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第四十六話 夜のお茶会

 結論から言おう。

 根負けしました、降参しました。

 オイゲンにではなくアリスにである。


 俺としては、関わった以上ハイさようなら~とまではクールになりきれない。

 出来るならオイゲン達を助けたいとは思う。

 でも俺には、イリストセフィリアの身の方が大事である。

 だから、付き添いは心苦しいがお断りしたかった。


 角が立たないよう、オイゲンのお願いを断り、オイゲンの頼みすら断るのだから見知らぬアリスのお願いも断るという算段をしていたのに断れなかった。

 

 オイゲンは他の3人の向ける俺達への偏見から、あまり強引には誘わなかったがアリスは違った。

 そりゃあ~もう必死にお願いしてきたのだ。

 何故、其処までと言う位に必死にだ。


 褒め倒しや、護摩摺りでもない真剣なお願いだった。

 とうとうそのお願いに、俺ではなくイリスが折れた。

 彼女に何かを感じ取ったようで、手伝うだけならと言う形で、イリスはアリスを助けたいと俺に言い出したのだ。


 更にセフィリアも折れた。

 セフィリアの場合はアリスに折れたというより好奇心が勝った為だ。

 何に刺激されたかと言うと、アリスの従者と言われるアヒムに対してだ。


 初めて2人に出会ってから、時間が経つほどにセフィリアはアヒムに惹き付けられている。

 別にアヒムに惚れたとか、魅了されたとかではなく何かを感じるという。

 その何かが気になって、一緒に行っても良いと言い出したのだ。


「イリス姉・・・俺は病み上がりだ。イリス姉を守ると誓っている。だから危険には飛び込みたくないんだが・・・」


「ん・・・解ってるわ。私だってラルスをまた危険に合わせたくないわよ・・・でも、どうしてもあの子が気になるの。アリス・・・あの子は私と同じ匂いがするの・・・だからお願い。危険になったら直ぐ逃げるから。少しだけでいいから手伝って欲しいの」


 同じ匂いと言うイリスとアリス。

 俺から見て2人は綺麗な女の子という以外似ていないと思うのだが。

 後、イとアを抜けば、リスはそのまま同じだ。

 此れの事か?


 っと冗談はさておき、イリスまで俺に上目使いでお願いしてくる。

 流石に俺のツボを知っていらっしゃる・・・反則だよお姉様。

 それからは、イリスは何かを感じアリスを気に掛ける様になっていた。


「セフィリアもか?そんなにアヒムが気になるのか?」


「んん~~~~何ていえばいいんだろうね~お兄。わっかんないんだけどな~~~~どうしても確かめたいんだ。何か感じるの、あのアヒムって人に」


「ふむ、でも俺は何も感じないぞ?」


「ふふ、お兄♪私の勘が鋭いのは知ってるでしょ♪だからその勘が言うの、絶対にあの人には何かあるって。だから見極める為にももう少し一緒に行動したいの。お願い、お・に・い・さ・ま♡」


 そう言ってウィンクしてくる12歳の我が妹・・・

 頭が痛くなる。

 

