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新学期~下校、帰宅~

 教室には既に誰も残っておらず、運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏の音だけが微かに聞こえる。

 自分の席に置きっぱなしにしていた鞄を取りに行くと、誰もいないと思っていたが、そこには陽が見せて突っ伏していた。


 そして、オレが近付いてきた事に気付いた陽が顔を上げると、その表情は何故か少し怒っているように見える。


「何してんの?」

 どうやら怒っている相手に対して「何怒ってるの?」と聞くと、ただ怒りのはけ口にされてしまう恐れがあるので敢えて聞かないでおく。


「……待ってるの」

 思惑通り、怒りのはけ口にされてしまう事は回避する事が出来たが、少し間を置いて話したその声はやはり怒りを孕んでいるように聞こえる。


「誰を?」

「アンタに決まってるでしょ。約束したじゃない」

「あ……」


 忘れていた。そういえば朝、放課後は一緒に昼飯を食う約束していたのだった。これはマズイ……


「完全に忘れてたって顔してるわね。まぁいいわ。お腹はまだそんなに空いてないし。私を待たせてる間に何してたのか、帰り道でじっくり聞かせてもらうわ」

 これは結局怒られるパターンかと思ったのだが、意外にも陽は大人しいので、ここは言われた通りにしよう。


「……とりあえず帰るか」 

「うん」


 陽は席を立ちながら返事をして、枕代わりにしていたオレの鞄を手渡してくれる。


「お昼ご飯奢って欲しいなぁ~」

「…………」


 この陽の言い方ははもう、お願いではなく命令だ。この事に関しては何も言える立場にないので黙って鞄を受け取り二人で教室を出る。


「何がイイかな~♪」

 先を歩く陽は弾んだ声で弾むようなステップを踏んでいる。


 機嫌が良くなったのはイイが、これはこれで面倒な事になってしまって、足取りは更に重くなる。


 しかし、今日は何かと女に言い包められてばっかりな気がするなぁ……陽に色々言われるのはいつもの事としても、桐咲有華の件に関しては今日だけで済む問題じゃない。と思うと足取りは更に更に重くなる。


「副会長さんに会いに行ってたんでしょ?いつからあんな有名人と知り合いになったの?」

「さっきから言ってるだろ。アレだよアレ、今朝のだよ」


 陽との帰り道は、教室を出てからずっとこのやりとりの繰り返し。「このこの~」なんて具合に陽は肘でオレを小突いてくるが、それは現役女子高生のしぐさとは到底思えないオッサン臭さだ。


「別に何でもねーよ」なんて言って余計に勘ぐられるのは面倒だし、自分が生徒会役員に選ばれたことについての話を自分からするのは、なんだかそれを認めてしまうようで気分が悪かったので適当に返事をしたのだが、こっちの思惑など一切気にせず陽は突っ掛かってくる。


「アレってなによ。ちゃんと教えて」

「うるせー。別にいいだろ」


 小突き続けながら聞いてくる陽。コイツ、わかっていてワザと聞いてきているな。


 別に答えてやる義務は無いので適当な返事を続けていたら、いつしか陽の方が飽きたらしく、ギリギリ一緒に帰っているように見える距離を保ちながら黙ってついてくる。


 そのまましばらく歩くと、家に帰る道と繁華街に続く道の重なる交差点に差し掛かる。


 そういえば飯を食う約束はしていたが、どこで何を食うかは一切決めていなかった。


 元々何を食べるかは陽に決定権を持たせていたので、追いついてきた陽に振り返って尋ねる。


「結局どうするんだ?昼飯」

「そうね、やっぱりアンタんちにしましょう」


考えた末に出した結論かのように言うが、その返答のスピードからして初めからこう言おうとしていたようにしか思えない。


「それは朝、却下しただろ。久しぶりに外で食いたいって」

「確かにそう言ってたけど、そんな事言って本当に大丈夫なの?」

「なんだよ、大丈夫って」

「お財布の中身確認してみなさい」


 根拠はわからないが、陽はとにかく凄い自信に満ちた顔で言うのでとりあえず従い、鞄の中から財布を探し中身を確認する。そこで陽の自信の理由がわかった。


「でもやっぱり外で何か食べようか!今日はアンタの奢りなのよね~だったら何でもいいわ、テキトーに目に入ったところに入りましょ。とりあえず駅の方に行けばなにかしらあるし……」


