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僕の手のひらの上で彼らは踊っている

 遂に始まったケッシャの活動、滑り出しは上々だった。あの官能小説のお陰もあり、僕の執筆スピードは格段に上がっていた。三作目は三日、四作目は二日。プロットだけで言えば既に三作分が出来上がっている。

 もはや筆に迷いはない。そしてモチーフにも困らなかった。ケッシャの拡大によって、様々な形で情報が僕のもとに届く。ケッシャ加入の対価だ。


 K君は誰にもバレないように僕にそれを運んでくる。古い雑誌の切り抜きや一般書籍ながらじっくりと濡れ場が描かれた小説。実態がない人から伝え聞いたプレイの話なども僕の耳に届く。ゲームの攻略情報に偽装されたノートが机に入れられていた。

 机の中に密かに入れられた紙束。走り書きの体験談、家から持ってきたであろうコピーされた成人漫画のページ。どれもこれもがリスクを背負って、中学生の男子としては『命がけ』で運ばれたものだ。皆それほどの熱意を持って、このケッシャに賭けているのだ。それがたまらなく嬉しい。

 これらはケッシャのメンバーにも共有されていく。


 雑誌の切り抜きなど実物として存在するものは必ず持ち主に返さなければならない。そういったときにはキャプテンが同席する。実直ながらいわゆるスクールカーストで上位に位置する男だ、彼を裏切ればすなわち野球部を敵に回すことになる。キャプテンはいわば用心棒、ケッシャの『力』だった。

 

 新入りを教育するのはもちろん博士だ。性教育として事前知識を与えるのはもちろんだが、新入りの質を見極めるのも彼の仕事だった。元々博士はそのスケベさにより迫害された経験を持つ。彼とどう接するかというのはそのままケッシャに相応しい資質を持つかの試金石であった。彼が相応しくないと判断すれば絶対に中枢へは触れさせない。


 三人。

 七人。

 十三人。


 皆が与えられた仕事を愚直にこなした結果、教師や女子、敵となりえる一部の男子達に気づかれないまま組織は拡大していった。




 小説の貸し出しはK君を通して行われる。僕たち四人に認められた人物だけが顔役のK君に声をかけられて、やっとその存在を知るのだ。

 昼休みや放課後、人気のない場所で小説は読まれる。どれも短編、数十分あれば容易に読めるボリューム。彼らはその内容を頭に刻み、家へ持って変えるのだ。

 作者は匿名、ケッシャの誰かが書いている。それだけしか伝えなかった。名前は聞かない、それが条件だ。

 それで良かった。このときの僕は、小説がこの教室を裏から支配する、その事実で興奮していた。僕の手のひらの上で彼らは踊っている、僕の作った糸でつながっている。




「そこの表現は伝わりづらいんじゃないか?」

「いやでもこう表現したほうが絶対に生々しさが出るよ」

「……うーん」

 昼休みの階段の踊り場、ケッシャのメンバーに見られないように隠れて会議をする。今は5作目の内容を詰めているところだった。

「読者の反応はどう?」

「上々、だな。原稿の予約は埋まってる。読むにしたって昼休みが足りない。対策が必要だ」

 ケッシャのメンバーが増えたのは喜ばしい。確かに悩みのタネではあるが嬉しい悲鳴だ。

 ただ今の方式では限界があるのも事実だ。漫画ならまだ複数人で同時に読むことも出来るだろうが、手書きの小説では難しい。だがコピーをしようにも、コピー機でこんな物を複製しようとすれば咎められるリスクがあまりにも大きすぎる。

「じゃ、皆が読めるようにいっぱい書かなきゃだな」

「頼むぜ先生?」

「それと、感づいてる奴はいる?」

「うーん、いると思うが、午後まではたどり着けてないと思う」

 ケッシャの活動開始から教師たちも女子たちも『なにかやっている』というところまでは薄々察しているだろう。男子が急に集まり、女子たちは不潔に思い距離を取る。その姿を見て教師は少し苛立つ。

 だが、その中心に我々はいない。少し離れた場所から欲望だけを吊り下げる。顔役のK君だけは少し近い場所にいたが、彼も彼であくまで手下Aを演じている。

 影しか掴ませない、まさに秘密結社の姿がここにあった。




 そんな生活が一ヶ月ほど経った。作品数も増え、ケッシャの活動が他のクラスに波及し始めた頃だ。


 遠くから、廊下を歩くK君が見える。彼は隣のクラスの男子から笑顔で会釈を受けていた。僕もまた、近くの男子から『羽化』の話を聞かされている。彼はそれを書いたのが僕だとは知らない。

 この一ヶ月、ケッシャはクラスにとっては公然の秘密となっていた。それでもまだ、実態は掴ませていない。


 だが、この日僕たちの活動を大きく変える出来事が起こった。




「あの……すみません……」


 放課後の教室、僕達を尋ねてきたのは見知らぬ生徒だった。

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