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第五十話 力と加護

 光に包まれてから、目を開けるまでに数秒。

 一瞬の事で事態を正視出来無かった事を悔やむ。


 こういった事態で目を瞑るなど死を意味する。

 トラップに引っ掛かり状況を飲み込めないまま対応に遅れるなど馬鹿も良いところだ。

 一応、何も反応や気配が無いだけ有難かったが、痛恨の極みである。


 俺は目を開けた途端、余りの眩しさにまた目を閉じる。

 そこからゆっくりとまぶたを上げ、眩しさに耐えながら辺りを見渡す。

 そして、いち早く回りを確認して巻き込まれたイリスとセフィリア、それとアリスを探す。


「イリス!、セフィリア!いるか?アリス!何処だ?!」


 目の前に広がる光の空間。

 目を細め、手を翳さなければ目を開けることが出来ない。

 トラップでの攻撃や罠の可能性が無い事が確認出来たので、皆の無事を確認する為に声を上げたのだ。


 だが、俺の声に反応するものは何も無い。

 精神を集中するも、イリスやセフィリアどころか人の気配が皆無だ。

 ただ光だけが俺を包み、何者の干渉をも遮るように光り輝いている。


 もしかして異空間に転移させられたかと警戒する。

 あたりの状況が解らないまま、俺は戸惑いを覚え始めた時。


『我が試練を越えし者よ!!』


 突然聞こえる女性の声。

 何処かリーマン神に似た懐かしい声が響く。

 だが、リーマン神よりも威厳があり、人を平伏させられるだけの力も感じる。

 そして何よりも女性の声が、リーマン神と大きな違いを感じさせる。


 またなのか?

 俺は神との邂逅を思い出す。

 もしかすると、また違う神との接触をしてしまったのか。


『我が試練の時に、居合わせた者よ!!』


 ん~~テンプレ上等な言葉だ。

 威厳を感じさせる声に普段なら畏まってしまうであろう俺。

 でも、なぜか言葉の内容に心の中で笑ってしまった。

 そして余裕が出来てきた。


『我、試練を越えし者に力を居合わせたものに加護を授けん』


 余裕が出来ると、思考も回る。

 そして声の雰囲気に疑問を感じる。


 おかしい、っと。


 どうも会話しようと言う雰囲気が無い。

 もしかすると自動的に声が聞こえ続けるだけのような気がする。

 俺は、警戒心を上げながら声に耳を傾けた。


『願わくば我が力を授かりし者によって、此の世界に我が力が示されん事を。そして、其の力をもって世界に混沌が招かれん事を!!』


 何とも物騒な話である。

 俺が此処で得た力を持って、何かをさせようとしているのか。

 そんな事に俺は関わりたくない、だから俺はダメ元で声に対して聞いてみる。


「誰かは知らないが、仇討ちなんぞしたくも無い!力なんぞ要らない!」


 叫んでみた。

 でも、予想した通り返事はなく只一方的な声がまた響く。


『我が名はナノ。終焉の神ナノ。我が力が世界に示される事で復讐の成就がならん事を』


 ナノ!?だと。

 しかも復讐と来た。

 確か創造神ナノは、破壊神モルタを封じ込めた3柱神の1人のはず。

 なのに今ナノと名乗った声は、終焉の神といいやがった。


 アリスが伝え、オイゲンが聞かせてくれた神話はなんだったんだ?

 聞いた話と違う!!

 

 聞き間違うことの無い『終焉の神ナノ』と言う言葉を俺は必死に考える。

 聞いた神話と違う名前、そして宣言する復讐の言葉。

 伝説の中で、封じ込めた正義の神が何故復讐を求める?

 創造ではなく終焉と言う意味は何か?

 考えても答えが出せるほど情報も無いし、俺の頭は良くない。


 俺はもう一度ダメ元で声を上げる。


「何故!?貴方は何を言いたい!!復讐とはなんだ!!」


 しかしやっぱり何の反応も無い。

 そして一段と周りの光が輝きを増したかと思うと光が徐々に薄れてゆく。

 これでは只一方的に、力を押し付けられただけだ。


「答えろ!!」

 

 消え行く光に向って叫んでみるも、役目は終わりとばかりに何の反応も無いまま光は集束して消えて行った。

 そして、暫くすれば眩しさも和らいで、視界がハッキリしてきた。

 クリアーになった視界で辺りを見渡すと、俺は光に包まれる前に居た神殿の奥で立っている。

 