 陽はオレが財布の中身を確認したのを見ると、そう言って駅の方向に一人で歩いていく。


「ちょーっと待ってくれ」

その背中に慌てて声を掛ける。


「早くいきましょ~。何がいいかしらね~やっぱりお肉かしら?」

「だから待てって」

「何か言った?アンタも肉好きでしょ?よし、じゃあ肉にしよう!けって~い♪」


 オレの声は聞こえているようだが、陽は足を止めることなく、どこでもない空中を指差しながら交差点を駅方面に進んで行く。


「すいません待って下さい!」

 ここまで言って、陽はようやく足を止めた。


「やっぱり今日は家で食べる事にしないか?ほら、お前もなんだか家に来たそうだし……」

 それを聞いて振り返った陽の表情は、してやったりと言わんばかりの笑顔。


「じゃあそうする?アンタがそう言うなら別にイイけど……じゃあ仕方ないからそうしてあげるわ♪」


 と言ってそのまま駅とは真反対の、オレの家へと続く道をスキップで進む陽。今度はオレがその後ろを付いて行くような格好になる。


「それにしてもこの短い間にどういう心変りがあったのかしら~。家がイイなら最初から言えばイイのに~」

「……そうだな」


 不本意。不本意である。この女知っていたな、オレの財布に金が全然入ってないことを。


 中身を見ればわかる。この財布に二人分のランチ代を支払えるワケがない。


 それにしても、陽はどうしてこの事を知っていたのだろうか……あぁ、片付けずに出たはずの鞄が整理されていたのは陽の仕業だったか。それでその時に……。


 奢ると言っていざ支払いとなったら金が無いなんてカッコ悪いシチュエーションは避けられたが、まんまと陽に嵌められた事にイラッとしたのと、家で飯を食うってことはつまり、また玉子料理祭が開催されるかもしれないという事に少しガッカリして、家への足取りは陽のそれとは逆に重いものになった。

 

 足取りの軽い陽に釣られていつもより速く歩いていたようで、家に着いたのはすぐだった。


 一足先に家の前に着いて、ワクワク顔して待っている陽を横目に玄関を開ける。


「おじゃましまーす」

 黙ってローファーを脱いでいるオレの頭を通り越すように、陽は家中に聞こえるような大きな声で言う。


 すると居間の扉が開いて母が出てきた。


「お!おかえり陽ちゃ~ん!」

 陽がいる事に多少驚きつつ、母は挨拶を返す。


「た……ただいま!」


 その歓迎っぷりに驚いたような顔で返事をする陽だったが、同時にその表情はどこか嬉しそうである。


「オレも帰ってきているんだが……」

「ただいまを言わない子はウチの子じゃありません!」


 完全にオレの存在が忘れられているような気がしたので自ら主張してみたのだが、家でも挨拶の事で注意を受けることになるとは……まぁ母も野老高出身なので挨拶に煩いのも当然なのかもしれない。


「……ただいま」

「はい!おかえりス~く~ん♪」


 このような形式的な挨拶に意味があるのか甚だ疑問ではあるが、母は納得したようなのでイイだろう。


「今日コイツも昼飯一緒だけどイイ?」

「あったり前じゃ~ん!だって陽ちゃんはウチの子も同然だよ?」

「コイツが妹なんて勘弁してくれよ……」

「誰がアンタの妹ですって?お姉ちゃんの間違いでしょ!私の方が誕生日早いし!」

「冗談だって。つーかお前はオレと兄弟でイイのか?」

「……良くないわよバーカ!」


 なんでいきなりバカ呼ばわり……顔まで真っ赤にしてなに一人でテンション上がってるんだよ。


「そういえば今日の昼飯なに?」

「まだ作ってないよ~。陽ちゃん、なに食べたい?」

「えーっと、私は別に何でも」

「じゃあ一緒に作ろう♪」


 そう言って母は陽の返事を待たずにその手を引いてキッチンへと消えていく。その後ろ姿は友達のように見えるなんてのは少し無理があるが、仲睦ましい様子はさながら本当の親子のようである。ここは二人に任せてオレは部屋に戻って制服を着替えることにしよう。


