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1、新学期~家にて~

初めて書いてみた物です。数々のアニメ・ラノベを読んで自分の好きな要素を色々散りばめた一応ラブコメです。パロネタ多めですが、ご興味がお有りでしたら一読下さい。

 ジリリリリリ……枕元でけたたましく鳴る目覚まし時計の不快な音。ベッドの中から手だけを出し手探りでスイッチ止め、音が止んだので再びの眠りについてしまいたい所だが、今日この日、高校二年生の新学期の日においてはそうする訳にはいかない。

 

しかし布団越しにも感じるこの寒さ。三月といえば古い暦ならば春も終わり、夏を次月に控えている月だというのに寒い。むしろまだ春は訪れていないのではないのだろうかと疑いたくなるほど寒い。

 

この寒さに早くもくじけたオレはもう少しだけ……と一度目覚まし時計にもう一度手を伸ばし、二度寝防止機能のスイッチをオフ。改めて頭まですっぽりと布団と毛布を被る。

 そして目を閉じ、布団の中で寝る為の体勢を整えたその時だった。

 

ドッドッドッドッ!!

 

一軒家の二階、階段の傍にあるオレの部屋まで響く、明らかな攻撃性を孕んだ音。

「勘弁してくれよ……」

 その聞きなれた音にヤレヤレと、内心ではなく実際に口に出して呟く。

 そして足音が止むと、閉ざされた扉の向こうから声が聞こえる。


「おーい昴!どうせ目覚まし無視して二度寝しようとしてたんでしょ?早く起きなさいよ!」

 おいおいここは人の家だぞ?朝から大声出すなよ。迷惑甚だしい。それとオレの行動パターンを読み、純粋な欲求である睡眠を妨げようとすることが何よりも不愉快である。


「早く出てきなさいよ!遅刻するわよ!」

 返事をしなかったからだろう、扉向こうに立つ人物は更に大きな声でオレを呼びつける。だが返事をするつもりはない。何故なら起きる気がないからだ。扉が閉まっている為、相手にわかるはずはないが、起きる意志がないということを示す為に寝がえりをうって扉に背を向ける。

「ほらーいい加減にしなさいよー」

 だが、それでも扉の向こうにいる人物は何度も呼びかけ続ける。でも返事はしない。

 

その後も何度か呼びかけてきたが、全く反応が無いことでようやく諦めたのか、しばらくすると声が止み、部屋に静かな朝が戻ってきた。

 

そして、これで気持ちよく二度寝出来る……と、改めて眠りにつこうとしたその時であった。

 

バン!と大きな音を立てて勢いよく開かれた扉。驚いて目を見開き、慌てて身体の向きを変え、布団から目だけを出して扉の方を見る。


そこには先ほどの騒音の主であろう一人の女子高生と目が合ってしまったが、見なかった事にして布団を被り直す。


すると、つい先ほど扉越しに聞いたのと同質の足音がしたが、それはすぐに聞こえなくなった。


だが次の瞬間……


「ウゴっ!!」


何か大きなものが真上から勢いよく落ちてきた様な衝撃に、思わず声にならない声を出してしまう。


その痛みと驚きに、一体この身に何が起こったのかを布団から出て確認しようとすると、膝立ちの状態でオレの上に跨る女子高生がいた。

 

先ほどの衝撃の主は間違いなく、この女子高生だろう。そしてこの女子高生の事をオレは良く知っている。その正体は近所に住む、小学校からの幼馴染みである九重(ここのえ)(ひな)だ。

 

寝込みを少女に襲われる。文字に起こすと一見けしからんシチュエーションに思えるが、飛び込んできた少女がこの九重陽であるという時点でムフフな展開には発展しえない。いや、命中したのがたとえ見知らぬ女子高生だったとしても人間一人に全体重を掛けられて飛び乗られるというのは相当の衝撃で、今はいやらしい事を考えるよりも痛みの方が上回っている。

 

恐らく大跳躍から繰り出されたであろうボディプレスはいくら毛布と布団越しとは言ってもそれなりのダメージで、満足に声を出す事も出来ない。


 痛みを堪えるように身体を震わせていると、オレに跨ったままの陽が上体を倒し言った。


「おはよう昴。目は覚めた?」

「ヌグ……おファようェ……」


あれほどの攻撃を受けて目が覚めていなかったらそれはオレが命の危機に晒されているという事だろう。


まだダメージが残っているのと身体の上に乗られているのが苦しくてうまく口にする事が出来なかったが朝の挨拶を返す。

「なによその「ぬぐふぁよぇ」って意味分かんないし。朝の挨拶はおはようでしょ?」


だが陽には挨拶として伝わっていなかったようだ。それを注意されてしまったがその原因を作ったのは全てお前だと言い返した所だが、変わらず陽はオレの上に乗ったままなのでそれも口にする事が出来ない。だがそろそろどいてくれないと息苦しい。


「と、とりあえずそこをどいてくれ……」

「ダメ!ちゃんと挨拶するまでどかない!」


 身を屈めて顔を近付けて言う陽。必死に声を出してお願いしてみたが全く聞く耳を持たない陽。言われた通りにしたくても出来ないからお願いしているのに、そのように返されてしまえばどうしようもない。


