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俺達が始めるのは実に合理的な存在だ

 中学生の頃、妙にエロい知識が豊富な男子というものが必ず1人くらいクラスにいたものだ。性への知識を皆に広め、そして若干女子たちから疎まれる奴。


「そいつらを集める。集めて、秘密結社を作るんだ」


「なんか秘密結社って響き、凄いかっこいいな……」


 この頃の男子達はそういうかっこいい響きのものに惹かれる生き物だ。かくいう僕も秘密結社、すごくかっこいいと思っていた。


「響きのかっこよさだけじゃないぜニッカ君。俺達が始めるのは実に合理的な存在だ」

 K君は早速総帥にでもなったかのように格好をつける。先ほどからかけていない眼鏡をクイッとやるポーズは彼なりの総帥イメージらしい。

「我々の目的は叡智の共有、志を共にする者たちが皆の知識を持ち寄り、互いに高め合う組織を作ること」

 やたらとかっこいい言い回しで語るK君。

「えーと、要するにエロ小説の回し読み?エッチと叡智をかけた」

「そうだけどそれじゃ雰囲気出ないぜニッカ君よ」

 肩を落とすK君。秘密結社の総帥ごっこが楽しいらしい。

「まぁ、ニッカ君の言う通り、実際にはニッカ君のエロ小説を読んでもらう会だけどさ。それ以外にも良いことがあるんだぜ」

「いいこと?」

「秘密結社に入るためには条件がある。各自何かエロいものを公開することだ」

「それは、エロ本だったりとか?」

「そういう奴がいれば大当たりだ。でもそういうのを持ってない奴はエロいエピソードだったり妄想を語ってもらう。自分がエロい奴であることをちゃんと示してもらうんだ」

「えーと……つまりどういう事?」

「この条件を設けるメリットは2つある。1つは単純、俺達がエロいものにありつける。エロいエピソードも今後の小説に役立つかもしれないしな。ただ一番大事なのは2つ目。ニッカ君、小説をみんなに読んでもらう上で一番怖いこと、リスクって何だ?」

「さっきも言ったけど女子とか先生達にバレること?」

「そうそう。そして、だいたいの場合バラす奴がいる。こいつこんなの持ってる変態だぜー!ってな。そこでこの条件だ」

 そこまで言われて、やっと僕は合点がいった。

「自分のエロさを公開……変態しか秘密結社には入れないようにする?」

「そういうこと、秘密の共有をすることで外に情報が漏れるのを防ぐわけだ」

 ふざけているようではあるが、この時代の中学生にとって『恥ずかしい奴』というレッテルはどうしても避けたいものであった。秘密を共有することで裏切りを防ぐ。実に秘密結社らしく、理にかなった構造だ。

「それで、メンバーの目星はついてるの?俺の友達は……正直向いてなさそうなんだけどさ」


当時の僕の友達は決して悪い奴らでは無かったのだが、こうした秘密のようなものは苦手だったと思う。大声で喜んでしまうし、誰彼構わず共有してしまうだろう。

「俺も率先して俺の友達を結社に入れるつもりはないな。最初のメンバーはとびきりスケベな奴が良い。となると、アイツしかいない」


「……博士のこと?」


 クラスに1人くらいいるエロい奴。僕たちのクラスではまさに彼を指す言葉だった。


 そもそも僕とK君はムッツリスケベだ。2人の間でだけこれほど卑猥な話を繰り広げているものの、実はそれぞれの友人の前ではオープンにエロい話をしたりしない。


 それに対して博士はクラスでも有名なエロガキであった。英語の成績はあまり良くないがエロい用語だけやたらと発音が良い。そしてやたらと性器の形や機能に造詣が深かった。

 いつの日だったか教室の黒板を使って男子達に男女の性器について授業を行い、こっぴどく先生に怒られていた。


 その事件から女子たちには蛇蝎のごとく嫌われ、男子達には半ばイジられるかのように博士と呼ばれている。


 そこでふと、疑問が浮かんだ。


「そういえばK君、なんで僕と小説作ろうと思ったの?こういっちゃ何だけどさ、エロいのを作りたいってなったら最初に声かけるべきなのは博士じゃない?」

 何を愚問を、と言いたげにK君は気だるそうに答える。

「作り手のエロさとは違うんだよ。博士は知識豊富だけど、そこから新しくエロい物語を作れる奴は貴重なの。おっぱい揉んでちんちんを挿れる以上の過程を妄想して文字に起こせる中学生、他に見たことあるか?」


 何か、僕を特別に思ってくれているようで少し照れてしまう。


「ただ、読み手としての博士はまさに適任だよ。エロ知識もあるし、エロを公にし過ぎて痛い目を見た経験もあるから秘密を守るだろ。結社に是非欲しい人材だ」

 エロに興味があり、秘密を守れそうな男。読者として申し分ない。


 次のミッションは博士の勧誘。


 この後の剣道部の稽古は憂鬱だったが、それでも胸が高鳴った。


「じゃあ早速明日声をかけに行こうね」

 その提案を口にした瞬間、自分の心が不思議なほど軽くなっているのに気づいた。創作が、僕とK君だけの秘密じゃなくなっていく感覚。それが怖いはずなのに、なぜか期待に胸が膨らむ。


「……ニッカくん」


「ん?」


 振り返るとK君がニヤリと笑いながら親指を上げていた。


「楽しくなってきたな!」


 僕も同じように親指を立てる。


「ああ!!」


 新たな悪巧み、新たな読者。僕たちの物語が、また一つ広がっていく。

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