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第三十六話 絶体絶命

 魔力全開の【9尾鬼炎三連】は、トロールを倒した時と同じ火柱を上げ、目の前の魔物に襲い掛かる。

 俺達を囲んでいた魔物は、囲みはしていたものの、俺に先手を取られて浮き足立つ。


 【9尾鬼炎三連】を打ち込んだ先にいた魔物は、火柱に巻き込まれて燃えている。

 廻りの魔物も、火柱の勢いに飲まれ、数十匹は行動不能にする事が出来た。

 だが、其の分魔物の気勢は上がり、此方に向かって攻撃を開始する。


「イリス!【ホーリーウォール】を張るんだ!」


 【ホーリーウォール】は神聖魔法による絶対防御の壁だ。

 絶対防御と言えども魔力が続く限りと言う制約と、許容量を超える攻撃を受けると無くなるという条件付だが防御にはもってこいのスキルだ。


「わかったわ!」


「セフィリア、後は頼む!」


「うん!」


 イリスは直ぐに【ホーリーウォール】を展開する為に、呪文の詠唱に入る。

 跪き祈りを捧げるように詠唱する姿は、此の魔法に高い精神集中を必要性とするのが解る。


 【ホーリーウォール】の展開で無防備なイリスを庇うように、セフィリアは大剣を下段に構え、魔物を迎え撃とうと構える。

 セフィリアは、オリハルコンの大剣と鎧に、全身から気を伝え闘気を発している。

 何時の間にか、オリハルコンを上手く使えるようになっているようだ。


 俺の先制攻撃から、まず最初に囲みの中から出て来たのは、アーントの群れだ。

 アーントは蟻そのものの魔物だが、その大きさは人よりも大きく力も強い。

 大きく力も強いが、単体としては難しい相手ではないのでランク自体は低い。


 1体1体なら単なる力のある蟻なだけに、ルート荒野では雑魚だ。

 ただ、対処も楽な魔物ではあるが、数で責めてこられと脅威になる。

 数の暴力は固体の性能を上回るので、群れるアーントは非常に厄介だ。

 それ故、最初の様子見としては納得の行く先兵かもしれない。


 兵隊蟻よろしく、アーントは俺達に向って突進してくる。

 数も30体はいるだろうか、砂塵を上げ突進してくる姿は圧巻だ。

 アーントの突進の向こうには、レイスが火魔法を打つ準備を始めている。


 蟻の後方で魔法詠唱しているレイスは40体程度

 一気に打ち込まれたら、俺の【3尾符水銀鏡】がもつだろうか・・・

 此処は、出来うる限り【3尾符水銀鏡】を更に強化して張り巡らすほうがいいかもしれない。


 それに、アーントを巻き込んでも、魔法を打ち込もうとする魔物の攻撃。

 味方の損害など気にせず、相手を屠ろうとする行動に戦慄を覚える。

 やはり魔物は魔物なのだろうか。

 仲間と言う意識よりも獲物を倒す事のほうが優先されている。

 

 アーントの突進が迫る中、イリスの【ホーリーウォール】が完成した。

 眩い青白い光を放ちながら、イリスを守るように魔法陣から光の壁が現れる。

 後方での防御が整ったら、今度は俺の番だ。

 

 俺はまず、レイスの魔法攻撃を防ぐべく【3尾符水銀鏡】と唱える。

 右手には再度取得した【水魔法LV7】を、左手には【超硬化】を発動する。

 この時、合成されるまでに消えたスキルを、再度補充する。

 

 所謂重ね掛けみたいな要領だろうか。

 合成されそうになると、【水魔法LV7】と【超硬化】を何度も重ねる。

 何故可能かと言うと、スキルが消える端から、後方で詠唱しているレイスとアンフィスバエナのスキルに応じて【ラーニング】できるからだ。


 何度も何度も重ね、たまに【超硬化】を【凶暴化】など代用できそうなスキルを片っ端から重ねた。

 いよいよ後方のレイスからの魔法が発動するようだ。

 俺は、今までか重ね合わせたスキルを一気に放つ。


 【3尾神水八咫鏡】


 浮かび上がったスキルは仰々しい名前になった。

 八咫鏡といえば、3種の神器の一つじゃないか?

