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ホームシック

大学2年の秋に私はイギリスのバースにいた


イングランド西部にある、古くは1世紀にローマ人によって支配され、温泉がでる保養地であり、更に

18世紀のジョージ3世の時代に、貴族や富裕層向けの保養地として再開発された場所

テラスハウスの並ぶこの町の美しさは世界遺産に認定されるまでになった

ロンドンから電車に乗ってこの地に降りたとき、はちみつ色の石才で建てられたジョージア調の建物が並ぶ様をみたとき、自然と口から歓声やため息がでた


時間がある日は、ブロックストリート、ゲイストリートを通ってロイヤルクレセントへ出て、芝生で本を読んだり、買ってきたパンをかじったりして、今度はちょこちょこ他の通りを探索して帰る


その他の平日は大学や寮に閉じこもる日々だった

大学の正規の授業を受けて単位を所得したい、そう思って英語はかなり勉強していったが、実際に授業を受けると何を言っているかちんぷんかんぷんで内容を理解するにはおそらく英語がネイティブのほかの学生の3倍の労力が必要で、まともに寝る時間もほとんどなかった

この大学を選択した同じ大学生の中に彼もいた

ほんとは彼はNYに行くつもりだったんだが、直前になってイギリスに変更したのだった


そう、私は去年から彼と共に本屋や短期のバイトなどで旅費を稼いでいたのだが、

こんなときに限って私は大学の階段から転げ落ちて足を骨折し、春休みにバイトがほとんどできない状態だったのだ

それで予算が高めのアメリカをあきらめて、もともと好きだったイギリスのバースにしようと思ったのに、その予算にも少し足りず・・・

親にたよろうかと思ったが弟の大学費用の準備もしているようだし、なかなかそれもいえなくてため息ばかりついていたら彼が相談に乗ってくれた


彼が行き先をNYではなく、イギリスに変更すればその差額で私の分の予算がうまることがわかった

彼のその差額を私に貸してくれるという


最初は断ったけど、もともと語学研修を誘ったのは自分だし、語学研修がこの大学を選んだ要因のひとつなのだから行かないときっと後悔する、それにNYはこれからでも行く機会はあるだろうが、バースはきっかけでもなければなかなか行こうとは思うわないだろうからそこでもいい、という


ただ、この大学は英語がかなりできないと正規の講義は受けられないので、もともと理系で英語がそれほど得意ではなかった彼は必死で英語の勉強をしなければならなかった


英語にこんなに必死にならなければならなかったことについては・・・

彼は言葉を続ける

「褒美はしっかりと受け取るつもりだからな」

そうきっぱりと私の目を見ていった


日曜の夕方、私はいつもの散策を終えて寮に帰った

手にはコーニッシュパスティが二つ入った袋を持っていた

ついさっきまで湯気が立ち上っていておいしそうなにおいがしていた

今もまだほんのりと温かい


私は一度荷物を部屋に置きに行って、同じ階の隣のブロックにすむ彼の部屋に行って、ノックする


「yes?]


「ミートパイ買ったけど晩御飯にどう?」


「ああ、入って」


ドアを開けると正面に彼の背中が見えた

窓辺にしつらえてある机に向かってなにかしているようだ


「手紙?」


「うん、妹とか姉とかあれこれ送って来いってうるさいんだ、ここ田舎だから何にもないのにな」


もうちょっとで終わるから待ってて、そういって書き続けている


そういわれてすぐ傍にあるベットに腰かける

相変わらずマメだなぁと思う、こうやって姉と妹に常に囲まれているということも、彼が女性の扱いに慣れていて、相手に警戒心を抱かせない要因の一つかもしれない


私には弟が1人

中学の出会った頃は彼を弟みたいにみてた部分もあって、彼の考えてることってかなりわかりやすかったし、むこうもそうだったと思う

とても付き合いやすくて気兼ねなくて仲のいい存在

今でも、わかる部分もある、けどいつのまにか私には届かないような存在になった


それは大学生活の最初の頃、決定的になった

大学に入ってしばらくしてから、一緒にアルバイトに入ったことで、仲直りをしたようになった

でも、その頃には私には新しくできた大学の友達もいて、彼等と行動を共にすることが多かったので、以前として彼とは距離があった

もちろん、話しかけに行ったり、バイトが終わったら一緒に帰ったり、たまに仲間に入ったりもしていた

でも私の知らない友人、特にそれが女の子の場合は少し臆する自分もいてしり込みしてしまう

彼のことが好きなんじゃないかと思われる人の邪魔になっているのがわかっているから


ときどき浴びる棘のある視線

何かに誘われないどころか、挨拶すらあまり交わされない

牽制されてるな、と感じる


そんなときの彼はいつも何も気にしないそぶりで

私に関しては昔からの仲の良い友達っていう態度をくずさない

彼女達にも相変わらずのらりくらりとした態度


だから彼が書いている手紙の中に、彼女達の中の誰かにあてたものも混じってるのではないかと勘ぐってしまう

嫉妬・・・ずっと感じていてなかなか消えない気持ち

ここにきてからは、彼女達の姿はないから・・・随分と減った気がする

でもたまにこうやって感じさせる


ああ、嫌だ、こういうの・・・

辛くなってベットに仰向けになる


背中に何かがあたってみると英語の本

気晴らしにぺらぺらとページをめくり読み始めた


散歩してきたからか少しだけ疲れていて、心地よい眠気がやってくる

窓から入ってくる風も心地いい


すこしずつ、しばられていた嫌な気持ちがほどけていく

なんか気持ちいいな

ずっとこのままでいたいな・・・


実は私は、最初ホームシックにかかっていた

初めて家族と離れてイギリスに来たが、まさかこれほど家族が恋しくなるとは全く思ってなかった

彼や他の仲間も一緒だから全然大丈夫だと思っていたのに・・・

ただし、大学の女性陣が選んだ研修先は、みんなNYやロス、シアトルなどの有名どころ、イギリスでもロンドン止まりだった

この大学は工科大学だったから男性人が2、3人いるばかりだ


それでわりと頻繁に彼のところへ遊びに行っていた

選択した科目が違うから、英語のクラス以外は自分から動かないとなかなか会う機会もなかった

ブロックが違うからキッチンもシャワーも別で、寮の入り口やランドリーくらいでしか会わなかった

私がまいっているのを彼もわかっているからむやみに迷惑がったりはしなかった

ごはんや散歩に誘ったり、部屋に行っても何かしていたらぼうっとして話もせずに帰ったりそんな日々が平和に続いていた




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