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第五十二話 魂の叫び

 何時からだろうか?

 私がラルスに恋したのは。

 何時からだろう、私がラルスを本当に愛するようになったのは。

 何時からだろう、ラルスと一緒にず~っと生きて生きたいと思うようになったのは・・・


 物心付いたときから側にはラルスが居た。

 ラルスに出会うまでは、ずっと暗い牢獄のような部屋で、何時も1人で過ごし母の帰りだけを待つ生活しかなかった。

 誰もいない薄暗い生活の中、私の心は閉塞し気が付けば見えるもの全てが灰色に染まっていた。

 そんな灰色の世界の中に居た私に、初めて色を放つ存在が表れる。

 それがラルス、私の可愛い愛する、手間の掛かる弟だ。

 

「アッキャキャキャ」


 フフ、可愛い。

 無邪気に笑う笑顔が何ともいえない。


「バウゥバアアア」


 体を触ってあげると、凄く喜んだ声を出し、だらしない顔をする。

 今思い出すと明らかにおっさんの顔だったが、当時は喜んでいるとしか思わず笑わせることが嬉しかった。


 私を見て手を伸ばしてくる赤ん坊のラルスを見て、灰色だった私の世界に色が付くようになる。

 替えるオムツも汚い布なのに、ラルスの為の大切なものに見えた。

 トントンとあやしていると安らかな寝息を立てて眠るラルス。

 その寝顔を見ていると、ラルスの寝ている藁にも色がある事に気が付く。


 私は、ラルスのお陰で嬉しさと楽しさ、安らぎを覚えるようになった。

 ラルスの世話をして半年、今度は妹が出来た。

 可愛いく愛くるしい小さな生き物は、更に私を幸せにしてくれる。


 ラルスが私の側に来てくれてから、私には世界に色が付き妹まで授かった。

 そう、私にとって世界とはラルスを中心に始まっていたのだ。


 やがて大きくなるにつれて、ラルスは男の子としてスクスク育っていく。

 男の子のラルスは実に優しく頼りがいがあり、どんどん私はラルスに世界の全てを見るようになる。


 盗賊の襲撃があって、母を失い魔物の群れる森で生き抜く日々の中、私を支えてくれたラルス。

 天孤と対峙して死を覚悟したのに、ラルスによって助けられたあの嬉しさ。

 ラルスは私にとって、正に白馬の王子様になった。


 ずっと一緒に暮らし、一緒に寝てラルスを感じたい。

 だから私は姑息な手段をとる。

 本当はキリエでアパートメントを借りた時、ベットを男女で分けようと言ったラルスを押し切り一緒に寝る為に1個で良いと叱ったのだ。

 もちろん言訳は節約の為。

 姉である私が強く出れば、意を曲げてでも私の意見を聞いてくれるラルスの優しさに付込んだのだ。


 そして幸せな日々が続く。

 一時、私以外の女性がラルスの側に来た時には、初めて黒い感情を覚えた。

 絶対に其の位置は譲れないと言う思いと、私以外の女性がラルスに近付くなと言う怒りが渦巻き、どうやってその想いを表現して良いかわからず監禁したのも良い思い出になった。


 暫くしてラルスに言い寄る女性が少なくなると、私の気持ちも落ち着き嫉妬に狂う事もなくなる。

 セフィリアが側に居てくれたのも大きいと思う。

 薄々気が付いてはいるけど、セフィリアもラルスを男として好きになってきていると感ずいている。


 嫉妬を覚え、少し恋する気持ちが解ってきた私にはセフィリアの思いも解るようになった。

 だから、何時かセフィリアとはキッチリと話しをして、今後どうする事が一番良いかを2人で相談したいと思うようになっていた。


 それから、アドルフさんが亡くなり。

 ドリスさんが傷つき。

 2人の関係の終わりを見て、焦りを覚えるようになる。

 何時か人は死ぬ。

 だから一緒に居れる内に言葉と思いを伝え、幸せを掴むべきだと。


 でも、どうしても言い出せない。

 ラルスも私を好きでいてくれているとは思う、只この3人の関係が変わってしまうのが怖いと言う気持ちもあった。

 ずるずると言い出せないままルート荒野に来て、生死に関わる戦闘を終えた後、私は部屋に帰ったら自分の思いをラルスとセフィリアに伝えるつもりだった。

 そう、だったのだ。


 『後悔しないように生きなさい』


 あの言葉の意味を今理解した。


 モトの攻撃が私を襲い、ラルスが身を挺して助けてくれた筈の私が、今はラルスの背中越しに自分自身を見詰めているからだ。

 

