第二十三話 商業ギルド
随分寄り道をしたが、商業ギルドに無事到着する。
道中、ずっと呆けた顔になってしまった随行者はもう何も言わなくなっていた。
時折イリスが我に帰って、『夢見てたのかな?』などとボケをカマス以外は。
商業ギルドのドアを開け、中に入る。
外もそうだったが、中も人が一杯で騒がしい事この上ない。
しかも、商人から平民、浮浪者のような者までいてごった返していた。
受付も数多くあり、大量の人を捌ける位にはある。
「ラルス、あっこへ行って受け付け番号を貰ってきな」
商業ギルドに入って、我を取り戻したアドルフに教えてもらう。
順番待ち用の札を、職員から貰って待機する。
暫く経つと、俺達の順番になり、対応してくれる受付に行く。
「ようこそキリエ商業ギルドへ。本日のご用向きは?」
「此方への登録と、奴隷の子供である俺達を、自分で買い取る場合の説明を受けたい」
「畏まりました、後ろの皆さん?もでしょうか?」
「いえ、俺と隣にいるイリス、そしてセフィリアの3人です」
「畏まりました。ではまず登録から始めましょう。此れが無いと後のお話も出来ませぬゆえ」
「わかった」
受付の指示に従い、まずは俺達の登録証を作成する。
冒険者ギルドにあった【真実の水晶】よりもかなり小さい水晶球が取り出された。
「では、此方に手を置いてください」
受付の言う通りに水晶球に手を置くと、淡く光る。
良く見ると、水晶球からコードのようなものが繋がっていてる。
更に、その先にはトレース台の様な物があって、腕輪が置いてあった。
「はい、終了です。此方を腕に付けて『ステータス』と念じてください。ご自身の情報が確認できます」
俺は受け取った腕輪を左手手首に嵌め、『ステータス』と念じる。
すると腕輪から小さな光るウィンドウが現れ、そこに俺の情報が書いてあった。
【名前】ラルス
【LV】18
【年齢】10才
【種族】人間
【身分】奴隷の子
なにこれ?
嫌に簡単すぎるな。
「ご確認頂けましたか?内容に不備がなければ、それが貴方を示す登録証になります」
一応、アドルフを振り返り目で間違いが無いか確認する。
俺の目線に気付いたアドルフは、問題ないと頷いてくれた。
「不備はないと思う」
「では、次の方どうぞ」
こうして、イリス、セフイリアも登録する。
9歳だと思っていたセフィリアも気が付けば10歳になっていて登録が可能だった。
「では、皆様の登録が出来ましたので、ご自身を買い取る際のご説明を致します」
「お願いします」
「まずは、買取の値段です。此れは本人の15歳時点での性別と種族、容姿により相場が決まります。一律相場に合わせるのですが、此れは奴隷の子という境遇の為、売却金額が明白でない事と、権利者の財産を守るための措置とお考え下さい」
話を聞いて、思わずブチ切れそうになった。
生まれた子供を財産と認識するとは、本当に奴隷というのは物でしかないのだなと。
「次に相場ですが、半年毎に開かれるアルティナ国公認の奴隷オークションを基準に致します」
怒りを隠して、俺は相場を聞く。
此れを聞かないと話にならないからだ。
「現在の俺達で例えるなら、相場はどの位ですか?」
「そうですね、人間の男性で健康体の貴方は、5金貨前後。エルフの女性でそこまでの容姿ですと20金貨前後。獣人の女性で毛並みも珍しい白狼ですから20金貨前後かと思います。もちろん資料と照らし合わせて査定いたしますので、正確では御座いませんが」
そうか、合わせて45金貨になるか。
でも、多分これで買えるとは思えない。
もっと何かあるかもしれない。
「では続けますね。お金が用意出来たら当ギルドが権利移行の書面を作成して、該当する権利者にお金と書類を届けます。これで貴方方は晴れて自由の身となります。どうぞ境遇にめげる事無く頑張ってください。私共商業ギルドで斡旋するお仕事は・・・云々」
何だか簡単すぎやしないか?
