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第四十五話 神話

説明回みたいなもの?

 アリスが俺に向って話してくれた内容に、聞き入っていた皆は固まる。

 余りにも突拍子も無い内容に、頭が付いて行かないのだ。


「なあ、オイゲンよ。まさか知ってて此処に来たんじゃないだろうな?俺は聞いてねーぜ」


 クロードはオイゲンに向って詰め寄る。

 それはそうだろう、もし知っていたらこんな所に来る気が起きない。

 依頼でも嫌だと思う。


「・・・此の話、信じられません。神を侮辱する発言です。やはり神祖の言う事など私達を誑かす世迷言でしかありえません。オイゲン、貴方から真実を話してください」


 ビアーチェは親の敵でも見るようにアリスを睨む。

 どうしてもアリスの話を信じられないのだろう。


「ひぃい!・・・おゆるしなんし・・・おゆるしなんし・・・」


 ビアーチェの形相に、またもや脅えるアリス。

 俺でも怖いのだから当然だろう。

 それにしても、彼女の脅え方が異常過ぎてで気になってくる。

 

 どんなに謝っても、ビアーチェはアリスを睨む事を止めない。

 穏やかな雰囲気で、人の良さそうなビアーチャが睨むとメチャメチャ怖いのだから手加減してあげても良いと思うのだが・・・

 何というか、後で悪夢に魘されそうな位に酷い形相だ。

 それ故に質が悪い。

 場の空気が悪くなる中、オイゲンが苦しそうに言葉を搾り出していく。


「んむ・・・それはの・・・」


 2人に詰問されても歯切れの悪いオイゲン。

 口を開きながらも、話を切り出す気配が無い。


 オイゲンが口を開いたり閉じたりして、言うべきか悩んでいる。

 その隙に脅える故か、自らを正当化しようと必死に弁解するアリスの言葉が火に油を注ぐ。


「わ・・・わっちは嘘を付いておりんせん。しとつとて残さず真実で御座いんす。ど・・・どうか信じてくんなまし・・・」


 直ぐにビアーチェが鬼のように立ち上がりアリスを威嚇する。

 クロードは半信半疑ながらも、ビアーチェヲ宥めようとする。

 ジモンはただじっとしていた。


 そんなオイゲン達の行動に驚き、アリスは誰でもない俺に助けを求めてきた。

 廻りには目もくれず、俺に向って縋って来るアリス。

 俺の胸に飛び込み、ガクガク震えているので正直どうしていいか迷う。

 取り合えず、宥める事はしておく事にした。


「だ・・・大丈夫だよアリスさん。その・・・俺は信じるから。っね。だからもう少し詳しく話して欲しいな」


 俺の言葉を聴いて、胸の中で脅えるアリスは恐る恐る俺を見上げる。

 愛らしい顔が悲しみに涙を流し、俺の庇護欲を駆り立てる。

 俺自身もどうしてか解らないほどに、心の奥底が疼き、衝動的にアリスを抱きしめたくなる。


「真に信じてくれるでありんすか?」


「ああ、信じるよ」


 荒唐無稽な話だったが、皆ほど信じられないといった感想は無かった。

 なんせ、俺自身が非常識の塊なのだからアリスの言う事もありなのかと思う。


「やっぱりお優しいお方でありんすね、出来れば・・・そのアリスと呼んでくんなまし・・・」


「え?ああ、まあ、じゃあ呼び捨てで。俺のこともラルスでいいよ」


 やっぱりって何でだろう?

 なんだろう、違和感を感じる。


「はい、ラルス様・・・」


「いや、様はいらないいんだけど・・・アリス」


「まあ、まあ・・・アリスと呼んでいただけるのでありんすね・・・」


 ズガァッァアアアン!!


 鈍い痛みが頭に伝わり我に帰る俺。

 後頭部の痛みに、手を宛がいながら頭を叩いた原因に向き直る。

 後ろを見れば、鬼の形相をしたイリスとセフィリアが仁王立ちしていた。


「・・・ラルス・・・何いちゃついてるのよ・・・知ってる?神祖は【魅惑の芳香】を持っているのよ?異性を惑わし虜にするの・・・騙されちゃダメよ」


「そうだよお兄!デレデレしちゃっても~イリス姉とセシリーというものがありながら、何を他所の女に優しくしてるん?ん?ん~~~~!?」


 2人は抱きつくアリスを俺から引き剥がす。

 離されたアリスは、何故という顔をして途方に暮れている。

 自分が引き剥がされた理由に納得いかないのか、アリスは必死にイリスとセフィリアに説明する。

 

「ああ・・・わっちは【魅惑の芳香】など持っておりんせん・・・それはチュカカプラが持ってなんすスキルで御座いんす。魔族への偏見で間違って伝わったお話でありんす・・・わっちら神祖は異性を惹き付ける体質を本来持っておりなんす・・・でも、それはわっちらも制御でぬ業でありんす、決してわざとしているんではありんせん・・・」


 俺は盛大に噴く。

 チュカカプラ居るのかよ?

