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第四十八話 神殿の奥にあるもの

 身動きが取れない鵺に向かい、オリハルコンで鍛えた刀が振りか下ろされる。

 毛を押し切り、皮を裂き肉を穿つ感覚が両手に伝わる。


 後方へ下がった筈のイリスから【プロテクション】が掛けられ、俺の身は聖光に包まれた。

 どうやら後方への退避が出来て戻って来てくれたようだ。


 一緒に行っていたセフィリアも戻ってきて、イリスとアリスの前に陣取り守りを固める。

 何時もの風景が其処にあった。


 違うのは後ろにアリスが居て魔法攻撃が打たれている事と、俺の隣には首の無くなったアヒムが居る事だけだ。

 まあ、違いすぎる感はある。

 だって、神祖と首が無いアヒムでは異様な光景なのだが。


「ア、アヒムは生きてるの?」


「これってデュラハン?」


 当然の疑問だろう。

 イリスとセフィリアがアリスに尋ねている。


「あ・・・えっと違いんす・・・その後で説明しんす」


 狼狽しながら答えるアリスは目が泳いでいる。

 多分、答えにくい事なんだろう。

 想像は出来るが真実は解らない、だから後で聞くことにしようと今は思って疑問を払う。

 その間にも、首の無いデュラハンアヒムは鵺を食い止めるべく動き回っている。


「ラルス、オイゲンさん達は一度神殿入り口に戻ってもらったわ。だから、後はアリス達だけよ」


 イリスの言葉の意味を即座に理解する。

 そう、オイゲン達やアリスが居なければ全力が出せる。

 正直、スキルを使わずに鵺の相手をするのは厳しいのだ。

 俺が気兼ねなく戦闘できる状況を津作ろうとする姿に俺はつい笑みが零れる。

 やっぱり頼りになる姉の存在と言うのは嬉しい限りだ。

 

 俺はすかさずアリスに声を掛ける。


「アリス、ここ「嫌でありんす!!」から退避・・・」


「って何でだよ?!」


「わっちはどうしてもこの先に行きとう御座いんす。それにラルス様達を置いて逃げるわけには行きんせん!!」


 あちゃー

 アリスは手を胸の前で握り締め、ガッツポーズを決めて梃子でも動かないと意志を示してくる。


 こりゃあ言う事聞きそうに無い。

 アリスを見ながら、俺はどうするか迷った。

 俺のスキルを見せることでアリスならどうするだろうか?

 素直で嘘のつけないアリスは、俺の事を誰かに言うだろうか?

 それとも約束を守り、絶対に言わないと思えるか?

  