「ジャジャ~ン!今日のお昼はハンバーグです!」

「おぉ!」


 部屋でダラダラとしていると、準備が出来たと言うので食卓へ向かった。 すると母が諸手を上げて献立を発表した。思わず感嘆の声を漏らしてしまったのはハンバーグが好物であることと、ようやく玉子祭が終了したことへの喜びがミックスされたからだ。


「遂に玉子地獄からもおサラバか……」

「まぁハンバーグにも玉子使ってるけどね」


 キッチンから陽が出てきた。ちゃっかりエプロンしている所を見ると、結構ガッツリ手伝っていたみたいだ。


「陽ちゃんすごいんだよ~。冷蔵庫の中身見てすぐハンバーグにしようって決めちゃったんだから~。横で見てたけど手際も良かったし、すぐにでもお嫁さんに来て欲しいくらい!」


「いきなり何言ってるんですか!?お嫁さんだなんてそんな……」

「いつでもイイよ~♪ね、ス~くん?」


 母よ、いくらなんでもそれは適当過ぎるだろう。


「オレに聞くな。ていうかこれほとんど陽ひとりに作らせたのか?お前、料理とか出来るんだな……嫁にくるか?」

「ちょっと!ふざけないで!」


 少しふざけてみたら言葉と同時に拳が飛んできた。冗談だとしても前言撤回。こんな暴力女が嫁だなんてNGだ。それにしても、どうして母とオレで同じことを言ったのにこうも反応が違う?


 しかし、陽が運んできたハンバーグのなんともうまそうな事。まぁこんな暴力女が作ったものだとしても料理に罪はない。温かい内に食べるに越したことはないので早速頂く事にする。


「よし、食べよう!いただきま~す!」


 テーブルに三人揃ったところで母が音頭をとった。


「「いただきます」」


 席に着いた陽と母の後を追ってオレは早速一口。隣の陽はその様子を緊張した面持ちで観ている。


 ……これは美味い。やっぱり料理に罪はなかった。もしこのレベルの料理が毎日食べられるのであれば、作ったのがいくら陽でも前言撤回しなくてもイイかもと思ってしまう。


「ウ―」

「おいすぃ~ね♪」


 だがふざけてそんな事を言えば次は何が飛んでくるかわからないので、嫁に来いと言うのではなくただウマいとだけ言おうとしたら母に先を越されてしまった。

「良かったー。ちゃんと出来てなかったらどうしようって」


 母の笑顔を見れば嘘もお世辞も言っていないのもわかる。その言葉と表情に陽は本気で安心したようだった。


「陽ちゃんも食べよ♪」

「うん!」


 美味いものを食べて母は嬉しそうだし、喜んでもらえて陽も嬉しかったのだろう。二人とも笑顔で箸を動かす。


 それを横目にオレも黙ってひたすら箸を進める。だってマジで美味いんだもん。口を食べる事以外に動かしている場合じゃない。


 しばらく食べ進めていると陽が話しかけてきた。


「昴はその、どうなの?美味しい?」


 一心不乱に食べていたので感想を言いそびれていたのを忘れていた。


「あぁ、ウマ─」

「美味しいに決まってるよね~ス~くん☆」

「……まぁな」


 言おうとしたところでまたしても母の乱入。だがその通りなので素直に返事をした。


「そっか……」


 顔では笑っているが、何故か俯きがちな陽。まぁ言わんとしていることは伝わっただろう。


「ご飯はいつも二人だったからね~陽ちゃんがいるだけでも嬉しいし美味しいよ~!ありがとう、陽ちゃん♪」


 食事は大勢で食べた方が美味しいだなんて散々耳にした話だが、これっていつどこで誰が言い出したことなのだろうか?果たして根拠はあるのだろうか?