 茶化しながらもセフィリアは真剣な眼差しをして俺を見る。

 イリスとセイフィリアの二人からも頼まれ、結局付いて行く事になった。


 アリスの説明では、ワイバーンを倒した者が扉を開ければ、倒した者のLVより少しだけ強くなった鵺が現れるそうだ。

 それ以外の者が扉を開けると、あらゆる攻撃を無効化する創造神ノナの加護が付いた鵺が出現するのだそうだ。

 つまり資格がないものは、無敵の鵺にケチョンケチョンにされる仕組みなのだという。

 流石に守護者と言うだけはあるのと、攻略前提な部分が謎を呼ぶが・・・


 それと、俺が扉を開けた後はオイゲンPTとアリスPTが戦うそうで、俺達は支援に留めるという。

 直接の戦闘はしないで良いという配慮もされた。

 まあ、此れに関してはアリスはそのままの意味だろうが、オイゲン達は俺に戦闘させたくないのだろう。

 あの状況をもう一度味わいたくないという意味合いが濃そうだ。


 こんな遣り取りの結果、俺達は明日朝一番から最下層を目指す事になった。

 結論が出たら早いもので、夕食を済ませて各々自由に寛いでいる。

 オイゲン達は相変わらずで、俺達より離れた位置で固まっている。


 アリス達はと言うと、何時の間にやら俺達と同席してお茶を飲んでいる。

 イリスとセフィリアが2人を誘い込んだのが原因だ。


「アリス、どうこのお茶?飲める」


「はい、飲む事が出来んす。おいしゅう御座いんす」


「そう、よかったわ♪」


 イリスは出会った時の険悪さは何処へやら、アリスと仲良く話している。

 よく考えれば同年代の女の子の友達などいなかったイリス。

 イリスにしたら、気に掛かることが切欠で友達のように話がしたかったのかもしれない。

 ギコチなくはあるが、同い年同士の女の此の話に花が咲く。


「ジィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「・・・・・・・・」


「ジィジィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「・・・・・・・・」


「ジィジィジィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 一方、セフィリアの方は進展なし。

 ずっとアヒムを見続けるセフィリアと、その視線に晒されるアヒム。

 まるで浮気が見付かった亭主と、それを無言の威圧で責める妻との風景に見える。


 アヒムは喋らないが、その挙動から困っていることは十分に解る。

 俺としても助け舟を出そうかと思うが、セフィリアの威圧に声を掛けるきっかけがつかめない。

 そっと心の中でだけ言っておく『ガンガレ』っと。


 5人で好きに過ごしながら、他愛のない雑談を交しながらお茶を飲む。

 時折皆で冗談を言い合い、笑顔もこぼれる。

 不思議な空間だった。

 何時か見た、アドルフの案内で感じた町への道中が思い起こされる。


 ふと、アリスが漏らす。


「ほんに、羨ましいでありんすな・・・」


 本当に小さく、そして思いの篭った言葉だった。

 俺は聞き逃す事無く、アリスを見詰める。 

 アリスは俺の視線に気付き、バツの悪そうな苦笑を漏らしている。


「何が羨ましいの?」


 つい聞きたくなって聞いてみた。

 聞くべきではなかったかもしれないが、余りにもアリスの苦笑が寂しく見えたので我慢出来無かった。


「別に言いたくなければ言わないでもいいよ」


「・・・わっちは・・・」


 アリスは少し考えた後、話してくれた。


「わっちは、ラルス様たちが3人が羨ましいのでありんすよ・・・」


「・・・」


「わっちゃぁ・・・1人でありんした・・・ずっと1人で・・・外に出たのも此れが初めてでありんす」


 少しずつ話し出すアリスの言葉に、イリスもセフィリアもアヒムも黙って耳を傾ける。


 神祖、それは吸血鬼の王にして強大な魔法使い。

 不死に近い肉体再生能力、他を圧倒する強大な魔力、決して老いる事のない不老長寿が主な特徴だ。

 そして、眷属を召還できる固有魔法【サモン】系魔法を使える。


 アリスの話から、神祖は血を吸う事はないらしい。

 代りに精気を吸い、己の魔力に変換できる性質を持つ。

 ただ、一般の食事からでも肉体の維持が可能らしく食事も普通に出来るとの事だ。

 

