気持ち
彼の背中はあたたかかった
やわらかなシャンプーの匂い
イギリスに来たときに2本セットだからと一緒に買ったものだ
おそろいなんだと思うと少し嬉しくなる
何か言わないといけないってわかっていた
急に後ろから彼の背中にしがみついたのだ
なんとか言って誤魔化さないと、今回のこれはホームシックになったからじゃないって気づかれてしまいそうだ
でも言い訳したくなかった
自分の気持ちを気づいて欲しかった
どこにも行かないで、ずっと2人でこうしていたい
他の人の事を見たり、考えたりしてしないで欲しい
ただ私だけを見て欲しい
こうやって彼に身を預けているとすごく幸せだと感じる
今ここで、私は彼に「好きだ」と打ち明けられるだろうか
今ならできるかもしれない
周りや先のことなんて気にならない
ただ、自分の気持ちを伝えたいだけ、それだけだった
「・・・す・・・」
「あのさ・・・」
しぼりだしたような声で彼が言った
「あたってるんだけど・・・背中に・・・むね」
・・・え・・・あ・・・
「ごっごめん」
あわてて、彼の首に巻いていた腕を解いて、彼から体を離す
胸があたってたんだ、うわっ、気づかなかった・・・
彼はこっちを見ることなく、ドアのほうを向いたまま
「コーヒーくらい付き合えよ、先に、キッチン行ってるから」
そういうと部屋を出ていった
彼が出て行ったとたんに私は力をなくしてそばにあったベッドに座り込んでしまう
これから私・・・どうしたらいいんだろう・・・
自分にこんな強い独占欲があったなんて今まで知らなかった
そう思った直後に彼は出て行ってしまったんだけど・・・
・・・胸・・・
かあっとほほが赤くなる
どんな顔したらいいの?どうしよう・・・
さっきまでのついていた決心がいきなり揺らぎそうになる
いくら立っても気持ちが落ち着かないので、あきらめて、ひとつ深呼吸した後部屋をでる
キッチンに行くと、彼はいなかった
「外で何か買ってくるって言ってたよ」
先ほどまで、テニスで一緒だったポルトガルの男の子が私を見るといった
「変だよね、今日スーパーに行ったばかりなのに」
温めるだけのチキンと人参とグリーンピースのトレイを電子レンジに入れながらいう
私は無言でお湯を沸かすために水の入ったやかんを火にかけると、インスタントコーヒーの粉をマグカップに入れた
「なんかあった?」
「どうして?」
「彼、なんかイラついてたみたいだから」
突然、胸に矢が突き刺さったような気がした
すごく痛い
・・・イラついた・・・そうなんだ・・・
嫌だったんだ、ああいうことされるの
やっぱり私のことはそんな風には見ていないってことなんだ
悲しくなってうつむいていしまう
「君達2人って・・・」
私の様子を察してるのかそうでないのかわからないままに彼は言葉を続けた




