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第三十二話 ルート荒野

 西教会を後にして、俺達はアルティナ国の西にある荒野に来ている。

 冒険者ギルドで、俺達のような訓練期間冒険者が、討伐系の危険な依頼を受ける事は出来ない。

 でも、依頼は受けれ無くとも、自己責任で魔物討伐に行く事までは禁止されていない。

 其の事を言い訳にして、俺達は此処にいる。


 本来なら下級のゴブリンやオークといった魔物の、無制限討伐依頼を受けておく方が良いのだが、そんなものは受理される筈も無い。

 採取系や生態調査系の、所謂は訓練兵的な内容しか、12歳時点での冒険者は依頼を受けれない。

 だからといって、15歳になるまで手を拱いて、悪戯に時間を消費したくも無い。


 そこで俺達は、自己責任を言い訳に、大義名分を無理やり正当化して北の荒野に来ている。

 俺達が勝手にそうしているだけで、ギルドの許可は取っていない。


 目の前に広がる荒野の名前は、ルート荒野。

 魔物もLV15~25と比較的高く、CからBランク冒険者が主な狩場とする場所だ。


 砂漠とまでは行かないが、地面は硬く乾き、所々に水辺と木々が生えている程度の緑。

 切り立った崖は高く、剥き出した岩肌は幾重にも重なる筋を見せている。

 解りやすく言えば、アメリカ大陸にあるグランドサークルを想像していただければ良いだろう。

 

