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第五十四話 アトロンとティアーナ

やっと活動再会

「とうとう始まったか・・・」


 幾世層の時を繰り返し、幾世層の終末と創造を体験しても、尚まだ確信は持てない。

 私の記憶はまだ書き換えられることは無く、ただ一縷の希望のみが魂の奥底から覗けるアカシックレコードに期待を込めて視線を向ける。


 この世の全てを記述しているといわれるアカシックレコード。

 ただし、これは此の星や此の世界のものでは無い。

 唯一無二の存在たる神の為に存在するものである。


 神を中心に書き記された内容は、大きく私達を束縛する。

 人では無く、神を記載するアカシックレコード。

 その記述を確か見ながら、此処にやって来ただろう愛しく憎い存在に声を掛ける。


「今だ終末の記述に変化はないね~ティアーナ」


 不意に囁かれる言葉に、もう1つの声であるティアーナが反応する。


「ええ、アトロン。まだ私達の始まりと終わりに変化はないわ」


 そう、私達のような神々は、上位神である3神の運命により、全て決まっている。

 母であり父である3神より生まれ出でた私達には、決まった道しかない。

 3神の意思が反映された決まった運命にただ寄り添う存在。


 神と呼ばれているが全知全能ではない。

 其々の神が干渉しあうことで、其々の思惑が絡み合い思う通りには事が進まない。

 それに・・・


 所詮は3神が描いた物語に協力させられている存在である以上、大きく何かを変える力はないのだ。


 神と言う存在は、世界の始まりから終わりまで全てを知っている。

 と言うよりも、全ての連続した時の流れの、何処であろうとも意識を移動できる。

 アカシックレコードを頼りに必ずその時その場に姿を現すことできる。

 

 例えるなら小説の始まりから終わりまで手にとって眺めているような状態だ。

 ただ其れだけには止まらないのが世界と神と言うもの。

 自分が行きたいページを捲り、その文字を多少なりとも修正や加筆することは出来る。


 神の奇跡とはまさに其の事で、加筆や修正した内容が小説に反映さる。

 ただし、そんな些細な私達の行為も、所詮はアカシックレコードによる予想の範囲内でしかない。

 それこそが上位神たる3神の手の平にある証拠であり、物語を全て変える力がないことを示す。


「今だ私達は何も成せていない。でも可能性はあるわ、この邂逅は今までに無い出来事よ」


「そうだねティアーナ。確かに結末は変わってはいない。でも・・・アカシックレコードとの食い違いが生じ始めている」


「ええ、そして変化に対して対応が追いついていないわ」


「そう、今起こっている出来事が此れからの未来にどんな変化を起すか?アカシックレコードが読み切れていない」


「ええ、其れこそが私達の望み」


「そう、其れが私達の願い」


 2人の神の声が唱和する。


「「そう、これこそが母と父なる3神の願いにして私達の使命」」


 更に声は唱和を続ける。


「「だからこそ祈る。生命の母たるモルタ様の苦悩を取り去り、創造の母たるノナ様の慈愛を広め、時の母たるデキマ様の願いを叶える為に!!」」


 アトロンとティアーナは暫く沈黙する。

 唱和による意思の統一が図れたからか、それともお互いの思考にずれが生じたのか?


 不意にアトロンが話題を変えてくる。


「ところでティアーナ。あの子には何をしたんだい?」


「ふふ、アトロンも気になるのかしら」


「大いに気になるね~ 何せモトが経緯を知った上で、ティアーナの為に頑張ってるんだから」


「其れを言えばあの子も同じじゃないかしら?かなり御執心の様子じゃない?嫉妬しちゃうわよ・・・憎いくらいに。それに力を2つも与えて・・・それも私があげたように錯覚させてるし」


「はははっははは、そうだね。2つもあげたよ?でも私だってモトが憎いよ。君の勇者なんだから」


「ええ、私も憎いわよラルスが。」


 会話が進むにつれて、空間に緊張が走る。

 愛情と憎しみ、両方の感情が入り混じった複雑な気配。

 それが空間を満たしていく。


「狂おしい程に愛しくて憎い貴方・・・」


「ああ、私もだよティアーナ・・・憎悪と愛に引き裂かれそうだ」


 暫くまた沈黙が訪れる。

 得も言われぬ空気のやり取りの中時間だけが過ぎり。

 暫く後、溜息と共にティアーナが声を発する。


「よしましょう、私達には何も変わらない。此のありさまが改善される未来がまだないわ」


「そうだ・・・な・・・ティアーナ」


「それにしても、ラルスに経緯を教えず、ただ成り行きに任せるなんて、また大きく賭けに出たわね」


「ああ、彼はイレギュラーだ。だからこそ経緯を知らせない方が良いと変更してみたんだよ」


「そうね、彼は本当にイレギュラーだわ」


「ああ、全てを見、全てが知れる私達が、地球に行ったからと言って何かが変わることなんて無いはずなんだ」


「ええ、私達が何度もモトで試行錯誤することに疑問を思い、貴方の発案で異世界召還を行おうと行って見ただけなのに・・・」


「そうだ、本来ならちゃんと移転でき、素材になる人間を探すはずだったのに」


「アカシックレコードに無い事態が起こったのよね」


「そう、移転先で私達の顕現に巻き込まれて死ぬ人間など居る筈がないんだ」


「其れなのに彼は私達にの顕現に巻き込まれて死んだ」


「そう、死ぬはずの無いものが死んだ。其れこそが私達が望むイレギュラー」


「だからこそ彼を此方に召還したわ」


「・・・まあ私達の夫婦喧嘩に巻き込まれたと言う嘘を言い訳にしてね」


「そして、彼に自ら何かを要求するように話をもっていったのよね」


「ああ、彼の望みがかなうように仕向けてね」


 此処まで会話して、ふとティアーナから苦笑が漏れる。

 其れと共に2人の間にあった異質な空気も無くなり、ただ会話のみが続く。


「それにしても名演技だったわよアトロン・・・クスクス」


「そういうなティアーナ。彼の思う通りにするにも、此方が渋々従ったと思わせた方がイレギュラーな要因が増えるじゃないか」


「ええ、其の通りだったわね。彼がこっちに来てからアカシックレコードが未来を変更記述するのに相当の時間が掛かっていたもの」


「そう、未来を変えない為にアカシックレコードは無理やり事象を捻じ曲げすぎた」


「其れを見て私は全てを伝えに、モトに出会う前に移動して全てを教えたの」


「その結果がこれだ」


 2人の視線は、突如現れた映像に吸い込まれる。


「まさかノナ様の神殿がこんなにも早く出現するなんてね」


「ええ、しかも巫女の封印がまでが解かれて・・・100年は歴史の修正が必要よ」


「そこにティアーナの思惑が絡んで、モトの行動となったわけだ」


「ええ、此処からが見ものよ。何せ彼は3神を憎んでいるもの」


「・・・おお!!怖い・・・君の憎悪が固まっているようだ」


「ふふふ、私は貴方よりも情が深いのよアトロン・・・」


「肝に銘じておくよティアーナ」


 再度映像に目をやり、アトロンは呟く。


「ああ、此れからどうなるか・・・ラルスよ、私に希望を見せておくれ。今はまだほんの一時だけ未来が見えない。こんなにもワクワクするなんて久しぶりだよ」


 アトロンの側にはもうティアーナはいない。


 ただ、映像が流れ、アトロンの興味だけが注がれていた。

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