プロローグ――闇色の黎明――
――蹄の音が静かに響く。
月は厚い雲に覆われ、星は一つもないような……そんな暗澹とした夜だった。
暗い暗い森の中の、あるかないかの細い小道を、二つの影が粛々と進む。
俯き悲しげな二つの顔――
彼らはひどく打ちひしがれている。
彼らの俯いたその顔はどう見ても未だ幼く、少年と呼ぶに相応しい年頃だった。
しかし彼らの身なりはどう見ても、騎士とその従者という風にしか見えなくて、
その上彼らの格好ときたら、それはもう酷いものだった。
彼らの身体も身につけた甲冑も、薄汚れ傷だらけで……所々で血が滲んでいたり、
こびり付いていたりと、見るも痛ましい有り様だ。
そして何よりその顔――
まるでこの世の終わりとでも言うように……沈痛な面持ちで死人のように青ざめている。
――騎士が首にかけている女の生首と同じように――
鞍の前には首のない女の身体――
それは首にかけられた女の肉体――
この女を殺したのは騎士だった。首を切ったのもこの騎士だ。
しかしそれは彼にとっては非常に不本意なことだった。何よりそれは――悪夢だった。
殺した瞬間の、女の表情が頭から離れない。 首を叩き切った刹那の感触に――噴出する血液の赤黒さ――
悪夢は違うことなく現実なのだと示すように、首には女のごわついた長い髪が纏わりつき――
生前はさぞ美しかったであろう女の顔が垂れ下がる。
鼻につく――血の匂いと――腐臭――
血の匂いは女のものと自分のと、それから近くにいる従者で弟であるガヘリスのものも
混じっているかもしれない。
噎せ返るほど濃密で濃厚な――生々しい嫌な匂いに――鼻を突く腐臭――
身体中を満たす……倦怠感と深い後悔の念。悲しみと己への不甲斐なさがジクジクと傷を疼かせる。
かつての彼は知らなかった。
こんなに辛くて、苦しくて、哀しくて痛くて、悔恨と自己嫌悪に苛まれる日が来るなんて――
数日前までは――否、ほんの数時間前、この冒険に出る時も、予想すらしなかった。
格好良く立派で、憧れと崇拝の対象であった彼らの栄誉と栄光の陰に、
どれほどの闇が内包されていたのか――栄達と誉れの傍らで、どれほどの痛みや悲しみ、
苦しみを受けねばならないのか――
かつての彼は知らなかったのだ――