なものなのだろう。桐咲有華は学校中の人気者、品行方正、容姿端麗。絵に描いた様に完璧な優等生。


その彼女がさも当たり前のように言ったことであれば、何も考えもせずにそれが正しい事であると思っている生徒も多いだろう。オレにとっては迷惑な話でしかないが。


「中島よ、そんなに羨ましいなら変わってやろうか?そっちのほうが人を呪うより健全だぞ。というか自分の影の薄さを呪って、更に他人からも呪われなきゃならないというのはオレには荷が重い」

「でもクスがそう言った所で桐咲有華が自分の言った事を曲げる事はないだろ。なんとなくだが自分の決めたことは絶対!とでも思っていそうな所あるからな、副会長」

「《桐咲有華は敗北を知らない》だっけか?あの学校中に貼ってあるポスターのキャッチコピー。あの見た目に似合いすぎてちょっとカッコいいと思ってしまったが」

「岩崎、そんなの言うまでもなく決まってるだろ?アリカ様の言うことは絶対だ……それがアリカ様の意志ならば俺は何も口出し出来ない。しかし……なんでお前なんだ……クソ……」


 今、中島の心中では桐咲有華への忠誠心と本心とが必死にせめぎ合っているようだ。ていうかどうしてコイツは桐咲有華の事になるとキャラが大きく変わるのだろうか。昨日までそんなの露とも知らなかった。


「まぁ桐咲有華とお近づきになれるチャンスだと思えば実際、ちょっとは羨ましい所もあるよな」

「確かに、ワンチャンあるかもな」


 中島と違っていつもと変わらない様子の赤坂と岩崎が言う。なんだよワンチャンって。


 今回行われる投票は信任投票なので、たった一票でも賛成の票が入ればオレの生徒会入りが決まってしまう。この条件はどう考えたってオレに不利だ。なので二人がそう言う気持ちもわかる。諦めた方が色々と楽なのかもしれない。


 だがしかし、そのまま黙って見ているかと言えばそういうワケにはいかない。


「それ以上に不快な事の方が多いのはお前らだってわかるだろ?お前らの言う通りオレが生徒会になんてオレが一番ワケわからないし、もちろん望んでない。あと、黙ってアイツの言う事を聞く気も無い」

「確かにその通りだけど、お前が何を抵抗したところで無駄だろうな。まぁ応援はしてやるよ、お前が生徒会に入らないように」

「そもそもお前の存在自体が無駄みたいなもんだからな。やるだけやってみろよ」

「もうアリカ様が幸せならイイ……」


 一応オレの気持ちは汲んでくれているようで、全く励みにはならないが応援してくれている二人。中島は「好きな人が幸せならそれでイイ」なんてそんな信者としての一つの境地に至ったようである。とりあえず呪われずには済んだようだ。


 昨日は終始からかわれ続けていたが、コイツらは根っこの部分では応援してくれているというか、オレの考えに同調してくれていたことが確認出来て少し安心する。


 確かに、無駄なあがきかもしれない。だが男にはやらなきゃならない時がある。例えそれが絶望の中であっても。ってこの前観たアニメで言ってた。ヒロインがだけど。


「みなさーん!今日は全校生徒で全校集会がありますから校庭に移動してくださーい」


 ちょうど話が一区切りついた所で担任の中村山先生が廊下から顔だけを出して教室中に伝える。それに応じて次々と校庭へと移動を始めるクラスメイト達。


 オレはまだ鞄を持ったままだったのでそれを自分の机に置きに行き、遅れて教室を出る。


「ほら楠木くん!早く校庭だよ」


 教室を覗いて生徒が残っていないかチェックしていた先生は、最後に残っていたオレに声をかける。その表情はオレが置かれている状況など知らないかのようにいつも通りの暢気な様子。


 生徒の間では図らずとも注目の的であるオレだが、教師からみると大した問題でもないのかもしれない。見方が変われば実際大したことないと思うと緊張感がほぐれた。


「はい」


 先生に返事をして、全校生徒でやるから全校集会でしょ!というツッコミは敢えてせずに教室を出る。


 一人遅れているので気持ち大きめに一歩を踏み出すと、入れ違いに教室に入ろうとしてきた人とぶつかりそうになって慌ててその足を止める。遅れてきたのは陽だった。


 そして共に驚きの色をした目と目がぶつかる。だがお互いに無言。


 そのまま何も言わず、少し見上げるようになっている陽の視線を振り切って廊下を進んでいく。


 朝から質問されていたこと、その答えをこれから見せてやる。そんな意気込みを胸に廊下を進む。


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