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第二十五話 日常

 此の世界の朝は早い。

 日の出前から動き出し、日没つともに家路に着く。

 それが此の世界の人々のサイクルだ。


 もちろん、職に応じて例外があるので全てがそうではないが、基本的には間違っていない。


「うっう~~ん・・・」


 今日はイリスが先に起き出した様だ。

 資金に余裕が出来てきた頃から、俺達は格安のボロアパートメントの1室を借りている。

 宿暮らしではお金が掛かり過ぎる事と、食事が毎回備蓄食や外食になってしまうので栄養面も金銭面も不経済だと判断した為だ。


「あ、ああ・・・む・・・んっ」


 起き掛けていたイリスが、まだ眠いのか俺に抱きつきながらウトウトしている。

 成長したイリスの体が、俺に密着してきて困惑する。

 俺は、ドキドキしながらも、寝たふりを続けて、2人が起きるのを待つ事にする。


 俺達の借りたボロアパートメントは、1階の角部屋。

 2LDKで、12畳のLDKに6畳の洋室が2つあり、日本では考えられない程、1部屋といっても意外に広い。


 ただ、広いと言ってもそこはボロアパートメント。

 壁も汚ければ、床も擦り切れてボロボロで、周りに犇く同じ様な建物が密集している為、日差しがあまり入り込まない。

 湿気はマシなので、カビ等は無かったが流石に安いだけはある。


 余りのボロさに、家主に改装をしても良いかと尋ねると、綺麗にする分には問題ないと答えてくれた。

 でも、改装費用も不慮の破損も、俺が持つ事が条件だったが・・・


 まあ、此の部屋を快適にする為なら多少費用が掛かっても良しとした。

 俺は【アルキメイト】でフローリングの床板を作り、張り替えていく。

 土台もやばそうだったので、剥がした汚い木材を【アルキメイト】で再構成して土台を追加。

 土台には、後でも説明するがコンクリートも使用している。

 

 床板を張り替え終えたら、壁にはコンクリートを塗っていく。

 今回使ったコンクリートは、ポルトランドセメントではなくローマンコンクリートだ。

 材料が確か、石灰と火山岩を混ぜて作るだけなので【アルキメイト】で簡単に出来るんじゃね?