 まさか、そんなたいそうなものが出来るとは。


 意外な名前に驚きつつも、発動したスキルは壮観だった。

 何処からとも無く、鴉達が沸き飛び、1羽づつ折り重なり始めると大きな輪を作る。

 すると、その輪の中に渦巻くような水が張り巡らされ、次第に銀色の光を放ち半透明になる。


 前方に展開された枠になっている鴉を良く見れば、皆脚が3本あった。

 そう、八咫鴉が鏡枠となって八咫鏡を作り出しているのだ。

 その枠を入れた【3尾神水八咫鏡】の大きさは5mはあるだろう。

 まさに神器に相応しい様相を呈している。


 【3尾神水八咫鏡】が張り巡らされたので、次は迫るアーントを止める番だ。

 俺は、【4尾毒氷雨】をアーントに向かって放つ。

 昆虫なだけにアーントの弱点は水に思う。

 効果は抜群だろう。


 暗雲が立ち込め、アーントに向って氷の氷柱が降り注ぐ。

 氷柱に刺し貫かれ、身動きが取れなくなったアーントは、直ぐに死ぬ事は無かった。

 穴が開こうが足が千切れようが、突進するのを止めない。


 昆虫は生命力が高く、多少の傷を受けても動く。

 アーントも昆虫と同じ様だ。

 死ぬまで突進を諦めようとしない。

 だが、その動きも長くは続かないようだ。


 【4尾毒氷雨】に含まれる毒により、徐々に体を腐食させられ死んでゆく。

 如何に生命力があろうと、毒には抵抗出来無かったようだ。

 次々に死んでいくアーントの群れ。

 その群れをお構い無しに、俺達に向ってレイスの放った火と水魔法が降り注ぐ。

 

 万が一に備え、俺自信に【身体強化】と【1尾金剛】を掛けて魔法攻撃を受ける。

 【3尾神水八咫鏡】に当たる火と水魔法の嵐。

 だが、レイスの放った魔法攻撃は全て【3尾神水八咫鏡】に吸収され消えていく。


 しかも俺のMPが回復するのがわかる。

 強化により新たなる力と効果を持った【3尾神水八咫鏡】に驚く俺。

 というか、物凄い強化である。


 【3尾神水八咫鏡】の効果で無傷な俺は、後方で構えるイリスとセフィリアが何事も無く住んだ事に安堵していた。

 少し油断していたのかもしれない。

 一瞬の気の緩みが俺の警戒を疎かにさせた。

 

「お兄!後ろ!!」


 セフィリアの声が届き、咄嗟に身構える。


 ドーーーーーーン!!


 俺は後方から殴られ、その場に尻餅をつく。

 セフィリアが飛び出し、何も見えない俺の背後だった場所に切り掛かる。

 大剣は空を切り、何ら効果はなかった。


「トロールだよ!お兄気をつけて!!」


 俺は、眼前の敵にばかり気を取られすぎていた。

 トロールやハーピーの様に、姿を消したり空高くにいる魔物を失念していた。

 