 それと、神祖はどうやって生まれるのか。

 そこが更に神祖を他の種族と大きく乖離する訳となっている。


「もともと、わっちはサキュバスでありんした」


 そう、神祖は神祖同士で子孫を繁栄する事はない。

 膨大な魔力の暴走で、自らを変質させ生き残る事の出来たものだけがなれる存在。

 しかも、魔力の暴走が引き起る事自体も稀で、生き残る者はまずいない。

 数百年に一度、本当に極稀に存在が発現する種族。

 それが神祖なのだ。


「それに、わっちはラルス様達と同じ奴隷の子でいんした・・・」


「「「・・・」」」


 俺とセイフィリア、そしてイリスは息を呑む。

 奴隷の子、その言葉に大きく惹き付けられる。

 アリスがどうしてああもか弱く脅えるのか、その答えがそれなのだろう。

 俺達以上に辛い何かを心に負ったのかもしれない。


「アリス、やっぱり奴隷だったのね・・・私達と同じ・・・」


「はい、そうでいんした・・・イリス・・・貴方がほんに羨ましいんす・・・」


 此の短時間で呼び捨てになっているイリスとアリス。

 子供だし、年齢も近い、そして境遇も似ている。

 だからだろう、急速に仲良くなった理由がわかった。

 それと、イリスが感じた匂いの訳も・・・


「神祖になるまでは、ずっと母と共に昌館におりんした。奴隷となったサッキュバスは皆、昌館に売られるのが普通でありんす」


 なるほど、だから廓言葉なのか。

 アーリラダ王国も奴隷制があるのか、魔族にもそういった慣習が根付いていたようだ。

 奴隷制度の無い国は、このミースでも少ないのだろう。


 此の後、アリスはポツポツと語り出す。

 昌館で過ごした子供時代。

 下卑た男達の言われもない暴力や、蔑む目。


 母からのネグレクトに友人のいない日々。

 まだ10歳になる頃に、男に襲われて暴走した結果、神祖になった事。

 貞操までは失わなかったが、男の嫌らしい顔つきが忘れられないと。

 この時神祖となった為、奴隷の身分からは解放されたらしい。

 神祖に生まれ変わる事で、その辺がリセットされるとの事。


 神祖になってからは、アーリラダ王国にて捕縛監禁され身柄を拘束されていたこと。

 やはり神祖は魔族でも疎まれるのだろう、目覚めたばかりのアリスを監視下におきたかったようだ。


 そこで幽閉生活の後、12歳になる頃に聞いたことも無い神殿に連れて行かれて巫女にさせられた事。

 誰もアリスを敬う事無く、ただ予言の確認に旅立つ為の訓練に明け暮れた事。

 そして神々の話を教え込まれこの地に向かったこと。

 そして今現在に至る事。

 この旅が上手く行けば、アーリラダ王国で自由の身になれる約束になっている為、絶対に叶えたいと言う思いを聞かされた。


 俺達は、アリスの話を聞く。

 どうしてもシンパシーを感じて仕方が無い。

 内容は違えど、どうしても共感してしまう。

 俺達も自由を夢見てアルティナ国に向った日々が重なる。


 それよりも神祖なのに何故抵抗しなかったのか?

 アリスは俺の質問にこう答えた。


「確かに神祖は強うございいんす。でも、嫌われとう無かった・・・ずっとそう思っていたでありんす」


 愛されたかったとは言わない。

 嫌われたくなかった。

 この言葉は大きく俺の心に響く。


「だから、ラルス様達の事を教えてもらった時は、ほんに羨ましく夢のような話でありんした。姉と妹を危険な旅路の中守り助け、其ればかりか自分の事は後にしてでも奴隷の子の身分から姉妹を解放したた小さな勇者様・・・わっちには白馬の王子様にみえいんす。それに優しい姉のイリス、何処までも可愛らしいセフィリア・・・その2人の為に奮闘するラルスさまの話を聞いて、わっちは惚れてしまいんした」


 すこし頬を染め、熱の入った目で俺を見つめるアリス。

 その姿にイリスとセフィリアは、なんともいえない顔をしていた。

 嫉妬と同情と肯定と自慢と、なんとも複雑な表情だ。


「ま、まあアリスの話は解ったわ。でも、ラルスは私の大切な人でもあるの。色目を使われるのは嫌だけど、憧れで見られるのも悪い気はしないわ・・・でもアリスといえどラルスには近付いちゃダメよ」

 

 イリスは何ともいえない言葉を並べてアリスみ指差して釘を刺している。

 仲良くなってしまったが為に強固にでれないようだ。

 初めての友人との距離に、イリスの戸惑いが感じられる。


「いえ・・・あの・・・イリスに嫌な思いはさせとうありんせん。でも、憧れはありんす・・・好きな気持ちも偽りはありんせん。イリスも好きでありんす。セフィリアも・・・皆大好きでありんすよ」


「っむ・・・ま・・・まあ・・・好きは解るけど、それって話を聞いたからだけで、実際に知れば幻滅するかもしれないわよ?」


 イリスはあくまでも憧れと思わせたいのか?


「そうですね・・・今はまだ憧れかも知れんせんな・・・」


 ちょっと落ち込むアリス。

 イリスはアリスの落ち込みに困り、気遣いつつ質問を重ねる。


「それに男に襲われたんでしょ?その・・・大丈夫なの?」


 そうだよな、憧れても男に嫌悪感はないのだろうか?


「・・・正直、怖いおす・・・でもア・・・ア・・・アヒムとラルス様は不思議と怖くのういんした」


「そ・・・そっか」


「・・ええ」


 微妙な空気になり、2人は黙る。

 俺は仕方が無いと思い、話題を変えてみた。


「まあ、それは置いといてアリス。鵺の対抗策ってあるの?」


「はい、策とは言えんせんが鵺のスキルを防げば普通の魔物と同じく対処できんす」


「どんなスキルがあるの?」


「それは・・・」


 話題を変えた事でアリスもまた話を始めてくれた。

 イリスもさっきの事は気にしないように聞き手に回ったり、アリスに助言したりして元に戻っている。


「じゃあ、明日はよろしくね」


「はい♪よろしくお願いしんす」


 皆での話も終わり、明日に向って就寝する。

 イリスの薦めで、アリス達は俺達のテントで寝る事になった。

 夜番はアヒムがするとの事。

 

 流石は神祖の従者、眠らないらしい。

 俺は女性陣とは少しはなれた場所で寝袋に包まる。

 テントは女性陣に明け渡し、外にいるのだ。


 テントの中は窺い知れないが、話し声が聞こえてくる。

 セフィリアの声を殺した笑い声が聞こえる。

 どうやら3人仲良くなったみたいだ。


 安堵して眠りに付こうとして、アヒムの背中を見た。

 彼の背中は大きく、とても温かく見える。

 何処か懐かしい、でも悲しい思いが浮かぶも眠気に負けて目を閉じた。


 そんなラルスを振り返るアヒムは、誰にも聞こえない声で呟く。


「良い面になったな、ラルス・・・」

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