私の宝物
「なんか、変わったなぁなんて思って・・・昔は私より小さかったのにね」
なんていいながら、思わず目をそらしてしまう
「ちょっとの間だけだよ、中3くらいにはもう俺の方が高かったって」
「そうだっけ?」
切れ長の目
今は体も顔つきも男らしくなったけど、
目は少し中性的で出会った時とさほど変わらない
昔は彼はなかなか可愛かった
顔もまだまだ幼くて
並んで歩いてても、横を向けば、同じ高さに彼の顔があって、なんか女の子の親友としゃべってるみたいに感じて、親近感を持った
だから出会ったばかりの頃はいっぱい話した
毎日、忙しかったけど、隙間の時間をみつけて
なんでも報告しなければならないと思ってた
席が隣のときは休み時間でも結構話してたし、席が離れても、塾のバスの中とか、学校への行き帰りで偶然道で会った時とかお互い声をかけた
昨日の夜みたテレビ、読んだ本、部活での出来事、友達の話、ゲーム、塾の宿題、
家族の話、好きなこと、はまってること・・・ささいなできごとから進路のことまで
今、彼のことをここまでわかってしまっているのはその時期があったからだと思う
部活は偶然一緒になったけど、そのおかげか部活の仲間としても仲良かったし、
塾も高校も更には大学まで、
相談して同じところにした
というより、すでにこの頃から彼にいろいろ決められてたり、しきられたりしてたな
でも、彼の背が伸びて
物理的にも距離ができたときから
お互いにすこしずつ、距離が開いていた気がする
彼と話をするのに、顔を斜め上に見上げなきゃいけなくなって
彼もわざわざ、顔を傾けてくるようになって
そのしぐさにどきっとしたりすることを
さとられたくなくて
そんな自分に後ろめたい気持ちをもった分
純粋にに彼のことを見れなくなって
彼に前ほど、素直に全てを話せなくなってしまったり
なんか彼を遠くに感じてしまったり
高校や大学もいろんなことを一緒に経験してきたけど
同じ目線でものが見れていたあの頃ほど、親密ではなかった
私たちは双子なんじゃないかと、錯覚してしまうくらい近かった
お互いに隙間がないくらいぴったりと合わさっていた
あの頃の彼との時間は私の宝物なのかもしれない
うつむいた視線の先にビールのグラスがある
口をつけて飲む
軽くて薄めで飲みやすい
外も暑かったし、さっき食べたラーメンがこってりしてたから
この冷たくて、さっぱり感が気持ちいい
思わず全部飲み干してしまう
「おいしい~私好みだ、このビール」
お店の人が頼んだ食べ物を置いていく
同じビールを注文する
彼も自分の飲み物を追加する
ガラスに入ったチョコをつまむ
口に入れると軽い苦みあって
カカオがしっかり入ってる味がする
彼の最近の仕事の話を聞きながら、ナッツの入ったお皿を見る
ナッツも大好きなくるみが混じってる
ほかにもいろんな種類がある
アーモンドにカシューナッツ、ピスタチオ、マカデミア
それぞれの味の違いにいちいち感動しながら
ひとつひとつ味わって食べる
「・・・それが、ここ3ヶ月くらい空いてる日はずっと集中してて図書館にこもったりしててさ、
なんか久しぶりに勉強したなって感じしたよ、学生時代に戻ったみたいでさ、仕事とも切り替えがすぱっとできるし良かったよ」
「英語ねぇ、でも今までも海外とのやりとりは英語だったでしょう?それに仕事はほとんど専門用語で英語でもなんとなくつかめるって言ってなかったっけ?」
「・・・社内で試験があってさ・・・英語がかなりできないとパスできないっていうか・・・それがさ・・・今日その内定もらえて、うれしくてさ」
「そうなんだ、頑張ったってこれなんだ、良かったね」
うんって嬉しそうな表情でうなずく
「でさ・・・」
なんとなく本題に入るんだなってわかった・・・