「セフィリア!イリスが危ない。ここは何とかする!戻れ!」


「でも、お兄が・・・」


「俺は大丈夫だ、それよりもイリスの方が危険だ!トロールに対処できない!」


「わかった・・・」


 渋りながらも、セフィリアはイリスの守りに戻る。

 俺は、見えないトロールの接近に備え、背中の刀を抜き迫る気配を探る。

 近くまで接近を許したので、俺は次の攻撃に備える魔物の群れの行動を抑えれない。


 見えない敵に注意を払いながら、前方を見る。

 すると今度は、ギガースとアンフィスバエナが隊列を組み突進を開始していた。

 初見のギガースは禍々しいまでに大きく巨人のように荒々しい。

 そんな魔物の隊列が勢い良く駆けて来る。

 しかもその後方では、レイスに加えレッドリザードマンも魔法攻撃の態勢を取っているのが見える。


 このままでは魔法は防げたとしても、ギガースとアンフィスバエナの突進を防げない。

 見えない敵に注意を払いすぎては成す術もない。

 仕方なく、見えない敵に対処するべく【5尾雷光】を俺を中心に放つ。

 自滅覚悟で見えない敵を先に倒すことにしたのだ。

 俺の頭上に暗雲が起こり、敵味方関わらず雷が降り注ぐ。


 幾条もの雷が降り注ぎ、見えなかったトロールに火傷を負わす。

 もちろん、俺自身も雷を受け負傷する。


「お兄!!」


「ラルス!!」


 セフィリアは傷を受け透明からまだら透明に変わったトロールに切り掛かる。

 イリスは【ホーリーウォール】を展開したまま、俺に向って【ヒール】を連発する。

 

 俺は更に【5尾雷光】を放ち、トロールに追撃を行い、自身が雷に見舞われながらも、厄介であろう後方に陣取るレイスとレッドリザードマンに意識を戻す。

 見えた先の魔法攻撃態勢にあるレイスとレッドリザードマンに雷を自身のみに受けながら、全力で【9尾鬼炎三連】を打ち込み、魔法攻撃を打たせないようにした。


 そして、迫り来るギガースとアンフィスバエナに対して、始めて【7尾陽炎】を使った。

 【7尾陽炎】のスキル効果は分身。

 【身体強化】と【1尾金剛】により、強化された俺自身が7人現れ、俺達に襲い掛かるギガースとアンフィスバエナと対決する。


 ギガースは緑色の肌をした筋骨粒々とした巨人だ。

 トロールの変化した姿よりも大きく、4mはある。

 そのギガースは分身した俺に向って、巨大な棍棒を振り降ろす。


 俺はギガースの攻撃を避けるも、其の衝撃によろめく。

 何せあの巨体から繰り出される一撃だ。

 空を切った棍棒は、地面を穿ち大地を揺るがすのだから。


 アンフィスバエナは器用に2つの頭を使って噛み付いてくる。

 同じ体から繰り出される息の合った双頭の攻撃もまた強力だ。

 噛み付きといっても、岩をも砕く顎に素早い動きだ。

 交わしながら刀で切り掛かるも、なかなか捉えられず時間が掛かる。


 そうこうしている内にレイスとレッドリザードマンの生き残りから先ほどは防いだはずの魔法攻撃が届く。

 交戦中のギガースとアンフィスバエナをお構い無しに降り注ぐ魔法攻撃。

 しかも俺を巻き添えにしようと、ギガースもアンフィスバエナも必死に牽制してくる。


 幾人かの俺は魔法攻撃で消え、ギガースとアンフィスバエナに押し込まれた。

 後方のイリスに向って、その魔の手を伸ばそうとする。

 それを阻むようにセフィリアが大剣を振るい、防戦している。


 俺は、もう一度【7尾陽炎】を唱え、6人をイリスとセフィリアの手助けに向わせる。

 オリジナルの俺本人は、後方のレイスとレッドリザードマンに向って【9尾鬼炎三連】を打ち込む。

 第2波を準備していたレイスとレッドリザードマンは、隊列を崩し詠唱を中断される。


 一斉の第2波は来なかったが、【9尾鬼炎三連】を逃れたレイスとレッドリザードマンから単発の魔法攻撃は繰り出されていた。

 

 次第に乱戦となる魔物との戦い。

 すると、最後方に待機していた魔物の群れが動き出す。

 此処に来て、全魔物による突撃を開始するようだ。


 俺達も必死になって防戦する。

 俺は尾スキルを次々と繰り出し、魔物を屠る。

 イリスはセフィリアと自分を守るべく【ホーリーウォール】を切らさず、傷ついた俺やセフィリアを癒すべく【ヒール】を連発している。

 セフィリアはイリスを守るべく、獅子奮迅の戦いを繰り返す。


 後方の大群も入り乱れ、何時しか俺達はただ戦う事だけに集中していた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 朝に始まった戦いは、既に昼を過ぎている。