 という安易な発想から作ったものだ。


 カーボンのとき同様、材料があれば問題無く出きて本当に新発明で大金持ちも夢じゃないなと思ってしまった。

 出来上がったローマンコンクリートを壁に塗り、添え板を立てて乾燥まで放置する。

 初めての作業で、かなり梃子摺ったが何とか満足のいく壁に仕上がった。


 床も壁も綺麗になると、天井が気になる。

 そこで、天井には真鍮で作ったハニカム式の防音材を取り付け、格子を組んだ木材を張り、目透し天井にする。

 10年経ってようやく前世の知識が役に立ってきた。


 何か要らない所で、凄い労力と手間を掛けたが、俺は大満足だ。

 イリスとセフィリアは呆れ帰っていたが、出来上がった室内を見ると、今までの俺への非難は何処へやら、大喜びではしゃいでいたけどね。

 乙女とは現金な事だ。


 掛かった費用も【アルキメイト】のお陰で、火山灰と古木の板だけでそんなに掛からなかったし痛手はない。


 最後に2部屋ある片方を女性の部屋、もう一個を男性の部屋としようかと相談したが寝室は1つでいいとイリスとセフィリアに強引に押し切られた。

 今まで通り、一緒で良いということ。


 イリスは余った部屋を俺の作業部屋にして欲しかったんだそうだ。

 俺もリビングで物を散らかす事も出来ないと思い、提案に乗る。

 その結果が、目の前の惨事だ。


 ウトウトして膨らみかけた胸に、俺の頭を抱え込んで抱きつき離さないイリス。

 安心して過ごせる生活に、昔の癖が戻ったセフィリアが俺の膝を枕に眠っている。


 一応、最初にベットを3つ買おうかと言ったが、勿体無いので大きなの1つで良いとイリスに窘められた。

 どうせ宿でも3人一緒に寝ていたんだし、此処も何時かは出て行くのだからと。

 セフィリアは誰かが一緒に寝れるなら何でも良いらしく、イリスに賛同していたので結局1個しかベットがないのだ。


 俺も引っ越してきた当初は、それ程気にはしていなかった。

 だが、最近俺個人の事情で、この3人一緒の就寝が大変問題になっているのだ。


 此の世界にブラなど無い。

 俺の作った薄い絹のワンピースがイリスとセフィリアの寝巻きだ。

 つまり、抱きしめられている俺は、イリスの胸に薄絹を隔てて直接当たっている。


 イリスの胸の先が俺の顔に触れてくるのだ。

 柔らかい感触と、固い感触が双方リアルに俺を刺激してくる。

 しかも、生活が良くなった所為で、清潔になったイリスとセフィリアからは良い匂いがするのだ。

 男性が感じる、女性特有の甘く蠱惑的な匂いが俺の脳髄に響く。


 今までは問題なかった。

 そう、全く問題なかったのだ。


 幾ら俺が思春期真っ只中で転生したからといって、体は子供だ。

 今まで気持ちはHになっても、体が反応しなかったので興奮する事が無かった。

 此処まで言えば、もうお解りだろう。


 最近になり、俺の体が男に成り下半身が、超絶元気なのだ。

 朝になれば起る男の生理現象が、11歳を迎えようとする体に起ってきた。

 

 毎朝、必死に下半身を悟られないようくの字にしたり、内股にしたりして誤魔化す。

 もう必死だ、イリスも13歳に近くなりいい加減女性らしくなってくるし、セフィリアも此処最近の成長は著しい。


 だから、俺はいつも最後に起きるようにしている。

 俺の方が最初に起きるという手もあるが、そうすると起き上がった時に俺の暴れん坊が凄すぎて目立って洒落にならない。

 誰かが起き出すと、自然に後の者も起きてくるスタイルなので、完全に見られる可能性が生じる。

 だから、ベットで最後まで抵抗しているのだ。


「んん・・・」


 イリスが完全に目覚め、ベットから降りていく。

 その気配に、セフィリアももぞもぞし出して起きようとする。

 俺は、居なくなったイリスの方へ寝返りを打ち、自然にセフィリアの膝枕を外す。

   

 外すと、セフィリアは頭がベットに落ちるので、その衝撃で完全に眼を覚ます。


「ふぅあああああああ・・・お早う・・・お姉」


「うん、お早うセシリー。ラルスが起きる前に朝食の準備をしましょう」


「うん~」


 寝室にある俺作成のクローゼットから、着替えを取り出し2人は普段着に着替える。

 ごそごそと衣擦れの音を聞きながら、俺は下半身の治まるりを待つ。


「さあ、今日も頑張ろうねセシリー」


「うん♪お姉」


 2人は寝室を抜け、リビングにいったようだ。

 ふ~心臓に悪いわ!

 もう少しお金が溜まったら一軒屋でも借りようかな・・・

 俺は下半身が静かになるまでベットで過ごす。


 朝食が出来る頃には俺も普段通りに振舞える。

 パンとチーズとミルク。

 これが此の世界の日常的な朝食内容だ。

 

 基本、朝は食べない家庭もある位、朝食は軽いものになる。

 その代り、昼食は豪華になりその日一番の内容が食べられる。

 一般的にはパンとチーズと肉入りスープとエールだが、子供の俺達はミルクだ。

 夜はまた質素になり、軽い食事と飲み物で終わる。


 本当に食生活に関しては、あまり発達していないし味気もない。

 お金に物を言わせれば、良い食事も出来るが、今はまだ其処までは必要性がない。

 段々食材や調味料を整え、食を充実させるのはもう少し俺の試みが叶ってからにしようと思っている。


 朝食が済むと、まずは勉強の時間だ。

 俺が教師になり、イリスとセフィリアに読み書き算盤を教える。

 アドルフでさえ報告書の作成をする位だ、読み書きが出来ないと良い仕事が出来ないようだし。

 

