第四話 5歳になっても変らない
あれから随分経って、俺は5歳になった。
明日から奴隷の子として仕事に出なければならない。
イリスが5歳の時に、ミリアリアさんの連れられて外に出ていった。
その時にこの世界での奴隷の就労年齢を把握したのだ。
このミースでは子供といえども労働力として扱われる。
お金持ちの商人や貴族の場合は、就学するために学校に行くらしい。
でも、俺達のような奴隷はもとより、貧しい農家の子供達も5歳を機に働きだすのだ。
そして15歳になると、奴隷の子供は自動的に奴隷になる。
もちろんその親の所有者が権利者となる。
権利者である主が、15歳になった子供を自分の物にするか、奴隷商人に売り渡すかも自由だ。
ただし、15歳までは正式な奴隷契約はなされない。
一応、その辺はこの世界の道徳なのか未成年の買春を防ぐためでもあるらしい。
まあ、権力者や金持ちには通じないかもしれないが。
そして、イリスが外に出た事で俺は此処の奴隷が何をしているかも知った。
この屋敷にいる奴隷は、全て労働奴隷として買われてきた者達だ。
人攫いにより奴隷に身をやつしたものから、借金をして奴隷になったものまで様々に居る。
俺達の母親3人は、この人攫いに捕まった口だ。
捕まった時点で、妊娠している事は判別付かない時期ならそのまま売買されてしまう。
その為、奴隷になった後に出産する者も幾人かいる。
こうして奴隷が生んだ子供の権利に付いても規則があり、今言った通り15歳までは労働力として使う事はできても正式に契約はされない。
所有権だけは生まれた時点で、買い取った主人の物と扱われるが。
ここの主はまだ見たことは無いが、どうやら豪農のようで農園を経営していると考えられる。
イリスの話す内容から、手伝っている事と親の仕事ぶりを聞き確信している。
「ラルス♪セフィリー♪只今~」
「「おかえり~♪」」
夜になると母親達と一緒にイリスが帰ってくる。
まだ子供なのに、俺達に心配させないよう気丈に振舞う姿がいじらしい。
「今日はね~一杯草を取ってね、こ~~んなに山になったよ~♪」
大きなジェスチャーをして外の出来事を教えてくれる。
出来るだけ過酷ではなく、外が楽しいと伝える事で仕事の辛さを思わせないように。
「うふぅー♪セフィリー外に出たい!」
獣人のセフィリアは、体を動かしたくて溜まらない様にはしゃぐ。
ピョンピョン跳ねてイリスにアピールしている。
「大きくなったら一緒に出ようね~」
「うんふぅ~~~出る~~~♪」
セフィリアは獣人のため、体の発育がいい。
半年違いの生まれなのに、既に俺の身長を超えている。
しかも身体能力が高く、力も強い。
だが、やはり獣人なのか頭は年相応か幼い。
そのギャップもまた可愛くて萌えるのだが。
「ラルスは外に行きたくないの?」
心配そうに見てくるイリス。
「ん~出たいよ」
心配そうなイリスを安心させたくて笑顔で答える。
「ほんとに~?」
「うん、ホントだよ」
「そっか~♪ラルスと離れるの寂しいから、早く一緒に外に出たいな~♪」
小さい頃から奴隷部屋でずっと過ごしてきたのだ。
イリスは俺達と離れるのがとても寂しいらしい。
仕事をしていると、何とかその寂しさも紛らわせるが、ふとした瞬間に泣きそうになると漏らした事があった。
母親の存在は、俺達にとって普通にいて欲しいと思う人間だが、小さい頃から側にはほとんど居なかったため、どちらかと言えば子供たち3人の絆の方が離れる寂しさが勝っているのかもしれない。
「イリス、足大丈夫?」
「うん平気・・・かな♪」
これはイリスが外に出てからお決まりの会話だ。
イリスの反応を見て、俺は小声でイリスに耳打ちする。
「じゃあ後で治してあげるね」
「うん・・・ありがとうラルス」
照れ臭そうにしながらもお礼を言うイリス。
笑顔で問題ないと伝えて、皆が寝静まる夜を待つ。
俺は後10年で、この奴隷の環境から抜け出す算段を考えなければならない。
でも、正確には10年は無い。
一緒に育ち、苦楽を共にしたイリスとセフィリアも奴隷から解放したいと思っている。
だから、実質イリスが15歳になるまで。
そう後8年で目処を付けなければならない。
俺はこの世界に来て、赤ん坊になってからずっと繰り返し努力してきた。
魔力を感じ取るまでに1年。
其処から魔法を出せるようになるまで1年掛かった。
魔法。
此れは魔力をどの様に周囲に影響させるかが問題だ。
神に貰ったチートは【ラーニング】と【アルキメイト】。
どちらも魔力は関係するが、魔法とは違う。
俺自身、まさか奴隷の赤ん坊になるとは思っていなかったので、使い所が無い。
かといって魔法について、この世界で学んでもい無い。
ファイアーとかヒールとかどう詠唱するかも皆目見当が付かない。
でも、だからと言って諦める事はない。
俺は前世の記憶を頼りに、体内の魔力を見つけてからはそれをどう出すか試行錯誤したのだ。
結果、まず自分の体内を隅々まで行き届かせる事に成功した。
この効果のお陰か、怪我や病気も比較的軽く済ませられたし、何よりも体中の細胞を感じ取る事ができた。
そこで、魔力を使い体中の細胞を活性化させ、赤ん坊のうちから肉体改造に励んだ。
健康的な肉体形成のために、細胞に耐性を付けていく。
筋肉は逝く度となく再生させ、力強いものに作り変える。
骨はその密度を増させ、強く折れにくくし、強くなる筋肉にあわせて強化する。
ありとあらゆる肉体強化が済むと、自然と魔力を放出する糸口が見えた。
指はもちろんの事、体の皮膚近くまで魔力を持っていく。
放出したい目標地点に向って、魔力を押し出すように伸ばす事で放出が出来るようになった。
ただ、魔力だけが伸びるので何らかの現象までは起こせてい無い。
多分、詠唱や魔方陣を知らないと無理なようだ。
でも、此れができると一つ出来る事がある。
それを、疲れて傷ついたイリスにいつも施しているのだ。
夜も深け、みなの寝息が聞こえると俺はイリスに近付き魔力を当てる。
「ん・・・ラルス?」
「しー静かに、寝てていいよ」
「ありが・・・とう」
昼の疲れで起きるまでに覚醒しないイリスをそのままに魔力で治療を始める。
疲れて傷ついた足に手を当て、魔力を通す。
次第にイリスの足に、俺の魔力が行き渡る。
十分に行き渡るった事を確認して、俺のイメージする治癒をイリスの足にも施していく。
徐々にイリスの細胞が活性化して、疲れを癒し傷を治していく。
治す際に必要な栄養は、俺の魔力で代用する。
疲れて泥の様に寝ていたイリスの顔が、少し安らかになり規則的な寝息を立て始めた。
どうやら今日も上手く行ったようだ。
イリスの安堵した寝顔に、俺もホッとして寝る事にする。
明日からは俺も外に出なければならない。
残していくセフィリアも心配だが、彼女にはある特訓を課してある。
時間つぶしになると思い、教えた事。
そして大人しく待っていたらご褒美を持って帰ると約束もしている。
さあ寝よう。
明日からは働くのだから。