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ラーニング(改訂版)  作者: ペンギンMAX
白銀の円盤編
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第六十五話 谷への入り口

 『渓竜の谷』とは、カルトゥーシュ帝国の南部で、ウセル共和国の北西にあたる地域である。

 周りには青々とした緑が目に優しい森林が広がり、生命力に溢れている。

 遠くの方では滝の音と、その水飛沫が醸し出す、イオン漂う心地よい空気が此処まで来る様だ。


 見渡す大地は、緩やかな起伏があり、小さな山の高さ程度の高低差が広がっている。

 その起伏の一部に、奈落の底に続くような深い谷間が1つあった。

 覗き込んでも底は見えず、何処までも奥深く続く亀裂はまるで地獄に繋がっているようだ。


 振り返ると、ヴィオラを残したベースキャンプが遠くに見える。

 こうして見ると、あの丘も回りの景色と一体化して来ている。

 眼前に広がる雄大な自然の景色が360度全てに広がり、際限なく広がっていくような錯覚を起こす。

 『渓竜の谷』と言う地域が、何処から何処まで・・・と言う線引きが出来難いと感じさせた。


 正直、何処からハッキリと『渓竜の谷』なのか区別が付かなかった。

 あくまで人間側が勝手に、目の前に広がる谷間辺りを中心に『渓竜の谷』と呼んでいるに過ぎない。

 歩きながら、谷に近付く道すらも警戒をしなければならないようだ。

 

 『渓竜の谷』を目指しながら、辺り一帯を注意深く見る。

 目に見える全ての景色が、ドラゴンの巣であり、庭であり、狩場であるのだから。

 現に【千里眼】を使って見ると、至る所に様々なドラゴン達が生息しているのが解る。


 【鑑定】を使用しながら、目に見える生物の名前を見ていく。

 空にはワイバーンやワイアームを初め、ムシュフシュと呼ばれるキメラのドラゴンが飛び交う。

 川や沼地に見えるのは水棲ドラゴンだろうか?

