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新学期~再び教室~

 クラスの列に戻ってからはずっと質問責めだった。一体何があった?どうしてお前が生徒会に?アリカさまイイ匂いだった?


……うるせーそんなの知るか!こっちが知りたいわ!まぁ実際はすれ違った時にちょっとイイ匂いが……などと色々言ってやりたい事はあったが、騒いでいるのに気付いた中村山先生が注意をしに来たのでその場は収まった。


 本格的なクエスチョンタイムが始まったのは始業式が終わって教室に戻ってから。普通に学校生活を送っていれば滅多に起きないような「イベント」なので皆の興味は尽きないのだろう。部屋に入るなり大勢に取り囲まれた。


 しかし、オレ自身も結局状況を理解出来ていない為、ハッキリとしたことは何も答えられず、適当に相手をしていると、このまま聞いても大した話は聞けないだろうと判断したのか、時間が立つにつれて騒ぎは収まっていった。


 だが教室の外に目を向ければ明らかにオレを観に来たであろうお客様達の姿がチラホラ。他に表す言葉もない、ずばり野次馬というヤツだ。おそらくオレの目が届かない所でも話の種にされているのだろう。


 廊下に出た時も、どうしてあいつが?一体何者?アリカ様に暴言を吐きやがって……と言った会話が聞こえてきた。


 このような状況になって初めてわかった事だが、集める気のない注目は邪魔で鬱陶しい以外の何物でもなく、一日の内の、それも始業式のたった数分でオレの平穏でしかなかった学校生活はどこかへ行ってしまったようだ。


 だが、この騒ぎもずっと続くというワケではないはずだ。桐咲有華も言っていた、まだ決定じゃない。とりあえず放課後、文句を言いに行くことから始めよう。


 そんな事を考えている今は帰りのHRの為に先生が教室に来るのを待つ時間。いよいよ放課後と言う事で教室の雰囲気は賑やかしい。もちろんコイツらも……


「なぁ、桐咲有華って間近で見るとどうなの?美人系?可愛い系?」

「そもそもその違いがわからん。見たまんまだよ」

「見たまんまってことは最高じゃねぇか!羨ましいヤツ……あの桐咲有華と直接会話するとか羨ましいな!」

「そうだぞ!あんな至近距離に近付くなんて!それも二回目!さぞイイ匂いがしたんだろうなぁ!?あぁん!?」


 赤坂の質問が頭悪いのはいつも通り。岩崎が嫉妬しているのもいつも通りだ。だが中島の荒らぶり具合は予想外だ。中島がこれほどまでに桐咲有華の信奉しているとは思わなかった。それと、においフェチっぽい所も。


 他のクラスメイトはいつもの感じに戻っていたが、コイツらだけはいつまでもしつこい。  


 だが無視をすると構ってもらう為に余計にうるさくなるだろうと判断し、適当に相手をしてやる。


 別に相手にするのに面倒になったら面倒になったでイイ。何故なら、オレはこのうるさい奴らを一言で黙らせる言葉を知っているから。


 そろそろ面倒になってきたので、その魔法の言葉を唱えたいと思う……


「ならお前らが生徒会に入るか?」


「「「…………」」」


 すると予想通り、一斉に黙る三人。


「中島よ、生徒会に入れば桐咲有華を間近で拝む事もできるぞ?」

「グッ……」


 朝から二度もこの件を妬んでオレを襲った中島にとってそれは願っても無い事だと思うが、その願いが叶う事よりも生徒会に入りたくないという気持ちが勝るのか、中島は黙ったままでいる。


 この言葉がどうしてここまでの効力を発揮するのか、それはオレが頑なに生徒会入りを拒む理由と同じである。


 野老沢高校生徒会。その活動内容は学校行事の企画・運営が主となっている。生徒主導で行われるイベントには文化祭や生徒総会など、その数自体は少ないが生徒にとって重要な行事を取り仕切ったり、先の始業式の様な学校側の主導の行事の進行をしたり、会場の準備をするのが主な仕事。