 つか、異世界の生物が地球に侵攻していたのか?


 それと、アリスは意図せず相手を惹き付けるのか?

 どうも困った体質を持っているようだ。

 チュカカプラを想像し、俺がアリスを抱きたくなった理由が解りマジマジと見詰めてしまった。


「じゃあ、神祖ってヴァンパイアの王よね?血を吸うのではなくて」


 イリスが恋敵を見るような目でアリスを見詰めて聞く。

 その問いかけの間に、俺はイリスの右手で頬を引っ張られてる。

 痛いです・・・お姉様・・・


「それも間違いでありんす・・・血を吸うのはグール系の魔物でありなんし、わっちら神祖は口付けか首筋から直接精気を分けて貰ってありんすだけで、血など吸う事はありんせん・・・」


 アリスの弁明に、眉を吊り上げ真偽をはかるイリス。

 その表情を見て、更に自分の想いを伝えるアリス。

 

「イリス様は、えろうお優しいお方と聞き及んでおりなんし。セフィリア様もお強く真に心の有様を見抜く素晴らしいお方とお聞きしておりんす・・・どうか信じてくんなまし」


 何故2人の事を知っている?

 如何にも誰かに聞いたような口調で話すアリスを訝る俺達。

 アリスは『しまった』といった具合に手を口に当てて慌てている。


「え・・・っと、その皆様のお話を聞いたのは秘密でありんす。決して聞いたわけではありんせん」


 またもや暴露してくるアリス。

 この子は本当にどんな環境で育ったのやら・・・


 このまま追求するにしても、肝心な話が進まないので一旦アリスへの追求は置いておく。


「まあ、取り合えずアリスの詮索は後にして、オイゲンもアリスの話を知っているようですね?」


 本題からそれたようなので、話を戻す。

 ずっと考え込むようにして俯いていたオイゲンも、観念したのか重い口を開いた。


「確かに知っておる・・・じゃが此れから話すことは他言無用じゃ。漏らせばギルドの制裁を受けることになるじゃろう。皆、覚悟して聞くことじゃ」


 オイゲンの低く威圧に満ちた声に、クロード達は息を呑む。

 俺達は聞いて良いか解らず、オイゲンを見ると頷いて来たので聞かないといけないのだろう。


「始まりの3柱神はアリスの言う通りじゃ。この世の始まりに暗黒あり、其の暗黒に一条の雷が生まれ光っては消えるを繰り返す事で時が生まれた。暗黒を司るは破壊神モルタ、雷を司るは創造神ノナ、そして時を司るは時空神デキマという」


 オイゲンは神々の神話を語り出す。


「雷の力が大きくなり、次第に輝く閃光が暗黒を照らし出す。すると太陽神アトロンが光と共に、月の女神ティアーナが影と共に生まれた。創造神ノナは、雷から発生する火から火の神バルカルを生み、大地を作り大地神デーテ生む。木々を生やし、風を運びゼルを生んだ。更に水を世界に満たして水の神ティスを生み、世界の基本が出来上がったのじゃ。それからも創造神ノナは、次々と新しい神々を生み出す。こうして世界は作られ、始まりの3柱神と、生命の親である奇跡の6柱神が世界をあまねく管理したのじゃ」


 俺は聞きながら、何か釈然としないものを感じていた。

 確か、世界を管理しているのは太陽神アトロンの筈。

 なのに、その上に3神が居た事と創造神が全く別物である事に不信感を抱く。


「じゃがの、世界が作られ神々が跋扈し栄達を極めたのもつかの間じゃった。所詮は6柱神、神の子でしかない。その子達が作り出す生き物は神とは呼べもしない半端物じゃった。生命の親と言われるだけあって、6柱神は様々な生き物を生み出しておるがどれも神の子の子とは呼べぬ存在じゃった。アトロンとティアーナはエルフ、人間、ドワーフ、妖精、グラスランナー、ノーム、獣人に魔族。バルカルは精霊をティスは魚や両生類を、デーテは牛や猪、犬猫などの動物を、そしてゼルは鳥や虫を生み出した。6柱神はあらゆる物を生み出しては、神に届く生命を模索しておったのかも知れぬの」


 なるほど、人型の生命はアトロンも関わっていたみたいだ。

 なら管理者としての立場は理解できる。

 だが、なら何故創造神は関与して来ないのか?

 いや、名前すら伝承されていなかったのか?


