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第二十四話 金策

 アドルフ達と大騒ぎしたあの日が思い起こされる。

 アドルフは酔っ払って、怖い顔を更に怖くして周りにセフィリアの可愛らしさを語っていた。

 周りにいたお客さんも、逃げる事ができず引き攣りながら相槌をうっていた。


 ドリスは泣き上戸らしく、オイゲン相手になにやら愚痴ってた。

 愚痴の内容から、どうも恋愛系のようだが・・・ドリスもまた難しいお年頃のようだ。

 レーネの激変を見知った俺は、ドリスに関わらない事にする。

 あんな難しいお年頃と同じような相手はしたくない。


 愚痴を聞いているオイゲンは、ドリスの為に親身に聞き手に回っていた。

 かと思ったが、実は寝ていた。

 流石年の功、寝ながら器用に相槌ををうっている。

 芸術的なまでの相槌には感心してしまった。

 

 フランクは宴会が始まる頃に、やっと復活していた。

 まあ、復活といっても意識が戻った程度だ。

 今までの事は覚えてい無いらしく、隅で拗ねながら酒を煽っている。

 今日の出来事を自分だけ知らない事が気に入らないようだ。


 イリスは泣き止んだ後、俺の横で静かに皆を見て微笑んでいる。

 ずーっとただ微笑んで側に居るだけだ。

 時折、俺の為に食べ物と飲み物を取り分けてくれるが、決して何か話す事はない。

 ただ、幸せそうに世話する姿は、とても満足そうだった。

 だから俺は、イリスの好きにさせていた。


 セフィリアは最初こそはしゃいでいたが、疲れて寝てしまった。

 仕方がないので、俺が膝枕をして寝かせている。

 小さい頃から強がって元気に振舞うのが当たり前に見えるセフィリアも、その実寂しがり屋だった。

 眠くなると素が出て、甘えん坊になる。

 その度に、良くこうして寝かしつけていたのだ。

 ずっとこうやって奴隷部屋で甘えていたので、セフィリアにとって膝枕は癖みたいなものだ。


 森での生活では、皆張り詰めていたし此処に来るまでも安心できる時間はなかった。

 久々に安心できる空間と人々に気が緩んだのだろう、昔の癖が出たようだ。

 寝る前に甘えて『お膝~~』と言って来た時は、俺も顔が緩んでいた。


「フフ、とても嬉しそうな顔をして。随分良いことを思い出していたのですか?」


 穏やかで優しい声が、俺を現実へと引き戻す。

 俺は、目の前にある紅茶の入ったカップを口に付け、少し飲んだ後声の主に返事をする。


「いえ、自由の身とは、さぞ素晴らしいんだろうなって想像していただけですよ」


「あら、そう。なら早く自分を解放すれば宜しいのに」


 微笑みなが、そう言ってくれるのはエルナだった。

 俺は、エルナの店の2階にあるテラスで、お茶の最中だった。


「いえ、まだもう少し先で良いんですよ」


「それでは、イリスちゃんが可哀想よ」


「解っていますが・・・もう少し掛かりそうなんです」


「そう、まあラルスが決めているなら仕方がないわね」


「すいません」


「それにしても、ラルスに出会ってからもう半年経ったものね。時が経つのは早いわ~」


「ええ、俺もそう思います」


「それにね、貴方があの『小さな勇者』と知った時は驚いたわよ」


「よしてく下さい。俺はそんな大層なものじゃないですから」