尚も続けて話す受付に、俺は確認したい事を聞く。
「その権利者への書面作成と移送費用はどうなっているのですか?」
「へ?あ、はあ。それはお任せ下さい。当ギルドが責任を持って作成しお届けいたしますのでご安心下さい。」
「いえ、だから費用は要らないんですかその分の」
「・・・あーそれはその時にご説明いたします」
胡散くせー
パステルとの話で、どうして国同士が戦争にならないか疑問だった。
協定がとか言っていたが、奴隷を解放していく国に良い思いはないだろう。
どうしても納得いかなかった。
まさかとは思うが・・・
「では、お金を得る為に此処で働くとして上納金は幾らですか?」
「え、あはい。当商業ギルドを通して頂く仕事は、その対価の2割を納めていただきます。それにより我々は、貴方方を解放する手助けをする資金にさせていただいております。」
ふむ、2割はまあ妥当か。
それ以上になると解放する話し事態が胡散臭くなるかもな。
「解りました。ありがとう御座います」
「いえ、此れで宜しいのですか?もっと詳しくご説明を・・・」
「いえ、構いません。それよりも、俺達はもう此方で登録できたので仕事も買い取りも可能ですよね?」
「ええ、仕事は直ぐにでもあちらの掲示板よりお探し下さい。買取はお金が貯まったら何時でもお受け致します」
「では、早速此の場でイリスの買取をお願いします」
「はああ??」
「「「「「えええええええええ!!!」」」」」
受付もアドルフ達もイリス達も、皆一様に驚きの声を上げる。
「あ、あのご冗談は」
「冗談では無く、今此処でイリスの買取を。もし買取が説明通りならセフィリアも一緒にします」
俺の言葉に引き攣る受付。
「おいおい!!此の為にあんなことしてたのかよ」
「まさかその為に?!」
「ホンに、用意周到なことじゃ」
「・・・・・・」
アドルフ達は店周りの真意に気付いて俺を凝視する。
「え?え?どういうことラルス?何々?なんで私、買われるのラルスに」
今までの話が解っていないイリス。
買いませんよ、解放するんですから。
「お兄、悪い事してるの?皆吃驚してるよ」
うん、良いことするんですよーセフィリア。
変な目で見ないでね。
「ええっと、お見掛けするにそのような大金をお持ちなのでしょう・・・か・・・」
訝しがる受付に、俺はアドルフを側に来てもらって説明する。
「今日、自分が此処までの道中で取得した財産を、彼の監視の下で正当な方法で金銭に換えました。彼はアドルフ、私の後見人でキリエ冒険者ギルドのDランクです。疑いがあれば、彼にもしくはキリエ冒険者ギルドに確認してください」
「ちょ!ラルスおまー」
「シー、黙ってて」
アドルフも突然の事に困惑してるが、俺の為に黙ってくれた。
「さ・・・左様ですか。では、買取なのですが、その此処ではなんですので、別室にて手続きを致します。部屋も狭い事ですし、宜しければイリス様のみお越しいただけますか?」
「いえ、3人共有の財産ですし、何よりもアドルフが後見人です。全員同席いたします」
俺が頑として譲らない姿勢を貫き、アドルフを肘でつついて嗾けた。
アドルフは、俺の意図がわかったのか頭をかきながら受付を睨み始めた。
その姿は、まさに熊。
凶暴で恐ろしい熊が、上から威圧的に迫ってきたのだから、受付は脅えて了承する。
「ヒィッ!わ。解りました。こ・・・こちらに」
俺達は受付に付いて、別室へと向った。
しょぼくれる受付の後ろをゾロゾロ歩く手段は、周りに可笑しな目で見られていたかもしれない。
別室に入り、受付はもう1人の職員を連れ立って入っている。
途中で、合流してきた人物だ。
多分クレーム処理係りかもしれないな。
「では、イリスの買取をお願いします。まずは査定を伺いましょう」
汗を拭きながら畏まる受付に催促すると、別に入ってきた人物が代りに話し出した。
「買取担当のバザンと申します。まずは査定ですが、前回行われたオークションのエルフ女性の相場を適用いたします。容姿を考慮するに一番近い落札が26金貨。これが彼女の相場になりますな」
横柄に構え、さも値踏みするようにイリスを見るバザン。
ただ、後ろに控えているアドルフを見ると目が泳ぐので、小物匂いがプンプンする。
「では、先ほどの説明どおり26金貨で良いのですね」
そういって徐に金貨を出そうとすると、バザンは鼻で笑うような仕草をして俺を止める。
勝ち誇ったように嫌らしい笑みを湛えて。
「いえ、26金貨では足りません。説明はあったかと思いますが此処を通した売買には2割の上納金が課せられます。5金貨と20銀貨が上納金として掛かりますので、合計31金貨と20銀貨をご用意してくだもらわないと」
払えない事を前提にしたやり取りを想定しているのか、バザンは非常に愉快そうだった。
アドルフは歯軋りをして威嚇し、ドリスも耳まで赤くして怒っている。
オイゲンも静かに怒気を纏い、フランクは・・・いいや。
イリスも事の重大さに気が付いたのか、俺を見て涙目だ。
いや、イリス俺の持っているお金の額解ってないのか?