早くどいてくれ……苦しいのはもちろんだが、陽から何の匂いだか知らないがいい匂いがするし、視線を顔の下に移すと……普通にしている限り見えてはいけないものが見えてしまっている。その……鮮やかなピンクの布で覆われた二つの山とその谷間が丸見え……。この嗅覚と視覚のそれぞれに訴えてくる刺激は寝起きの男子高校生には強烈すぎる。


だがそんな事を言えば次は顔面に拳が飛んできかねない。なんとかしてそれは避けなければ。新学期早々に顔面を腫らして登校なんて恥ずかしい事この上ない。

 ならばと、それ以外に困っている事をなんとか探して陽に訴える。

「か、顔が近い……」

「!!」


 なんとか声を振り絞ると、それを聞いた陽は飛び跳ねるように上体を戻し、そのままベッドからも降りた。その顔を見ると何故か真っ赤に染まっている。

「あー苦しかった。朝からいきなりなんだよ。重いだろ」

 ようやく満足に声が出せるようになったのでまずは文句から。

「はぁ!?なに女の子に向かって重いとか言ってるのよ!それと!挨拶!」

 すると陽は顔を真っ赤にしたまま拳を振り下ろす。その一撃は布団越しとはいえボディに響いた。


「いてぇ……おはよう……」

突然襲いかかって来た人間にわざわざ挨拶を返す義理は無いはずだが、ここで反発しても得をしない事はわかっているので受けた衝撃を身体に残したまま口にする。


「はい、おはよう。ほら、さっさと起きて支度する」

一応挨拶を返した事で陽は満足したらしい。だがこっちにはまだ言ってやりたい事がある。


「しかしお前、朝からボディプレスってどういう事だよ。何か怒らせるような事したか?」

 オレには被害者として、やはりその犯行理由を聞く権利がある。理不尽な暴力は何があっても決して許されて良いものではないのだ。


「今日から新学期なのにあんたが時間になっても全然出てこなくて、おばさんに聞いたらまだ寝てるっていうから襲い……起こしにきたのよ!」

「今『襲いに』って言いかけたよな?もし本気でそのつもりだったんならこれからの付き合い方を真剣に考えなければならなくなるぞ?」

先ほどの攻撃を受けた時の事を思い出して身を守るために布団を掛け直す。


「なに言ってんのよ!あんたなんか襲うワケないでしょ!?バカ!変態!痴漢!マンチカン!」

「触ってねーし!それに最後のは猫だろ」

 興奮しているからって語感だけで話すのは止めて欲しい。マンチカンは猫の品種名だろ?

「じゃあ!バカで変態で痴漢!」

「その三つに認定されるならいっそ、人ではなく猫に生まれた方が幸せだったかもしれないな」

「あんたなんて比べる事だけでマンチカンに失礼なレベルだわ!マンチカンに謝りなさいよ!」

「あーうるせぇうるせぇ。ていうかお前、そもそもはオレを起こしにきたんだろ?イイのか?急いでるならマンチカンに謝る時間すら惜しいと思うんだが……」

「あっ……」

どうやらこの一言で本題を思い出したのか、焦ったように部屋中を見渡して時計を探す陽。壁に掛けてある時計を見ると、すでに8時を回っていた。


「やばっ!こんな時間になってる!さっさと支度しなさい!」

「あーうるせぇうるせぇ」

 これ以上くだらない会話を続けているといよいよ本当に遅刻してしまいそうなのでベッドを出る。

「早くしなさいよ」

「チョイ待て。今、脱いでるから」

「そうそう早く脱いで……ってアンタなに脱いでんのよ!信じらんない!バカ!」

 ちょうど寝巻きにしているジャージを脱いだタイミングで時計からオレに視線を移した陽は、あられもないオレの姿を視認した瞬間に顔を赤くし、叫び声を上げながら一目散に部屋を飛び出していった。


 取り残されたオレはさして急ぐことなく制服を着込んでいく。

「早くしろこの変態マンチカン!」

 

閉じられた扉越しに陽の怒鳴る声が聞こえる。にしても今の発言はマンチカンに対して失礼なのではないだろうか。


「いや、お前が急げって言ったんだろ」

「うるさい!早くしないと遅刻するわよ!新学期早々に遅刻だなんて先生に何を言われるかわからないわ!早くしなさい!」


 陽の言う通り……というのはなんだか釈然としないが、確かに新学期早々遅刻するのはマズいので急いで制服を着る。それに、早く服を着ないと単純に服を着ていないと寒い。


「よーし、さっさと行くぞ」

 そう言うと、向こうから陽が扉を開ける。


「元々あんたを待ってたんですけど……ってあんたまだズボン穿いてないじゃない!バカー!」


 誰も準備が出来たとは一言も言っていないのだが、勝手に勘違いして扉を開けた陽は着替え途中のオレの姿を視認し、悲鳴を上げると同時に持っていた鞄を投げつけた。


 オレはズボンを履いている最中で、まだズボンのウエストの部分はひざ丈に留まっている。


 この状態では顔面を目がけて飛んでくる鞄を回避するのは不可能だと脳が判断すると、危機的な状況を前に突然スローモーションに映る景色。


 そして、ゆっくりとこちらに向かってくる鞄が間もなく直撃し、なす術もなくその場に倒れる。


 そのまましばらく床に伏し、ようやく意識が世界の正しい速度を取り戻したと同時に、顔面の中心に熱いものを感じた。


 その違和感に手を伸ばすと、指先が熱い物に触れた。……鼻血なんて何年ぶりだろうか。

 

