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第四十七話 アヒム

 依頼の不手際から重傷を負い命の灯火が消えそうになっている俺は、目の前の女の子を凝視している。

 これも何かの縁だろうが、まさか俺がこんな風に最後を迎えるとはおもいもしなかったぜ。

 薄れ行く意識の中、俺を見つめる目の前の少女アリスは、泣きそうな顔をしながら俺に聞いてきた。


「そんなに未練がありんすか?」


 質問の意味はわからねー

 だが、なんとういか未練と言う言葉が心に刺さる。

 死を目前に、何の未練もないわけがない。

 だから正直に答えておこうと思った。


 アリスと言う少女はは嘘を付けない女の子だ。

 一緒に過ごした時間は短いが、なんというか勘でわかる。

 というかこの女の子は、世情に疎く何処の箱入り娘かと言う位に世間知らずだったからな~。


 そんな、アリスと出会ったのは偶然だった。

 単純に、町の中で右往左往して辺りをキョロキョロしている女の子を見かけたのが最初だ。

 単純に、おのぼりさんにしか最初は見えなかった。

 しかも小鹿のように小刻みに震える姿があまりにも痛々しく庇護欲を掻き立てたのでついつい声を掛けたのが切欠だ。


 声をかけることに懸念はあった。

 なんせ俺の容姿は決して良い方じゃない。

 むしろ悪い方だから、声を掛けても逃げられる事はざらで、今回もそうなるかという心配もあった。


 だから、また逃げられるかと思いながらも声を駆けた訳だ。

 ところがアリスは今までの反応と全く違っていた。

 まあ、相棒が女だってのもあって警戒を緩めたのかもしれないが…

 でも、俺の顔を見ても笑顔を向けてきたアリスには驚いたものだった。

 そんな彼女との初対面は、何とも嬉しい感覚を俺に思い出させる。


 記憶がフラッシュバックする。 

 ああ、走馬灯ってのはこんな感じなのか。

 俺は、アリスの質問に答えるべく声を振り絞る。


「ああ、どうしても見てーもんがあんだわ・・・」


 未練といわれて結果、出た言葉はこれだった。

 以外にも俺自身相当見たかったみたいだ。

 俺を慕ってくれる小さな女の子の晴れ姿が目に浮かぶ。


 答えた俺の目を覗き込んでくるアリス。

 その瞳は真剣だが、今の状況じゃあしまらねーな。

 アリスは泣きそうな顔をしながら、俺を必死に助けようと傷口に手を当てているんだから目が真剣でもアリスの動揺が伝わってくるんだぜ?


 そういや、アリスを拾ってから一緒に行動する事になった後、同じ様に傷口を手当してた事を思い出す。

 あんときゃー始めての迷宮にハシャぎ過ぎたアリスが、無用心にもトラップに掛かった所を助けたんだっけな~

 アリスの肩に毒矢が刺さって、右肩が動かなくなって血が出てたっけ・・・

 それを今とは逆で俺が傷口を塞ごうと一生懸命だったな~

 ま、アリスの体質で傷を手当するなんて意味なかったが。


 でも、今回はあん時とは結果が違ってくるよな~

 怪我したのが俺で、しかも助かる見込みもない。

 だってよ、もう致命傷で手の施しようが効かねーんだから。

 っと~それよりアイツは上手く逃げたかな、俺がふがいないばかりに最後まで悪い事をしたか・・・


 そんな風に考えていると、アリスは苦しげな顔をして、俺に提案する。


「もし、もしも願いを叶えたいと思いんしたんなら1つだけ方法がありんす・・・後悔しんせんでいいなら・・・」


 俺はアリスの言葉を聞き、迷うことなくその方法を試したいと思った。

 こうなってしまったのも、俺がドジを踏んじまったからだ。

 自己責任って奴か?

