ファースト・・・
今はありえないことだけど
中学2年生のとき、わたしはほんとに彼のことを男の子だって思っていなかった
確かに彼は男の子だから
二人一緒にいれば周囲の人にはやしたてられたりする
そういう心配もあって、気を使っていたけれど
家も近いし、部活も同じ、塾のクラスも同じだし
ほんとに近いところにいたのに
お互いに起こった出来事を、その場ですぐに話せない
そういうのが、もどかしいくらいだった
隙をみて
「今日の数学の宿題の3番目の問題かなり卑怯だ」とか
「高ブーの水筒、ナイキだった、おそろになってるよ」とか
「ジャンプ今日発売日でしょ?明日持ってきて」とか
「今日、私生理痛だからあんまちょっかいかけないで」とか
すごくつまらないことだけど、なぜか、今言っとかないとダメだってすぐ思ってしまう
そして彼の
「俺もあれひっかかってさぁ、解答みてびっくりよ」とか
「ふうん、趣味似てんだね、でもなんでお前がそれを知ってるんだよ」とか
「今日、塾の帰りに買う予定、明日朝、おまえんちの前で携帯鳴らすから取りに出て来いよ」とか
「・・・わかった、先月お前すごかったしな」とか
そういう意味のない返事でも、聞きたかったりするんだな、すぐに
ある日
私はよく可愛がってもらっていた先輩に部活が終わったら、部室に居残るように放課後、言われた
後数日で3年生は引退するという時期で
この先輩は私が入部したときからすごくいろいろ教えてもらったいい人だった
練習は厳しくて、主導的ではあるけど、明るくてさっぱりしていて
他の先輩よりはすごく付き合いやすいひとだった
だから呼び出されても難癖つけられる、とかそういうのではないな、とおもっていた
逆に好印象だった、その先輩は・・・
男子もクラブそろそろ終わりだな?
彼のほうはもう片づけを始めていて、道具を倉庫へ運んでいた
私と先輩との会話を通り過ぎるときに聞いていたらしい
「塾バス、遅れんなよ」
先に彼が上がるときに、目が合って、小さくそういうと、行ってしまった
そうなんだよね、家に帰るのが遅いと晩御飯食べる時間が少なくって、ついバスに乗り遅れちゃうんだよね。
全部片付けて、部室に行く
他の子には先に更衣室に行ってて、と途中でわかれた
先輩をまたせてはいけないと、ダッシュで運動場の階段を上がる
今日はずっと走りっぱなしのメニューだったから結構疲れてて
すぐに息が上がってしまう
「失礼します!!」
誰が部室にいるかわからないかドアを開ける前に大声で挨拶
ガラッと開けると
先輩が一人、椅子に座っていたが
私が来ると立ち上がった
「お待たせして、すみません!!」
一礼して、部屋の中に入りドアを閉める
先輩のすぐそばまで寄って、正面に立った
「いいって、今日最後まで結構キツイメニューだったよね、途中から上で見てたよ、もう大会向けのメニューで動いてるんだね」
「はい!1、2年だけになっても、いい結果残せるようにってミーティングの時に話し合って決めたんです」
「そっか・・・頑張ってね・・・なんかでもこういうのって、送られる私たちは寂しかったりしてね・・・」
「そんな・・・いつでも練習見に来てください!!待ってます!!」
「ほんと?嬉しい」
そういうと先輩はすっと両手をあげて、私の両頬を包んだ
「でも、前みたいには毎日会えないね、それが・・・やなの」
ゆっくりと顔を近づけて・・・
小さくてふんわりとやわらかい唇が私の唇にふれた・・・
体が硬直して、叫ぼうと思っても声が出ない
全身から汗がぶわっと吹き出る感じがする
唇が離れるとすっと抱きしめられる
先輩の体が私にくっついてきて
女の人の胸が私にぐいってあたって
ものすごい違和感と不快感
それと、恐怖が襲ってきて
思わず目を閉じて
「すみませんでした!!」
下を向いて叫ぶと、両手で先輩を押して
急いで部室から出て行った
廊下を走りながら、なになになにってずっとつぶやいてしまう
何が起こったか理解できなくて
でも恐怖が後から後から襲ってきて
更衣室に早く戻りたい、人のいる公のところに行きたい
そう思って急いで更衣室に入ったけど
みんな帰った後で
私も急いで着替えて、外に出る
また夕方で人の少なくなった廊下を
走って走って
人の気配のない玄関で自分の靴箱から靴を取り出す
ひざも手もがくがく震えてうまく履けない
焦りも手伝って、かなり手間取った
茜色の空の下を必死に走って校門あたりまで行くと
部活の友達が門の前で話をしていた
「おまたせ~」って走りよって、大声で叫ぶ