 まぁこの場ではそんなくだらないことはどうでもよくて、今三人で食べている食事が美味しいと言う事実があれば十分だ。


 陽が家に来る事になった時はどうなる事やらと思ったが、母と陽の楽しそうな顔を見るとこの選択は間違いではなかったのだと思える。金がなくて良かったと思えることもないことはないのかもしれない。


 鏡が無いので確かめる事は出来ないが、たぶんオレも二人と同じ笑顔をしているだろう。そんな気がする。


 その後は大した会話も少なく(食事中なので当然と言えば当然なのだが)三人ほぼ同時に食べ終えた。


「おいしかった~!陽ちゃん、ごちそうさまでした♪」

「良かったー喜んでもらえて」

「ス~くんもおいしかったよね~?」

「それはさっき言ったからイイだろ」

「ご挨拶の出来ない子供はウチの子じゃ――」

「ごちそう様でした」


 母はオレが挨拶を忘れるといつもこう言う。子供の時からそうだ。


 思い返せば中学生の時、この注意を無視していたらマジで家を追い出されたことがある。だけど仕事から帰ってきた親父と一緒に家に入って、一言謝ったら許してくれたっけな。ちなみに親父は現在、広島に単身赴任中である。


 フワフワとして頼りなく、本当に人の親なのかと時々息子のオレでも疑いたくなるほどしっかりしていない母だが、こと挨拶に関しては実に厳しいのだ。だから今では注意された時には素直に従う様にしている。


「お粗末さまでした。どっちかって言うと今日は私が奢ってあげたみたいになってるから、今度また、ちゃんと奢ってもらうからね」

「お前まさか、それも狙って家に来たのか?」

「さぁね♪」


 真相を誤魔化そうとするように、陽は食べ終えた食器を重ねて流し台に運んでいく。当たり前のように母と、それからついでと言うようにオレの使った食器も重ねて。


 母はありがとうと椅子に座ったままで言って、そのまま洗い物をする陽の姿を楽しそうに眺めている。


 料理も陽にほとんど任せていたみたいだし、これでは一体どっちが客でどっちが家主なのかわかったものじゃない。


 さすがに陽に何もかもを任せてしまうのは気が引けたので、普段はする事はないが皿洗いを手伝う事にした。


 黙って陽の隣に立つと、「私が洗うからアンタがしまって」とまるで普段からそうしているかのように自然と指示してきた。反抗する理由はないので黙って水きり台に置かれた皿を手に取り、軽くキッチンペーパーで拭いて棚に戻す。


 しばらく二人で作業をしていたら、その様子を楽しそうに眺めていた母が話しかけてきた。


「そういえば今日は学校に何しにいったの~?」

「始業式だって朝言ったろー」


 もちろん尋ねた母に返事をしたのだが、陽がその言葉で何かを思い出したようで、勢いよくこちらに振り向く。


「そういえば!」

「なに何~?面白い事でもあったの~?」


 面白くはない事が色々あったのだが、ウマい飯のおかげでオレもすっかり忘れていた。


「アンタ、副会長さんと二人っきりで何してたのよ!?」

「え~!?二人っきり?やらし~よ~」


 陽はいきなり声を荒げる。そして言葉足らずな為に母が謎の勘違いを起こしてるし。


 母に興味を持たれた時点で面倒な事にしか展開しなさそうなので、ここはどうにかしてはぐらかさないと……


「だからアレだよ、アレの話だよ」

「アレって何よ!ちゃんと言わなきゃわからない!」

「アレってなに~?言えない何かが出てくる話なの?なんだかやらし~よ~」


 陽は何の話かわかっているはずなのに、どうしてそこを追及してくるのか。やはり母は勝手に間違った方向に話を進めてしまっているし。


「別になんでもねーよ」


 食器の片付けに集中しているフリをしながら適当に返事をする。


「何でも無いワケないでしょ?わざわざ呼び出すなんてさ」


 すると、陽はわざわざ作業を止めて尋ねてくる。


「別にお前には関係ない話だよ」


「始業式の時にあんだけ目立っておいて何でもないワケないじゃない。教室でも皆その話してたし」


「始業式なんて目立つ場所でアレをナニしたの?もうやらし~どころの話じゃないよ~!ス~くんのを知ってるのはお母さんだけだと思ってたのに~」

「…………」


 返事をしない事を返事にする。だから話したくないんだってわからないかな?