 だからこそ、未練を自覚した俺はどんな事をしても見たくなったんだ。

 あの子の晴れ姿を…

 そして、逃げ延びただろうアイツにも詫びてーっとおもっちまうからな~。

 

「ああ。頼むわー、どんな事をしても遣り残した事を片付けてーとおもっちまったからな・・・」


「・・・」


「頼むよアリス・・・俺が俺で居られるならどんな結果でも、どんな苦痛があても良い、見させてくれや」


「解りんした・・・此の制約が守られん事を・・・」


 その時から、俺はアリスの従者になった。

 肉体を失い、魂だけをこの鎧に留めて、アリスと交した約束に縛られながら俺は願いを叶える為に人の身を捨てたのだ。

 そして、俺もアリスも願いが叶いつつある。


 時間はもうないだろう。

 そのときには、笑って逝けると確信できている。

 既に、願いの半分は

 もう叶っているのだから。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 昨日の夜に話したとおり、今俺たちは鵺と戦闘中だ。

 朝早くに支度をし、十分な装備をもって3層の扉を開いた。

 もちろん俺が開いたのは言うまでもない。


 扉を開き鵺と対峙してから、かれこれ1時間ほどか。

 俺は目の前で繰り広げられる戦闘を皆から離れたい場所で傍観している。

 一応約束どおり、俺達はオイゲンやアリスの後方で待機している。

 危なくなったら加勢しようと思うが、今は約束の通り無理をしない方針だ。


 俺が開いた扉から出た鵺は、アリスの説明通り、確かにLVは低いと思える。

 でも、低いといえども鵺は強い。

 それと誤算もあった。

 

 倒した俺よりちょっと強い程度と思っていたのにLVは40はあるのだ。

 現在、俺はLV34とステータス画面では表示されている。

 にも拘らず、ちょっと強いと言うのが随分強いになっている。


 この鵺のLVに、皆は気付いていない。

 そりゃ【鑑定】を持て居る人物が俺しかいないのだから仕方が無いといえる。

 俺自身のスキルについて、オイゲンはいいかも知れないが、他のメンバーに知れるのはまだ怖い。

 信用が築けていない相手に、ホイホイおれのスキルをばらして問題が起こるのを避けたいため、LVを伝えることが出来ないでいた。

 俺は奮戦する皆を見ながら、鵺を改めて【鑑定】する。


 【名 前】鵺

 【L V】40

 【H P】1102/1300

 【M P】580/650

 【状態値】S40/V50/I55/P10/A48/L40

 【スキル】迅雷・堅磐かきわ・水槌・光焔・夜嵐


 正直、ワイバーンより強い。

 と言うか、ワイバーンよりも弱い事は無いと思っていたが・・・

 まさか此処までとは思ってみなかった。

 此れ勝てるのか?


 1時間掛かってHPは198減らせたようだが、此のままだと6~7時間は掛かる計算だ。

 7時間も皆体力と魔力が持つのかも疑問が浮かぶ。


 正直アリスの魔法とアヒムの打撃しかダメージを与えていない。

 一応それなりに連携はとっているが、如何せんオイゲン達に火力が無さ過ぎるのだ。


 前衛にクロードとジモンにアヒムが鉄壁の防御を敷き、鵺の侵攻を防いでいる。

 まあ、アヒムが殆ど受け持っていてクロードとジモンは牽制とかにしかなっていない。 


 後方ではビアーチェが回復と防御魔法を掛け、オイゲンが攻撃魔法を鵺に当てる。

 ビアーチャエの神聖魔法はそこそこ役に立っているようだが、オイゲンの魔法攻撃は・・・効いていなさそうだ。

 Bランク冒険者では、鵺には歯が立た無いのだろうか。

 オイゲンが決して劣っている訳ではないと思うのだが、結果は見ての通りだ。

 それでも折れることなく戦い続けるオイゲン達は、賞賛に値するかもしれない。

 