「フフフ、でもね、その呼び名が付いた貴方のお陰で家も繁盛してるのよ?」


 また此の話が話題になる。

 あれから何度かエルナとお茶をしたが、此の話題にご執心の様だ。

 何故俺が『小さな勇者』と呼ばれるようになったかと言うと訳がある。


 商業ギルドでイリスとセフィリアを解放した後、俺達はちょっとした話題になったのだ。

 小さな男の子が、自分を買い忘れて、義理の姉と妹を先に解放した間抜けとして。


 商業ギルドにいた客の数人が、俺達の行動を見ていたらしく、事の顛末を何処からとも無く嗅ぎ付けて言い触らしたのが原因らしい。

 それが町の人々に知れ渡り、根も葉もない噂を加えられ、間抜けとレッテルを貼られたのだ。


 あの時は、俺が間抜けといわれる事が解らなかった。

 話がどうも捻じ曲がって伝えられてるのだから。

 しかも、話が広まるにつれ不名誉な渾名まで付いた。


 『ぼんくらラルス』


 これが最初に付いた渾名だ。

 何処をどうすれば、そう言った話になるのか理解不能だ。

 しかも噂の方が真実として町を駆け巡る事に、他者の悪意を感じずにはいれなかった。


 アドルフ達は憤り、俺を蔑む人々に喧嘩を始める始末。

 イリスもセフィリアも肩身の狭い想いをさせたと思う。


「ラルスは私達の為に、全てを投げ出してくれたのに!!」


「お兄は悪くない!!お兄はセシリーとお姉を助けてくれたのに!!」


 俺が笑われていると、何時もこう言って怒ってくれた。

 一緒に笑われているにも拘わらずだ。


 俺は、そんな2人に、もう不自由な思いはして欲しくなかった。

 奴隷ではなくなったのだ、これからは真っ当な生活を営む権利がある。


 残った金銭は58銀貨と銅貨が数十枚。

 俺は、このお金でイリスとセフィリアの為の衣食住を賄う為に必死に考えた。

 それ位しか、2人に感謝を現せないと思って。


 まずは宿。

 アドルフにお願いして、格安の宿を紹介してもらう。

 アドルフの知己だったようで、俺達を笑う事無く優しく迎えてくれた。


 1人1部屋借りるなど今の俺達には無理なので、ダブルの部屋を1つ借り、其処に3人で泊まる。

 1人1泊35銅貨の宿泊料金なのだが、3人で70銅貨に撒けて貰った。

 食事は、備蓄していた物を食べて節約に励む。


 毎夜、子供の頃のように3人折り重なって寝る。

 懐かしさに、一緒に寝る事を3人で苦笑したのは良く覚えている。

 あの頃を思い出したかのように、身を寄り添って寝る。

 イリスとセフィリアの寝顔に、俺は益々2人の為に頑張ろうと思った。


 安眠できる場所と食事が確保できたら、今度は本格的にお金を稼ぐ。

 まだ冒険者になっていないので、狩りをしに行く事は憚られた。

 行けない事もないが、どうせなら冒険者になってから行こうと思う。

 

 まずは、城外の近郊で【鑑定】を使いながら、片っ端から鉄を含む石を探す。

 もちろんイリスもセフィリアも手伝ってくれた。

 日がな一日石拾いする俺達を見て、町の人はまたも馬鹿にしたのだった。


 町の人々の嘲笑を他所に、俺達は毎日石拾いをする。

 石探しの間には、使えそうな素材も確保してアイテムBOXに放り込んでいた。

 ある程度、石が溜まると【アルキメイト】で鉄のインゴットを作成。

 それを素に、ロングソードを作成していった。

 