この急いでるって時にどうしてこう自ら面倒を増やすんだよ陽のバカ。しかし結構痛いな、鼻。今日は新しい一年の大事なスタートの日なのに……とはぶっちゃけ思ってないけど。

 

結局、最後の最後まで不幸に見舞われ、思わぬ負傷をしたが着替えも済み、時計を見ると意外と時間に余裕がある。これなら軽い朝食なら摂ってからでも間に合うかもしれない。


そう思い食卓のあるリビングのドアを開くと、食卓では既に母が一人で食事していた。


「あ、ス~くんおはよ~。陽ちゃんも一緒に食べる?」

「私は食べてきたんで大丈夫です。ありがとうございます」


 そんな二人の会話を尻目に食卓に着いて、既に用意されていた朝食にササッと手を付ける。


「なんか珍しいわね、アンタが朝ご飯食べてるの。珍しいからこの光景を目に焼き付けておこうかしら」


人が食事をしている光景なんてその対象がよっぽどの美女のものでない限り価値の無いものだろうに、自然とオレの横の席に座った陽はジーなんて実際に口に出しながらオレの食事風景を至近距離で見つめる。


「別に珍しくも何ともないだろ。そして焼き付けんでいい」

「でもあのまま寝てたら食べる余裕なかったでしょ?それどころか私が起こしに来なかったらアンタ今頃永眠してるんじゃない?」

「言葉の使い方おかしいだろ。勝手に人を殺すな。そして離れろ。見過ぎだ」

「だから目に焼き付けてるんだって。ジー……」 


さっきからずっとオレを凝視し続ける陽。ワケもわからんし、恥ずかしいのでサッサと残りのトーストを一気に食べ切り席を立つ。


「ごちそうさま。目玉焼きは食べちゃって」

「あっ、まだ焼き付いてないのに!」

「目に焼き付けるという言葉の意味をお前は一体どう理解してるんだよ。本当に焼きついたら視界に常に食べかけのトーストが広がるのか?そんなお腹が空く視界があってたまるか」

「……何それすっごく美味しそう!どうやったらそれ出来るようになる?」


陽はどうやら実際にそんな事になったらどうなるか想像していた様だが、そんな方法はもちろん知らない。それ以前に存在するわけないだろ……という言葉を内心で放ちながら陽を無視して洗面所へ向かい、歯ブラシを加えてリビングへ戻る。


「ねーねー教えてよーメロンパン焼き付けたいからさ!カレーパンでもいいかも……ねぇこれって飽きたら焼き直したりできるの?」

「知るか」

実際は歯ブラシを加えているので「ふぃるか」みたいに聞こえていると思う。


「アンタだって実はハンバーグとか焼き付けてるんじゃないの?好きじゃん!」

「なんだよ実はって……知るか」

「ケチ!減るもんじゃないのに!」


その声を無視して洗面所へ行き、口に水を運んで、ゆすぐ、吐きだす。リビングに戻る。そして陽に一言。


「そもそもそんな方法存在するわけないだろ?想像してみろよ。文字通り瞼の裏に何かがジュッと焼き付く光景を」

「瞼に……焼きつく……ジュッと……ギャー!焦げる焦げる!アンタなんてこと想像させるのよ!」

「お前が知りたがったから考えうる方法を教えてやっただけだよバーカ」

必要以上にリアルな想像をして両の瞼を抑えている陽。無駄に想像力が豊かな奴だ。


時計を見る。こんなくだらないやりとりをしていたらもういい時間になっていたので一人で悶絶している陽を放っておいて玄関へと向かう。

「んじゃ」

「おっ♪いってらっしゃい!」

母のいる食卓へ声を掛けると、何故か弾んだ声音の返事が返ってきた。


鞄を担ぎ、ローファーに足を突っ込んで家を出る。

「それじゃあおばさん、いってきまーす!」

いつの間にか幻痛から回復した陽も後をついてくる。


「いってらっぱぁ~い!」


玄関まで出てきたのはいいが母よ、なんだそれは。言葉だけ取ると女特有の身体の部位を最大限に活用した目に優しいだけでとっても寒いギャグにしか見えないのが残念すぎる。更に振り返ると、実際に前傾姿勢で胸を寄せるような仕草をしている母の姿が目に入ったが見なかった事にしよう。


そして、気を取り直して玄関を出ようと振り返ると、陽が同じようなポーズを取っていたのだが、これも合わせて見なかった事にしておこう。

 

 

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