 全体の布陣の中で、唯一組み込まれていないのはアリスだけだ。

 理由としては、アリスだけが集団戦での経験が無いということだ。

 その為、皆の邪魔をしないように召還魔法は使わず闇魔法屈指して皆の援護している。

 足止めを行う【クリミナルケージ】や相手の防御を下げる【アロガンシア】など多彩な魔法を繰り出し前衛を助ける。

 もちろん攻撃魔法も随所に挟む。

 闇の炎で焼き尽くす【エンビディアクリメイション】

 相手を闇の牢獄に閉じ込め、中に居るものを暗黒の槍で攻撃する【プリズンブレイク】などだ。


 なかなか有効で多彩な魔法攻撃を繰り出すアリス。

 オドオドしてはいるが、初めての集団戦にしては上出来に見える。

 

 ただぶっちゃけ何回も言うが、攻撃が効いているのはアリスの魔法と、アヒムの斧攻撃だけだ。

 前衛2人の攻撃はほぼ効いてい無いし、オイゲンの魔法もあまりダメージには結びついていない。

 後ろから眺めていると、良く解る。


 このままだと何時までも決着が付く気配が無く、皆の精神的疲弊の方が勝って負ける可能性がある。

 だから俺達は、感染することを止め何処か上手いタイミングで参戦しようと示し合わせた。 

 オイゲン達に言われて後ろにいるが、安全など確信が持てなそうになくなってきたからだ。

 俺はいざとなったらイリスとセフィリアを守る為に戦う決意をした。


 俺たちが見守る中、時間は過ぎていく。

 特にオイゲン達からは、大きく派手な戦火も魔法も飛び交わない静かな戦いが続く。

 その代わりに鵺のスキルだけが、強大な力を見せ付けるようにオイゲン達に振りかかっている。

 それをビアーチェの防御魔法と、回復魔法を小まめにする事で凌いでる。

 耐え続ける戦闘はものすごく忍耐がいるのが解る。


 それでも誰一人として取り乱す事無く淡々と戦っている。

 アリスとアヒムの善戦が、この戦いを持たせているのだろう。

 徐々にではあるが、鵺のダメージは蓄積されていった。


 更に4時間ほど経過してくると、オイゲン達のPTが疲れを見せ始める。

 クロードもジモンも肩で息をし始め、オイゲンは脂汗を滲ませる。

 ビアーチャはもうフラフラだ。

 魔法の連続使用に、PTへの回復魔法の多さが原因だろう。


 ビアーチェの遅れが前衛にも影響し始める。


「っく!もたねー!」


 クロードが悲鳴に似た怒声を上げたとき、鵺がクロードに飛び掛りつつ前足を振りかざす。

 【ヒール】の追いつかないクロードは、満身創痍でその攻撃を受け止めるも耐えきれず膝を突く。


「やっべーマジやっべー」


 段々鵺の爪に押し込まれるクロード。

 手を出すべきか?

 俺は背中の刀に手を掛け、加勢の気を狙い始めていた。


「・・・・・・・」


 俺が刀に手をかけ迷っていると、横合いから無言で巨体が突進して行き、鵺の前肢を払う。

 アヒムだ。

 前足を払いのけたアヒムはクロードを逃がし、鵺と密着する形で斧を振り回す。

 だけどあれだけ密着しているとアヒムの攻撃間合いとしては不十分だ。

 遠心力やタメを使って攻撃できなければ、アヒムの斧では有効打を放てない。


 案の定、アヒムの攻撃が悉く無効になり無意味になる。

 すると、アヒムは斧による攻撃を止め、徒手空拳に切り替える。

 途端、鵺とアヒムの肉弾戦が繰り広げられた。

 襲い掛かる鵺に、拳で対抗するアヒム。

 周りはアヒムの攻撃方法の変更により戸惑いを隠せない。

 現に魔法攻撃が打てずに、援護できないオイゲンとアリス。

 