 このネイティブアメリカンでも出てきそうな荒野に挑むのだ。

 それに、此処では俺達以外の、他のPTと出くわす事はない。

 それもその筈、現在アルティナ国とカリウス王国は戦争中であり、此の辺り一帯への依頼は只今絶賛凍結中なのだ。


 アルティナ国の西はカリウス王国。

 北はウセル共和国と国境を接していて、南はセレクト公国、ライド王国、マウリ同盟と接する。

 東は海になっており、実質此の5国に囲まれているのだ。


 カリウス王国に攻め入った事で、隣接するウセル共和国の動向が今の所見えてい来ない。

 南の3国は早くから静観を約束しており、憂いは無いと見られている。

 その為、北のルート荒野は危険と判断されているのだ。


 此処に来るのは俺達のように、自分を鍛える為や、どうしても欲しい素材を剥ぎ取りたい変わり者以外は、来ないのである。


 俺の特殊なスキルと、イリスやセフィリアに装備させている武具を見られない点でも、此処は非常に都合の良い場所だ。

 3人でちゃんと冒険者ギルドでPT申請も行っているので、PTの恩恵が受けられるようにも成っている。

 その辺の検証や、2年ぶりの戦闘の勘を取り戻す為にも、人の来ないであろうルート荒野を狩場に選んだ。


 荒野に差し掛かり、俺達はまず、自分のステータスの確認をする。

 腕に付いているのは、冒険者ギルドで新しく仕立て直したブレスレット状の登録証。

 そこに『ステータス』と念じ、各々のステータス画面を呼び出す。


 商業者ギルドで確認した時同様の、小さな光るウィンドウが現れ内容を映し出す。

 ちなみに、この画面は一部を除いて他人も見ることができる。

 見る事の出来ない部分は、スキル欄で、此ればかりは本人しか見えないようになっている。

 手の内を晒す様な事が出来ないように、配慮されていると冒険者ギルドのレーネから教わった。


 【名 前】ラルス

 【L V】18

 【年 齢】12才

 【種 族】人族

 【H P】270/270

 【M P】290/290

 【能 力】S22・V18・I21・P8・A20・L18

 【スキル】刀術LV9・短剣術LV8・投擲術LV9

      算術LV8・異世界言語LV10・料理LV5・鍛冶LV6・裁縫LV4

      製薬LV4・錬金術LV5

      アイテムBOX

 【固 有】ラーニング・アルキメイト

 【特 殊】突進・噛付き・体当り・スラッシュ・軽歩・身体強化

      1尾金剛・2尾岩弾・3尾水鏡・4尾毒氷雨

      5尾雷光・6尾鎌鼬・7尾陽炎・8尾月読

      9尾鬼炎三連

 【P T】イリスLV15・セフィリアLV14


 と表示されている。

 これをイリスとセフィリアに見せると、【スキル】・【固 有】・【特 殊】以外は見えるという。

 俺もイリスとセフィリアのステータス画面を確認させて貰う。


 【名 前】イリス

 【L V】15

 【年 齢】14才

 【種 族】長耳族

 【H P】115/115

 【M P】400/400

 【能 力】S15・V10・I20・P20・A15・L15

 【スキル】風魔法LV7・水魔法LV7・土魔法LV3・神聖魔法LV5・弓術LV7

      算術LV5・ミース言語LV5・料理LV6・裁縫LV6

 【P T】ラルスLV18・セフィリアLV14


 と出ているらしいが、確かに俺には【スキル】欄は見えなかった。

 イリスから口頭でスキル内容を聞いて、納得するしかない。

 というか、何時の間に土魔法を取得できていたのか?

 疑問に思い、イリスに聞いた所、意外な答えが帰ってきた。


「えっとね、オイゲンさんに正確な発音による呪文を聞いて、再度LV1魔法を全部試したら出来たの」


「と言う事は、パステルさんの発音が間違っていたのか?」


「ん~~~ん、何て言うかね~方言?見たいな感じで、発音が偏ってたみたいなの。LV1の土魔法は【サンドショット】なんだけど、パステルさん【サゥンドショット】って覚えてたみたいなの」


 なんとも間抜けな話だ。

 確かにパステルさんは覚えている内容を伝えたが、実際に使って呪文を詠唱していた訳では無いので、誤って覚えたままだったようだ。

 

「まあ、ほんの少しの差だったから問題なかったわ。正しい発音をオイゲンさんに習って、何時も訓練場で魔法を使っていたから大丈夫よ」


 そういって、自信有りげに微笑むイリス。

 俺は、イリスに向って頷いて、今度はセフィリアのステータスを確認する。


 【名 前】セフィリア

 【L V】14

 【年 齢】12才

 【種 族】灰狼族

 【H P】273/273

 【M P】 40/ 40

 【能 力】S18・V19・I4・P4・A18・L14

 【スキル】剣術LV5・斧術LV5

      算術LV5・ミース言語LV5・料理LV3・索敵LV7

 【P T】ラルスLV18・イリスLV15


 やっぱり【スキル】欄は見えなかった。

 イリスと同じく、口頭でスキル内容を聞き、セフィリアの成長を確認した。


 セフィリアの斧術は、どうやらアドルフ直伝らしい。

 彼のパワーを持ってすれば、斧等小枝のように振り回すのかもしれない。

 セフィリアもそうなるのかと、ちょっと逞し過ぎるかもと心配する兄心が出る。


 後、全員に生活スキルが付いていたのも驚きだ。

 料理や裁縫は解るが、俺の鍛冶とか製薬はなんでだろう?

 もしや【アルキメイト】でアイテムを作っていたから、結構取り扱いには慣れたのが原因かもしれない。

 スキルの豊富さにと、適当なLV補正に若干呆れながらも、在るに越したことはないので良しとする。


 ステータスの確認が済んだら、出掛ける前に確認した装備に付いても最終点検をする。

 いざ戦闘時に、何かあったら大変だ。

 荒野に足を踏み入れる前に済ませなければならない。


 まず自分から確認する。

 武器はこの日の為に用意した、オリハルコン製の日本刀。

 全長は120cmと長めにし、刃渡りは85cm。

 柄も長めの29cmで、かなり厚重ねにして作り上げてみた。

 

 所謂、同田貫と謂われる日本刀に近いのかもしれない。

 厚重ねにより出た刃文は、ダマスカス鋼を髣髴させる綾杉肌。

 幾重にも波打つ刃文が重なる、怪しい輝きの刀だ。


 柄巻は黒で、鞘は黒塗り。

 下げ緒をつけているが、長いので背に差している。

 サブウィポンは、扱いなれている小太刀をそのままに、オリハルコンで作り直した。

 こちらは腰の後ろで、真っ直ぐに差している。


 防具も同様に、オリハルコンとミスリルを複合させた鎧を着込む。

 鎧といっても動きを制限したくないので、フルプレートを基本に無くせる所を無くしたハーフプレートメイル見たいになっている。

 守るべき重要な場所はオリハルコンで、その他の間接部分や、鎧自体の稼動ギミックの部分にはミスリルを使用している。

 