「しかしの、此れを快く思わなんだ神がおった。破壊神モルタじゃ。モルタは元々其の名の通り破壊神であり、唯一無二の暗黒をこよなく愛しておる。故にザワザワと沸き起こる神々と命に辟易としておっての。ついにキレて、創造神ノナと争い、此の世界をもう一度無に帰そうとしたのじゃ。そのモルタが作り出したのが魔物であり、今もモルタの魔素が残った場所には迷宮が存在し、日々魔物を量産しておる」


 なんとも迷宮の生まれた理由まで聞けるとは思いもよらなかった。

 しかも魔物は魔素から生まれるのか、不思議な生い立ちだと感心する。


「2人の神々の争いは熾烈を極めたが、此処に時空神デキマが参戦して決着を向かえた。過去から未来へと時の流れを維持する為に、デキマはノナに加勢したのじゃ。無では時の流れはないからの。じゃがの、幾ら2神が手を組んだところで始まりの3柱神が死ぬ事はない。故に2神は自らを枷として、モルタを封印し世界の管理を6柱神に預けて姿を消したという」


「じゃあ、なぜ神々の名が今にも伝わっていないのですか?オイゲン」


「それにはからくりがあっての・・・ラルスよ6柱神はまんまと世界の頂点に君臨したのじゃが、何故に破壊神モルタが無謀な行動に出たのか?如何考えても1神だけで事の成り行きを止める事は出来ないと思わぬか?」


「確かに・・・」


「つまりの、6柱神の中にモルタを唆した神がおると言われておるのじゃ。1神か2神か解らぬ、もしかすると6柱神全てかも知れぬ。実際に戦ったのは3柱神だけで、6柱神は誰一人参加したという伝承が無いしの。しかも、現に今でもモルタの魔素が作り出す迷宮は放置され、魔物が跋扈しておる。なのに創造神ノナと時空神デキマはその存在を意図して消されておる。かろうじて、一部の末端の神々とか古い血脈に連なる長寿種族にだけ、その存在が語られておるだけじゃ」


 その一族の巫女がアリスなのだと、オイゲンは目を向ける。

 一気に視線を集めたアリスは、驚きながらもオイゲンの話を肯定した。


「その通りでありんす。わっちら神祖はその事をずっと長き間語り継いできんした」


「じゃあ、此処に来たのは・・・」


「はい、時空神デキマ様の予言に従い、雷の神殿が現れるのを確かめにきんした。道中、アヒムに出会って助けられて此処に来んした。【試練の門】がわっちら巫女の祈りを聞かんせんで、襲い掛かってきんしたので仕方なく神殿内に逃げ込み結界を張り、まっことどうしようもなくなって此処に逃げ込みんした・・・」


「試練の門って鵺の事かい?」


 話を聞いていたクロードが質問する。

 ビアーチェは睨みを利かせているし、オイゲンは話し疲れたのか聞き側に徹している。

 ジモンは無言だし、ラルスやイリス達はそもそも鵺を知らない。

 だから、クロードしか鵺かどうかの質問が出来無かったのだ。


「いいえ、違いんす。鵺は【守護者(ガーディアン】であって、【試練の門】はワイバーンでありんす」


「「「え?」」」


 ワイバーンと聞き、俺とイリス。セフィリアが驚く。

 あっれ~~~倒しちゃって良かったのだろうか・・・


「ワイバーンって・・・殺しちゃってけど・・・その良かった??」


「ええ?ラルス様がワイバーンをお倒しになりんしたんでありんすか?」


「ああ、その問題ないの?」


「・・・それはそれでかまいんせん。・・・、巫女と従者以外に【試練の門】を超えた者のみに、【守護者(ガーディアン】との対等な勝負が許されておいでなんす。そうですか・・・ラルス様が・・・流石はわっちの見込んだ男でありんすな♡」


 また蒸し返しになってしまう。

 アリスの熱い視線を無視して、オイゲンに聞く。


「【守護者(ガーディアン】ってのが、もしかしてオイゲン達が此処に戻る切欠になった鵺の事ですか?」


「うむ、そうじゃ・・・鵺を倒して神殿の奥、ノナの間に辿り着く必要があるのじゃが、どうやら【試練の門】を倒してない者には倒せない魔物になっておるのかも知れんの」


「そうでありんす。巫女のわっちが本来行くべきでありんすが、【試練の門】からして何やら伝承と違う細工が潜んでおりなんす。鵺もどうしてか、わっちらを侵入者と捉えて祈りを聞きやしんせん。ラルス様にご同道願いたくありんす」


 俺とイリス、セフィリアは顔を見合わせて考える。

 神殿の奥に俺達が行く必要があるのだろうか?


「・・・すまぬがラルスよ、一緒に来てはくれぬか?」


「わっちからもお願いしんす。どうか一緒にきてくんなまし」


 頭を下げる2人に、俺達は困るだけであった。

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