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アーサー王物語―ガウェイン最初の冒険―  作者: 日守文乃
アーサー王物語―ガウェイン最初の冒険―
1/5

プロローグ――闇色の黎明――

 ――蹄の音が静かに響く。


 月は厚い雲に覆われ、星は一つもないような……そんな暗澹とした夜だった。


 暗い暗い森の中の、あるかないかの細い小道を、二つの影が粛々と進む。


 俯き悲しげな二つの顔――


 彼らはひどく打ちひしがれている。


 彼らの俯いたその顔はどう見ても未だ幼く、少年と呼ぶに相応しい年頃だった。


 しかし彼らの身なりはどう見ても、騎士とその従者という風にしか見えなくて、

その上彼らの格好ときたら、それはもう酷いものだった。


 彼らの身体も身につけた甲冑も、薄汚れ傷だらけで……所々で血が滲んでいたり、

こびり付いていたりと、見るも痛ましい有り様だ。


 そして何よりその顔――


 まるでこの世の終わりとでも言うように……沈痛な面持ちで死人のように青ざめている。


――騎士が首にかけている女の生首と同じように――



 鞍の前には首のない女の身体――


 それは首にかけられた女の肉体――


 この女を殺したのは騎士だった。首を切ったのもこの騎士だ。


 しかしそれは彼にとっては非常に不本意なことだった。何よりそれは――悪夢だった。 

殺した瞬間の、女の表情が頭から離れない。 首を叩き切った刹那の感触に――噴出する血液の赤黒さ――


 悪夢は違うことなく現実なのだと示すように、首には女のごわついた長い髪が纏わりつき――

生前はさぞ美しかったであろう女の顔が垂れ下がる。


 鼻につく――血の匂いと――腐臭――


 血の匂いは女のものと自分のと、それから近くにいる従者で弟であるガヘリスのものも

混じっているかもしれない。


 噎せ返るほど濃密で濃厚な――生々しい嫌な匂いに――鼻を突く腐臭――


 身体中を満たす……倦怠感と深い後悔の念。悲しみと己への不甲斐なさがジクジクと傷を疼かせる。


 かつての彼は知らなかった。


 こんなに辛くて、苦しくて、哀しくて痛くて、悔恨と自己嫌悪に苛まれる日が来るなんて――


 数日前までは――否、ほんの数時間前、この冒険に出る時も、予想すらしなかった。


 格好良く立派で、憧れと崇拝の対象であった彼らの栄誉と栄光の陰に、

どれほどの闇が内包されていたのか――栄達と誉れの傍らで、どれほどの痛みや悲しみ、

苦しみを受けねばならないのか――


 かつての彼は知らなかったのだ――

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