「何だったんだ・・・」


 思わず独り言を口にしてしまう俺。

 考える事が幾つも出来た。

 でも、気持ちを切り替えなければならない。

 取り合えず今は戻ってきたのだ、同じく光に包まれたイリスとセフィリア、アリスを探さす事のほうがまずは大切だ。


 直ぐに神殿奥の小さな空間を見渡す。

 すると、譜面台を中心に3人が揃って倒れているのも見つかった。


 駆け寄って3人を揺すり、皆の無事を確かめる。


「イリス!!大丈夫か?!セフィリア!!無事か!?アリス!!目を覚ませ!!」


 俺は力を入れて3人の体を交互に起して声を荒げた。

 一応見た感じでは怪我は無さそうだ。

 眠っているというか、気を失っているだけに見える。


 声を掛け続け、揺さぶる事数分。

 やっと、順番に各々が目を覚まし出す。


 まずはイリスが反応する。


「ん・・・んん・・・ラルス?・・・此処何処?」


「イリス姉・・・よかった何とも無い?」


「ん??何かあったのかしら・・・ん~~~どうも気だるいのだけど・・・体は丈夫、かな?」


 イリスは熟睡した後のように目を擦りながら起き出す。

 俺は、その姿に安堵してハァ~~~~っと息を吐いた。

 この様子だと、あとの2人も問題ないように思える。

 イリスを壁際に持たれ掛けさせて、次に気付き始めているセフィリアの下に行く。


「セフィリア、大丈夫か?起きれるか?」


「ん・・・お兄??おはよう~~~もう朝?」


「ああ、おはよう。でももう昼過ぎだと思うよ?」


 もちろん時間は解ってないが此処は冗談を挟んでおく。

 俺の言葉に目を見開き、驚くセフィリア。

 むっちゃ単純だなオイ。


「っげ!マジ?ごめんお兄!!起きてご飯の用意しなくっちゃ!」


 セフィリアは冗談を真に受けて飛び上がろうとしてよろける。

 どうやらイリス同様体に気だるさを感じているようだ。

 俺は、よろめくセフィリアを抱きしめ、倒れないように支える。


「ちょ!・・・その・・・ありがちょ・・・う・・・恥かしい」


「馬鹿、急に起き上がるからだ。冗談だったのに、取り合えずイリス姉の側でゆっくりしろ」


「ええ!冗談だったの!!お兄、酷い!!」


「ハハッハハごめんごめん」


 少し拗ねるセフィリアを宥めながらイリスの側に運び座らせる。

 お姫様抱っこをしたら更に照れて顔を真っ赤にしていた。

 こういう時にセフィリアのメンタルは強くない。

 だから俺なりのフォローのつもりだ。

 

 それに俺にとっても、事態を把握する余裕を持つのにこういった冗談があったほうが良いだろう。

 セフィリアとの遣り取りはとても有難かった。


 最後にアリスの下に行く。

 アリスの顔を覗き込むと、目覚めそうで目覚められないといった苦悶の表情をしている。

 今一度方に手を掛け、揺さぶって意識を確認する。


「アリス、アリス!!起きろ」


「ん・・・っく・・・はぁ・・・」


 えっ~~~~と・・・

 妙に色っぽい声を上げている。


 顔を見ながら起しているので、アリスの美しい顔が苦しそうにしていると非常に嗜虐心を煽られる。

 更に其の顔を見ながら色っぽい声を聞く形になるのだ、男ならときめくのは当然だろう?


 段々と心の奥に熱い塊が沸きあがり膨れていくのが解る。

 心臓が段々とスピードを上げドキドキしだす。

 彼女をもっと虐めたい、もっと苦悶の呟きを吐かせ支配欲を満たしたい。


 ダメだ!!