 色々と考えるが一つだけ信じれるものがある。

 アリスは素直で真っ正直で、俺達と共感出来るものがある。

 生い立ちから見て曲がって育ちそうな筈なのに、全然そんなことはなく真っ直ぐに生きている。

 こんな子なら俺達のことを知っても大丈夫だろうと言う安心感が何となく感じられる。

 だから、アリスなら良いかという結論に達した。


「どうしてもか?」


「どうしてでも・・・手伝いんす」


 もう、こうなったら仕方がない。

 此処まで来たのだし、今更ここで止めても中途半端でモヤモヤが残る。

 イリスのお陰でオイゲン達がいない空間が作れたのはチャンスだ。

 俺はアリスにスキルを見られてでも、鵺を倒す決意をする。


「なら、此れから見ることは他言無用だ。其れが条件だ、いいな」


「っう・・・解りんした!」


「なら全力で行かせて貰う!!」


「ぅふふぇ?」


 アリスが変な声を出していたが、もっと驚いて変な声を出してもらおう。

 可愛く驚く姿をもっと見たくなったが今は敢えて無視した。

 まずは、【3尾神水八咫鏡】を張り巡らせる。

 何処からともなく表れた八咫鴉が鏡枠を作り出し、鵺のスキルを弾くべく鏡面を作る。


「うぇ?っへ?」


 ほっほ~う

 いい声で驚いてくれてる。

 しかも綺麗な顔でポカンとするのだから尚面白い。

 ちょっとサディスティックな快感に俺が喜んでいると、何処からともなく影が動いてくる。

 【3尾神水八咫鏡】が完成したのを見計らったかのように、鵺に張り付いていたアヒムが此方に下がってくる。

 アヒムが後退すると、動きの自由を得た鵺が此方に【迅雷】を放ってきた。


 バリバリバリバリバリバリバリバリ


 俺の持つ【五尾雷光】とは違って、暗雲を起す事無く瞬間的に放たれる雷。

 雷の数は【五尾雷光】には及ばない物の、強大な一条の雷が襲い来る。


「にゃふぉぉりああ!避けんちょぅ!!」


 全く、この子はからかったら面白うそうだ。

 こんなに驚きや焦りを素直に出してくれるとは…

 でも、今は落ち着いてもらわないといけない。


「大丈夫、アリス落ち着いて。逃げなくてもいいよ」


「ふぇ・・・」


 まあ、これだけ驚くのも無理はない。

 俺達が参戦するまでは、ビアーチェの【セイントロック】でスキルを防いでいた。

 【セイントロック】は【ホーリーウォール】の上位魔法で、聖なる壁によりあらゆる攻撃を防ぐ効果がある。

 それが今は無いのだから、普通なら当然逃げるか避けるべきだろう。

 アリスが驚いて逃げようとした判断は正しい。

 でも、俺にだって防ぐ手段はあるのだよ。


 薄暗い中、眩いばかりの閃光をはなって【迅雷】は俺達に容赦なく襲い掛かってきたが・・・

 目の前で形成される【3尾神水八咫鏡】に防がれる。


「え?まさしゃか・・・」


 【セイントロック】では完全に防ぎきれずにいた【迅雷】を完全に無効化している【3尾神水八咫鏡】に呆れるアリス。

 ビアーチェの【セイントロック】では【迅雷】を散らすことしか出来なかったもんね~

 しかも攻撃が散るので、皆出来るだけ動いて避けていたんだし。

 こうまで完全に防げると驚くのは無理もない。


「ほら、大丈夫でしょ?」


「うっ・・へぇほ・・・そうでありんしゅな・・・」


 半ば呆然と返事をしながら事態を飲み込もうとしているようだ。

 俺は【3尾神水八咫鏡】が効いている事を確認して、【身体強化】を己に掛ける。

 更に、失った【超硬化】の代りに、この戦闘中ずっと見ていて取得した鵺のスキルを使う。


「【堅磐】・・・」


 すると、俺の体が薄っすらと金色に輝き物理防御が上がるのを感じる。

 今回は【1尾妖魔黒曜】は使用したくない。

 あの時と同じ過ちは起したくないから、俺は刀を構えて鵺に向き合った。


「イリス、【ホーリーウォール】を張って防御を固めろ!セフィリアは隙を見て遊撃だ!」


「「はい!」」


「今回はポーションが無い!短期決戦だ!!」


 叫びながら、俺は確信していた。

 そう、ワイバーンと戦った時のような絶望的で圧倒的な脅威を感じないのだ。

 何故か?

 勝てると思えるからだ。

 そう思える根拠は無い、でも解るのだ俺は鵺よりも強いと。

 どうしてと言われても答えようがないが、俺よりも鵺の方が弱いと感覚が伝えてくる。

 俺自身でも驚いているくらいだ。


 俺は地を蹴り、鵺に飛び込む。

 肩に刀の峰を抱える、所謂『蜻蛉』の構えだ。

 示現流に代表されるこの構えから繰り出される斬撃は、『二の太刀要らず』とまで言わせる一撃必殺の太刀だ。


 何故、示現流『蜻蛉』を使うのかと言えば簡単な理由だ。

 人相手の剣術においては、駆け引きやフェイントが大きくものを言う。

 だが魔物は違う。

 

 魔物には剣技の技巧はいらない。

 あれば便利だし、有効でもあるが其れ以上に最速で最強の一撃を見舞うほうが断然効くのだ。


 だから俺は、今持てる最高の一撃を放つ為に『蜻蛉』の構えを取る。

 自分が前世で習ったのは正確な示現流にある『蜻蛉』からの斬撃ではないが、同じ効果の技がある。

 もちろんこの世界のスキルではない、俺個人が前世で習得した古流の技。

 それを今此処で披露するのだ。


「鳳翼一閃!!」


 鳳凰とは片翼づつ体を分かった雌雄の鳥を表してい。

 つまり、その鳳凰の通り体を真っ二つに出来る斬撃を放つ技なのだ。


 鵺に近付き大きく左足を前に出し、腰を落として溜めを作る。

 そして、溜めた力を乗せて右足を鵺に向かって踏み出し肩に担いだ刀を振り降ろす。

 力強く素早い一撃が鵺に切り込まれる!


