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異世界外伝のススメ   作者: 渡久地 耕助
隠しボスの憂鬱
9/9

滅亡秒読

 王女殿下達と民衆、はぐれ兵士を探すよりまず、俺の最高傑作たるダンジョンに何故、勇者一行はおろか他の冒険者(カモ)が来なかったのかを探る為に近くの街に向かう事にし、現在、俺は【索敵】しながら平原を駆ける。


 俺の立てたダンジョンの案内板や地図は一体どうなっているのかと考えながらも、道中に友軍、民衆の捜索、保護は欠かさずに目を光らす。


 だが、軍に所属する魔族は野外には殆どいない人形兵が現れて以降野外をフラつく魔物、魔族は存在せず索敵にはかからない。


 陸軍が今年の春になってから突如現れた人形兵を何度破壊しても、学習し強力になって再び現れる人形兵に手を焼いて以降、戦力の浪費、消耗を防ぐ為、ダンジョンに篭城し専守防衛、野外は少数精鋭から編成される小隊のゲリラ戦、海軍と空軍は暗黒大陸の外周を警護し、外敵の侵入を防ぐ事に切り替えたのだ。


 その為、索敵の目的は友軍を見つける為ではなく外敵に備える為であり、予想通り、魔族の匂いを嗅ぎつけて索敵範囲に複数の敵を捉える。


 「ヒャッハー!!個々からは通さへんで~~!!



 何だか革の服にコカトリスの様な鳥頭の軍勢が現れる。


 だがその関節部は球形になっており、関節や肌を注意深く観察すれば人形である事が分かる。


 タナカとかいう、人形師が制作した人形兵だ。

 


 こんな馬鹿共に魔族(ウチ)の兵(俺の部隊を除く)が恐れたかと思うと頭痛がするが巫山戯ているのは格好と性格、妙にナマリのある口調だけで実力は高い。


 ウチのサキュバスやダークエルフ達が執拗に追いかけられたとスライム娘のピエールからも苦情といか報告が上がっており、無視する訳にもいかない。


「……相手するほど厄介になる相手にどう対処したものか」


 ズガ! ドガ!! バキ! ザン! ドス!

 

「ちょ! 痛い!! ガハ! 何この子!? おかしい! 考え事ッ! しながら!人形兵を殴ッツ! あべし!!」

 

 まぁ例え、数を揃えようが、知恵をつけようが蟻が竜に勝てない様に、魔王代理を務める大幹部である俺相手には無意味であるが……


 素手で雑魚どもを一掃するのに訳はない。

 


 意気揚々と冒険者や勇者を待ち構えていたにも関らず、勇者一行にスルーされた苛立ちを拳に込めて人形にぶつける。


 一々殴るたびに面白い悲鳴を上げるのでストレスも解消出来るのだ、只でさえ不機嫌な俺に巫山戯た格好で襲いかかったのだし、人形相手に容赦の必要などないだろう。


 ◆◆


「ヤ、ヤルナアンチャン、ココマデ容赦ナクドSを発揮シ…ンハ、カグ…ン、…ベヤンニ続イテ三人目………」

 

 ゴシャ



 宿場町が見えてきた頃には、俺の歩いた後に人形の部品が大量に散らばっていた。


 あの後、大量に増援の人形兵が来たがはっきり言って雑魚でしかなかった。


 正規軍はあんな雑魚に本当に手を焼いていたのか甚だ疑問である。


 もしや、東方軍をダンジョンに篭城させる体のいい大義名分を作るための虚言だったのでは無いか?


 イヤイヤ、同僚はいけ好かないとはいえ、同じ魔王様に忠誠を誓った仲だ。


 流石にそんな愚かな考えを持った連中に四天王は務まらない……


 となると、疲れ知らずに加え、倒しても段々学習し強力になって現れる人形だと精神的疲労も相当なものなのかも知れん。


 俺は未だ、一時の間しかガラクタを壊していないが、コレが一日中と考えるとなると流石に応える。


 危うく、名誉ある殉職をした同胞を疑う所だった。


 

 馬鹿な考えを振り払い、俺は宿場町へと向かう事にした。


 ◆◆◆


「あ、有り得へん なんやあの化物は」


 薄暗い、研究室の中、白衣の男が狼狽する。

 

 白衣の男、田中・ヨシツグはこの世界に突如、召喚された異世界人の医者であり、人間の限界点を僅か半年足らずで到達した強者、臨界者である。


 本来、戦闘向きの能力で無いにもかからず、実質、たった一人で魔族の軍勢に渡り合える高性能の人形兵団を操る彼は正に一人軍隊といえ、魔族の正規軍を追い払い、魔物を討伐し、暗黒大陸で勇者一行の魔王討伐の露払い、イシスの領土を広げる等、彼の偉業は大きい。

 

 中でも自身の作った人形に魂を分け与え吹き込む固有スキル【分霊】で生成した人形の【端末】は長期熟成型の兵士でヨシツグの切り札でもあった。


 今迄暗黒大陸にいた武者修行の冒険者、魔族正規軍の魔物、魔族の戦士をも屠り、臨界者の自身が操る【端末】による人海戦術で挑んだにも限らず、魔族の青年は素手のみで破壊した。


 魔王の死と同時に現れた新たな高位魔族の気配を端末の人形越しに【診断】スキルで見てとり、実力を測ろうとこの地域の戦闘型の人形兵を集め、襲撃してもたが結果は敢え無く全滅。


 この様な真似は先代の魔王は愚か、其れを倒した勇者でも不可能だ。


 東方で近年、勢力を伸ばし続けている戦女神に匹敵する力を【診断】スキルが読み取った。

 

「……良くないものを起こしてしもうたか?」

 

 同郷の者のたっての願いで勇者に人知れず協力して魔王討伐の手助けをしたが、魔王がいなくなった事で今迄、表に出てこなかった眠れる獅子を起こしたのでは無いかと背筋に冷や汗をかく。


「しばらくは偵察に留めて戦力を集めとかんと……収集した情報を整理していかんと…」


 まるで、恐怖を忘れるために新たな人形の製作作業に取り掛かる。

 

 

 


 誰が知るであろうか?


 ノアが部下と共に地下で鍛錬している間、とっくの昔に歴代のどの魔王より強大になったことを……


 ノアは気づくだろうか?


 勇者がスキル【強運】と【勇者補正】という類まれなる幸運と直感が彼のダンジョンに挑むのは危険であると、本能的、無意識的に避けたことを……



 

 自分の実力と周囲の実力差を勘違いした史上最強の魔王(代理)がこの日、世界に解き放たれた。


 


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