 此れはまたあの時と同じくアリスの体質による魅了に掛かる前兆だ。

 俺は目を閉じ頭を振り、冷静に努めて声だけを掛け続けた。

 

 俺の必死な抵抗は功を奏して、アリスの魅力に取り込まれそうになることは避けられた。

 そうこしていると、ようやくアリスが目を覚ます。

 でも、その時には、俺は違う意味で疲労困憊になっていたのだが。


「ありがとう御座いんす。もう大丈夫でありんすよ」


 アリスは起き上がりお礼を述べる。

 先に目覚めた2人も起き上がっていて、意識もハッキリとしてきたようだ。


「皆なんとも無いか?何か変わったこととかなかったか?」


 俺は3人に向って尋ねる。

 あの瞬間に何があったかを確認する為だ。


「んー光を見た瞬間、何かが入り込んできたと思ったら気を失っちゃったのよ」


「あ、お姉も?セシリーも同じ。何か入ってきたと思ったら意識がなくなっちゃった」


「ふむ、それは何?」


「えっと、そうね何ていうのかしら?危険ではない感じなんだけど・・・何か刻まれるような?」


「セシリーも一緒かな?」


 2人で顔を見合し確認しあう様子に、俺はステータスを見る事を促す。

 ついでに俺とアリスも同じく確認する事にした。


 アリスに付いては全く何も覚えていないらしい。

 だから2人の言葉から俺は神であるナノが言っていた言葉を思い出したのだ。

 『力と加護を授けんと』言った言葉を。


 【名 前】ラルス

 【L V】36

 【年 齢】12才

 【種 族】人族

 【H P】1,560/1,560

 【M P】1,350/1,350

 【能 力】S81・V80・I72・P63・A79・L36

 【スキル】刀術LV10・短剣術LV8・投擲術LV9

      算術LV8・異世界言語LV10・料理LV7・鍛冶LV8・裁縫LV6

      製薬LV6・錬金術LV7

      アイテムBOX

 【固 有】ラーニング・アルキメイト・異界の融合術・雷魔法LV10

 【特 殊】突進・噛付き・体当り・スラッシュ・軽歩・身体強化

      風魔法LV7・火魔法LV7・土魔法LV7.水魔法LV7

      迅雷・堅磐かきわ・水槌・光焔・夜嵐

      1尾妖魔黒曜・2尾岩尖砲弾・3尾神水八咫鏡・4尾毒氷雨

      5尾雷光・6尾鎌鼬・7尾陽炎・8尾月読

      9尾九鬼紅焔

 【P T】イリスLV33・セフィリアLV31


 随分な能力になっている。

 もしかすると【異界の融合術】を発動させ、復活の際にワイバーンを食らったことが原因か。

 余りにも突き抜けた能力値の証明としては十分な気がする。


 それと、後で見て聞くイリスやセフィリア、アリスのステータスからも俺が異常なのも解った。

 どうやら俺はトンでもない存在になってきたようだ。


 更にステータスの中で一際目を引くのが固有スキルにある【雷魔法LV10】だ。

 失われた系統の魔法であり、創造神ノナの象徴であるもの。

 声が言っていた力とは【雷魔法LV10】の事だと確信する。

  

 ノナの言う事は多分、この【雷魔法LV10】を使えという事。

 そして、此の力を世界に見せる事で何かが起ると言うのだろう。

 混沌を招く力を授かってしまったようだ。


 俺はイリス達に心配させると思い、この事を言えなかった。

 もう少し様子を見てから話したほうが良いと、自分なりに思い込んでいた。

 だから【雷魔法LV10】を説明せずに残りの部分は知らせる。

 

 この時、アリスは俺の事情を知った。

 まあ、スキルを見られたのだ、今更隠しても仕方が無い。

 俺の説明が終われば、次に3人に其々の変化を聞く。


 まずはイリスから。

 

 【名 前】イリス

 【L V】33

 【年 齢】14才

 【種 族】長耳族

 【H P】330/330

 【M P】700/700

 【能 力】S33・V30・I38・P37・A33・L33

 【スキル】風魔法LV8・水魔法LV8・土魔法LV5・神聖魔法LV7・弓術LV8

      算術LV6・ミース言語LV7・料理LV7・裁縫LV7

 【P T】ラルスLV36・セフィリアLV31

 【固 有】神の加護(神聖魔法力増大)


 イリスも力は別にしてLVがかなり上がっている。

 200体以上の魔物との戦闘は、此処にその結果として表れたのかもしれない。


 そして、加護が付いていた。

 其れを聞いた残りの2人も吃驚して自分にもあると言い出す。


 セフィリアはこうだ。


 【名 前】セフィリア

 【L V】31

 【年 齢】12才

 【種 族】灰狼族

 【H P】490/490

 【M P】250/250

 【能 力】S45・V39・I15・P10・A42・L31

 【スキル】剣術LV7・斧術LV7

      算術LV5・ミース言語LV6・料理LV5・索敵LV8

 【P T】ラルスLV18・イリスLV15

 【固 有】神の加護(物理攻防力増大)


