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ラーニング(改訂版)  作者: ペンギンMAX
白銀の円盤編
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第六十四話 渓竜の谷へ

 あの後、1日使ってよくよく話し合い、俺達は行動を開始する。

 案内をしているヴィオラだけは、今だに納得してはいないようだが・・・

 行き先が『渓竜の谷』に決まった事でヴィオラは不安で仕方がないといった顔だ。

 雇用関係にあるにも関わらず、俺達の心配が過ぎて納得しない顔をする。

 ヴィオラは、もうただの『ガイド』から逸脱して俺達の保護者のようになってきた。


「ドラゴンに挑むなんて馬鹿を止した方がいいわよ?だいたい子供がこんな危険な旅をしているなんて・・・怪我デモしたらどうするの?もっと考えて行動して……ブツブツブツ」


 道中、ずっとこんな感じで俺達を止めようとしたり叱咤したりと忙しい事この上なかった。

 イリスとは違った意味で、姉が居たらヴィオラのように叱ったり励ましたりしてくれるのだろうか。


 それでも俺達の決意は変わらない。

 だって、俺の願いもセフィリアの気持ちも、イリスが居ないと始まらないからだ。

 それに、どのみち一番イリス復活の可能性が高いドラゴンとの邂逅は避ける事は出来ない。

 後回しにするよりも、此処で先にドラゴンと出会い、可能性をまず掴む事が有益だと判断したのだ。

 

「ったく・・・それじゃあ早死にするだけよ・・・ほんっとうに言う事を聞かない子達なんだから・・・ブツブツ・・・ちっとは私の心配も気にして欲しいわ・・・ブツブツブツ」


 相変わらずブツブツと文句を言うヴィオラだった。

 言葉では俺達を止めようとしながらも、『ガイド』の責任感からか、ヴィオラは確実に『渓竜の谷』へと案内してくれている。


 森を抜け、山を登り歩く事数日。

 ようやく小高い丘の上から、『渓竜の谷』が見えるところまで来た。


 この辺はカルトゥーシュ帝国の南部で、ウセル共和国の北西にあたる地域だ。

 広大な支配地域を持つ帝国の版図ではあるが、実際には『渓竜の谷』を管理出来ていない。

 此処だけは人の干渉を全く持って受け付けない、ドラゴンが生息している場所だからだ。


 『渓竜の谷』の周りには人々が住む村々もあり、其処は帝国の支配が及んでいる。

 其の為、『渓竜の谷』は帝国領内に組み込まれてはいる。

 だが、人が入り込めない理由から、『渓竜の谷』は迷宮扱いになっている。

 支配出来なくとも領地になっているのは変な話しだが、国の広さを確保するにはこう言った言い訳もするのだろう。

 国境が広がるほど富みも多くなる。

 外交にも影響する分、支配できない『渓竜の谷』を帝国版図に組み入れているのは何となく解る気がする。

 

 そうそう『渓竜の谷』を訪れる人は滅多にいない。

 人間ごときが足を踏み入れることが出来ないからだ。

 誰が好き好んで、無敵のドラゴンに挑むというのか?

 稀にドラゴンスレイヤーに憧れた無鉄砲な冒険者や、伝説の勇者が訪れるそうだが、それ位しか此処を訪れる人は居無い。

 

 此の世界でドラゴンは神にも匹敵する超生物だ。

 俺が倒した【ワイバーン】ですら竜族の下位も下位。

 竜族にとって末端のアリんこのような存在なのだから。


 そんな人では対処できないような超生物が巣食う谷こそ『渓竜の谷』だ。

 故に此の『渓竜の谷』は人の訪れることの無い竜族の聖域となっている。


 さて、丘の上から見える『渓竜の谷』は実に広大で、その威容を感じさせる雰囲気がある。

 遠くからでは在るが、上空を優雅に旋回する飛竜が見て取れる。

 まさにドラゴンが住み、誰からの干渉向けつけない聖域としてプレッシャーを放っている。


「本当に来てしまったわね・・・」


 ヴィオラが、丘を眺める俺に向って、諦めたように溜息混じりに呟く。

 振り返ると、本当に肩を落とし溜息を吐いていた。

 どんだけ落胆してるんだよ?

 つい突っ込みを入れたくなる俺だった。


「そうね、来たったからどうしようもないわよね・・・仕方が無いわよね・・・仕方が・・・」


「ええ、仕方が無いですよ。此処には必ず俺達の求める物があるはずですから」


「うん、セシリーも前に進むには避けてはいけない場所だと思うの~」


 事此処にいたってヴィオラは俺達を見送るしか出来ないと悟ったのか?

 ヴィオラは愚痴ではなく、俺達を送り出す言葉伝えてくれた。


「ハァ~~~もう何も言わないわ。その代り生きて戻って来なさい。危険だと思ったら形振り構わず逃げる事?良い?良いわね!?絶対にそうしてね!貴方達が死ぬなんて・・・嫌なんだからね!」


 デレちゃったよこの人は・・・

 仕事とか任務とかあったんじゃなかろうか??

 良いのか、こんなにデレて?

