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第十話 訓練開始

 パステルの指導は、実に修羅のようだった。

 それこそスポコン漫画やアニメなんて目じゃない。

 まさにTHE地獄といった訓練だ。


 ただ、どういう訳か体力作りの基礎訓練は無かった。

 その代り、魔物との戦闘に必要な知識、武具の取り扱い、稽古ではなく喧嘩的な実戦剣術を容赦なく叩き込んでくる。

 食事中も時間を惜しむように座学を行う。

 パステルは元冒険者、しかも前衛を担当する武闘派だったようだ。


 俺はこのパステルの訓練は、体育会系のノリと捉えていたが後で間違いと知る。

 この時気付いていたら、もっと違った結果があったと後に後悔する。


「という訳なの、わかった?」


「うん、俺とセフィリアは良いとしてイリスは近接は難しくないかな?」


「そうね~本当は魔法を教えたいのだけど・・・ミリアがいないからね・・・」


「「「・・・」」」


 死んだミリアリアの事が話しに上ると、皆一様に俯く。

 盗賊の襲撃を逃れ、随分経ったがまだ心の傷は癒えきっていない。


「気を取りなおしましょう。イリスには弓を覚えてもらうわ。エルフは生まれ持って弓の適正が必ずあるの。エルフが森の守護者といわれる由縁ね」


「はい!少しでも役に立ちたい。そして私は守りたい。ラルスとセフィリアを、もう誰も死んで欲しくないから」


「ん、流石イリスね。皆のお姉さんだものね」


「はい!」


「それと私は獣人族だから魔法はからっきしなんだけど、一応LV1の魔法を教えておくわ。教えると言っても呪文だけ。使えないから見本も見せれないのよ。だけどエルフのイリスなら習得出来るかも知れないわ。明日から自分で何とかしてみて」


「パステルさん、どうして呪文を知ってるんですか?」


「そうね、ラルスは知らないだろうけど魔法適正があるかどうか必ず皆試すのよ。特に冒険者を目指すならね。その時、呪文を教えてもらって、自分が魔法を使えるか確認するのよ」


「なるほど~じゃあ適正があれば魔法が発動するんですか?」


「そうね、最初は小さな火や水滴が出るわ。それで適正が解るの。出なかったら適性がないと諦めるのね」


「母さん、私も魔法使える?」


「セフィリアは無理だと思うわ。私と同じ様にね。でもセフィリアは剣技をマスターすれば強くなれるわよ」


 食事の時間に行われる質問形式の会話も終わり、最後に夜の訓練をする。

 森の魔物は夜行性が多いので、夜の暗い中でも動けるようになるためだ。

 パステルさんが1人ずつ相手をして、戦い方を体に刻む様に教えてくる。

 

 イリスとセフィリアは必死にパステルに向っている。

 3人とも真剣を使った本番さながらの訓練だ。

 傷つけば、俺が治療するので怪我は気にしないのかもしれない。


 イリスは体力的な問題から軽い武器を渡してある。

 レイピアと小太刀、ククリが良いかと思い、作って確かめてもらった。

 どれもイリスには初めての物だし、剣など振るった事のないイリスはどれも首を傾げるだけだった。


 パステルにも聞き、イリスの感想を踏まえ最終的には脇差となった。

 小太刀よりも短くナイフよりも長い。

 取り廻しが利き、イリスでも長時間持つ事ができる。

 そういった総合判断で脇差となった。


 防具も簡単な軽装備に止めた。

 上半身には胸当てと篭手、下半身には尻当てとトレッキングシューズ。

 トレッキングシューズは脛当て機能も付けて再度作成し直した。

 体力を出来るだけ奪わず、動きやすい物でイリスを守るよう工夫する。


 セフィリアには重量のあるロングソード。

 だが、年齢も踏まえてセミロングソードといった感じだ。

 パステルと同じく剣に優れた獣人には扱いやすい武器だ。


 叩きつけるという使用方法が剣の扱い方だ。

 力のある獣人には、切るという繊細な動作よりも叩き付ける方が性に合っているらしい。

 非常に獣人に適した装備となっている。


 鎧もイリスよりは堅牢な物となっている。

 プレートメイルは流石に重いので、皮製のレザーアーマーだ。

 上半身は全体的に守りつつ、肩当も付属させている。

 

 動きやすさを念頭に、各部位は連結式で稼動範囲を大きく取る。

 下半身は日本鎧を参考に尻当てを段々式で連結。

 足運びの邪魔にならないように作った。

 足元はイリス同様トレッキングシューズの改良版。

 以外にも靴が2人のお気に入りなので、そのまま採用となっている。


 俺はと言うとこの訓練には参加していない。

 実は早々にパステルを打ち負かしてしまったからだ。

 もちろん動きはパステの方が勝っているが剣技のLVが違ったようで・・・

 俺は剣に関しては習う事はない為、この時間は必要なアイテムの作成に当たっている。


 今は塩を作っている。

 【鑑定】を使い、塩が含まれた物があればそれを持ち帰り【アルキメイト】で作成。

 岩塩としてアイテム扱いの塩が出来上がるのだ。


 他には、森で狩をした時に見つけた繭を素に糸を作る。

 糸ができたら布を作成。

 花や草木などから染料を作成して置き、布と染料で服を作る。

 余り複雑な物はイメージが追いつかないので簡単な物を作っている。


 糸の段階で染料を使い、色の付いた糸を作っておけば服作成時に刺繍も出来る事がわかった。

 【アルキメイト】の凡庸性が高すぎて、商人にでもなろうかと思ったほどだ。

 