 これを武器屋に売り、得られた資金を元にして、冒険者ギルドで繭の買い取り依頼を出す。

 依頼を出す分には冒険者登録はいらないが、今後の事と商業ギルドの登録証が気に入らなかったので銀貨5枚でイリス登録証を替える。

 この時、初めて冒険者イリスが誕生した。

 いや、関係ないか。


 繭は蛾の魔物の繭らしく、ランクEで出せる依頼なので容易に確保する事が出来た。

 もちろん持ち帰っただけ、全部買い取る。

 買取が多くて、稀に資金不足に陥りそうになったのは良い思い出だ。


 繭は直ぐに絹糸にしておく。

 エルナには1度欲しい布を確認して、必要な布をいる分だけ作成して買い取ってもらう。

 ここまで漕ぎ着けるのに1ヶ月は掛かった。


 ある程度資金に余裕が出来てくると、武器屋の紹介でインゴットを扱っている商人と会う。

 其処で鋼鉄のインゴットを買い、鋼鉄の剣を作成。

 此れをまた武器屋に売る。


 繰り返すうちに、特注品の依頼を受ける様になり、依頼に応じたオーダーメイド武器を作成。

 信頼も得られて来たので、依頼者が望めば+10~15の強化値を付ける。

 ただし、強化値+1に付き金貨1枚の追加報酬を受け取る。


 鋼鉄以外にもオリハルコンやミスリル、アダマンタイトもあるが、とても高価で希少なため扱えなかった。

 ただ、見本の鉱物から何と何を合わせたら出来るか【鑑定】で解ってしまったので何時か自分で作ろうと思う。

 失われた製法らしく、今は迷宮などで古代の遺跡から出土する物しかないらしい。


 3ヶ月ほどすると、エルナからのビロード発注が大量に舞い込む。

 どうやら貴族の間で、望みの色のドレスが出来る事が知れ渡り、エルナの店でドレスを新調する貴族が増えてきたらしい。

 それぞれの色に応じたビロードを作成し納品する。

 鰻上りに金貨が増えていき、その資金に物を言わせて新しい商品作成に着手する。


 新商品第1号はポーションだ。

 魔法道具店で初級ポーションを求めに行き、全てのポーションをちゃっかり【鑑定】で見る。

 ポーションは初級・中級・上級・最上級・高級・最高級の6段階。

 特に最高級ポーションは、怪我で失った手足まで再生してしまう超絶効果のあるもので、金額は高いが需要が大きい。


 一番売れるのは上級ポーションで、深手も瞬時に治すため、中級以上の冒険者は買い占めるのだそうだ。

 ポーションの作成は、初級段階から成功率があり、素材を全て使っても上級で60%位で、最高級は20%出来たら良いそうだ。

 っと魔法道具屋の主の受け売りだ。


 俺には【アルキメイト】があるので成功率は関係ない。

 仕入れたもの全てがポージョンになるし、素材も集めれる物は自分で集めれるし、かなりの儲けが出る。

 早速素材を集めて、ポーションを作成。

 売り込んで十分な利益をもたらした。


 そんな毎日を過ごしていると、何時の間にか俺が天孤を倒した噂が広まる。

 誰が?っと思い、一番に思い当たったのがアドルフだ。

 でも、アドルフはその事を外部に漏らした事は無いらしい。

 誰が流したか解らないまま、噂は広がっていった。


 そして、天孤を倒した事と、商業ギルドで義理の姉妹を解放した事実が結びついた。

 俺が両方の当事者だという事が判明する。

 そして結びついた話から、新たな噂が美談となって流れていく。


 天孤を倒す実力のある男の子が、自分を後にしてでも義理の姉妹を先に奴隷の子から解放した。


 此の内容で流れた噂は、忽ち世の女性に受けた。

 白馬の王子様を夢見るのは、どの世界でも共通なのだろう。

 女性層の支持があがると、必然的に男性層にも受け入れられ始める。

 もちろん、受け入れない者も多いが、ミーハーな貴族は時勢を読んで表面上は美談として取り扱っている。


 女性層の誰かが言い出した。

 『勇者』と。

 でも、それは俺の様な者に使うには、少し及ばない称号だ。

 なので何時の頃からか『小さな勇者』と呼ばれるようになったのだ。


 俺は『ぼんくらラルス』から『小さな勇者』へと呼び名が変わり、今に至る。

 

 俺がそう呼ばれる様になったのが、ここ2ヶ月ほど。

 エルナさんもその頃に知ったようだ。


「貴方が『小さな勇者』と呼ばれて、私の店に出入りしている事が知れてからは、貴族平民問わず女性客が押し寄せてくるんだもの」


「でも、どうせ一時の人気でしょ?」


「ええ、そうよ。所詮貴族の暇潰し、娯楽になる話に盛り上がってるだけなのは解っているわよ。でも、だからこそ今の内に儲けられるなら、それに越した事はないわ」


「まあ、エルナさんが潤うならそれで良いですけど・・・」


「ふふ、貴方の事もあるけど、イリスが店を手伝ってくれているのも大きいのよ?あの子凄い人気なんだから」


「イリスはちゃんと仕事できていますか?」


「ええ、此処でみっちり礼儀作法を叩き込むから大丈夫よ。仕事は問題ないしね、良くやってくれてるわ」


「それは良かったです」


 俺が『小さな勇者』と呼ばれ出した頃、仕事が中々見付からないイリスをエルナが雇ってくれた。

 多分、噂を聞き店の売上げの為にしたと思う。

 もしかしたら、見兼ねて助けてくれたかもしれないが、商人に損得以外の感情を持たない方がいいだろう。

 それに、商業ギルドを利用してい無いので仕事が見付かってないイリスも大喜びだったし。


「これで、ラルスとイリスの為に私も何かできる♪」


 喜んで、俺達を抱きしめたイリス。

 利用されていることはわかっているが、イリスも覚悟の上だろう。

 今はこの状況に満足しておこうと思う。


「で、それよりもあの品はどうですか?」


「そうそう、あれね。良いわよー大好評♪特に貴族の女性からもっと無いかと催促の嵐よ。流石男性に良く見て貰うためにはお金に糸目をつけないわ。だから早速、本格的に進めたいと思うの。大丈夫かしら」


「ええ、既に幾つでもお渡し可能です」


「では、明日には約束通りの納品をお願いしますね」


「ええ、お任せ下さい」

 

 今日、エルナに会いに来た本当の理由。

 それは、新しい商品第2号の為に来たのだ。

 事前に試作品を渡し、手応えを確認してもらっていた物。


 俺が新しく売ろうとしているのは、石鹸だった。

 しかも人気の香水の匂いがするものをだ。


「では、1個の金額ですが」


 こうして、俺は石鹸販売を始めた。

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