 あれだけ接近していると迂闊に支援も出来ない。

 取っ組み合いのように戦う鵺とアヒムは鈍い音を響かせながら攻撃しあう。


「あ!!!」


 誰ともなしに声が漏れる。

 鵺の攻撃がアヒムの頭部にヒットし、被っていた筈の兜が吹き飛ぶ。

 誰もが目の前の光景に息を飲む。


「ああああ・・・」


 力なく膝から崩れ落ちるアヒムには頭が無かった。

 吹き飛ばされた部分には何も無い。

 此れの意味する所は誰にも明白だ。


 俺はこの場面こそが戦闘への介入のきっかけと見て飛び出す。

 もちろんその時には、イリスとセフィリアに目配せをして援護を頼んでいる。

 アヒムが居なくなれば、もはや前線を支える術が無い。


「イリス、援護を!」


「任せてラルス」


 即座に後方よりイリスの【ヒール】が飛ぶ。

 其れに伴い、セフィリアにはイリスを初めとしたビアーチェやオイゲン達後衛の守りに付いてもらう。


「セフィリア!後衛の守りに付いてくれ!」


「あいよ~お兄!!」


 掛け声と共に背中の大剣を抜き払い、後衛の前に立ちはだかり鵺を牽制するセフィリア。


「っく!勝手に動くんじゃねーよ!!」


 尻餅をついて動けないままのクロードが、俺達を嗜めるがお構い無しだ。

 クロードの言う通りにしていたら死んでしまうかもしれない。


「そうよ!只でさえ神祖と共闘している事でも嫌なのに!貴方達まで一緒に戦うなんて!!」


 ビアーチェも助けられながら文句を言う。

 此の状況でもまだあの時の事を気にするのかと呆れるが、相手を気遣って引く意味がない。

 それこそそんな事を気にしていたら全滅だ。


 オイゲンはと言うと、苦渋の顔を見せていた。

 多分解っているのだろう、此のままでは無理だという事を。

 そして、俺達が参戦しなければ逃げる隙も伺えないことを。


 俺は無言でただ前に出る。

 アヒムを失い、PTの連携が取れない今は俺が前に出るのが良さそうだ。


「此処で鵺を止める!皆下がって!」


 イリスとセフィリアがオイゲンやビアーチェを庇いながら後退する。

 アリスはアヒムが気になるのか、下がる気配が無い。


「アリスも下がって」


 声を掛けるもアリスは毅然と突っぱねる。


「まだ、まだでありんす。それにアヒムは大丈夫でありんすよ」


 ん?

 以外に冷静なアリスに戸惑いながら、アヒムに目を向けると其処には首無しの状態で立ち上がってくる鎧の姿が見えた。

 

「え?・・・生きてる??」


「あれぐらいでは死にんせん。まだ戦えいんす」


 そう言ったかと思うとアリスは不敵な笑みを湛えて魔法を唱えた。


「闇の冷気よ我が僕となりて、かの敵を貫かん【クルーォルエグゼキュシオン】!!」


 詠唱と共にアリスの影から無数の闇が沸き起こり、それぞれが鞭の様にうねり出す。

 次第に数を多くした鞭のようなものに穂先が出来て銛のような形になって鵺に向かって行った。


 数え切れないほどの闇の銛が、一斉に鵺に襲い掛かる。


「アヒム!」


 アリスが叫ぶと首の無くなったアヒムが動き出し大斧を振りかぶって突進する。

 アヒムは見事に立ち回り、鵺の動きを封じて【クルーォルエグゼキュシオン】を避けれないようにしたのだ。


 ヒョーーーーーーーーーーーーーーヒヨーーーーーーーーーー


 伝承にあるぬえの声とはこのことだろうか?

 アリスの攻撃が当たる度に、聞き慣れない気味の悪い声が響き渡りる。

 弾かれるものもあるが、幾つかは鵺の体にダメージを与え、その体を血に染めていく。


 鵺はアリスとアヒムにより動きが止まっている。

 好機と見た俺は、刀を上段に構えて怯む鵺に切り掛かった。

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