 後、各自に必要な回復薬も作る。

 森で見つけた薬草類をそれぞれの効能に合わせて【アルキメイト】を使うと丸薬が出来る。

 傷薬、毒消し、魔力丸、強壮剤どれも各自が自分で直ぐに服用できるところが利点だ。


 これら必要装備を入れるポーチも作る。

 アイテムBOXの使えない3人には鞄が必要だ。

 森の中で生活して、必要な物は全て作っていく。


 最後にイリスの弓作成だ。

 弓と言っても色々ある、和弓、短弓、アチェリー、ボウガン。

 どれにするか悩み、イリスの力と的に当てるのが主になる弓と言えば・・・

 アーチェリーじゃないか?


 構造は知っているが、作れるか心配だ。

 アルミニュウムやグラスファイバーがないのだ。

 うーん、グリップは木製にしてみるか。

 リムは・・・此れも取り敢えず木か・・・

 弦は・・・おいおい材料をどうするんだよ・・・


 前世で異世界転生を夢見て、知識だけは頭にかなり突っ込んでいた。

 結構色々な物の構造は思い浮かぶが、材料までは考えていなかった。


 むむむ・・・ここは【アルキメイト】の可能性も含めて実験するか。


 まずは燃え残った焚き火の煤を手に取る。

 イメージがわかないがカーボンと念じて【アルキメイト】とを使う。

 すると・・・出来ちまったよ。


 手には黒い板切れが乗っている。

 触ると硬い、板の両端を持ち力を入れると硬いゴムのように曲がる。

 力を抜くと元に戻った。


 【アルキメイト】無敵すぎるだろう・・・

 此れを素にアルミとカーボン繊維も可能かもしれない。

 明日以降【鑑定】で探して作るか。


 こうして新しい【アルキメイト】の可能性を見出した時には夜の稽古も終わっていた。

 疲れ果てる2人に近寄り、怪我と疲れを癒す。


「疲れてるだろうけど、まずはラルスとイリスが夜番だ」


「じゃあ、セフィリアを先に癒しておくよ」


「ええ、頼むわ」


 セフィリアの治療が終わると、パステルは窪みに行き体を横たえる。

 板切れと毛皮、後鳥の羽毛を使い簡易ベットが作ってある。

 2個あって、交代で使えるようにしている。


 セフィリアも後に付いていき、今日の夜に備えて就寝する。

 各自6時間程度の睡眠以外は起きるようにしているので、深夜遅くに2人と交代だ。

 俺達は日が昇り、朝食の準備が整う位に起きるようにしている。

  

 2人っきりになり、それぞれ森の監視をしながら寄り添う。

 焚き火を絶やさないように、枯れ木を足していく。


「ねえ、ラルス」


「ん?」


「パステルさん、何だか変じゃない?」


「ん?そうかな~」


「気付かないの?なにかこう焦ってる気がするのよ」


「焦る?そうかなー俺達のために必死なだけに見えるけど」


 俺も焦っているとは思うが、体育会系のノリと思い込んでいる。

 そんな俺の考えに納得できないように、イリスは考え込んでいる。


「ん~そうじゃないように思うんだけど~」


「イリス姉、なんか気付いたの?」


「んんんーーー何とも言えないのよ。勘としか・・・」


 うん、女の勘ってやつか。

 もしかして女性同士で感じあう何かがあるのかもしれない。

 でも、それが何かが解らない以上手が打てない。


「兎に角、パステルさんを気を付けて見ていて欲しいの、ラルスにも」


「わかった、気を付けておくよ」


「ところでさ、イリス姉は訓練キツクない?」


「正直キツイけど、ラルスやセフィリアを守りたいの」


「俺が守るだけじゃ駄目なのかな?」


 ちょっと格好良く言ってみた。

 外見10歳の俺が言ってもどうかと思うが、言わずにいられなかった。


「フフフ、そんな男らしい事言って♪嬉しいけど、私は守られるだけじゃ嫌よ」


「でも、イリス姉って戦闘に不向きじゃね?」


「た・・・確かにそうだけど、でもラルスと一緒にいたいのよ。後ろで待ってるだけなんて嫌よ」


 そういって拗ねるように横を向く。

 イリスが脹れるなんて珍しい、余程足手まといになりたくないみたいだ。


「ハハハ、イリス姉が拗ねるなんて珍しいね」


「べ、別に拗ねてないわよ」


「そっか」


「そうよ♪」


 そう言って笑顔を向けてくるイリス。

 

「生き延びようね、ラルス」


「ああ」


 イリスは俺の方にもたれかかって空を見ている。

 釣られて俺も空を見上げる。


 月が輝き、夜空は満点の星に埋め尽くされていた。

 明日も訓練だ。


 でも、何時まで此処にいるんだろう?

 此処にいるよりも隣の町とか国に逃げ込んでもいい気がするのだが。

 パステルに何か考えがあるとは思うのだが・・・

 

 ふと横にいるイリスを見る。

 イリスも俺に向き直り、クスリと微笑を漏らす。


 イリスの笑顔に、先への不安を掻き消すように頭を振る。


「どうしたの?」


「なんでもない」


 また視線を森に向け夜晩を続けた。

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