 それにしても母は一体何の話だと思っているんだ?聞き捨てならない事を言っていた様に聞こえたぞ?陽に聞かれたら余計に面倒なことになりそうなこと言いやがって。


 幸い陽の意識はオレに集中しているようで母の言葉は聞こえていないようだから助かっているが……母の事はオレも気にしないようにしよう。


「たぶん教室でお前らが噂してた通りだよ。オレが生徒会の役員に推薦されたってこと!それだけ!」


 このままだといつまでもこの話を続ける事になりそうなので、話を終わらせる為にも陽の言った事を敢えて肯定する。


「それは始業式で聞いたから知ってる!私が聞きたいのは放課後の話よ!副会長さんと何してたのよ!?」

「放課後に副会長との何をナニしてたの~?」


 だがそれでも納得してくれず、それどころかここまでハッキリと聞かれるといよいよ誤魔化し様がなくなってきた。あーもうメンドクサイ!言えばイイんだろ言えば!


「文句言いに行っただけだよ!どうしてオレを選んだのかって!そしたら卒業式の態度が気に食わなかったんだとよ!」

「卒業式?あぁ……確かにアンタ色々とひどかったよね。でもそれでアンタを生徒会にって何を考えてるのかしら……」

「卒業式でもヒドいことしたの?ス~くんサイテ~!どういうつもりなの?」


 あーいえばこーいうを繰り返すのは面倒だったのでこっちから先に全て言ってやったことでとりあえず落ち着いたようだが、今、聞き知った事実が新たな疑問となって陽の中で膨らんでいるようだ。


しかし……


「オレにだってワケがわからん。だけどまだ入るとは決まったワケじゃないからな。もういいだろ、この話は終わりだ」

「ちょっと、結局何もわからないんだけど!」

「イヤだからって面倒だからって、そんな理由だけで終わりにしようだなんて……この無責任男!」


 そんな事言われたってオレも同じだ。というのは口には出さず、渡された皿も全て拭き終えたので、最後に手を洗ってそのまま部屋に戻る。


「こんな子供に育てたつもりなかったのに~!!」


 リビングを出る時に母がそんな事を叫んでいたが、この短い時間で、母の中でのオレは一体どんな酷い人間になっているのだろうか。まぁその辺の誤解は放っておけばいずれ解けるだろう。


 部屋に戻ってそのままベッドに力なく倒れ込む。それにしても陽のヤツはどうしてこう色々と首を突っ込みたがるんだ。ただ気になるからなんて理由だったら認めるわけにはいかない。それが許されるのはなんとなく氷菓子が好きそうな女の子だけだ。果たしてそんな子がいるのかは知らないが、私、気になります!


 しかし、陽の言ったことに頷ける所があるのも確か。オレが生徒会役員だなんて誰にとってもカンベンして欲しいに決まっている。


 オレ自身がイヤなのもそうだが、他の生徒からしてもどこの誰だか知らない、そうでなくても見るからに不真面目そうな生徒が学校の代表だなんて言われるのは気分が良くないだろう。


 生徒会のメンバーなんてのは桐咲有華を見てもわかるように(他にどんな奴がいるかはよく知らないが)、学校中に広くその存在を認められているような生徒が務めるべきだ。


 それこそ《挨拶のその先運動》の事を考えた時に、逆に助けが必要そうなヤツに助けられるのはイヤだろう。


 結論として、オレは生徒会に入るべきではない。入ってはいけない。それがいくら副会長桐咲有華の推薦だからと言ってもだ。


「その為にはやることは一つ……」


 そう、やるべきことは一つ。それを口に出して確認したところで反動をつけて身体を起こす。


『おじゃましましたー』


 それと同時に玄関の方から微かに陽の声が聞こえてきた。


 考えに更ける為に机に向かう。


 どうすれば生徒会に入らずに済むのか?相手があの桐咲有華である事を考えると一筋縄ではいかない事は明らか。


『陽ちゃ~ん!またね~!』


 早速手詰まりかと思ったが、聞こえてきた母の声に一つの考えが浮かんだ。


 桐咲有華、お前の好きにはさせん。


 その一心で思いついた事をノートに書き殴っていく……

ここまでご覧になって下さった方がいらしたら嬉しい限りです。まだまだ続きますので引き続きよろしくお願いします。

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