 太陽の位置から憶測しているだけなので、正確ではないが其の位は経っただろう。

 辺り一面には魔物の死骸が所狭しと折り重なっている。

 

 今は睨み合いで、少し距離を取っている。

 余りにも殺されすぎたのか、魔物の方から引いてくれた。

 生き残った魔物のも残り50体ほどになり、俺達も疲労困憊で肩で息をしている。


「お兄・・・もうポーションが無いよ・・・」


「ラルス、魔力丸と強壮剤はまだある?」


「ごめん、もうないかも・・・」


「そっか・・・最後は弓に頼るしかないわね・・・」


「セシリーも残りの体力を振り絞るから。お姉を守るから!だからお兄、頑張ろう!」


「ああ、生きて帰ろうな」


 イリスもセフィリアも用意した装備のお陰で傷はない。

 流石にミスリルとオリハルコンだ、ちゃんと2人を守っている。

 ただ、体力とスタミナはそうはいかない。

 溜め込んでいたポーションも魔力丸も強壮剤も、全て使い切ってしまった。

 

 戦闘中も戦闘後も、アイテムBOXから出した薬は全て使用した。

 それ程までに激しい戦闘をこなし、今まで保つ事が出来たのだ。


 今更もう、装備の点検も何も無い。

 使えるものは使い切ってしまっているが、見た目に武具は壊れていない。

 もし直すとしても時間はないだろうし、今は体力回復に専念すべきだ。

 前方で再突撃に備えている魔物の動きに合わせて、此方も最後の戦闘をする為に息を整えるだけだ。


「さて、何時来るかな?」


 そう言って前方に向かって睨みを効かせ、何度展開したかわからない【3尾神水八咫鏡】を今一度張る。


「ラルス、もう魔力が厳しいから【ヒール】に取っておくわ。だから此処からは弓で行くわね」


「ああ、お願いする」


「帰ったらお兄に剣を作り直してもらうんだ~」


「何で?」


「だって、複数の魔物に対して此れだとちょっと厳しいと解ったから」


「ああ、そうかもなー」


「ふふ、考えてる事があるからお兄に無茶苦茶無理難題を押し付けてあげるわ♪」


「おいおい、お手柔らかにな」


「私もお願いしようかしら?」


「イリスまで?」


「最後に頼る弓が此れではね・・・2人の足手まといになりそうだもの・・・」


「そっか~じゃあ帰ったら全部見直そう」


「「うん!」」


 3人で帰ることを暗に絶対だと言い聞かすように話をする。

 此処に及んで泣き言を言わないのが、2人の成長かもしれない。


 俺達が決意を決めると、魔物の群れに動きが出る。

 最後の攻撃とばかりに、其々の得意なスキルを使って攻撃してこようとする。


 レイスが、レッドリザードマンが、デザートドッグが・・・

 身構え、戦闘の合図を上げる魔法が放たれようとした其の時、別の方角から風魔法の【ウィンドカッター】が俺達に襲い掛かってきた。


「っな!」


「嘘・・・なんで気付けなかったの?!」


「あ!!っちよ!上を見て!」


 セフィリアは自身の索敵が効かなかった事に驚き、イリスは右手上空を指差し驚愕している。

 俺も空を見上げ、イリスの指差す方角を見ると。


 そこにはハーピーの大群が大空一杯に群がっていた。

 更に荒野の複数個所から砂塵と地響きが起る。


 前方に陣取る魔物の群れに向って近付くそれは、この戦闘に参加していなかったセルケルトとバジリスク、そしてラミアーだった。


「万事休すか・・・」


 俺達の運命は、まさに風前の灯となった。

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