解決策
もう夜の10時過ぎだ
いつも10時までには家に帰るから親もきっと心配していることだろう
お互いに携帯で電話する
「今から?うちに来るの?」
と最初、母親はびっくりしたように言ったが
「いいわ、来てもらって、向こうのご両親にも連絡しておくように言っておいてね」
と、わりとすんなり話が決まる
玄関では母親が待っていて、彼に「どうぞ」と微笑むと
「お邪魔します」といって、普段どおりリビングに向かった
テレビの前に置いてあるソファに並んで座る
キッチンではお茶を入れる音がする
私は下を向いたままだったけど
彼が背もたれに体を倒して上を向いたのはわかる
「今日さ、先輩に呼ばれてただろ?」
「うん」
「なんか、やったの?お前」
「ううん」
「だよな、お前あの先輩に気に入られてたしな」
「・・・」
「なんか言われたのか?」
あの悪夢のような出来事を思い出す
目をつむって記憶を締め出そうとする
「なんかされた?」
さっきは怒鳴ってたけど、今度は慎重に話を聞こう、そういう彼の気持ちがわかる
心配してくれてるのがわかる
「・・・キスされた」
「は?誰に」
彼が顔を向けたのがわかる
彼の声と同時にキッチンでゴンっと不自然な音がする
「だって、女だろ?なんで・・・」
顔を上げると、すぐ目の前に彼の顔がある目が合ってしばらくすると
彼は内容が理解できたのか、正面を向くと、ソファにまたもたれて、上をむいた
「まじか・・・」
母親がお茶を運んできた
コーヒーテーブルにお茶を置いた後、どうしていいか迷ってるみたいだ
でもあきらめて、ソファのそばにあるダイニングの椅子に座る
「怖くなって、逃げてきた、」
「うん・・・」
少しの間、彼がお茶を飲む音だけがする
「お前は断るつもりだよな、確かに先輩とは仲良かったけどさ、でもそういうんじゃないだろ?」
「うん・・・でも、今先輩と会うのが怖いんだ・・・」
「部のやつらは知ってるのか?」
「ううん、言わなかった、部の雰囲気壊しそうで・・・だってこれがバレたら、部内の信頼関係も壊れそうだし、外部から見たらすごいなんか・・・」
「廃部とかなったらまずいよな、お前のせいでって逆恨みするやつもでるかもしれないし、おまえ自身も変な目でみられるぞ、言わないほうがいい」
「うん・・・」
「おまえは先輩に会うのが怖い、このまま逃げとくか?」
「キスされて、すごくショックだったし、ほんとは会いたくない・・・でももう元に戻れないのも悔しい、先輩いい人だから」
「わかった・・・俺が話してやるよ」
「へっ?」
思わず彼をみる
「俺はお前の友達なのも、先輩は知ってるし、俺は男だから先輩よりは力あるし、なんか起こったりはないだろう」
「・・・」
彼も私を見る
すごく近くに、真正面に彼の顔
真剣な顔をしているのがわかる
「お前が先輩のこと嫌いじゃないけど、そういうのには応えられないっていうことを言えばいいんだろ?」
まかせて大丈夫だろうか・・・いいんだろうかこんなことを押し付けても・・・
そんな思いがめぐる
「いいと思うわ、それ」
それまで何もいわなかった母親がいった
「口を挟んで悪いけど、娘だと、先輩に会っても動揺していいたいこともいえないだろうし、何かあっても困るし・・・私が代わりに、と思っても、親が出てくるところではないものね、代わりにしてくれるならほんとにありがたいの」
彼は母親を見て、うんって頷く
「まかせて・・・な・・・ちゃんとやるから」
また私をみると安心しろという目をしていた