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飲み会

彼がアメリカへ行く一週間前に約束していた先輩と飲みに行こうと連絡があった

彼の学生時代の先輩であり、私の今の会社の先輩でもある

その先輩は就職活動をしていたときに彼が紹介してくれた人でもあり

そのおかげで今の会社に就職できたので私の恩人にも当たる人だ

しかしながら、今更だけど、私、就職先まで彼のいいなりだったんだって思う

まあ、就職できたのだから、この場合はお世話になったというべきだけど・・・と


今の仕事はでもやりたいと思っていたことからはそんなにずれていないし、

やりがいもあって、忙しいときは忙しいけどそれも楽しかった


飲みに行く約束の日は午後に問い合わせが現場からいくつかあり

今の顧客はすぐにレスをしなければいけないので即、現物がありそうなところへアタリをつけて問い合わせるが時差もあるし、いつもはしっかりした返答をもらえるところが最近もたもたしてるので気が焦る

それを待つ間に他の仕事を終わらせたが終業時刻を過ぎても返事がないので

彼と先輩に連絡して先にお店に入ってもらうことにする


いったん、在庫状況を現場に報告して確認が取れ次第返答をしていく形にしておいて

一度席を離れる

洗面所にたつと鏡を見てため息をついた

目が真っ赤だ・・・それもここ最近ずっと・・・

会社の人には「この時期に花粉症ですか」と不思議がられるので、

「今更ながら、韓流ドラマにはまって、眠れないんです」なんて変にごまかしているが、実は毎晩家に帰ったら泣いているのだ

悲しがる自分なんてバカみたいだって思ってたから自分を泣かせるままにしておいたのがまずかった

なにせ大学時代の後半なんてキスまでして、恋人かと錯覚するまでの関係になったところから、いきなりほぼ放置状態で2年間を過ごした経験だって過去にあったのだ


今度も、ほぼあれと変わらない状態にまたなったのだから『慣れ』があるだろうと思ったら

そうでもなかったらしい

出発が近くなるにつれどんどん泣いている時間が長引いている

いつか泣くことにも飽きるだろうからと思っていたのになかなかおさまらない

仕事をしてる間は良かった、家に帰って家族と話をしている間も大丈夫だ

でも、部屋に戻るともうダメだ

いきなり我慢していたかのように涙がぽろぽろと頬を伝って落ちてくるのだ

考えないようにしようといていたつもりなのに気が緩むのか、決壊してしまう


夜中にのどが渇いてキッチンに下りたときに弟と出くわすと私の顔をみて、

またかって、顔をする

弟がなにが原因か、までしっかりわかってるのが雰囲気でもわかる

『また、あいつのせいで泣いてるんだろ』だ

弟は彼とはすっかり仲良しだからきっと転勤の話はきいているのだろう

それでも兄妹なんだから、もうちょっと私の肩をもってくれてもいいんじゃないだろうか

いつも弟は彼の味方になりたがるのだから始末が悪い


「・・・何よ、文句あるの」


「その泣きはらしたブス顔のさ」

弟は、はあって一度深いため息をついて話を続ける


「どこがいいのか、あいつはいつも姉貴の事考えて必死でさ・・・あんなもててるのにほとんど適当に交わしてさ」


なにそれ?もててる?

いまもそうなんだ・・・当たり前か・・・社会人になってから私が彼の環境が見れなくなったから気づかないだけできっと会社でも学生時代と同じ感じなんだろう


そっか、だからか・・・

今彼には、人間関係のすべてを忘れられるほどの研究室がNYにあるわけでもないから、向こうで恋人ができる可能性は十分にある

私なんて2年くらい会わなくても平気な存在なのは実証済みだからなんのストッパーにもならない


どうしようもない・・・だから不安で泣いてるんだ・・・

そりゃ泣くだろう、と自分の心の中を冷静に分析してしまう



ほんとに離れたくない・・・いっそ・・・ついて行ってしまおうか

時々そんな考えが頭をもたげる

いや無理だ

はじめて3年目になるこの仕事は楽しいし、もっと深くかかわりたいと思ってる

入社して半年は研修として、現場で顧客との対応をして、その後はサポーターとしての仕事をしていて仕事の流れが、ふと形となって私の前に現れた時から、私はこの仕事に夢中になった、でも、まだまだ見えてない部分もいっぱいあるし、もっと勉強していきたい

そう思ってる


それに今日本で仕事を辞めたとしても、NYで何か新しい仕事が見つかるとも限らない

貯金もまだそれほど貯めてない

まだまだ働けるこの年齢で仕事のない状態も避けたい



うちの親だって反対するだろう

娘が片思いしている男のために、仕事も捨ててNYに追っかけていくなんてありえない設定で

相手は昔からよく知っている『彼』だ



・・・それに・・・私の行動は彼には『重い』だろう・・・

そう考えると身がすくむ思いがする


私が無理を承知で『行かないで』と彼にすがって泣いていたのを

『無二の親友』だから寂しがっているのだと彼が解釈していたらとんでもなく重いだろう





やっと仕事のめどがついて彼に連絡をしてから約束の場所に行く

お店について席に着いた途端に彼に電話がかかってくる

最近は毎日こんな感じらしい

自分の仕事を引き継いだ人物が彼がいるうちにいろいろ相談してくるのだ


「ちょっとごめん、会社戻る、帰る時、電話して」

一緒に帰ろうということだろう、黙ってうなずく


「じゃあすみません、こいつよろしくお願いします」

先輩に声を頭を下げると急いで店を出て行った


「相変わらず、あいつは忙しいな」


「お久しぶりです」


「会社ではあんまり顔あらわさないもんな、でも聞いてるよ、評判いいぞ君は」


会社での顔と部の先輩としての顔、両方彼が上の立場だけど、言葉遣いは全然違う

今のセリフは両方が混じってるな、そう思いながら返事をする


「とんでもないです、まだまだ足をひっぱってます、今日もなかなか片付けられなくて・・・・」


「ああ、聞いてる、支店のほうだろ?人がまわってないんだろう?」


よく、ご存知で・・・さすが人事部所属だわ


「担当が妊娠して体の調子崩したって聞いてるよ、落ち着くまでは大変だろうけど、頑張ってくれるかな」


「はい」


「それで・・・」

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