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野球部にエロ本がある

 学校の七不思議、ウワサなんてものはどこの学校にもあるものだが、僕が通っていた中学校にはそういった物を聞いた覚えはない。だが代わりに「エロの伝説」は存在した。

 校舎裏にある消火栓の中にエロ本が隠されている、だとか。視聴覚室のどこかにAVが隠されている、だとか。ただし大抵、噂は噂に過ぎない。


「野球部にエロ本がある」


「はい!?」


 そして、K君が言い出したそれも同様のものだと、そのときは思っていた。


「野球部のエロ本を参考にできればさ、今の問題も解決するんじゃないか?」

「そういう噂話はあるけどさ、大体ガセでしょ?」


 僕の所属していた剣道部にもそんな噂があった。部室の天井裏にはAV女優のカードが残されていると。残念ながらその情報はガセだったが。しかし、K君はあごに手を当てて、少し困ったように答える。

「うーん、話は少し逸れちゃうんだけど、ガセっていうのはあまり正しくないよニッカ君」

「というと?」

「火のないところに煙は立たないってやつ。例えば消火栓のエロ本は実際には存在したんだよ」

「そうなの!?」

 初耳だ。消火栓のエロ本。3年生の教室の近くにある、目立たない消火栓の中にエロ本が隠されていたという噂。僕は結局そんなものはなかったという話を聞いている。

「けど誰かがビリビリに破った。卓球部の先輩の話だと、1年前の段階ではほぼ完璧な状態で保存されてた。でも、半年前に俺が見に行ったときに残ってたのは切れ端だけだった」

「破られてた…?なんで……?」

「何があったのかは知らない。でも何者かが本を破って、持ち帰った。奪い合ったのか、誰かが独占したのかは知らないけどな」


 誰かが奪い合って、失われたエロ本。もし現存していたならば多くの男子達を救い、僕らの小説にも役立てることが出来たのに。

「他の噂話も似たようなものだよ。元々本当にあったエロいものも、噂になるほど広まったら、心ない奴らが奪い去る」

 前に、K君がクラスの男子にライトノベルを取り上げられた話を思い出した。なぜこうも人の楽しみを奪える人間がいるのだろうか。


「だけど、そこで話は最初に戻る!!」


 どんよりとした雰囲気を遮るように毅然と、だが周りの目を気にして少し小さな声で言った。

「だけど、そんな中でも、野球部にはエロ本がある」


 そう、それが本題だった。


「さっきの例もあるように大抵の場合、エロ本ってのは集まってきた奴らの誰かにボロボロにされちまうんだけど、野球部は一味違う。どうも歴代の部長がその本を受け継いでるらしいんだ」

 まるでスパイの密談か何かのように、K君はコソコソと言う。僕も真似して、口元を隠し小声で問い返す。

「部長が本の管理をしてるってこと?」

 K君はニヤリと笑った。

「ああ、部長の権力が及ぶ野球部しか見られないように守ってるわけだな」


 なるほど、野球部はかなり体育会系なノリの部活だ。管理する部長の権力は相当なものだろうし、部員の誰かが本を損なうようなことをすれば……恐ろしいことになるだろう。そう考えると僕達が始めたケッシャとも構造が似ている。しかし、疑問が残る。


「なんでK君はそんな野球部の秘密を知ってるの?」


 それほど大切に守られているのだから部外者のK君が知っているのはおかしい。そう思い聞くとK君はあっけからんと言い放つ。


「野球部の友達が言ってた」

「そんな簡単なこと……」


 K君の友達のおしゃべりなやつが言っていたとのことだ。

「でも、野球部に本が存在することは分かってても、残念ながら俺達は野球部じゃない。今のままじゃ読めないわけだ。」

 ここで僕はピンときた。僕はクラスの教室の窓側に座る、大柄な男子生徒をチラッと見た。


「つまり、あそこにいるキャプテンをケッシャに引き込んで、エロ本を読ませてもらう……ってこと?」

 ニヤリと、K君は笑う。

「その通り!」





僕のクラスにはキャプテンと呼ばれる生徒がいる。大柄でいかにも運動が出来そうな奴。実際に彼は野球部のキャプテンだった。僕やK君、博士よりも主人公のような存在だ。


「そんな奴が話に乗るかなぁ」

「そこはこの交渉材料がキャプテンに刺さるかによるな」

 K君が持っているのは『羽化』の書かれたノートだ。

「俺の推理によると、キャプテンはスケベだ、なんとかなるさ。」

「いや、そりゃ部活のエロ本守ってるやつがスケベじゃないはずないからね……」

 そんな会話を交えながらも僕らはキャプテンの席へと赴く。彼の周りから他の野球部の奴が居なくなる隙をついて僕らは彼に駆け寄った。


「おはよう、キャプテン。ちょっといいか?」

 口火を切るのはK君だ。僕も後ろから顔を出す。

「おはよう、なんか用か?」

 野球部らしい無骨な坊主頭、朝練を終えた彼はツンとした制汗剤の匂いを漂わせていた。あいも変わらず硬派な雰囲気だ。本当にこんな奴がケッシャに興味を示すのか?そもそもエロ本持ってるのか?そんな不安をよそにK君は言葉を続ける。


「キャプテンだけに話がある。いや、キャプテンだけに、エロい、話がある。後で時間をくれ」

「……よしわかった昼休みにな。」

 あ、釣れた。僅かな間がすべてを物語っていた。

 会話時間は僅か数秒、僕達はスタスタと自分の席に戻る。


「K君、なんだか急にうまく行きそうな気がしてきたよ」

「スケベな奴を見つける目には自信があるぜ」


 K君は小さく親指を上げた。

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