 

 ヴィオラは多分、何かしらの意図を持って俺達に近付いて来た筈なのに。

 一緒に過ごし、情が移ると人って言うのは変わるもんだなと思う。

 だから俺はヴィオラの言葉を肯定することにした。


「ええ、そうしますよ」


「絶対よ?」


 再度念を押して来るヴィオラは、なんかイリスよりも上のお姉さんのように感じられた。

 イリスの上に姉が居たら、こんな感じなのかなと思ってしまう。

 つい、イリスの居なくなった心の穴を埋めてくれているようで無下にも出来なくなる。


「絶対にそうしますから。それじゃあ、今回はこの辺で待機していて下さい。ですが10日経っても戻らなかったら、ヴィオラさんだけで帰国して下さい。絶対に俺達を助けには来ない事。お願いしますね?」


「ええ、解っているわ」


「では早速此処にベースキャンプを設置します。食料や水、生活に必要なものは20日分用意します。保存食は10日分をリュックに用意し、一応今日までと帰国までの日数に応じた報酬も置いておきます」


「・・・今日までの報酬で良いわよ・・・それよりも無事に生きて姿を見せてくれる事が報酬じゃダメ?」


 まったく・・・人が良いにも程があるよヴィオラ。

 アドルフを思い出して涙が出そうになる。

 あんな思いは二度と経験したくない。

 だから・・・ヴィオラは死んで欲しくないと切に思ってしまう。


「約束はしません。でも、俺達だって死ぬつもりで挑むわけでもありません。それに・・・俺だってヴィオラさんを危険な此の地に置いて行くのは気が引けるんですから。だからヴィオラさんこそ万が一の時には、無事帰国して欲しいんですからね?」


「セシリーからもお願い・・・ヴィーたんは絶対に無事に生きて欲しい!だから私たちを気にせず、10日経ったら国に帰ってね」


「もう・・・そんな事を言うから私は・・・仕事と割り切れなくなるんですよ・・・」


 ヴィオラは涙ぐんで俺達を抱きしめ、無事を祈ってくれる。

 一頻り別れを惜しむと、俺はベースキャンプの設置に取り掛かった。


 まずは丘の中腹に穴を開ける。

 穴を開ける作業といっても、直接手で掘り進むわけではない。

 実は【雷魔法】の取得成果が、俺にこういったことを可能にさせていた。


 【雷魔法】といえば、サンダーやライトニングなんかの雷がドカーーーンといったイメージが普通だろう。

 俺もそう思っていた。


 だが、実際に雷をイメージして魔力を使用すると、違った効果を発揮する事を見出したのだ。

 その見出した効果を利用したのが【レールガン】であり、電気を操る魔法なのだ。

 ちなみに此処までの道中で【レールガン】は完成を見た。


 【レールガン】の構造はこの際省くが、仕組みとしては至極簡単なものだ。

 前世では実現兵器に持っていくのに邪魔をする色々な問題がある。

 【レールガン】の構造を支える素材とか電力量とか諸々の障害により、理論上の性能が出せずにいるのだ。

 そんな諸問題も、此の世界において解決する事が出来た。

 なにせ、【オリハルコン】に【ヒヒイロカネ】、更に【雷魔法】が揃っているのだから。


 本来、俺としては銃を作りたかったのだが、普通の火薬銃の威力では到底ドラゴンを倒せない。

 それに今までのようにイリスもいないので、回復役抜きの戦闘を考慮しないといけない。

 だから近接戦闘によるリスクを少なくして、遠距離から広範囲に、しかも安全な攻撃方法を模索したのだ。


 イリスノように弓による攻撃も考えたが、今更弓術の取得や経験を積むには時間が足りない。

 じゃあ【レールガン】なら良いのかと言えば、構造の問題を考えるとこれまた問題はある。

 でも、威力や距離、扱いやすさを考えると弓よりは遥かにいいと考えたのだ。


 もちろん【レールガン】の仕組みは、前世の物とは随分違っている。

 核になる弾丸を打ち出す仕掛けは【エクスプローション】の爆発魔法を応用しものにしたし、電気は魔法だ。


 【エクスプローション】の爆発により、初動を得た弾丸は2極の電流が流れるライフリングを通じ加速を行う。

 速度表皮効果なる問題もあるようだが、俺にそんな部分は検証出来る訳も無く・・・

 ただ打ち出される威力で判断するのみである。


 出来上がった【レールガン】は本来の仕組みとも違うし、【魔法石】による補助効果も付けてある。

 だから一応は【レールガン】になっていると、自分で勝手に名付けているのだけだ。


 後、発射時に伴う膨大な砲身の熱を冷ます物を取り付けるのも苦労した。

 魔法石を利用し排熱を効率よく出来るまで何度も繰り返し試行もした。

 電気の大きさと砲身の長さ、冷却の方法、色々試行錯誤した結果、やっとこ其れ相応の物ができ上がったと自負している。


 打ち出される弾丸は、薬莢無い弾頭だけになる。

 これは当たり前なのだが、【エクスプローション】式発射方法なので当然といえば当然の結果だ。

 もちろんコアは【オリハルコン】で作り、メタル・ジャケットは【ヒヒイロカネ】だ。

 贅沢といわれようが、相手がドラゴンを想定しているのである。

 あの高硬度の鱗を貫通しなければ意味が無い。


 出来上がった此の世界の【レールガン】はバレットM82に近い姿をしている。

 違う点は砲身の長さと、砲身の周りを覆う冷却フレームが付いている所だ。

 もちろんこの作成には【アルキメイト】が多いに役立った。


 生まれ変わった【アルキメイト】は、俺の意思を反映して勝手に作り上げてくれる。

 最近思うのだが・・・【アルキメイト】は何処から構造情報を抽出しているのだろうか?