 イエロやパロロコンにウォータードラゴンが水浴びをしている。


 森の中で狩りに勤しんでいるのは、ナーガにナーガラージャといった蛇に似たドラゴンだ。

 こいつ等はドラゴンと言うよりは、蛇に近い姿をしているのが特徴的だ。

 といっても全長50mは在ろうかと言う巨体なんだけどね・・・

 竜と一括りにしていたが、色んな種類がいるんだなーっと感心してしまう。

 ただ・・・ワイバーンの方がよっぽどドラゴンらしく見えるのは考えないでおこう・・・


 ナーガ達に混じってはコモドドラゴンのような風体をしたアースドラゴンもいる。

 此方らも、その体の大きさが10mを軽く超えている。

 愚鈍そうな巨体の見た目に反して、意外にその足取りは軽く、素早い移動で獲物を狩っているのは圧巻だ。


 そして、一番驚いた事に地面の中にもドラゴンは居るのだ。

 地中を動き回るそれらは、ワームと呼ばれる下位ドラゴンで目も口も無いミミズ似た姿をしている。

 まあ、ミミズのようなブヨブヨした体皮ではなく、ちゃんと鱗があるからドラゴンなのだろう。

 彼等は土を食べ穴を掘り、食べた土を体内で鉱石に変え、掘った穴に撒き散らす習性があるらしい。


 実は、彼等こそ地中にある迷宮を作る張本人だったりする。

 彼らが掘った穴が年月を経て魔力溜まりになり、魔物を呼び寄せ何時しか迷宮へと変貌する。

 もちろん、全く違う誕生をする迷宮もあるが、半分位は彼らの掘った道が迷宮の発生原因になっている。

 しかし・・・彼らの残した鉱石(排泄物)が迷宮の宝だったとは・・・

 ヴィオラから聞いた情報は有益であるが故に夢も壊れていく。


 地中を蠢くワーム達も脅威だが、其の上位種に当たるリンドワームも所々に巣食っていて危険だ。

 リンドワームは穴を好んで掘る事は無く、蟻地獄のように獲物を待ち構えている。

 随分と暢気なドラゴンかとも思ったが、罠に掛かった獲物には容赦が無く非常に粘着質なので嫌な存在だと聞く。


 これ等全ては、ヴィオラの豆知識として教えてもらったものばかりだ。

 ただ、事前にドラゴンの予備知識を詰め込めた事は良かったと思う。

 知っておけば、危険をある程度回避する事が出来るだろうからだ。


 やはり、彼女を『ガイド』にして正解だったと思う。

 ヴィオラの知識が豊富だったのが幸いして、興味深い情報も聞けた。


 『ヴィオラさんの豆知識~』から聞けた貴重な話がある。

 大地を飲み込むかのように大きく口を開けた谷間には、ドラゴンが守る神殿があると言う。

 その神殿は白銀に輝き、谷の奥底にあっても自ら輝きを放って辺りを照らしていると言う。

 暗闇を進み、谷底の奥深くに行くと、その姿を見る事が出来るらしい。

 

 輝く神殿の屋根には、常に1匹のドラゴンが鎮座し、神殿を侵入者から守っている。

 そのドラゴンの名を【ファフニール】と言い、身の丈20mにも及ぶ巨体を持つ。

 漆黒の鱗に覆われた黒竜で、頭には4つの角があり、他のドラゴンを圧倒する威容だそうな。


 【ファフニール】のブレスは冷気を含み、一度浴びれば瞬時に凍りつき絶命する。

 爪はオリハルコンすらも砕き、鋼なら紙の様に切り裂く。

 二股に別れた尻尾は、縦横無尽の動きで侵入者を容赦なく粉砕すると言う。

 

 聞くだけで恐ろしい力を秘めたドラゴンだ。

 それだけに、大きな脅威であるが、其の分俺の期待も高まる。

 かつて神殿に入った者は誰一人としていない為、手付かずの財宝が眠っている可能性が大きい。

 つまり、今だかつて【ファフニール】を倒せた物がいない以上、何らかの結果が在り得る可能性があるのだ。


 それには、神殿内部に入り込まなければならない。

 内部に入るには、まず【ファフニール】と会うことになるのだが・・・


「お兄?不安?」


「ん・・・そうだな、不安じゃないと言えば嘘になる。でも行かなければ何も手に入れられないからな」


「うん、そうだねお兄・・・」


 俺達が目指す先には、【ファフニール】と輝く神殿。

 そこにこそ活路があると、俺達は僅かな可能性に掛けて突き進む。


 ヴィオラから聞いた神殿は、谷の奥深くにある。

 谷間に入るには、森の中を進み進入経路を探さなければならない。

 だが、生憎と谷底に行くまでの道順に付いてはヴィオラも知らなかった。

 

 だから取り合えず谷間を目指して黙々と歩いている。


「お兄・・・キツイよ~・・・」


「ああ、流石にこれは凄いな」

 

 谷に近付くにつれ、周りから突然威圧が感じられるようになってきた。

 既にドラゴン達のテリトリーに入っているからだろうか?

 侵入者に対して、気が付いたドラゴン達が威圧を掛けてきたようだ。


 相手からの攻撃に何時でも対応できるよう、俺は【レールガン】を、セフィリアは大剣を手に携えて臨戦態勢を取る。

 武器を構え、歩みも止めずに、常に警戒して進む行為は無駄に体力を消耗させる。

 じっとりとした汗が頬を伝わり、流石にドラゴンの聖域だと改めて感じさせる。

 

 手汗が出て、手に持つ【レールガン】の無骨な金属外装に、俺の流す汗の染みが出来る。

 今回、敢えて剣では無く銃に拘ったのには訳がある。


 剣や魔法では、ドラゴンにダメージを与えられ無いと言う事。

 ワイバーンとの戦闘において、俺は其の事を実感させられたからだ。

 出来るとしたらあの時のように、人では無い攻撃しか届かなかったのだから。

 