 これだけでもかなり面倒に感じるが、他の学校と比べても大きく違っていることはないだろう。


 しかし、加えてこの野老沢高校の生徒会には他には無いであろう独自の活動がある。


 それは、いつかの生徒会長が発案したという《挨拶のその先運動》。


「挨拶をしたら友達だ!友達と言えばそうだ!助け合うことだ!」という発言に由来するらしいが、その正しい出自はわからない。らしい。実際にはその言葉の後に「若さってなんだ?振り向かないってことさ!」という言葉が続くらしいがこちらも聞いた話なので事実かどうかはよくわからない。


 そもそもこの学校では「挨拶至上主義」により挨拶が義務とされている為「挨拶をしたら友達」と言うと、この学校にいる人の全てが友達ということになり、それは要するに困っている人がいたら助けるのは当たり前!の精神に則ると、救いを求められたら何のためらいもせずに手を差し伸べるという実に立派な活動なのだ。


 そう、生徒会と聞いて思わずたじろいでしまう最大の理由はここにある。求められさえすれば学校にいる全員と「友情」を育まなくてはならず、生徒会が総勢何人で構成されているかは知らないが、限られた人数だけで全校生徒を相手にしなければならないのはどう考えても大変な事。とことん自分を犠牲にしなければ到底務めることは出来ないだろう。


 確かに、人助けをする事は素晴らしいことだと思うし、本当に困ったことがあった時には力になって欲しいかも、とも思う。だがそもそもオレの様な自分の事すらままならない人間に人の手助けをする余裕などない。


 言ってみればこの《挨拶のその先運動》なんていうのはボランティアも同じ。便利屋。悪く言えば雑用とも言えるだろう。


 オレ自身が世話になった事が無い為にその実態は定かではないが、きっと生徒会に入ればイイように使われてしまうのがオチなのは容易に想像する事が出来る。そんな事に一度しかない貴重な高校生活を費やしてたまるか。それが本音だ。別に何かしたい事があるというワケではないが。


 そういった活動にやりがいを見出すことができる人間がいれば適任だろうが、そんな風に考えられるのは誰からも尊敬されている聖人のような人間しかいないはず。多くの生徒に尊敬されているという点に限っては桐咲有華もそれにあてはまるだろう。


 故にこの学校の生徒会のメンバーなんてのは、人の為に必死で汗を流している姿を想像する事の出来ない生徒、例えばオレとかオレとかオレとかにはとても遠い存在。なろうとも思わないが、なろうとしてもなる事は出来ないような存在であるはずだ。


 だからこれから自分がそのメンバーにほぼ強制的にさせられるかもしれないなんて言われて黙っていられるワケがない。


 バーバリアン達が今も黙ったままでいるのもオレと同じような事を考えているからこそ、どこかで他人事とは思えないからかもしれない。


 もしもオレが今のバーバリアン達と同じ立場だったら同じように思うだろう。でも遠い立場の人間だったならオレの事を「ざまぁ」とでも思うのだろうか。少なくともそうは思っていない様子のコイツらを見ると、普段はどうしようもないが中々友達甲斐のある奴らだな、なんて思う。ってオレは何を考えてるんだキモチワルイ。


 そんな事を思ったというのはもちろん一切口にすることないが、普段はうるさいバーバリアン達が口黙っている様子はなんだか気色が悪いので、停滞した空気を再び巡らせる為に口を開く。


「まぁまだ生徒会に入ると決まったワケじゃあない。それは桐咲有華本人も言ってたことだ。放課後、生徒会室に呼び出されてるから、そこで白黒ハッキリさせてやればいいこと」

「確かにお前が生徒会とかマジで意味わからんからな」

「何かの間違いでしかないと思ってるのはお前だけじゃないし。いやほとんどの生徒がそう思ってるだろうし」

「まぁあり得ないことだな。そう、あり得ないこと……クスがアリカ様に個人的に呼び出されているのもあり得ないこと!お前それどういうことだコラァ!?」


 すると、やはり順番に話し始めた三人。だが折角イイ具合に話がまとまりそうだったのに中島はまた謎の興奮状態だ。


 でも中島の言う事は正しい。間違いが起こってイイはずがないのだ。バーバリアンもたまにはまともなことを言う。


 だが今にも中島が襲い掛かってくるのを止めようとしているこの時に、桐咲有華を前にして「あり得ない」という言葉がただの気休めでしかないと気付いている人間は誰ひとりとしていなかった。


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