 俺の頭の中には全くそういった知識はない筈。

 どこか俺の知らない世界と、勝手にリンクしていそうで怖い。


 さて話が逸れ過ぎた。

 俺は陸の中腹に降り立ち、必要な事をサッサと済ます。


 丘の土に手を触れ、電気をイメージする。 

 更にその先の電子をイメージすれば、物質の結合や分解まで理解出来るようになる。

 電子結合を知る俺ならではの、特別な魔法効果かも知れない。

 だってこの世界ではだれも原子なんて知る由も無いのだから。


 まずは土の構造を【トレース】する。

 これも【雷魔法】で出来るようになった新たな魔法の1つだ。

 【トレース】し、其処から来る情報を元に土を分解していく。

 分解しながら、イメージした空間を作るように、邪魔な土砂は空間の壁になる部分へと引っ張っていく。


 引っ張り終わっても、まだ空間は広がっていない。

 土自体が無くなる訳では無いのだから。

 だから、壁に引っ張った土を圧縮するようにして高密度の石へと練成しなおす。

 此れが出来るのが【雷魔法】により新たに見出した力だった。


 満足いく手応えと共に、目の前には丘の中腹から真っ直ぐに伸びる通路が出来上がる。

 中に入ると直径20m程の空間が出来あがっていた。

 俺は更に出来上がった壁に手を当て、【雷魔法】と【アルキメイト】を併用して外の光を取り込める穴を幾つか繋げる。

 

 すると、真っ暗だった空間に光が差し込み、生活出来るに十分な場所が出来上がった。

 そして出来上がった空間の中央にコテージを設置し、必要な物を【アイテムBOX】から取り出し置いていく。

 ベースキャンプの設置が完了したらフヴィオラを呼んで、別れの言葉を交わした。


「では、此処で待機していてください。必要なものは用意しておきましたから・・・」


「うん」


「それと此れを」


 俺は【アイテムBOX】から小さな指輪を取り出し、ヴィオラに預ける。

 不思議そうに指輪を眺め、俺の言葉を待つヴィオラ。


「此れは【結界魔法石】を使用した【守りの指輪】です。まあ名前は俺が付けたんですけどね。此れは指に嵌めると装着者の魔力を吸い上げ、小さいながら結界を発生させます。そうすれば此処から退去する時に道中安全に帰る事が出来るでしょう。どうか受け取ってください」


 指輪の機能を説明すると、驚きに目を見開き指輪を返そうとする。


「いやいや?えええ!こんな高価なもの受け取れないわよ!って言うか私の報酬全てでも足りない位の貴重品よ??そんなのタダで受け取るなんて出来ないわよ。それに・・・貴方達が帰って来ないって言う前提みたいで受け取れないわ!」


 必死に突き返してこようとするヴィオラに、俺は再度説得を試みる。


「いや、流石に俺だって万が一を考えますよ。ヴィオラさんの身の安全をを思えばこそのアイテムです。それに俺達はヴィオラさんに感謝の気持ちで一杯なんです。こんな俺達に親身になってくれて・・・だから使う機会があるなしに受け取ってください」


 誠心誠意に言葉を掛けると続けること数十分。

 受け取る受け取らないの欧州が続いたが、ようやく指輪を受け取るヴィオラ。

 渋々ではあるが指輪を受け取ってくれて、俺も一安心する。

 俺は安堵して、本当に最後になるかもしれない別れをヴィオラに切り出した。


「じゃあ、一応・・・その・・・お元気で」


「・・・そんな言葉は嫌よ・・・」


「でも、今回は何時もとは違「一緒よ!」って・・・」


 俺の言葉を遮り、ヴィオラは真っ直ぐに俺を見詰めて言ってくれた。


「何時もと同じなんだから、此処は『いってきます』でしょ?そう言ってくれない?今までと同じくっね♪」


 俺は何とも言えない感動を受け、ヴィオラの気遣いを受け取ることにした。

 こんなに優しい時間は久しぶりだ。

 改めて感謝を込めて別れの挨拶をする。


「分かりました。じゃあいってきます!」


「はい、いってらっしゃい!」


 セフィリアも同じく『行って来るね~ヴィーた~ん♪』と元気良く挨拶してコテージを後にする。

 去り行く俺達を見えなくなるまで手を振って送るヴィオラ。

 其の姿に絶対に生きて返ろうと、『渓竜の谷』へと向う。


 其の先にどんな結果が待っているかを想像して。

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