「がああぁあ・・・イリ・・・ス姉・・・イ・・・リ・・・」


 血を流す私の体を抱きしめ、震えているラルスの背中を見ていると胸を締め付けられる思いだ。

 私が知っているのはパステルさんの死とアドルフさんの死だけ。

 それもパステルさんしか目の前で死ぬ姿を見ていない。

 

 でも、ラルスは違う。

 少なくとも愛されていた3人の母親の死を目の当たりにしている。

 そして、今は私の死を見たのだ。


 あれだけ頼り甲斐があって男らしく強いと思っていたラルスの背中が小さく見える。

 無駄な事とは思いながらも、ラルスの背中に近付き抱きしめてみた。

 でも、やっぱり触れることは出来ない。

 ラルスの体をすり抜ける私の手が虚しく宙に浮かぶ。


 私はラルスに触れられなかった手を眺めてぼんやりとしていたが、徐々に悲しみと悔しさが込み上げてきた。


 私はもう、ラルスの側に居られない。

 私はもう、ラルスに触れられない。

 私はもう、ラルスに名前を呼んでもらえない。

 私はもう、二度とラルスと添い遂げられない・・・


 沸き起こる悲しみと後悔に潰されそうになる。

 肉体が無いのに涙が出ているのが解り、顔を手で覆いその場に崩れ落ちて大声で泣いた。

 

 何で死ななきゃいけないの?

 何で今死んでしまうの?

 何で何で!!


 幾ら泣いても声は誰にも届かない。

 それでも私は必死にもう一度ラルスに気が付いて欲しくて声を上げる。


『ラルス!!私は此処よ!!私を見て!!私に気付いて!!!』


 泣き叫ぶ私の声は結局誰にも聞こえなかった。 

 誰にも気付かれず、そして一番気付いて欲しい人に無視される悲しさに私はただ泣く事しか出来無かった。


『ったく、相変わらずラルス一筋だなイリス』


 ふと懐かしい声が聞こえる。

 そう、私達に初めて優しくしてくれた人。


『アドルフさん?』


『そうさ、俺だよ。久しぶりだなイリス』


 声の先を見るとアヒムがいる。

 まさかと思ってよく見ると、死ぬ前には見えなかったアドルフの懐かしい顔が鎧の下から見え隠れしていた。


『あああ、アドルフ、どうして?・・・あああ、私死んじゃった。死んじゃったの・・・』


『すまねーな名乗れなくってよ。でも事情があんだわ、今は話せねーがな』


『事情?』


『まあなんだ、その辺はアリスが言うさな~でよ、その事情ってのを利用すればイリス、お前を何とかできるかもしれない』


『え?なんとかって私生き返れるの?』


『ああ、何時かな・・・でも今は無理だ。即死してるからな、でも諦めたらダメだぜ?』


『でもでもでも、どうしたらいいのよ?!』


『それは、アリスに頼むしかねーんだがな~』


 アドルフの言葉にアリスの方を見る。


「イリス・・・こんな事になってしまって申し訳ありんせん・・・」


 アリスは戦闘中に関わらず私の側に来てくれる。

 そして徐に私を優しく抱きしめて、そっと慰めるように言葉を掛けてくれた。


「イリス、多分貴方は普通の方法では生き返ることが出来ないでありんしょう。でも私がお手伝いしんす。だから今はわっちの言葉に従うっておくんなし」


『従うわもちろん!!生き返れるなら何でも聞くわ!!』


「そうでありんすか・・・苦しいかも知れんせんよ?結局ダメかも知れんせん・・・それでも良うございんすか?」


『ええ、構わないわ!』


「では、わっちがイリス、貴方に呪いを掛けいんす。1年の内にこの呪いを介して魂を肉体に戻す方法を探すのでありんす。ラルスにはわっちが伝えるよって、どうか耐えてくんなまし」


「ええ、お願いするわ」


 こうして私は、アリスの力により魂を魔石の中に封じ込められた。

 小さな結晶に入り込み、誰にも触れられず、誰にも見られない状態で過ごす苦痛に耐えなければならない。

 1年・・・

 其の間にラルスにもう一度名前を呼んでもらうまで私は此処でラルスを見続けることになった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 息をしていないイリス。