イリスに向って頷き、安心するように優しく微笑む。
「だと思ってましたよ。で、これ以外に経費もあるんでしょ?幾らだ」
「ほあ?あああ、ゴホン。もちろんタダで送ることは出来ない。書類と金銭の輸送費用として1金貨貰っておる」
やっぱりね。
どうしてお金を貯める事が出来ないのか。
どうして国家同士の争いが起きないのか。
全て納得してしまった。
アルティナ国は奴隷を解放する気が無いのだ。
一部、今のやり取りを偶然クリアー出来た者だけが解放され、残りは泣く泣く、支払い出来ずに奴隷になってしまうのだろう。
奴隷の財産は主のもの。
つまり稼いだ金全部主に取られる。
アルティナ国は低賃金で労働力を確保でき、権利者は数年したらお金を持って奴隷が帰ってくる。
まさにウィンウィンな関係なのだ。
割を食うのは奴隷だけ、元々可能性があるだけで絶対ではない。
受付の説明も言っていない訳ではない。
物凄いこじ付けだが、奴隷の子にそれを撥ね付ける力も無い。
弱者を苛め倒すシステムが此処にあった。
「解りました、32金貨20銀貨ですね。ではセフィリアは幾らになりますか?」
おれの質問を支払えない事で予定を変えたと思い込んだバゼルは嬉々として説明してきた。
最終的にセフィリアは25金貨で上納金が5金貨。
移送費用は同じ主でも別料金らしく1金貨で、合計31金貨。
俺は、此処に来て母たちの一つ目の願いを叶えられる事に喜びを感じた。
バゼルに向って、俺は最後の確認をする。
「では2名で合計63金貨と20銀貨で問題ないですね?後ろのアドルフに誓って間違いないですね」
バゼルはアドルフを見て、キョドッた後頷いて宣誓してくれた。
「ま、まあ、支払いがなされるのであれば、今ので間違い無い」
「では、確認してくれ」
俺は取り出しかけていた金貨と銀貨を枚数分用意してバゼルと受付に渡す。
「此れで文句はないな?さあ書類を作ってくれ」
眼を点にして、呆然としている受付とバゼル。
その眼は俺と金貨を行ったり来たりしているが、どうやっても変わらない。
諦めたように項垂れて、バゼルが渋々金を受け取った。
「確かにある。間違いはない、書類を作成するので暫く待って欲しい」
その後、買取の完了書類を受け取り商業ギルドを後にした。
流石にこれ以上の買取妨害はなく、晴れてイリスとセフィリアは自由の身となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
商業ギルドを後にして、俺たちは夕食のために食事どころへと向かう。
アドルフ達行きつけの小奇麗な食堂だった。
「さー今日はめでたい日だ!飲もうぜ!」
アドルフの掛け声の下、出された料理に舌鼓を打ちながら、夕食の運びとなる。
一緒に行動してくれていたドリス、オイゲン、フランクが俺たちを囲んで飲み食いする。
食べて飲んで皆大騒ぎだ。
1人まだ再起動していない人物もいるが、機械のように飲み食いしている。
戻るまでそっとしておこう。
多分、フランクも後で祝ってくれるだろうから。
宴会になって初めて今日の出来事を思い返し、イリスはようやく事態が飲み込めたのか涙を流して喜んでいる。
セフィリアは内容よりも皆と騒げて楽しそうだった。
俺は、そっと母達の姿を思い浮かべ密かに報告だけしておいた。
此の世界に墓標も位牌もない。
あるのは自分の中だけだ。
だから、眼を閉じ彼女らに言う。
「約束は守ります此れからも。まずは一つ目が叶いました。此れからも見守って下さい」
眼を開けると、イリスと眼が合う。
俺に向って泣いて腫らした眼を、また潤ませながら口だけを動かして想いを伝えてくる。
ア・リ・ガ・ト・ウ