 冒険者ギルドの依頼も、商業ギルドの掲示板にある仕事の斡旋も、全て羊皮紙に書かれた内容を見なければならない。

 字を読めない人の為に、代読屋も居るが1枚の紙に付き決まった手数料を払わなければ成らず、迂闊に読んでもらえない。

 気に入る仕事を探し当てるまで、代読屋を使えば、その日の日当がとんでしまう。


 商業ギルドで屯っていた人々は、字の読める人から仕事を選んで行く。

 残った読めない人々は、複数の募集人員が要る依頼があった時、穴埋めで人数合わせを待つ人々だったようだ。

 だから受付があるにも拘らず、人々が溢れて商業ギルドの中も外も人、人、人で一杯だったのだ。


 そのことをアドルフから教えられた俺は、直ぐにイリスとセフィリアに読み書きを教え出した。

 万が一俺が居なくなっても困らないように考えての事だ。


「お兄、今日は新しいお話を書くからお話して」


「おお、そうだったか。じゃあ3匹の子豚でも話そうか?」


「うん♪」


 読み書きの題材は、昔語った御伽噺だ。

 内容も覚えているので、イリスもセフィリアも馴染みやすい。

 最初は俺がお話しを書き、朗読して単語を覚えるようにする。

 覚えたら、新しい話をイリスとセフィリアに話して聞かせ、話の内容を書いて貰う。

 途中解らない単語は、俺が書いて教え、書き終わればまた朗読して覚える。

 此れを繰り返しながら、読み書きを教えている。


「ねえ、ラルス。此処の計算なんだけど。此れであってる?」


「此処はね、これをこうして、こうすると数が出てくるよ」


「あ、なる程♪わかったわ。ありがとう」


 イリスは読み書きよりも計算の方に重点を置いて学んでもらっている。

 エルナの店で働き出したので、お金のやり取りが出来るようにならないといけない。

 流石に礼儀作法は教えてもらえるとしても、計算までは無理だ。

 だから、イリスの為に算数を優先している。


 2人が勉強している間は付きっ切りで教えるが、昼になる頃には俺が昼食を作り出す。

 勉強を優先する為にも、俺が昼食の準備をする方が良いのだ。


 昼食を済ますと、イリスはエルナのところへ出かける。

 貴族の朝は遅く、ゆったりと昼食も取るので昼からが忙しい為、午後出勤で問題ない。

 毎日出かけるという訳でもなく、店でのシフトに従って休みもある。

 

 休みの日、イリスはオイゲンやフランクに魔法を習っている。 

 オイゲンたちがいない時は、ギルドの訓練所で練習に励んでいるようだ。


 セフィリアは基本午後からは俺の手伝いだ。

 【アルキメイト】で作成する様々な物を選り分けたり、足りないものを一緒に買いに行ったりと助手になっている。

 アドルフとドリスが暇な時は、2人に剣を習いにギルドに行って居ない。

 ずっと、俺と一緒でも息が詰まるだろうし、アドルフ達と過ごせば見聞も広がると思う。

 セフィリア自身は、俺と一緒でも楽しいというが、何時までも鳥篭の中に囲う訳にも行かない。


 やがて日も暮れ、夜になる頃にはイリスが夜の分と、明日の昼までの食材を買って帰ってくる。

 夜はイリスが食事担当。

 セフィリアがお湯を沸かし、体を拭く準備と洗濯担当だ。


 俺は、食事までの間に剣の稽古をする。

 この時が俺の鍛錬時間だ。


 食事を終え、順番に寝室で体を清め、また皆で一緒にベットで寝る。

 此れが俺達の手に入れた平和な日常。

 ある程度したら、俺も自分自身を買い戻し、3人が皆、母の願いどおり自由を手に入れる。


 自由を手に入れたら、俺達はこの国を離れ新しい世界で1からやり直すつもりだ。

 だから、そのために必要な装備や道具を研究し、知識を増やし、お金を貯めている。

 今は鍛える時。

 

 毎日が怒涛の如く過ぎ去るも、目標を誤ってはいけない。

 その為にも、朝の試練は乗り切るつもりだ。

 2人の無防備な魅力に耐えてみせる!!


 明日の朝も無事過ぎますよううに。

 俺は、自分に言い聞かせて3人の真ん中で寝る。


 あれ?決意がちがうような??

 

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