 最後にアリス。


 【名 前】アリス

 【L V】21

 【年 齢】15才

 【種 族】神祖

 【H P】420/420

 【M P】580/580

 【能 力】S21・V42・I38・P10・A22・L21

 【スキル】闇魔法LV9・杖術LV6・短剣術LV5

      ミース言語LV6・掃除LV6・料理LV5・洗濯LV7

 【固 有】神の加護(絶対防御巫女力)

 【特 殊】○△▼?□


 アリスだけ、最後の特殊スキルだけは教えてくれなかったが概ね皆LVが上がりイリス同様加護が付いていた。

 皆一様に信じられないといった面持ちでいる。

 そんな中、イリスが皆の気持ちを代表するかのように呟いた。


「何これ・・・信じられないわラルス。どういうこと?」


「お兄、セシリー強くなったの?」


「まさか加護が付きんすとは、巫女とは言え果報者でありんすが・・・此れが予言にあった内容の結末で御座いんすか?」


 3人とも疑問しか口に出さない。

 俺としても答えが無いので、一時の沈黙が訪れた。

 皆俯き、難しい顔をしている。

 

 まあ、このままでは仕方が無い。

 此処は話題を変えて思考を一度戻しておこう。

 俺は、アリスに声をかけた。


「ん~でもこれでアリスの目的は果せたのかな?良かったのかな?」


「ん?そうでありんすな。予言の内容はサッパリでありんすが、一連の流れを報告すれば、わっちも自由の身になるとおもいんす」


「そっか、良かったねアリス♪」


「ありがとざんす、イリス」


「へへ、良かったねアリス姉」


「はい、セフィリアもありがとで」


 加護の事が付いて驚愕している所に、訳のわからない結末。

 考えるだけ無駄な事ではあるが、どうしても何か引っかかる感じで気分がよろしくない。

 だからこそ今のように笑い合えば、少しは思考に柔軟性が出ると良いと思う。


 一頻り笑顔を交し合った後で、俺は加護に付いて取り合えずの危険はないと考え、神殿の奥を後に事を提案する。

 皆頷いて皇帝を指名してくれたので、神殿億の小部屋から抜け出て広間に出る。

 広間に出ると、此方を伺う大きな鎧が見えた。

 そっか、アヒムも無事だったんだ。


 俺は、約束を思い出しアリスに尋ねる。


「ところで、アヒムだけど・・・教えてくれる?」


「私も聞きたいわ。アヒムってなんなの?」


「セシリーも聞きたい~何かひっかるのよね~」


 戦闘中は聞けなかったが、今になって思い出した。

 でも、聞かずには居られないほどのアヒムの姿は不思議な現象だ。

 歩きながらでも聞けると思い、説明を求めるもアリスは言い難そうだった。


 俺達3人から質問され、ジ~~~っと答えを待たれて気まずそうにするアリス。

 暫く歩き、上への階段に差し掛かる頃にようやくアリスが言葉を発した。


「その・・・もう少し落ち着いてからで宜しゅう御座いんすか?」


「ん~じゃあ一回此処を出て、落ち着いた所で聞くか」


「それでいいわ」


「セシリーも良いよ~」


「ご迷惑を掛けて、申し訳ありんせん」


 俺達の判断に安堵するアリス。

 後ろからついて来るアヒムは、心配そうに後ろでオロオロしている。

 俺達の会話が聞こえているのか?


 どう見ても普通の人がフルアーマーを着ているだけにしか見えないのに・・・ 

 彼の正体は此れから教えてもらえるとしても、あの鎧の中に何もいないと解った。

 普通の人のように振舞えるのが本当に不思議だ。

 アリスを見ると、今までとは違い何処か俺達の申し訳無さそうにしている。


 だからアリスに申し訳ないと思って、何も聞かなかった。

 でもあの時…強引にでも話を聞いていれば後で後悔する事が無かったと思う。

 神殿の外で待ち受ける脅威を俺達はやり過ごせたかも知れなかったのだ。

 なのに、何も考えず先に進んだ。


 それが俺の後悔。

 そして取り返しの付かない結果を招く。

 そんなことも知らず、俺達は神殿を出ようと先を急いだ。

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