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ドラッグ

「君達2人って不思議な関係だよね、最初は君が始終彼を探していてくっついたら容易に離れないから、君の片思いなんだと思ってた、恋人同士って感じには見えなかったしね」


他人から見る私達の関係ってそうなんだ・・・私の片思い・・・当たってるなぁ


「彼は逆に自分からは動こうとしない、どうしてか聞いたら、そういう関係じゃない、君がホームシックにかかってるからそばにいたがるんだけなんだって笑って言ったよ、自分は彼女にとってはホームシックを癒すドラッグだからすごく必要とされているだけなんだって・・・でも、しばらく見てるとね、どっちがどっちのドラッグなんだろうって思うようになったよ」


「どっちのドラッグ?」


「・・・もし僕が彼なら、弱ってる君に好きだというだろうし、2人の関係は容易に変わるかもしれない、イギリスにいる間はずっと親密でいられる、昼も夜もね、それは君にも何の問題もないと思う、帰国すれば、ホームシックは治るし、そうすれば僕の存在もいらなくなる、だから期間限定でちょうどいいんだ」


今、ものすごいセリフを英語で聞いてるような気がする、英語ってすごい論理的で・・・だから余計に言ってることがはっきりしてて、怖くなる


「でも、彼は違うだろう、帰国後のこともある、前に、彼が強引にことを進めようとして、君が一度完全に離れてしまったことがある、あんな思いは二度としたくないんだと彼は言ってたよ」


あのキスのことだ・・・私の知らない間にされていたという・・・そして私もこたえてしまったキス

思い出すと急に恥ずかしくなって顔が熱くなる

・・・でも、その後の離れていた時間、彼もさびしがってくれたんだ・・・


「だから彼はただ今の君を受け入れることくらいしかしない、自分からは何もしようとしない、そういう彼をみてるとね、まるで君は彼からすれば手をだしてはいけない危険なドラッグなんだなって思うようになったんだ」


危険なドラッグって麻薬ってこと?

私が・・・そうだって・・・まさか・・・


「目の前にあって、欲しくて仕方ない、でも手をだしたら終わりになる可能性がある、だから自分からは動けない、君に甘えられるのは彼には一瞬は幸せだろうけど、後は結構地獄かもしれないね」



信じられない彼のセリフに思わず私は席をたった

買い被りにもほどがある



「帰る、彼にそう伝えて」



思わせぶりに笑う顔を背中にして、私はダイニングをでた



翌日は彼はなんでもないように私に接してきて

私も何も聞かなかったような態度をとっていた

頭の中ではいろいろ混乱していたけど

またここで彼から離れてしまうのも怖かった

それに帰国してからのことも心配だったからだ

帰国する前日までは、ずっとそうだった





彼がNYへ転勤するために勉強したといっていた英会話教室はわりと少人数制のアットホームなところだった

「毎日のようにクラスにでてたんだ、久々に学生に戻った気分だったよ」

そういいながら、彼はおいしそうにビールに口をつけた


けれど誘われた英会話のセミナーはすごく本格的で、書類の申請の仕方とか、プレゼンの仕方とか、実質的なことばかりで実践も交えての内容だったのでひどく緊張したが、久しぶりになれないことに集中したのもあって、すごく楽しかった

隣に彼がいたこともイギリスでの授業を思い出せて懐かしい気持ちにもなった

ペア・ワークをすると何故か当時のままに私が言いたい放題、やりたい放題な態度で、彼がそれをうまくコントロールするような立場になってしまう

今でこそ彼の英語力は私よりもかなり先に行ってしまっていたけれど、当時は私のほうがレベルは高かった

なのに、どうしていつも彼が私をコントロールしていたんだろう、とぼんやりと考える


「誘ってくれてありがとね、やっぱり楽しいね、こういうの勉強も」


「だろ?・・・おまえも久々にやってみれば英語?」


「そうねぇ」


今日行った英会話教室にもTOEIC対策の講座もあるらしい

やってみてもいいかな、そう考えてみた


明日も仕事があるということもあって、最寄の駅のバールへ軽く飲みに寄った

ビールと食べ物をいくつか頼んだ

スツール席に座って窓の外を眺めてると並んで座っていた彼が急に言った


「NYに行く日が決まったよ」


どきん、として体が少し震えたのが自分でもわかった

思わず彼の顔をみるが彼はいたって平静だ


「それであちこちに連絡してるんだけど、その時、おまえの会社の先輩に久々に飲もうって誘われたんだ、まだ先だけど、おまえもどうだって言われてる、どうする」


「行く」


その先輩は私が就職活動しているときに彼が私に紹介してくれて、OB訪問した人だった

学生時代の彼の部活の先輩だから当然お互いを知っていて、楽しい訪問だったし、この会社に採用されたのも彼が力を入れてくれたらしい


・・・そうか・・・決まったんだ

もう行ってしまうんだ・・・

これまではずっと考えないようにしていた

それでもそのことが時々胸の奥からひょっこりと形を現してきていたが、いつも深く考えないように、追い払うようにしていた


でも彼の口から直接聞かされると・・・さすがにつらい


「・・・おまえさ、今の会社好きだよな」


「うん」


「もっと仕事の内容、わかりたいと思ってるよな、今でも」


「・・・そうだけど」


「なら、いいんだ」


そういうと、彼はグラスに残っていたビールを飲みきった


「明日も仕事だから、もう帰ろう」


彼がレシートを持って立ち上がった

店を出てから家まで自然と手をつないで歩いていた

彼が転勤のことでみんなに連絡を取っていたから、いろんな人の近況を報告してくれる

たまに私の知らない同じ大学のゼミの人の話も出た

イギリスから帰国してからの2年の間にできた友達なんだろう

そう検討をつけながら彼の隣を歩く


私の家の前まで来ると彼がつないでいた私の手を引いて自分の前に寄せると

そのまま私を胸に抱きとめる

私も彼の背中に手を回して彼の白いシャツに頬をあてる

彼の手が私の背中をやさしくなでる

こんなふうに自然に抱き合えるのがもっと早ければ良かったのに


いつもギリギリになってこうだ

追い詰められないと自分の気持ちが素直に表現できない


イギリスにいた頃もそうだった

ああいう環境でやっと自分に素直になれた


でもあの頃は結局、私の片思いのままで終わってしまったのだろうか

彼の気持ちはどうだったのだろう

帰国する前日の一瞬だけ、私は勘違いをしたのだろうか・・・

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