ep1-3
と、いうわけで俺はここ、魔物対策本部・ヨトゥンヘイム出張所へやってきたのだ。
魔物対策本部とはその名の通り魔物の討伐や捕獲を行い、魔物による人間への被害を対策する機関の事である。
「失礼しまーす」
木製のドアを開けると、柄の悪いお兄さん達が俺を見た。
「……おいおい。ここは託児所じゃないんだぜ? お嬢ちゃんはお人形と遊んでな! 」
「「「HAHAHAHA!! 」」」
まぁ笑われるのは分かってたけどさぁ。
「ってか可愛くね? 」
ゾゾゾゾゾッ
あ、これはマズい
「「えっ? 」」
一緒にいた男の仲間であろう2人がスゴい目で男を見ている
「え? いや、違う違う! 俺はロリータコンプレックスじゃないぜ! 」
弁明するように首をブンブンする男。
「つーか俺はロリじゃねーぞ。男だ」
呼吸が苦しくなるのを感じつつ強がってみたり。
「えっ!? 男の娘!? すげぇ! 本物初めて見た! 神様ありがとぅっ!! 」
なんか男の子のイントネーションが違った気がするがまぁ無視しよう。
「「お、お前……」」
「はっ! いや、違うぞ。俺が好きなのは二次元の男の娘、またはショタだけなんだ」
「「お前ぇ……」」
ま、まずい。このままこの類の男と関わるのはマズい。
蘇る心の傷。
「それで? お嬢ちゃんじゃなくてお坊ちゃんは何しに来たんだい? 」
カウンターから大柄な渋いおじさんが現れた。
この人は支部長。ここの取締役である。
「あ、ああ……依頼を受けたいんだ」
「む? おま、君がか? 」
「ああ。その通りだ」
その後、予想通りの大爆笑。
こらえろ。堪えるんだジェントルカロン。
「依頼をガキのお使いかなんかと勘違いしてんのか? 」
「やめておこう。君が危ない目に遭うなんて耐えられないよ俺は」
「すまない。それはもう少し大きくなってから……む?」
取締役は俺の目をじっと見た。そして
「うむ。では、この中の1人と戦って勝てたなら、その権利を与えよう」
と、言った。
さすがだ。ジェントルマンにはジェントルマンの良さが分かるんだな。
「いよっし! じゃあ俺と戦う奴! この指とーまれ! 」
シーン…………
「ビビってんのか! 」
皆白けちゃってさぁ!
「いや、だって。ねぇ? 」
「怪我とかさせたら大変だし」
「君の力にはなりたいが。君を傷つけた場合、俺は自分を許せないだろう」
つーかさっきからウザいなもう!!
「じゃあそこのあんた! 俺が負けたら俺は一生あんたの奴隷になってやるよ! 」
ズビシィと指を指して指名する。
「なっ……んだと? いや、しかし」
「……だめ? 僕、なんでもするよ? 」
子供の特権上目遣い+甘え声。これで落ちなければこいつは変態の上を行く紳士だ。
「俺はっ! 今日! この日の為にっ! 生きてきたんだろうっ!!! 」
よし。こいつはただの変態だ。
「「お前ェ……」」
かつての仲間の悲しそうな視線を背に変態は立ち上がった。
「俺は今日! 真実のっ! 愛をっ! 手に入れるっ! 」
ゾワワワワッ
これしか手が無かったとは言え今更後悔。
まぁいい、それよりも、なぜ俺がこうして手をワキワキしながら突っ込んでくる戦士の男を恐れていないかと言うと
「ぬんっ! 」
「くっはぁっ?! 」
ここら辺の魔物ハンターは皆俺よりもレベルが低い事が分かりきっているからだ。
「とうっ! 」
ボディブローで身体を折った男の側頭部に跳んで回し蹴りをいれる。
「むっぴょおおおおっ!? 」
悲鳴をあげて吹き飛ぶ男。
「必殺。ジェントルコンボだ」
き、決まった……拍手喝采カモン
「な、なんだこいつうう! ば、化け物だああああああっ! 」
な、なんか皆逃げた。おかしいな、戦い慣れしてる奴らなら平気だと思ったのに。
「ふーむ。その攻撃力、俊敏性、レベル20は越してるな? 」
ただ1人、取締役の男は残っていた。
「ああ。まぁな。それよりどうだい? 依頼を紹介してくれるだろ? 」
「ガキのくせになぜそんな異常なレベルなのかは聞かん。ただ、仕事をしてくれりゃあそれでいいからな」
ダンディだ……
「それより、いいのか? このヨトゥンヘイム出張所に来る依頼はそこで伸びてる男がこなせるレベルだぞ? 」
「良いんだよ。まだ子供だからな」
「ふっ。そうかい。じゃあ明日また来てくれ。仕事を用意しておく」
「ああ、頼んだ」
低レベル帯の仕事だろうが、こなせば経験になる。俺にはまだ時間があるからな