エピローグ――紅き胚胎――
数時間後、果たして婦人の言った通り、ガウェインとガヘリスは暗い地下牢から外へと、追い立てるように引き出されていた。
まるでこれからの暗い道行を示すかのように空はただ暗澹とし、月の姿も星の欠片も見出せない。
城の外を出ると、彼らの馬が曳きたてられ、それぞれの馬が二人へと引き渡される。
だがこれでおしまいというわけでは決してない。
これからガウェインには、一つの過酷な試練が待ち受けていた。
城の騎士達がガウェイン達を解放するにあたり、出したたった一つの条件――
それはこれから帰る道すがら、アーサー王の宮廷に辿り着くまで、あるものを首に下げ続けること――
「さぁ、己の罪をその首に下げ、世間に知らしめるがいい――」
そう言って、城の騎士がガウェインの首にかけたもの――
ガヘリスは顔を背け、見送りに出た城の婦人達は痛ましげに目を覆い――
「……」
ガウェインは沈痛な面持ちで、ただそれを受け入れた。
生首――
長い髪を輪にし、まるで首飾りのようにされたそれ――
生前はさぞ美しかったであろうその顔も、今や青ざめ、目は落ち窪み――もう見る影もない。
命が失せた時そのままに、その目は衝撃で見開かれ、苦痛と恐怖でその顔は引き攣ったまま―ガウェインがその首を叩き落したその時のままに―ただそこに、ガウェインの胸元に――彼女はある。
死の衝撃と無念がそこに詰まっているかのように、彼女はグロテスクに、且つ生々しく変容し――歪んでしまった。
そしてさらに騎士がガウェインの鞍の前に、何かを載せる。
それは首のない、身体。
それはガウェインが首に下げた、彼女の肉体。
生臭い匂い、腐った匂い、饐えて澱んだ血の匂い――
それは死の匂いであると同時に、それがかつては生きていたと証する匂いでもあった。
その鼻が曲がりそうなほどの悪臭を、ガウェインは甘んじて受け入れた。
「…神に祈ろう。お前が公正な裁きの場に立つことを……」
生首を下げ、首のない肉体を載せ、馬が独りでに歩き出したとき、城の騎士がそう呟いた。
闇の中を、ガウェインは進んでいく。
月もなく、星もないタールのような空の下を、それでもガウェインは城を目指して、真っ直ぐ馬を進ませる。
森を出、街を通り過ぎ、橋を渡って暫くすると、高々と壮麗に聳え立つ王城の姿――
ガウェイン達がようやく城に辿り着いたとき、空はタールから真紅のバラよりも尚紅い艶やかな夜明けへと変化していたのだった。