夜
「お邪魔しました」
玄関で彼は母親に挨拶をしてドアを開ける
私もついていく
門扉を開けようとする彼に
「ごめんね」と小さく言う
でも、キィーって音がその声を消してしまう
夜も遅いから外はとても静かだ
もう道を歩く人の姿もない
「明日な、あ~今から宿題やんないと」
その静けさをやぶる彼の声
英語の和訳だ・・・
「寝るの何時だろ・・・まあ、いいかいつも遅いし・・・」
能天気な彼をみるとほっとしてしまう
今度はちゃんとお礼を言おう
「ありがとね」
「やめろよ、うまくいくかわかんないよ」
「うん」
ガチャン
扉を閉めると
「じゃ、な」
走りだして、帰っていく
・・・小学生みたい・・・
小さくなって暗闇に消えていく、彼の背中をみて笑ってしまう
私も家に入る
家の中はコーヒーのいい匂いがする
今からはひと頑張りしよう
母親がキッチンのほうから
「顔洗ってらっしゃい、すごくむくんでるから」
と声をかける
玄関から、洗面所にむかうと涙で塩づけみたいなった顔が鏡の向こうに見えた
「やっば」
あわててごしごしと顔を洗ってキッチンに戻ると
ダイニングのテーブルのそばに常備している棚から辞書をだす
かばんから筆記具と英語の教科書とノートと下敷きをとりだして、テーブルにセットする
「はい」
コーヒーの入ったマグカップを私がぶつけて倒さないように少し離れたところへ置いて、
母親も自分の席について
「それで帰ってきたとき、変だったのね、お母さんびっくりしたわ」
うん・・・ごめんね・・・心配させたね
「もし、手に負えないようになったら、相談してね、まだまだ親に甘えても許される年だし、それにほんとはできるならお母さんが代わってあげたいんだけど・・・」
顔を上げて、目をみる
でも、もう制服の似合う年じゃないしね・・・ふふふって笑って席を離れ
ソファに寝転んで本を読み始めた
いつもこうやって、私の勉強が終わって寝に上がるまでそばにいる
こうやって今まで甘やかされてきてたんだな・・・
宿題が終わって明日の準備をし、歯を磨いて部屋に戻る
明日着る服を準備して・・・体操服をかばんに入れる手が止まる
・・・怖い・・・明日が・・・
でも、いろんなことがあって、泣きつかれたのもあって・・・しばらくすると眠くなって・・・
ベッドに入って目を閉じたら、すっと眠ってしまった