 所で、オリハルコンだが、鉄よりも軽く皮よりも重い。

 結構重量感があるので、出来るだけ鎧にする時は、覆う箇所を少なくしてる。

 其の分、物理攻撃にはダントツの防御力を誇り、戦士系職業には夢とまで言わしめる素材だ。

 

 ちなみに、ミスリルは皮よりも軽く布よりは重い。

 硬さはオリハルコンに及ばないものの、それを補って余りある魔法増幅力を有する。

 それ故に、ミスリルで作った杖に魔石を嵌め込んだ物は、相当魔力を上げる品物になる。

 更に、防具にミスリルを使えば、魔法の防御効果を付与できるのが利点だ。

 体力の無い種族には、とても欲しい素材なのだが、オリハルコン同様、夢の素材だ。


 オリハルコンは、使用者の気力?といったものを通すことで、切れ味や硬さを増す性質を持つ。

 ミスリルのように魔法は通さない。

 この辺の性質により、種族や使用目的に応じて使い分けるべき素材になる。


 だから、イリスの場合はミスリルで統一した装備となっている。

 イリスに目配せすると、装備に問題が無いと頷いてくれた。

 此処に来るまでに被っていたローブを取ると、戦闘用の服や武具なのに、美しい外見を更に輝かせるような姿になる。

 勇ましく、美しい森の妖精のように。


 イリスは、武器として以前作ったアーチェーリーをそのまま使っている。

 ミスリルやオリハルコンでは硬すぎて、弓の素材として使えないので、以前のまま変更はない。

 ただ、高LVの魔法を使えるようになったので、スタッフかワンドを装備した方がいいのだが、魔法切れの際に弓と装備交換する手間を考えると微妙なので、特別に試作したものを着けている。


 ミスリルスタッフを出来るだけ細く短く作成。

 出来たスタッフを等間隔で折り曲げて、篭手に形作り魔石を嵌め込む事で、無手でスタッフを装備した状態と同じ効果が出るようにしてある。

 これにより、魔法も弓も両方装備交換無しに使える、チート装備の出来上がりだ。

 

 後、防具としてはミスリルで軽鎧を作成。

 胸当てと肩当、尻当てと脛当てを作成し、靴は何時もながらのトレッキングシューズだ。


 鎧の下に着る服は、イリスに負担が無いよう、白い袖無しのキャミソールにしてある。

 このキャミソール、実は天孤の毛を素に作った至高の一品で、毛なのにミスリル並の防御力を誇る。

 天孤の素材は、ドルドナ森林にてアドルフが確保しておいてくれた物で、冒険者になった時に返却されたものだ。


 この天孤のキャミソールは、相当柔らかく、肌触りも良い。 

 魔法防御効果もあり、至れり尽くせりになっている。

 体力の無いイリスを守るには、此れだけしてもまだ足りないと思う俺は、過保護過ぎるかも知れない。

 出来るだけ重量の無い装備を考慮しているので、些か露出も多いところは致し方ない。


 スカート部分の丈は、動き易いように短めになっており、ちょとしたミニスカート状態だ。

 動くと太腿が見えて、ヤバイのだが其処は見ない努力をしようと思う。


 イリスの装備を俺自身も目で確認し、今度はセフィリアを見る。

 見られたセフィリアは、俺の視線に気付いてドヤ顔で踏ん反り返る。

 何でそんなに得意気なのか解らん・・・


「ふっふふー見よお兄!セシリーの勇士を!!」


「ハイハイ」


「ブーブー、お姉見たいに見惚れてよ~も~」


 そういって脹れる姿はまだ子供らしい。

 だが、それに反してセフィリアは12歳になって、3人で一番大きくなってしまった。

 具体的には身長と胸だ。

 実にけしからん!!


 流石に獣人だ、成長も早い。

 イリスが身長160cm位で胸はC位なのか?