 人の身の丈を超えるドラゴンに対して、本来剣は届かない。

 出来たとしても、巨大なドラゴンの足元をチマチマ傷つける程度だ。

 如何足掻いても、ドラゴンの上体に剣を届かせる事は出来ない。


 あの時の・・・

 俺が発現させた異常な力を持ってすれば、跳躍して剣先を届かせる事も可能だろう。

 だが、届いた所で体の小さな俺が、剣をドラゴンの懐で振り回したとて決定打には及ばない。


 だからこその【レールガン】だ。

 【レールガン】なら超絶無比な破壊力を有した攻撃を、遠距離から確実に当てる事が出来る。

 あのドラゴンの巨体に対し、何処にでも攻撃を届かせることが出来る。

 手の届かない場所を、確実に狙える武器として此れほど有用な兵器はない。


 其の反面【レールガン】を扱うには大きな欠点が出来た。

 【レールガン】を放っている間、魔法を使用する事は出来るが、無詠唱とは言え一瞬動きは止まる。

 しかも両手で【レールガン】を持つので、刀で対処する事も出来ない。

 どうしても防御が疎かになるのだ。

 だから俺が【レールガン】で攻撃している間は、俺をセフィリアが守る事になっている。


 セフィリアの大剣は、全てヒヒイロカネで作られている。

 しかも、セフィリアの魔力を反映し属性も発揮できる優れものだ。

 属性を有した大剣は、セフィリアの気力も交えて放つと強大な一撃となって放たれる。

 少なくともドラゴンのブレスをいなす程度には強力だ。


 それと、大剣を盾変わりにすれば防御も可能だ。

 鎧に嵌め込んだ【魔法石】の効果も含め、武器と防具で防御を固めると、ドラゴンの一撃も何とか耐え切れる。

 【エリクサー】により常時回復出来れば、十分戦えると装備なのだ。


 周りからの威圧を受けながら、武器を手に俺達は更に進む。


 ただ、何故かは知らないが、威圧を向けては来るものの邪魔立てする気配はない。

 ドラゴン達は、俺達が視界に入ると、動きを止めて観察するようにジッと見詰めるだけだった。

 それでも、威圧だけは止める事無く続けてくる。


「お・・・お兄・・・なんでだろう?なんだよう・・・此の感じ」


「ああ、妙だ・・・」


 ルート荒野で戦ったワイバーンとは違い、観察ではなく監視するような視線が絡まってくる。

 時折、頭上のワイバーンが急降下して俺達に迫ってくる。


 俺は其の度に、手に持つ【レールガン】を構えるも打つ事態にはならなかった。

 必ず急降下途中で、ワイバーンを中位種であるワイアームが嗜めてしまうからだ。

 攻撃をあえてしない雰囲気に違和感を感じ得ない。


「・・・っく!何がしたい!」


 思わず悪態が出る。

 進んでも攻撃は来ず、威圧だけは掛けられる。

 そんな行進が1時間を越えようとしたその時。

 

「お兄!あそこ!」


 谷間の端辺りに差し掛かり、奇妙な物が見える事に気付く。

 セフィリアの指し示す方向に、谷へと降りる階段を発見したのだ。

 

「可笑しいぞ!何故階段なんだ?!それに・・・」


 只でさえ階段なんていう便利な物がある光景は異常なのに・・・

 此処まで進めた経緯もおかしかった。


 俺達はただ森の中を進んでいただけだ。

 ましてやドラゴンとの戦闘を避ける為、ドラゴンの数が多い所は避けて進んだんだ。


 それなのに・・・

 まるで誘われるかのように此処まで歩かされたように感じる。


「罠か?」


 そう思い辺りに気を配ると、既に帰路は絶たれていた。

 今まで動きを見せなかったドラゴン達が、此処に来て動きを見せたのだ。


「あ、後ろ全部囲まれてるよ・・・」


「そのうようだ。前に行くしかないようにされている」


「覚悟・・・決めるしかないね、お兄」


「それしかないよな~」


 俺達は、見つけた階段を暗闇に向って降りるしかなかった。

 

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