ちんちん腐っちゃうよ!?
「こぉれはっ……エロいな!」
昼休み、人通りの少ない階段の踊り場に僕たちはいた。はたから見ればノートを片手に駄弁っているだけの中学生3人。しかし実態は秘密結社の会合であった。
「中々良くできてるだろ?これをニッカ君が書いたんだぜ?」
「K君の助けもあってだけどね」
うんうんと頷きながらノートに目を落とすのは小柄で細身の少年。ニキビ面で活発そうな彼こそが博士だ。
「いや、これはすごくいい。おれ、あんまり小説読まないけど、これなら読める」
「だろー!」
『羽化』が褒められて、まるで自分のことかのように喜ぶK君。僕は少し照れくさかった。
「話はK君から聞いたよ。会社を作るとかなんとか」
「結社ね、秘密結社」
「そうそう、ケッシャね。エロ小説を書いて皆に秘密にして読むんだってね」
博士はニコニコとノートを僕に返す。
「いいね!おれも入れてよ!!」
「おう!博士なら絶対入ってくれると思ってたぜ!」
博士の肩をぽんぽんと叩くK君。しかしふと何かを思い出したようだった。
「入るなら、結社にはルールがあるんでしょ」
僕が補足をする。そうだ、秘密結社を名乗るからにはルール、掟があるのだった。
「そうだった。我らが結社にはルールがあるんだった。加入するときに何かエロいものをメンバーに公開するんだ。これは物でもエピソードとかでも良い」
「博士は心配ないと思うけど、こういうことが女子とか大人にバレたら色々マズいでしょ?……あんまり言い方良くないかも知れないけど、お互いのエロさを確かめることで裏切りを防ぐというか……」
「んーと、エロいものかぁ」
トントンと、何かを考え込むように博士はつま先を鳴らす。数秒考え込んだ後、博士は指を鳴らすような仕草をした。
「二人とも、コンドームって知ってる?」
遠くの方でカラスが鳴いた。一瞬の沈黙が流れる。
「そりゃ知ってるけどよ。」
K君は呆れたように答えるが、僕の反応は違った。
「……なにそれ」
「嘘だろニッカ君!?」
そう、当時の僕はコンドームという言葉にピンと来なかったのだ。
「ニッカ君あんなエロ小説書いておいてコンドーム知らないのか!?」
「しらない」
K君が驚きのあまり僕の肩を掴んでガクガクと揺らす。その姿を見て博士が口を開いた。
「ゴムだよゴム、Sexのときに使うやつだってば!」
妙にセックスの発音が良い博士。博士がゴムと言い換えたことで僕はやっとピンときた。
「ああ、ゴムね。ゴムなら小説で読んだことある」
当時僕が読んでいた小説のそういうシーン。確かにゴムをつけるシーンがあった気がする。ただ、ゴムとコンドームという単語が結びつかなかった。
「いや、セックスするときにゴムをつけるってのは読んだことあるけど、その、コンドーム?ってのは初めて知った。輪ゴムとは違うの?」
「違うよニッカ君!?輪ゴムをどうやって使うのさ!」
「いや、こう…根本をギュっと……」
「ちんちん腐っちゃうよ!?」
そう、当時の僕の知識は大きく偏っていた。なにせ保健の教科書には避妊具の説明までは載っていなかったし、自分が見てきたエロコンテンツではコンドームの名前も形状も出てこなかった。
僕はこれだけエロいことに興味を持ちながらも避妊のことをロクに知らなかったのである。これはとても恐ろしいことなのではないか?
「いや、おれは『羽化』にコンドームが出てこなかったから実物見たこと無いのかな、位に考えてたんだけど……」
そろそろ休み時間も終わりだ。博士は会談を数段登り、振り返りながら言った。
「授業の時間だ!!正しいSexについてな!!!」
「声がデカいよ博士!」
博士の秘密結社への加入、彼が僕たちに提供したものは『授業』だった。




