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NY

「それで、あいつとはどうなの?」


痛いところを直接グサリとくる


「どうって・・・相変わらず仲いいですよ、時々会ったりしてます、部活の仲間で揃うことも多いんですよ、土日で合宿なんていってスポーツ三昧です・・・夜は宴会で・・・」


「合宿ね、おれとあんま変わらないかな、結婚した奴もいるから最近は参加率低いけど・・・どこの学年でも同じようなもんか」


ははって笑いながらビールをあおる

先輩のおかわりのついでに自分もビールを注文することにする

お腹がすいたな

テーブルの上を見やるとピスタチオとkissチョコがおいてあった

もうちょっとしっかりしたものも食べたい


「食べ物頼んでいいですか」


「ああ、ここはわりとなんでもうまいよ」


「はい」


注文した後、ピスタチオをつまむ

噛み砕くとナッツの特有の香りが口の中に広がって幸せな気持ちになる

続いて口に入れたキスチョコはアメリカって感じの甘さが残る味だ

日本のよりはしつこさはない


「お前はあいつが好きなんだろう」


うまくかわしたつもりだったがまた元に戻る

目を見て離せないくらい恥ずかしいからうつむいてしまう


「・・・はい」


一世一代の告白を本人の前じゃなくてまさか旧知の先輩の前ですることになるとは思わなかった


「目が真っ赤なのも、泣いてるんだろうな、ずっと」


「・・・はい」


なんか懺悔してるみたい、なんか彼が好きなのが悪いことみたいに・・・まあ、そうか、ずっと友達の仮面かぶってきたみたいなものだからかな


「そういうの、あいつにはっきり言ってやってくれたらいいのにな・・・あいつ何度もお前にふられてびびってるから」


「・・・ふったことなんてないですよ」


「あいつはそう思ってるよ、だからこんなところまできて焦ってるんだろうな」



食べ物がテーブルに来て、先輩が私の前に来たものをよせる


「おれはもう大分と食ってるから、これは全部食え」


「はい」


から揚げを一口食べる

あつあつでおいしい

口に入れると体が空腹を思い出したみたいで続けて食べる


そういえば、弟も言っていた

彼が私に必死だとか

そして今度は彼が焦ってるとか


何のトリックだ、なんでそんなこと彼が言うんだろう


好きだなんて一度もいわれたことないのに・・・


訳がわからず、もくもくと無言で食べる

そんな私を眺めながら、先輩は仕事上のとりとめない話を始めた

人事部の話だ


守秘義務はあるから、と個人情報としての内容は避けられているが、自分の部署の同僚や上司の入社当時の話なんかを聞くのは楽しかった

うちの部署は海外の支社に発注することが多くて、時々現地採用の外国人とのやりとりが必要なため、英語は必須だ

だから、当然、この部署に配属される人は英語ができる人が多くて、帰国子女が多い

そういった日本の常識にうとい人がいきなり日本人の顧客と直接かかわる現場に半年間研修に出るので、入社当時はそこでいろいろな事件?や問題をやらかしてくれるらしい

そんな内容を『内緒だぞ』っていいながら話してくれる先輩の話は本当に面白くて

久々におなかを抱えて笑ってしまう


極端な例だと、緑茶をコーヒーカップに入れて砂糖を添えてだしたり、時間が来たからと顧客がいるのにさっさと片づけをはじめて、「帰ってください」と追い出したりということもあったらしい

私でもありえそうだな、と肝が冷えたのは、まちがえて顧客のところに商品の仕入れ値の書いた紙をFaxで送ったということだった

この仕事でこちら側がいくら利益がでるのかばれてしまうし、人が悪ければ更にその利益を減らそうといってくるだろう


そういう話をして、私の気を紛らわしてくれてるんだろうな、先輩を見る

なんだかんだいっていつもやさしい人だった



「・・・お前も今で3年目か・・・どう、楽しい?今の仕事」



言葉遣いは変わらなくても先輩の声の調子が少し変わる

先輩が会社モードに入ったのがわかる



「楽しいです、最初の半年、現場に入って、直接顧客のニーズを探るのも楽しかったし、今は現場からの発注をみて、頭の中で顧客のイメージを読み取ってそれを形にしていくお手伝いをしているのもまた楽しくて」


「うん」


「でもまだまだ自分のほうに手持ちのカードがないっていうか、ニーズにぴったりくるものを実際にこれって出せるほどまだ情報がなくて、いらいらすることもあります、もっと勉強しないとって・・・」


「そうか・・・じゃあ、ちょうどいいかな」


「はい?」


「問い合わせが来てるんだ、さっきも言ったけど支社の担当が妊娠して調子崩して緊急入院してるって」


「はい」


「彼女、仕事は辞めたくないし、出産してもすぐ復帰したいって言ってはくれてるんだけど、やっぱ今の仕事を今までみたいに彼女1人で抱え込ませるのは不安でね、といっても余分に人を雇えるほどの人件費もない、それで誰かをヘルプに送り込もうと思ってるんだ」


「はい」


「君の部署はもともと海外に転勤希望の人が多いし、支社と直接仕事をしている部署だから、そこから出そうという言う話になっていて・・・僕は君を推そうかと思ってる」


「・・・私?」


「彼女が出産してから6ヶ月くらいまでかな、だから1年と半年もないかな、どうだろうか」


「・・・」


「・・・急な話だけどもしOKなら上司に君が適任だっていうよ、英語も日本語もできるし、支社でも君はウケがいい・・・それに・・・あいつがうるさくてさ・・・」


あいつって誰?


「OB訪問の段階から、入社したら絶対にNY勤務のある部署に君を入れるようにしろとか、自分が海外赴任決まりそうだから、なんかあったら頼むとか・・・」


・・・あいつ・・・顔が真っ赤になる


「部署の配属はともかく、転勤はおれの裁量でどうこうできるもんじゃないって断ってても、そういう話が来たときに考えてほしいって、わりとこまめに言って来るんだよ、そしたら偶然、今回の話が来てね」


「・・・」


「しかも時期が彼の転勤にぴったりだろ、なんか運命的なものかって思ったよ・・・いや、もしくは彼の執念かな」


そういうと先輩は姿勢を正して私を見た


「明後日の朝までに返事をくれたら、君から了承を得たと上司に話すよ・・・だから考えてくれ」


「・・・はい」


「今から彼と会うんだろ、ちゃんと彼のこと考えてやれよな」


「はい」


・・・なんていうか・・・まいった・・・


どこまでがおしが強くて・・・ほんとに強引で・・・

どこまで私を振り回すんだ・・・


涙がぽろぽろ出てきた

酔っ払って泣いてる女みたいだ

みっともないな・・・


・・・そうだ

連絡しないと・・・彼に・・・

私は携帯を取り出した


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