 ヒョーーーーーーーーーーッギュギョ・・・


 俺の攻撃に備えて鵺も【堅磐】によって体を硬化していた。

 それでも、俺の斬撃は鵺の体に食い込む。


 俺の【鳳翼一閃】により大きく切り裂かれた鵺の胴体は、半分ほど千切れた。

 よろめきながら振り返る鵺。

 鵺は、苦悶に満ちた猿面の口からは血を流している。

 

 俺から距離を空けて体制を整えようと鵺が動き出した途端、切り裂かれた胴体から内臓が零れ落ちる。

 ボタボタと落ちる臓物が、床一面に広がった。

 その零れ落ちた自らの内臓を踏みつけ、足を滑らして転がる鵺。


 ヒョー・・・・ヒョー・・・・ヒ・・・


 鵺は、荒く短い息を繰り返し始める。

 瀕死になった証拠なのだろう、床に転がってもがきながら立ち上がる事が出来ないようだ。

 俺は静かに鵺に近付き、止めを刺しにかかる。


「二尾岩尖砲弾!!」


 何時も通りに、大きく尖った氷柱のような岩が表れた。

 狙いを定め、一気に放つと鵺を貫きそのまま向いにある壁まで吹き飛ばす。

 そして壁に当たると同時に、大きな爆音と共に鵺の四肢は砕け散る。


 鵺の末路を見て、俺は確信する。

 俺は変わってしまったようだ。

 どうやら【1尾妖魔黒曜】の後遺症から発現した【異界の融合術】。

 その【異界の融合術】によってワイバーンを食らった後から確認できる身体の変調。

 その意味が此処で理解できたのだ。


「ま・・・そ・・・んな・・・今のは何がありんした?!」


 アリスは驚きの表情をして俺を見ている。

 イリスとセフィリアは、俺の余裕ある態度からか今回は取り乱さなかった。


「ラルス、お疲れ様。大丈夫?」


「ああ、問題ない」


「お兄、強すぎ・・・まさか此処までとは思わなかったよ」


「そうだな、俺も意外だったよ」


 そういって、俺とイリス、セフィリアは無事を確認し会う。

 呆けているアリスはそのままに、アヒムを見ると何時の間にか拾ってきた兜を頭に乗せているところだった。


「アリス、アヒムの事教えてくれる?」


「・・・・っは!はい、ようござんす」


「ん。じゃあ先に奥に行って何があるか確かめよう」


「ええ?オイゲンさん達はどうするのお兄?」


「ん~~面倒だから事後報告にしておこう。何も問題が無ければ後で来てもらっても良いでしょ」


 俺はスタスタと奥に進み、扉の向こうにある小さな空間に足を踏み入れる。

 実を言えば、更なるトラップがあった場合、俺だけで対処しようと思っていたのだ。

 下手にオイゲン達を呼び戻して危険を増やすより、俺が全力出せる環境がある方が俄然楽だし、イリスとセフィリアを危険な目にあわせたくなかった。

 

 そんな理由から、俺は先んじてサッサと奥に入ったのだ。

 其処は鵺が1体入れるだけのスペースしかない広さで、奥の壁付近に小さな譜面台みたいなものだけがあった。

 近付いて譜面台のような台座を見ると、金色に輝く水晶が1つだけ乗っていた。


「これが?」


 余りにも小さな水晶しかない譜面台の上を見て、俺は嘆息する。

 こんなに苦労したのに、あったのはこれっぽっち。


「何だ此れ」


 俺は皆が来る前に水晶を手に取った。

 手に取ると、トラップでも発動するかと身構えるも何も起らない。

 問題なさそうか・・・


 手に持った水晶を頭上に翳し、その中身を覗く。

 キラキラと輝く金色の光は、時々スパークするかのように輝き神秘的だ。


「そ・・・それだったのでありんすか?」


 追いついたアリスが水晶を指差して聞いてくる。

 もちろんイリスもセフィリアも一緒に居る。

 2人も輝く水晶を見て、不思議そうな顔をしていた。


「ああ、此れしかなかったけど」


 よく見えるように、アリス達の方へ体を向けて水晶を見せる。

 すると、予想に反して大きな光を放ち何かしらの反応を見せ始める。

 拙い!ここでトラップか!!


 そう思った時には既に遅く、部屋一面に光が満ちて白い空間だけになる。

 イリスもセフィリアも巻き込んで、小さな部屋は真っ白な光で埋め尽くされた。

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