海の精霊は今日もお菓子を待っている
プロローグ的な感じになってしまって、山もなければオチもなし
生命のはじまりは海からだ、と誰かが言った。
私もその中のひとつなのだろう。
私は気づけば海の中にいた。海の中で揺蕩う、精霊という存在だった。
ずっとここにいることに気づいたのは、ずいぶん昔。
緩く存在する私を制限するものは何も無かった。
海が穏やかな日は、海面近くを漂い、風が強ければ波に乗る。
気が向けば海底に行き、沈んだものを眺める。
暇になったら気まぐれに白波を起こす。
その程度の存在だ。
【よぉ、今日は人間がくるぜ】
おしゃべりな風の精霊がわざわざ教えてくれる。
人間とはたまに木で作った乗り物(船というらしい)にのって魚を獲りにくる陸からの生き物だ。
「あ、ちょうど暇してたんだー 見に行こー」
別に人間に恨みがある訳じゃないが、ちょっかいを出すと反応が面白いので、ちょっとだけご挨拶することにする。ちょっとだけだよ。ちょっとだけ……。
私は船の下に潜り込んだ。
船底に触れて、ふわりと揺らす。船が少しだけ上下する。
「うわ!揺れたな今」
「波だろ?」
「でも風吹いてねーし、見ろよ、周りは凪だぜ」
そりゃそうだ。私が揺らしてるんだもの
ふわっ……
「……ほら!やっぱり揺れてるじゃねーか!」
「おかしいぞこの波!」
「今日は撤収だ撤収!!」
慌てる人間たち。ああ おもしろい
私の姿は人間達からは見えないらしい。見える人間もいるけど、少ないんだって風から教えてもらった。
ポチャン!
離れていく船から何かが海に落ちてきた。袋に入っている何かだ。
「なんだろこれ」
中からは甘い香り。嗅いだことのない香り。
風に聞いてみる。
「これ何か知ってる?」
【ああ、クッキーだろ。人間がよく食ってるやつ】
「食う?」
【食べるんだよ。口から。人間は食べねーと死んじゃうからな!】
「……たべる……」
精霊は自然そのものなので、別に食べる必要はないし、栄養にもならない。
でも、好奇心に負けたから、とりあえず口に入れてみた。
「……!!!」
衝撃だった。長い年月の中で初めて感じた。
「おいしい」を知ってしまった。
人間はいつもこんなおいしいものを食べてるの?
いいなぁ
もっと欲しいなぁ
そこから、私の試行錯誤が始まった。
船を揺らすと、人間はさっさと帰ってしまうからやめた
かわりに1匹も魚が釣れず途方にくれてた人間に魚をボイっとやってみたら、お礼に今度は飴をくれた。
飴はいい。しばらく口の中が美味しくて楽しい。
また飴をくれるならまた魚をあげてもいいかもしれない。あぁ、でも他のお菓子も食べてみたいなー。
ーー私は知らない。それが世界最古の契約で、すべての始まりだなんて
何百年もあと、精霊の望むものを与えれば、引き換えに力を貸してくれるということに気づいた人間たちが精霊との契約術を確立し、私自身がひとりの冒険者と契約することになるなんて。
海は広い。世界の全てと繋がっている。
だから、私は今日も海にいる。
「なぁ、おまえ、俺と契約しないか?」
「……お菓子は何をくれるの?」
ーーお菓子をくれる人間が来るまで
海っていいですよね……。疲れ果てていっそ生まれ変わったら海の精霊になりたいという夜中のテンションで書きました。
色々プロット練れたらもう少し長編化して書こうかな…