 その体を離す事が出来無い。


 今まで当たり前に、至極当然の如く側にいたイリス。

 俺は自分の年齢とか前世とか色々な感情によってイリスの好意を知りながら、なあなあで過ごして来た。

 何時でもイリスと話せる。

 何時でもイリスは俺の側で笑ってくれる。


 俺はそのことに甘えていたのだ。

 目の前で力なく抱き抱えられているイリスを見て、俺は自分の浅はかさを呪う。


「ああ、そうだ。気絶しているだけかもしれないな。まずは傷を塞ごう、そしたらまた目を覚ますよねイリス姉」


 俺は慣れ親しんだ行為で魔力をイリスの体に通す。

 だが、イリスの体に魔力は通るもイリスの体は反応しない。

 嘘だろ?


「ハッハハハ、イリス姉・・・冗談はよして俺の治療を受けてくれよ」


 再度魔力を通すも反応が無い。

 俺は狂ったように魔力を通し、俺の細胞を使ってイリスの体を元に戻す。

 肉体としての分子構造だけなら再生など容易い。

 魔力と俺の細胞を使えば【アルキメイト】で問題なく作り出せる。


 そうさ、何も問題ない。

 【アルキメイト】がアイテムにしか有効でないなど知った事か。

 現にイリスの体は治っている。

 問題ない・・・問題ない・・・死体がアイテムとして認識されているなど思いたくも無い!!


「ふむ、その女は加護を持っておったようだな。俺の攻撃で即死したのにまだ死からは遠い。ならばお前が力を持っているのかな?」


 俺に確認するように話しかけてくるモト。

 五月蝿い奴だ、今は俺に構うな。

 俺は忙しいんだ!イリスを起して帰るんだから。

 アパートメントに行って、俺はイリスの言う事を何でも聞くつもりなんだよ!!


 必死に肉体が再生したイリスを抱き抱えて起こそうとする俺。


「無駄な事だ。直ぐには魂が離れなくともいずれ完全な死に至る。しかし呆気ないものよ、人は大いなる力を持っても、大切な者を失えば脆いものだ。何時見ても変わらぬな」


 モトの言葉が俺を苛立たせる。

 イリスはまだ死んでいない。

 なのに死ぬとかふざけた事を言う。


「現実を見失ったか、興ざめだ。ラルスよ。お前もろともその女を消し去ってやろう。あの世で一緒になるが良い」


 モトが無表情になって右手を前に突き出し指を鳴らそうとする。

 其の仕草に俺は明らかな敵意を持ってモトを睨む。


 誰がイリスを殺した?

 モトだ。


 誰がイリスを奪う?

 モトだ。


 誰が俺をこんなに苦しめる?

 モトだ。


 誰が我の復讐を阻む?

 モルタだ。


 誰が我を裏切った?

 デキマだ。


 どうすればモトを殺せる?

 我の力を解放せよ!!!


 俺は自分自身の思考から逸脱し、何時しか知らない誰かの考えに賛同していた。


「ぬっ!ノナめ!意識の片鱗を力に加えておったのか!!!」


 モトが驚愕と共に演出掛かった仕草をやめ、即座に【マイクロブラックホール】を放つ。


 今まで黙っていた面々も、俺に向って何かが放たれたことが解り回避の姿勢をとる。


「お兄!!」


 セフィリアの悲壮な叫びが轟く。

 俺はイリスをゆっくりと地面に横敢えて、モトに向って立ち上がる。

 瞬間!

 俺の腹に黒い渦が表れ【マイクロブラックホール】が俺に襲い掛かってきた。


 このまま死ぬのか?

 否、我にその身をゆだねよ。


 どうすればいい?

 考える事をやめよ、ただ本能に従え!!


 俺は声に従い理性を放棄し、本能の赴くままに其の実を動かす。

 憎い!!

 憎い!! 憎い!! 憎い!! 憎い!!!


 食らってやる!!!

 全て食らって殺してこの償いをさせてやる!!


 俺は後先考えず【1尾妖魔黒曜】を唱え、雷魔法LV10にある【創世万雷】を解放し【異界の融合術】を施す。


 モトの黒い渦が俺の腹の中で暴れるているが其れすらも取り込んでいく。

 次第に変貌する俺の姿は、もう人ではなくなっていた。

 取り込んだワイバーンの効果か肉体は崩れる事無く強化され膨れていく。


 そして、その場にはこの世の物とは思えない者が現れた。

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