 14歳にしては成長していると思うが、エルフならそんなものかもしれない。

 成人しているエルフは皆、170cmとモデル体系を考えると妥当な背丈だ。


 それに比べてセフィリアは身長が既に165cmとイリスを越している。

 しかも、お胸はバインバインで、D~Eは出てるんじゃないか?

 服と装備のサイズ変更に手間取った・・・

 でかくなるの、早いんだよ!


 12歳でこの成長は、末恐ろしい。

 如何に獣人が早熟とは言っても、此処まで来ると俺も驚きを隠せない。

 つい数ヶ月前までは、もう少し小さかったのに・・・


 そして俺は人族だ!

 言わずもがな・・・身長はお察しの155cm位。

 いや、これから成長しますがな。

 12歳なんだもん、男の子は成長が遅いんだよ!!


 身長に付いては刀の刀身で、ある程度測っているので大まかな数値だが、俺が一番下の弟に見えるのは寂しいものだ。

 

 そんな俺を見下ろして、成長した勇士を見せ付けるセフィリアも随分と綺麗になった。

 戦乙女のザルキリー並に、勇ましく美しくなった。


 イリスの金髪に対してセフィリアは白銀の髪をなびかせる。

 白から少し銀色を帯び出し、プラチナブロンドとまでは行かないが、白く輝いてとても綺麗だ。

 髪はアドルフとドリスの贈り物であるリボンで、後ろ手に括りポニーテールにしている。


 武器は大きく成長した事と、訓練の賜物から斧術を剣術にも組み込めるよう、大剣を作ってある。

 刃渡り120cm、幅50cmは在ろうかと言う刀身で厚さは10cm。

 反りは無く直刀、俺の刀よりも厚重ねにしてあるので、刃文は同様の綾杉肌が出ている。


 柄も長く、50cmはあるか?握りはセフィリアの手を参考に作り上げている。

 もちろん素材は総オリハルコン製。

 此れの為に3桁の金貨が飛んだことは、俺にとっても痛かった。

 でも、その価値はある一品なので、文句は言うまい。


 素材以外は【アルキメイト】でお金は掛かってい無い。

 それでも3桁飛ぶのだから、市場での相場を考えると・・・頭が痛くなる金額になるだろう。


 鎧は俺と同じハーフプレートメイル。

 以前のフルプレートをオリハルコンで作ると、大剣との重さで動きが遅くなるので取りやめた。

 中に着ている服は、メイド服のようなワンピース。

 可愛気を持たせたかったので、装飾はゴスロリ風。

 解りやすくたとえているだけで、決してゴスロリメイド服ではない、無いよ、ナイナイ。


 素材はイリス同様、天孤の毛を素に作成したもので、色は黒にしてある。

 スカートの中には、ちゃんとバニエも作って履かせているので、下半身の防御は完璧だ。

 趣味に走ってるわけじゃないよ?


 セフィリアの装備も、何ら問題が無い事が見て取れたので、2年ぶりの戦闘へと荒野へ踏み出す。

 まずは各々の戦力を試し、連携を確認しなければならない。

 それと、俺の【ラーニング】をもっと強くする為に。


 荒野に入り、ひたすら進む。

 道なき道を開拓して、岩で一面覆われた中を警戒しながら。


 20分ほど歩くと、セフィリアが匂いで気配を察知する。


「お姉、お兄。知ってる匂いだ、此れはオークだよ!・・・3体はいるかな」


 其の言葉を聞き、前方を注意深く見ると、大きな影が3つ小さく見えてきた。 

 音を立てないように近付き、ハッキリとオークを視認する。


「よし、まずは以前同様イリス姉の先制から始めてみよう。イリス姉、お願い」


「解ったわ、じゃあ試してみるから前衛お願いね」


「「OK」」


「いくわよ!『我に近付く不埒なる物に、大地の怒りと草木の助けをもって苦痛なる拘束を与えん』、【バインド】!!」


 イリスが詠唱を終え、弓ではない先制の魔法攻撃を放った。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ギルドの奥にある、マスター専用の個室の前に、オイゲンはいた。

 今日は個人的に、ザームエルが自ら尋ねてきている。


 コンコン!


 ノックと共にドアを開け、室内に入る。


「おお、良く来たなオイゲン!わしもお主を呼ぼうかと思ってた所じゃわ」


「そうかい、手間が省けたかの」


「ああ、お主は何時もわしが思う、絶妙なタイミングできよるの」


 ザームエルは、オイゲンに向って笑いかける。

 オイゲンは何時も通り飄々としながら、勝手にソファーに腰掛けた。


「エールという気分ではないな・・・葡萄酒でよいか」


「うむ、何でも良いわい」


 オイゲンの返事もそこそこに、ザームエルは2個の銀の杯にワインを注ぎ、1個をオイゲンに渡す。

 

「こうして飲むのは4年ぶり位かのオイゲンよ」


「うむ、アドルフのPTに入ってからは、トンとご無沙汰じゃったわい」


 2人は懐かしむように杯を煽り、葡萄酒を飲む。

 匂いと味わいを確かめるように、ゆっくりと飲んでいく。


「して、何用じゃオイゲン」


「解っておろう?ザームエル」


「ふむ・・・隠し事は出来んかの~」


「無理じゃわい。此処数ヶ月の貴様の様子を見れば、考えている事など手に取るように解ってしまうもんじゃ」


「ホッホホ、そうさの~もう40年になるかの、オイゲン。お主と出会ってから」


「ほお!そんなに経つのか」


「じゃわい。そしてわしと共に過ごした者も、3人にまで減っておるわい。人族とはまことに短命よの・・・。気が付けばわしより老けてしまっておる」


「フォフォフォフォフォ、それはどうしようもないじゃろう。人は妖精族には到底寿命は適わぬよ」


 確かに2人とも老けてはいるが、オイゲンのほうが老人に見える。

 グラスランナーのザームエルのが年上であるのに。


「知っておるか?ユリアンナ殿下が幽閉されたことは」


「知っておるよ。だが冒険者ギルドは何者にも加担しない。それが原則じゃろ?」


「左様、町を守る傭兵依頼は、あくまでも市民の身を守る為に受けている事。国家の争いや王族の内紛には手を出さぬのが決まりじゃ」


「では、今回もフリッツ3世陛下には今まで通りの対応を、そしてユリアンナ殿下には極力友好的な態度で2枚舌を使うのが妥当じゃろう」


「・・・フリッツ3世には何もしておらぬ」


「・・・・」


「ユリアンナ殿下には、幽閉先からの脱出と、フリッツ3世陛下に反対する貴族勢力との橋渡しを約束しておる」


「どうしてもか?」


「どうしてもじゃ・・・わしはわしが許せん。だからこうして此処で悪巧みをしおる。わしが出来るのは此れしか無いでの~。なんせギルドマスターの地位を離れても、わしは思うように動けぬのじゃから・・・」


「だからお主を諌めに来たのじゃよザームエル」


「・・・オイゲン・・・本当はわし自ら動きたいのじゃ。だがそれは出来ん。頼むオイゲン。今こそ、その力を貸してくれぬか?」


「言うても聞かぬのじゃろうな・・・」


 かつて、共に冒険者として活躍した時を思い出すオイゲン。

 あまり目立つのが嫌で、ランクを上げずにいたが、その実力はザームエルに届くほどだ。


「お主の本来の実力ならば、わしの代りに動けようもの。もちろん万全を期して助手も付ける」


 ザームエルはオイゲンを見詰め、其の眼を外さない。

 オイゲンはそんなザームエルを見る事無く、あらぬ虚空を長めて黙り込む。


 随分と長い間、考えてオイゲンはザームエルの言葉に従う事にする。

 もし、オイゲンが断れば、ザームエルは形振り構わず動くかも知れない。

 其の時の混乱を思えば、ここは引き受けるのが得策であろう。


 後、ザームエルが頭を冷やす時間も稼げるかもしれない。

 少なくとも、数ヶ月は掛かるだろうから。


「わかったわい、ザームエル。その代り貴様はおとなしゅうしとるんじゃぞい?」


「ああ、そうさせてもらうかの・・・頼むオイゲン」


 ザームエルはオイゲンに向って、これからの事を話し出す。


「まずは、ルート荒野に行ってもらう」


 此れが、どんな意味を持つのか。

 オイゲンは、ザームエルの次の言葉で知る事になる。

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